「お金盗られた」と訴える認知症利用者への対応方法【認知症対応研修】
- 「お金を盗られた」と訴える利用者さんへの対応に悩んでいる方
- 認知症の物盗られ妄想について知りたい方
- やってはいけない対応を知りたい方
- 現場ですぐ使える声かけを学びたい方
- 認知症ケア研修の資料を探している方
この記事を読むメリット
物盗られ妄想の原因(記憶障害・不安・環境要因など)

認知症では記憶障害や見当識障害により、物の置き場所を忘れてしまいます。
これにより「どこにしまったか思い出せない」ことで「誰かに盗られた」と感じることがあります。
また、認知機能の低下で時間の感覚が失われ、普段できていたことができなくなると不安が募ります。
こうした不安感や喪失感は「物盗られ妄想」の背景にあります。
さらに環境の要因も大きいです。
認知症の方の行動心理症状(BPSD)は、周囲の環境やケアの影響を受けやすいとされています。
例えば、大きな音や忙しい人の姿を見ると不安が増し、物を失くす状況が起きやすくなります。
そのため、日常的に落ち着いた環境を整え、安心できるコミュニケーションを心がけることが、物盗られ妄想の予防につながります。
やってはいけない(NG)対応
ではここで、やってはいけな対応を4つ紹介します。
否定する:
「そんなはずはない」「盗られていませんよ」と事実を否定すると、本人はさらに不安・怒りを募らせてしまいます。
説得し続ける:
長時間にわたって理屈で説得しようとするとかえって混乱し、聴く耳を持たなくなります。
叱る・強く訂正する:
「バカなこと言わないで」「いい加減にしなさい」と叱責すると、本人の不安を悪化させます。
無視・放置:
訴えを無視したり冷たい態度を取ると、本人は孤立感を深めます。何よりも最初はきちんと話を聴く姿勢が必要です。
以上のように、本人を責めたり押し切ったりする対応は逆効果です。
厚労省資料でも「本人の言っていることは否定せず、共感的な言葉かけを行う」ことが推奨されています。
基本の対応ポイント
基本的に、次の5つの対応を心がけます。
傾聴・共感:
まず本人の話を最後まで落ち着いて聞き、「そう思われたんですね」「それは怖いですね」などと共感的に受け止めます。
安心させる:
不安を感じていることを理解し、「大丈夫ですよ」「すぐに一緒に確認しましょう」と優しい口調で声をかけて安心感を与えます。
落ち着いた態度:
認知症の方は周囲の雰囲気に敏感です。職員は穏やかな表情・声で対応し、焦らないようにします。大声や慌てた態度は避けましょう。
一緒に探す:
可能ならば「どこにあったか覚えていますか?一緒に探してみましょう」と誘導します。実際には本人が置いた場所にあった例が多く、見つけることで安心につながります。ただし、すぐ見つからなくても焦らず、後述の「話題転換」を考えます。
環境の工夫:
声かけと並行して、利用者さんの前から極端に動かず、周囲の安全を確保しつつ行動に注意します。本人が安心できる距離を保ちつつ、必要なら他スタッフを呼ぶことも考えます。
具体的な対応例(声かけ例と実際の流れ)
声かけ例を紹介します。
状況に応じて使い分けましょう。
「●●さん、大事なお金が見つからないと不安ですよね。一緒に探してみましょうか?」
「つらかったですね…。どのくらいなくなっているか、一緒に確認しましょう」
「心配な気持ち、よくわかります。必ずお金はこの施設にありますから、安心してくださいね」
「今はスッキリしなくても大丈夫です。ちょっと休憩してお茶でも飲みましょう」
「暗い気持ちになりますよね。ゆっくり深呼吸してみましょうか」
ではここで、事例を紹介します。
事例1(成功例):
Aさん(アルツハイマー型認知症、87歳女性)は午後の会話中に「私のお金が盗られた」と訴えました。最初に一人の職員が「そんなこと言わないで」と否定したところ、Aさんは激しく反発し、怒って自室に戻ってしまいました。そこで私は別の職員と共にAさんに近づき、「心配になりますね…一緒に探しましょう」と優しく話しかけました。Aさんの手を握り落ち着かせてから、カバンやテーブルなど一緒に探したところ、床に落ちた財布が見つかりました。Aさんは涙を浮かべて「ありがとう、安心したわ」と言い、その後は機嫌よく過ごされました。
上記のような流れをまとめたのが表1: 対応フローです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1.訴えを聴く | 利用者の「盗られた」という訴えを最後まで落ち着いて聞く |
| 2.共感・安心 | 「不安ですね」「怖かったですね」と共感的に声をかける |
| 3.一緒に確認 | 本人の許可を得て財布や置き場所を一緒に探してみる |
| 4.結果に応じた対応 | 見つかったら喜びを共有し安心させる。見つからなければ話題転換や気分転換を図る |
| 5.記録・情報共有 | 対応後は訴えの内容と対応を記録し、スタッフ間で情報共有する |
再発防止策(お金管理・環境調整・職員連携)
物の管理方法が安定すると、妄想の発生を減らすことが期待できます。
普段から、次のような環境を整備しておきましょう。
金銭管理:
普段からお金や貴重品はあまり持たせず、預かる場合も鍵付きの箱や金庫に保管しましょう。入浴やトイレ時には前置きで預かるなどのルールを徹底します。必要であれば、外出時は担当職員がお金を管理します。
決まった置き場の徹底:
財布や通帳などは「●●さん専用の場所(引き出しやカゴ)」に必ず戻す習慣をつける。名前シールを貼る、置き場を写真付きで示すなどして分かりやすくします。
環境調整:
認知症の方は周囲の雰囲気の影響を受けやすいので、できるだけ静かで落ち着いた場所で過ごさせます。大きな音や急な人の出入りは控え、安心できる雰囲気を作ります。昼間は適度に身体を動かす機会を用意して、夜間の不眠を防ぐことも有効です。
職員間の情報共有:
訴えがあったら記録し、夜勤や他シフトにも伝えておきます。例えば「●月●日 昼食後、財布が盗まれたと訴えた。対応は共感してから財布を発見」などを共有ノートに残します。また、ケア会議で検討し、共通の対応方針(マニュアル)を作っておくとチームの連携が取れます。
家族対応の実務ポイント
ご家族は認知症の症状を理解できず「施設が管理しきれていない」と感じやすいので、丁寧に説明して理解を得ることが大切です。
まず、本人への訴えは病気の一症状であることを伝えます。
「認知症の影響で物の置き場所を忘れたと感じている」「ご家族のことを悪く言うことがあっても、本人は悪気がない」ことを説明し、ご家族の不安を和らげます。
例えば「●●さんは今、不安が強くなっている状態です」と伝え、「お金のことは責めずに、なるべく穏やかに声をかけてください」とお願いするとよいです。
必要に応じて、ケアマネージャーや担当医にご家族と同席してもらい、専門家の見地からアドバイスを受けるのも有効です。
おわりに
認知症利用者さんが「お金を盗られた」と訴えるとき、本人の記憶障害や不安感が原因であることが多いです。
対応では、最初に否定や説得をせず「そう思うんですね」と共感し、安心感を伝えることが重要です。
その上で一緒に探すなどして解決できれば本人も安心します。
再発を防ぐためには、お金の管理を工夫し、環境を落ち着かせ、職員同士で情報を共有することが効果的です。
ご家族にも症状を理解してもらい、協力を得ることでより良いケアにつながります。
常に利用者さんの立場に立ち、優しく対応する姿勢を忘れないようにしましょう。
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