筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
介護現場で事故が起きたときに作成する「事故報告書」は、再発防止や情報共有のために欠かせない重要書類です。
しかし、実際には「書き方に不安がある」「できれば書きたくない…」と感じる介護職員も少なくありません。
特に利用者さんの転倒事故は介護施設で起こりやすい事故の一つであり、報告書作成の頻度も多くなります。
本記事では、転倒事故に焦点を当て、そのまま使える事故報告書のテンプレートと具体的な記入例を紹介します。
さらに、誰でも書きやすく伝わりやすい報告書にするためのポイントや注意点も解説します。
新人職員の方や報告書作成に自信がない方でも、本記事を読めば基本がわかり、明日から現場ですぐ活用できるようになるはずです。
この記事を読むメリット
- そのまま使えるテンプレートで“すぐ書ける”
- 記入ポイントがわかるから“伝わる報告”になる
- 再発防止と行政対応に強くなる
それでは早速、みていきましょう。
事故報告書を作成する目的(なぜ必要?)
事故報告書は作成に手間がかかりますが、それには明確な目的と重要性があります。
主な目的は次の3つです。
①事故原因を分析し再発防止策を考えるため
事故の経緯や原因を明確に記録・分析し、同じ事故の再発防止策を検討するためです。事実を書き出すことで冷静・客観的な分析が可能になり、事故後に開催するカンファレンスでも資料として活用できます。
②スタッフ全員に事故対応を周知するため
報告書をもとに関係職員へ事故の詳細や対応策を共有し、全員で正しく情報共有するためです。事故報告書を見れば事故の詳細と対応が把握できるので、他のフロア職員や多職種にも周知・共有しやすくなります。
③事故の隠ぺい防止とスタッフの身を守るため
詳細を記録として残すことで事故を隠さずオープンにできます。また、骨折や死亡など重大事故では行政への報告義務もあるため、正確に事実を残すことが重要です。後日、ご家族から説明を求められたり訴訟になったりした際も、報告書が職員を守る証拠資料になります。
このように事故報告書は、利用者さんの安全確保と介護サービスの質向上、そしてスタッフ自身のリスクマネジメントにも大きな役割を果たします。
「なぜ書くのか」を理解すれば面倒に感じがちな報告書作成にも前向きに取り組めるのではないでしょうか。
転倒事故報告書のテンプレート
転倒事故が起きた際の事故報告書には、記載すべき基本項目があります。
以下は転倒事故用の報告書テンプレートです。
そのままコピー&ペーストして使え、必要項目を漏れなく書ける形式になっています。
項目 | 記入欄 |
---|---|
発生日時 | ◯◯年◯◯月◯◯日(◯) ◯時◯分 |
発生場所 | ◯◯(例:居室内、廊下、浴室など) |
対象者の情報 | ◯◯さん(◯歳・男性/女性・要介護◯) |
事故の概要 | (ここに事故の状況・詳細を記入) |
事故発生時の対応 | (ここに事故直後の対応を記入) |
事故発生後の状況 | (ここにその後の利用者の状態や受診状況等を記入) |
事故の原因と再発防止策 | (ここに考えられる原因と再発防止のための対策を記入) |
このテンプレートは、左欄が報告書の項目名、右欄に具体的内容を記入します。
基本情報(日時・場所・対象者)をまず書き、その後に事故の詳細、対応、経過、原因分析と対策という流れです。
この順序は後述するように5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうした)に沿っており、第三者にも状況が伝わりやすくなっています。
項目ごとにどのような内容を書けばよいかは、この後の記入例とポイント解説で具体的に説明します。
転倒事故報告書の記入例(ケーススタディ)
次に、上記テンプレートを使った記入例を紹介します。
想定ケースは「夜間帯に利用者Aさんがベッドから立ち上がろうとして転倒した」事例です。
テンプレートの各欄にどのように記入するか、具体例を見てみましょう。
項目 | 記入例 |
---|---|
発生日時 | 2025年4月5日(火) 3時30分頃 |
発生場所 | 利用者Aさんの居室内(ベッド脇の床) |
対象者の情報 | Aさん(82歳・男性・要介護3) |
事故の概要 | 日勤から夜勤への引き継ぎ後、巡回中にAさんの居室から「ドン」という物音がした。職員が駆けつけると、Aさんがベッドの横の床に尻もちをついて倒れていた。呼びかけに対し本人は「トイレに行こうとしたら転んだ」と応答。意識清明で、手首に痛みを訴えている状況。 |
事故発生時の対応 | 職員2名でAさんをベッドに戻し、全身のボディチェックとバイタル測定を実施。看護職にも連絡し、手首の痛みが強いため家族に連絡のうえ施設車両で〇〇病院の救急外来を受診した。 |
事故発生後の状況 | 当日受診した〇〇病院にて右手首の捻挫と診断(全治3週間)。命に別状はなく、そのまま帰所。翌朝に改めて主治医と家族に経過報告し、引き続き経過観察とする方針となった。 |
事故の原因と再発防止策 | 【原因考察】 夜間帯にトイレへ行きたくなり自力で起き上がったことが直接の原因。ベッド周りに手すりがなく、靴も踵を踏んだ状態で履いており転倒に繋がったと考えられる。 【再発防止策】 (1) 就寝前の声かけと排泄誘導の徹底、(2) ベッド柵の使用など環境整備、(3) ナースコールで呼べることを本人に再周知し、自力で無理に立ち上がらないよう指導。 |
上記の例では、発生日時・場所・対象者といった基本情報の後に、事故状況を「いつ・どこで・誰が・どのように」の順で具体的に記述しています。
例えば「事故の概要」欄では、夜勤中の出来事であること、居室内で起きたこと、Aさんがトイレに行こうとして転倒したことを事実に沿って書いています。
続く「事故発生時の対応」では、発見後に何をどう対応したか(複数職員で搬送しバイタル測定、看護師・家族への連絡、医療機関受診)を時系列に沿って記録しています。
「事故発生後の状況」では受診結果や診断内容、その後の経過や家族への報告状況まで網羅しています。
【原因と再発防止策】では、なぜこの事故が起きたのか背景要因を分析し、再び同じことが起きないよう具体的な対策を箇条書きで示しています。
利用者本人の発言(「トイレに行こうとしたら転んだ」)は「」を使い、聞いたままの言葉で記載すると臨場感が伝わりやすくなります。
このように事実を丁寧に追って書けば、第三者が読んでも状況を正しく理解できる報告書になります。
事故報告書を書く際のポイントと注意点
最後に、転倒事故の報告書を作成する際に意識したいポイントや注意点をまとめます。
報告書の質を上げ、現場で有効に活用するために以下の点に留意しましょう。
重大事故は行政へ報告が必要
転倒事故の中でも死亡事故、あるいは医師の診断が必要な負傷を伴う事故(骨折など治療を要するケガ)は国(行政)への報告義務があります。
もし利用者さんが転倒により重篤な状態になった場合や病院で治療を受けた場合は、速やかに所定の介護事故報告書を作成し、施設の所在地の市町村役所へ提出してください。
報告先となる自治体ごとに定められた様式(フォーマット)があるため、自治体のウェブサイトなどで最新の様式を確認して従いましょう。
報告書は事故発生から5日以内に提出
行政へ報告が必要なケースでは、事故発生日から5日以内に報告書を提出することが求められます。
提出が遅れると事後報告とみなされる可能性もあるため注意が必要です。
報告義務のない軽微な事故であっても、できるだけ早く報告書を作成することが望ましいです。
対応が早いほど詳しい状況を思い出しながら記録できますし、関係者内で迅速に情報共有して再発防止策を検討することにもつながります。
事故から時間が経つほど記憶はあいまいになりやすいので、なるべく早めに書き上げるようにしましょう。
専門用語は使わず分かりやすい表現で
事故報告書は介護職だけでなく多職種や利用者さんのご家族など、外部の人が目にする可能性もあります。
そのため、専門用語や略語はできるだけ使用せず、誰にでも分かる平易な表現で記載することが大切です。
例えば介護業界で使いがちな略語も、報告書上では「体交」ではなく「寝返り」、「患側」ではなく「左腕の麻痺」といったように具体的で一般的な言葉に言い換えましょう。
専門用語を避けることで報告書の内容が読みやすくなり、ご家族を含め多くの人に正しく情報が伝わります。
5W1Hを意識し、事実を時系列で簡潔に書く
報告書作成では主観や感情を交えず、起きた事実を客観的かつ簡潔にまとめることが重要です。
ポイントは5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を意識して、事故当時の状況を漏れなく整理すること。
この枠組みに沿って時系列順に書くことで、読み手にとって非常に分かりやすい報告内容になります。
具体的には、「いつ・どこで・誰が」の基本情報を書いた後、「何を・どのように(どうして事故に至ったか)」を事実に即して説明します。
その後で「事故後にどうした(どんな対応をしたか)」まで記録すれば、一連の流れが明瞭に伝わります。
特に原因分析や再発防止策の欄では、「なぜこの事故が起きたのか」を掘り下げ、設備面・人的な要因・利用者の体調など様々な角度から原因を考察しましょう。
その上で、「では今後どう防ぐか」を具体的な対策に落とし込んで記載します。
再発防止策は実行可能で効果的な内容にすることが大切です。
冗長にならないよう簡潔さも意識しつつ、事故の経緯と対応・対策を事実ベースで過不足なく書くよう心がけましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
事故報告書は現場のスタッフから管理者、場合によっては利用者さんのご家族まで多くの人が目にする可能性のある文書です。
本記事で紹介したテンプレートや記入例を参考に、誰が読んでも状況を正しく理解できるよう、専門用語を避けて客観的かつ具体的に記録しましょう。
転倒事故は介護現場で避けられない面もありますが、大切なのは起きてしまった事故を次につなげることです。
事故後の対応策や再発防止策までしっかり書かれた報告書は、今後のケアの改善や施設全体の安全性向上にも役立ちます。
もし重大な事故に発展した場合は行政への報告も必要になりますが、その際も落ち着いて本記事の内容を思い出し、速やかに書類を作成・提出してください。
最初は難しく感じるかもしれませんが、テンプレートを活用して場数を踏めば必ず慣れていきます。
事故報告書の基本を押さえて、自信を持って適切な報告と再発防止に取り組んでいきましょう。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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