とも
とも
こんにちは、とも(@tomoaki_0324)です。適切な声かけが、利用者さんの不安を和らげます。
この記事はこんな方におすすめ
  • 繰り返し質問への対応に悩んでいる介護職の方
  • 認知症ケアの基本を学び直したい方
  • 新人教育の指導ポイントを探している方
  • 現場の対応をチームで統一したい方
  • 認知症研修の資料を探している方

筆者(とも)

記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。

日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。

読者さんへの前おきメッセージ

認知症の利用者さんによる「繰り返しの質問」は、スタッフの負担になります。

同じ問いを何度も受けることで、忙しい中つい強い口調になり、不安を強めてしまう悪循環に陥ることもあります。

私自身、13年の現場経験の中で多くの職員が悩む姿を見てきました。

本記事では、やってはいけないNG対応と、脳の仕組みに基づいた適切な関わり方を分かりやすく解説します。

現場全体で対応をそろえるヒントとしてご活用ください。

この記事を読むメリット

  • NG対応と正しい接し方が具体的に分かる
  • 利用者さんの不安を減らす関わり方が身につく
  • 現場のトラブルやストレス軽減につながる

 

それでは早速みていきましょう。

認知症の方が「同じ質問」を何度も繰り返す理由

認知症で不安そうなおばあさん

現場のスタッフを観察していると、同じ質問を繰り返されることに対して「さっき教えたのに、わざとやっているのではないか」「周囲の気を引きたいだけなのではないか」と、否定的な感情を抱いてしまうケースが見られます。

しかし、大前提として知っておくべきなのは、認知症の利用者さんは「悪気があって繰り返しているわけでも、スタッフを困らせようとしているわけでもない」ということです。

私たちが5分おきに同じことを聞かれたとき、私たちの脳内には「さっきも同じことを聞かれた」という履歴が残っています。

しかし、認知症の利用者さんの脳内では、その履歴そのものが完全に消去されています。

つまり、ご本人にとっては「いま、生まれて初めてその質問をスタッフに投げかけている」状態なのです。

この「脳の現実」を理解していないと、スタッフ側の対応が徐々に雑になり、結果として利用者さんの不穏をさらに悪化させるという最悪の結末を招くことになります。

やってはいけない「3つのNG対応」

忙しい夕暮れ時など、フロアが最も慌ただしくなる時間帯にやってしまいがちな「3つのNG対応」とそのリスクを見ていきましょう。

❌ NG例1:事実の押し付け・訂正

「さっきも言いましたよね!」「もう10回目ですよ!」「さっき食べ終わったお皿、そこにあるじゃないですか!」

前述の通り、本人には「さっき聞いた」記憶がありません。

そのため、事実を突きつけられても納得できないばかりか、「なぜだか分からないけれど、この先輩スタッフからものすごい剣幕で怒られた」という『拒絶された恐怖と怒りの感情』だけが胸の奥に強烈に残ってしまいます。

❌ NG例2:その場しのぎの嘘

「今、厨房でご飯を作っていますからね(実際は食後すぐ)」「もうすぐ息子さんが車で迎えに来ますよ(迎えの予定はない)」

その瞬間だけは「あ、そうなんだ」と落ち着くため、一見スマートな対応に見えますが、これは最もやってはいけない対応です。

高齢者は「言葉の意味(事実)」は忘れても、嘘の辻褄が合わなくなった時の「裏切られた」「騙された」という不信感には非常に敏感です。

結果として、さらに激しいパニック(BPSD)を誘発します。

❌ NG例3:無視・生返事

パソコン画面を見たまま、あるいは他の利用者さんのオムツ交換をしながら、目も合わせずに「はいはい、ちょっと待ってねー」と聞き流す。

認知症の方は、非言語コミュニケーション(相手の表情や視線、態度の空気感)を察知する能力が非常に長けています。

目も合わされずにあしらわれると、「自分は無視されている」「見捨てられた」という強い孤独感(存在の危機)を覚え、その不安を打ち消そうとして、さらに大声で何度も質問を繰り返すようになります。

「言葉のトーン」一つでフロアの不穏が伝染した事例

私がフロアリーダーを務めていた数年前の、ある日の夕暮れ時のことです。

フロアには1名のベテランスタッフと、入社間もない新人スタッフが配置されていました。

その日、まだ入所されて間もない軽度認知症の女性利用者さんが、環境の変化への不安から、「私のお迎えの車はいつ来ますか?」と、5分おきに詰所にやってきては質問を繰り返していました。

最初は優しく対応していた新人スタッフでしたが、7、8回目を超えたあたりで、周囲の夕食準備の忙しさも重なり、ついに心の余裕をなくしてしまいました。

「〇〇さん、お迎えは明日です!さっきもカレンダーを見て一緒に確認したでしょ!何度も同じことを言わせないでください!」

詰所内に、ピリピリとした鋭い声のトーンが響き渡りました。

その瞬間、フロアの空気が一変したのを私は今でも鮮明に覚えています。

その鋭い声のトーン(拒絶の空気)を敏感に察知した周囲の他の利用者さんたちが、次々とソワソワし始め、普段は穏やかなはずの別の利用者さんまでが「ここから出せ!」「泥棒がいる!」と叫び出し、フロア全体がドミノ倒しのように大不穏状態に陥ってしまったのです。

結局、その日は夜勤帯までフロアの混乱が収まらず、スタッフ全員が残業することになりました。

リーダーとして私が痛感したのは、「繰り返しの質問に対して、スタッフが放った一言のイライラ(鋭いトーン)は、フロア全体の安全を破壊するトリガー(引き金)になる」という事実です。

利用者さんは「言葉の意味」ではなく、スタッフの「声のトーン、顔の表情、手の添え方」といった非言語のメッセージを100%受け取っています。

だからこそ、チーム全員で対応のトーンを統一することが、リスクマネジメントにおいて不可欠です。

認知症のメカニズムと「心のSOS」を読み解く

プロとして適切な対応をするためには、なぜ本人がその質問を繰り返すのか、脳のメカニズムと心理状態をアセスメント(評価)する必要があります。

理由は主に3つあります。

原因1:エピソード記憶の脱落

直近の出来事を記憶する「海馬」の機能低下により、「質問した」「回答を得て納得した」というエピソードそのものが完全に脱落しています。

ビデオテープの録画ボタンが押されていない状態と同じです。

原因2:見当識(けんとうしき)障害による暗闇の恐怖

「自分が今どこにいて、何時なのか、周囲にいるこの人たちは誰なのか」が分からなくなる障害です。

例えるなら、「見知らぬ異国の砂漠に、パスポートも財布も持たずに一人でポツンと取り残された」ような状態です。

そんな恐怖の中にいたら、誰だって「ここはどこですか?」「助けてくれないんですか?」と、近くにいる人に何度もすがりついて聞くはずです。

原因3:感情の残留(感情記憶)

事実は忘れても、脳の「扁桃体(へんとうたい)」という部分で感じる「不安・焦り・寂しさ」といった感情だけは、消えずに渦巻き続けています。

質問の内容が何であれ、本質は「私はここにいて大丈夫ですか?」という、命がけの心のSOSなのです。

【実践】プロの正しい接し方4カ条

では、私たちは現場でどのように対応すべきでしょうか。

私自身の経験の中で、実際に効果が高かった「4つの鉄則」を共有します。

第1条:受容と安心感の提供

相手が何回目に同じ質問をしてきても、「いま、1回目に聞かれた」というまっさらな笑顔と、1オクターブ高い優しいトーンで受け止めます。

「またか」という表情を1ミリも出してはいけません。

第2条:言葉ではなく「感情」に共感する

「ご飯まだ?」という言葉の裏にある「楽しみにしている気持ち」や「お腹が空いて不安な気持ち」に焦点を当てます。

「お腹が空きましたね」「今日の夕飯が楽しみですね」と感情に共感することで、ご本人は「この人は自分の味方だ」と安心し、質問の衝動が和らぎます。

第3条:環境・視覚的安心の活用(メモの処方)

耳から聞いた言葉はすぐに消えますが、目に見える文字(視覚情報)は手元に残ります。

質問への回答を大きめの紙に書き、「お守り」としてご本人に持っていただきます(例:「〇〇様、本日の夕食は18時です。スタッフ一同」)。

再度聞かれそうになったら、「あ、さっきのお手紙、一緒に見てみましょうか」と優しく促します。

第4条:役割への誘導(意識の方向転換)

質問のループ(回路)に入ってしまった脳を、別の回路へと切り替えます。

無理に話を終わらせるのではなく、「〇〇さん、ちょっと手が足りなくて困っているんです。このタオルを一緒に畳んでもらえませんか?」と、なじみのある役割を依頼します。

手先を動かし、誰かの役に立っているという実感が得られると、質問のループは見事に断ち切られます。

現場で明日から使える「プロのフレーズ」

研修の場や明日のシフトでそのまま使える、具体的な「NG」から「プロ」への声かけ変換フレーズです。

ケース1:「ご飯はまだですか?(食後5分)」

❌ NG: 「さっき食べたでしょ!下膳したお盆、そこにあるじゃない!」

⭕️ プロ: 「お腹が空きましたね(受容)。〇〇さんは本当にいつもお元気で、たくさん召し上がってくれて嬉しいです(承認)。いま、美味しいお茶が入ったので、まずは一杯飲んで一息つきませんか?(転換)」

食べたという事実を否定せず、元気であることを褒めて(自己肯定感の向上)、お茶を飲むという別の行動へ自然に繋げます。

ケース2:「お迎えはいつ来ますか?」

❌ NG: 「お迎えは明日ですから、部屋に戻って寝てください!」

⭕️ プロ: 「ご家族が迎えに来られるのが待ち遠しいですね、本当に仲が良いんですね(共感)。外はもう暗くて危ないので、今日はここに泊まって、明日一番で帰りましょう。私が夜間もしっかり見守っていますから安心してくださいね(安心感の提供)。」

家族を想う気持ちを肯定し、「私があなたを守る」と言葉と態度で示すことで、見当識障害による砂漠の恐怖から救い出します。

ケース3:「ここはどこ?家に帰る!」

❌ NG: 「ここは有料老人ホームですよ。あなたの家はもうないです!」

⭕️ プロ: 「お家に帰りたい大切な理由があるんですね(受容)。帰る前に、〇〇さんの若かりし頃のお仕事(または子育て)のお話を、ぜひ私に聞かせてくれませんか?(回想法・転換)」

「家に帰る」という訴えの多くは、本人が輝いていた「過去の安全な居場所(実家や現役時代の家)」を指しています。

過去の得意な話(回想法)を振ることで、自分のプライドを取り戻し、精神的に落ち着かせるアプローチです。

おわりに

認知症の利用者さんが同じ質問を何度も繰り返すのは、目の前にいるあなたを「この人なら、自分の不安を解決してくれるかもしれない」と信頼し、すがっている証拠でもあります。

つまり、それは信頼の裏返し(甘えのサイン)なのです。

私たち介護職の仕事は、力技や嘘で「質問を無理やり止めさせること」ではありません。

質問を繰り返さなくても済むような「絶対的な安心感」を、その場に作り出すことです。

一人のスタッフがどれだけ頑張っても、別のスタッフが「さっきも言ったでしょ!」と怒ってしまえば、利用者さんの不穏は倍増します。

困難なケースにぶつかった時こそ、リーダーを中心にカンファレンスを開き、「〇〇様にはこのフレーズ、このトーンで統一しよう」と、チーム全員で一貫した安心のバトンを繋いでいきましょう。

私たちの優しい声のトーンひとつが、利用者さんを暗闇の恐怖から救い出し、フロア全体の穏やかな笑顔を守る最高のケア技術になります。

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