近年、介護施設における高齢者虐待の件数が増加し、ニュースでもたびたび取り上げられるようになりました。
厚生労働省の調査では、2023年度の虐待判断件数が過去最多を記録し、通報・相談件数も増加傾向にあります。
こうした状況の背景には、職員の知識不足やストレス、労働環境の悪化など、複雑な要因が絡んでいます。
本記事では、実際のニュース事例をもとに、虐待が発生する背景や現場の課題、そして私たち介護職ができる対策について整理し、今後の研修や施設運営に活かせるポイントを考察します。
虐待は決して他人事ではなく、現場の小さな気づきと行動が未然防止につながることを改めて見つめ直しましょう。
この記事を読む価値
- 高齢者虐待の基本から理解できる内容です。
- グループワークを入れると1時間程度の研修にできます。
- 極力、難しい表現は避けてあります。
早速、見ていきましょう。
高齢者虐待とは?基礎知識を再確認
高齢者虐待は主に5つに分類されます。
最も多いのが身体的虐待(殴る、蹴る、身体拘束など)で、介護施設では51.3%と半数以上を占めます。
心理的虐待(暴言、侮辱、無視など)は施設で24.3%、家庭では38.3%。
介護放棄(ネグレクト)は食事を与えない、清潔保持を怠るなどで、施設で22.3%と報告されています。
その他、性的虐待(2.7%)、経済的虐待(18.2%)。
虐待の兆候には、説明のつかないあざや傷、急激な体重減少、表情の硬化、特定職員への萎縮などがあります。
日常の何気ない声かけや対応が虐待につながることもあるため注意が必要です。
たとえば、車椅子での乱暴な移動や「また漏らして!」などの暴言、過度の拘束や不衛生な状態の放置なども虐待に該当します。
法律上、虐待を発見した場合は市町村への通報義務があります。
通報者の情報は守秘義務で保護されるため、ためらわず報告することが求められます。
「通報の手順」等について詳しく知りたい方は、コチラの記事をご参照ください。
虐待の背景には、職員の知識不足、ストレス、倫理観の欠如、労働環境の悪化などが指摘されています。
効果的な防止策として、職員教育やストレスケア、虐待防止委員会の設置、相談しやすい職場づくりなどが挙げられています。
詳しくは後述します。
介護職個人の意識に加え、運営層が環境整備を行うことも、再発防止には不可欠です。
高齢者虐待の防止には、職員一人ひとりの意識はもちろん、組織・地域・家族が連携して取り組む体制の整備が欠かせません。
安心して通報できる環境と、虐待を未然に防ぐ仕組みづくりが今後ますます求められます。
ニュースで報道された実際の虐待事例
介護施設で発生した高齢者虐待の事例は、私たち介護職にとって他人事ではありません。
特に身体的虐待、心理的虐待、介護放棄(ネグレクト)などは、現場の構造的な問題が関係しており、職員一人ひとりの対応とともに、施設全体の仕組みが問われる問題でもあります。
まず、身体的虐待の具体的事例として、熊本市の老人ホーム「はなな」では、元職員による94歳女性への暴行が明らかになりました。引用:朝日新聞
車椅子をぶつける、首や腕をつかんで乱暴にベッドへ移動させるといった行為が隠しカメラによって記録され、熊本市は7件の身体的虐待を認定し、業務改善命令を出しました。
また、兵庫県明石市では、サービス付き高齢者向け住宅で職員が認知症の男性入居者に対し、殴打や蹴り、引きずり下ろすなどの暴行を加え、映像証拠に基づいて有罪判決が下されました。引用:神戸新聞
さらに、富山市の「おおやま病院介護医療院」でも、複数の利用者に対する暴行が確認され、行政処分が科されています。引用:NHK
心理的虐待も深刻な問題です。
豊橋市の特養「つつじ荘」では、「くそ、漏れてるじゃないか」「死んだ方がいい」など、職員の暴言が調査資料に記録されており、利用者の尊厳を著しく傷つける行為とされています。
心理的虐待は、身体的暴行のように外見でわかりにくいため、特定の職員にだけ萎縮したり、表情が硬くなったりするなどの兆候に注意が必要です。
介護放棄(ネグレクト)も施設での虐待として報告されています。
豊橋市の「つつじ荘」では、おむつ交換が必要な利用者を放置し、衣類が濡れるほど失禁させたことが虐待と認定されました。
また、青森県八戸市の「サンシャイン」でも、身体的虐待とともにネグレクトが認定され、行政処分の対象となっています。引用:NHK
こうした事例から浮かび上がるのは、虐待が一部の職員だけによる偶発的な行為ではなく、施設の体制や文化、管理の甘さが背景にあるという点です。
熊本市の事例では、家族の設置したカメラによって初めて虐待が明らかになりました。
兵庫県明石市では、施設側が虐待を疑いカメラを設置したことで暴行が発覚。
虐待を行った職員自身も「発覚しなければ続けていたかもしれない」と供述しています。
富山市のケースでは、施設が行為を把握していながら有効な対策を講じておらず、管理体制の問題として行政処分を受けました。
また、「つつじ荘」では、当初3人とされた虐待関与職員が、調査の結果17人に上ったとされ、組織全体に虐待や不適切ケアが常態化していた可能性もあります。
これらは、虐待の早期発見が困難である一因として、内部通報のしづらさ、通報による不利益への不安、何が虐待かの判断の難しさなど、職員側のハードルがあることを示しています。
虐待の防止には、職員の教育や倫理意識の向上はもちろん、管理者や施設の体制強化が不可欠です。
ストレスチェック、相談体制の整備、虐待防止委員会の機能強化などの具体策に加え、家族や地域との連携を含めた多角的な取り組みが必要です。
高齢者虐待は、施設の外から見えにくく、本人が声を上げられないことも多いため、私たち介護職一人ひとりが「見過ごさない」姿勢を持ち、変化に気づき、声を上げることが大切です。
虐待が起きる背景とリスク要因
高齢者虐待の背景には、さまざまな要因が複合的に関わっています。
まず、仕事の労動環境によるストレスと感情コントロールの限界が大きな原因として挙げられます。
特に人手不足や長時間労働によって疲れが貯まり、ストレスの蓄積し、それが人間関係の悪化につながっていきます。
仕事場の風通しやチームの雰囲気によっても、虐待の発見に大きな差が生じます。
「通報しづらさ」「ひけめしらずに問題を指摘できる雰囲気がない」といった雰囲気があれば、虐待の発見は難しくなります。
また「認知症」特有の、「自分の思いを伝えにくい」という状況も、虐待を発見しにくくする要因の一つです。
そのため私たち介護職は、利用者さんの少しの変化やささやかな病状の調子に敏感になり、それを「ただ機嫌が悪いだけ」と見過ごさないことが大切です。
虐待は、「個人の違法行為」と捉えるのではなく、社会や組織、個人同士の関係性が「見過ごしを生む環境」を作りだしている、という認識が必要です。
虐待を防ぐために、職員ができること
虐待を防ぐために私たちができることを、5つ紹介します。
①毎日の声かけや表情から意識を変える
高齢者虐待の早期発見には、利用者さんの日常的な観察の中で変化に気づくことが重要です。
特に、認知症や重度の要介護状態の方は、自ら被害を訴えることが難しい傾向にあります。
職員は、次のような兆候に注意を払い、日常的な声かけや表情、身体的状態から意識を高めることが求められます。
- 説明のつかない傷やあざ
- 急劇な体重の減少
- 脱水症状や栄養不良の兆候
- 不自然な身体束縛の跡
- 特定の職員の前での萎縮
- 表情の硬化や活気の低下
- 不安や怖がりの様子
- 介護拒否が突然現れる
これらの兆候を見逃さず、毎日の観察や話しかけを通して、小さな変化に気づくことが、早期発見に繰がります。
②記録の重要性と気づきの共有
日常的な観察と具体的な記録を重ねることは、急な変化を解析し、実際の行動の背景を明らかにするために有効です。
その上で、それをチームで共有することは企業統治的な方面でも性能を発揮します。
③自分の感情に気づく「セルフモニタリング」の意識
疲れや不満、イライラ感をためずに発散すること。
これが利用者さんへの虐待防止につながることを認識しておきます。
ただし、これを職員個人の努力のみで解決させるのではなく、施設側でのケア体制の整備も一緒に求められます。
④虐待を生じさせない環境づくり
高齢者虐待は一個人の問題ではなく、組織全体で対応するべき課題です。
そのためにも、身近な気づきを隠さずに伝えられる、チームの風通しのよさが重要です。
経験の分かち合いや、メンタルケアの充実、適正な人員配置など、組織的な高齢者虐待防止の環境を整備していきましょう。
⑤職場内での学びと支え合い
先輩が新人職員を支える体制、ケアの悩みを分かち合う場の設置。
これらは、知識や技術の向上だけでなく、孤立感を防ぐ上でも効果的です。
施設のサポート体制や定期的な研修の実施も、しっかりとした効果を生みます。
利用者の家族との関係も重要なカギ
高齢者虐待を防ぐうえで、ご家族との良好な関係づくりはとても大切なポイントです。
介護職員は、利用者さんがご家族と接する場面において、身体的・心理的な異変がないか注意深く見守る必要があります。
虐待の原因として多いのが、認知症の影響や、介護疲れ、介護する側の知識不足です。
こうした状況を少しでも防ぐために、職員がご家族の介護負担や悩みに気づき、共感し、寄り添うことが重要です。
ご家族の孤立を防ぎ、信頼関係を築くことが、結果的に虐待のリスクを減らすことにつながります。
また、施設職員とご家族が日ごろから丁寧にコミュニケーションを取ることで、施設への理解と信頼も深まります。
過去には、施設への不信感からご家族が隠しカメラを設置し、トラブルに発展した例もありました。
日々のケアの様子をきちんと説明し、透明性をもって対応することが、こうした誤解や不安を防ぐ鍵となります。
日常の情報共有にも工夫が必要です。
体調の変化やケアの課題も正直に伝え、ご家族が相談しやすい雰囲気をつくることが信頼構築の第一歩です。
可能な範囲でケア記録なども共有できれば、ご家族の安心感にもつながります。
このように、職員がご家族としっかり向き合い、支え合う関係を築くことは、虐待防止の大きな力となります。
グループワーク
グループワークは、自分ひとりでは気づけなかった考え方や対応の工夫に触れることができます。
「そういう見方もあるのか」と感じることで、視野が広がり、より柔軟な対応ができるようになります。
また現場での悩みや不安を話すことで、「自分だけじゃなかった」と感じられ、気持ちが軽くなります。
仲間と共感し合うことで、孤立を防ぎ、相談しやすい職場づくりにもつながります。
ぜひ、取入れてみてください。
題:虐待が発生する職場の「環境要因」と「改善策」について考える
ニュース事例を参考に、「なぜこの施設で虐待が起きたのか?」「どうすれば防げたか?」を話し合いましょう。
ニューズ事例のリンクを、再度貼っておきます。
グループで話し合った後、代表者が発表します。
そして、司会者がまとめることでグループワークは終了です。
おわりに
いかがだったでしょうか。
高齢者虐待は、一人の職員の問題として片付けることはできません。
日々の業務の中で、職員のストレスや環境の不備が積み重なることで、誰もが加害者にもなり得るリスクを抱えています。
今回取り上げた事例からもわかるように、虐待を防ぐには、個々の職員の意識向上だけでなく、組織全体の仕組みづくりや、ご家族・地域との連携が不可欠です。
相談しやすい職場づくり、教育・研修の継続、そして声を上げやすい環境の整備が、再発防止への第一歩です。
私たち介護職が安心して働き、利用者様が安心して暮らせる場所を守るために、今後も学びと実践を重ねていきましょう。
それではこれで終わります。
この研修記事が御社の運営に少しでもいかしていただければ幸いです。
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