- すぐに使える研修資料・マニュアル・事例などがほしい
- 資料作成を急いでいる、でもちゃんと伝わる内容にしたい
- 現場の職員が興味持ってくれるテーマって何?
- 去年と同じ内容じゃまずいよな…
- 研修担当じゃないけど、あの人に教えてあげたいな
筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
介護現場で事故が起きたら、まずは利用者さんの命を守る対応が最優先です。
落ち着いたら次に必要なのが「行政への事故報告」。
これは法令上の義務であり、再発防止を進めるための出発点でもあります。
本記事では、誤嚥事故を例に、報告が必要となる基準、連絡・提出の流れ、厚労省様式に沿った報告書の書き方とコツを、研修形式でわかりやすく解説します。
通所・入所・訪問のどの事業所でも使える、実務に直結する内容です。
この記事を読むメリット
- 「いつ報告が必要か」がはっきり分かる
- 対応の流れがそのまま使える
- 報告書の書き方とコツが分かる
それでは早速、みていきましょう。
行政への事故報告はなぜ必要?義務とその法的根拠
介護サービス事業者(施設・事業所)は、サービス提供中に事故が発生した場合、速やかに市町村(利用者の保険者)、利用者さんのご家族、居宅介護支援事業者(ケアマネジャー)等に連絡し、必要な措置を講じなければならないと各種基準で定められています。
例えば指定訪問介護事業所の運営基準では、「事故発生時は市町村・家族等へ速やかに連絡し、必要な措置を講ずること」と明記されています。
このように事故を行政へ連絡すること自体が法令上の義務なのです。
さらに事業者には、事故の状況およびその処置を記録し保管する義務も課せられています。
これらの義務に違反すると行政から指導を受けるだけでなく、悪質な場合は介護報酬の減算や事業所指定の停止・取消し等の処分につながる可能性もあります。
重大な事故を報告しなかった場合、後日発覚すれば事業所の信用失墜は避けられません。
報告は「事業所として当然の責務」であると同時に、事故再発防止の第一歩でもあります。
事故原因をしっかり分析し対策まで落とし込まなければ、「報告書を提出しただけ」で終わってしまい、同様の事故が繰り返された場合に「なぜ対策しなかったのか?」とより厳しく問われることになります。
行政への報告は決して事業所を罰するためだけのものではなく、行政と事業所が協力して事故の再発を防ぐために必要不可欠なプロセスであると心得ましょう。
報告すべき事故とは?基準と判断ポイント
すべての事故が行政報告の対象になるわけではありません。
どのような場合に報告が必要か、誤嚥事故を例に基準をみていきましょう。
厚生労働省の通知によれば、以下のような事故は原則すべて報告対象とされています。
- 死亡に至った事故(介護事故が原因で利用者が亡くなった場合)
- 医師の診断・治療を要した事故(医師による診察や投薬・処置等、何らかの医療的対応が必要になった事故)
※上記②には、施設内の嘱託医や訪問診療医による診察も含みます。
つまり、誤嚥事故の場合は、利用者さんが誤嚥によって「死亡した」場合や、誤嚥による窒息や肺炎の疑い等で「医師の診察・治療が必要になった」場合は必ず行政へ報告しなければなりません。
誤嚥が原因で救急搬送した、病院で検査や処置を受けた、といったケースは報告対象と考えましょう。
一方、幸い大事に至らなかった軽微な誤嚥まで全て報告する必要はありません。
例えば「利用者さんが食事中に一瞬むせたが、自力で落ち着き、その後異常なく過ごしている」という程度で医療機関を受診しなかった場合などは、行政への報告義務は生じません。
このようなケースでは事業所内のヒヤリハット(インシデント)事例として記録を残し、ご家族へ状況報告・経過説明を行うにとどめます。
ただし利用者さんの状態観察は続け、後から体調変化があれば適切に対応してください。
判断に迷うケースもあります。
たとえば誤嚥自体は軽く済んだが後日肺炎を発症した場合など、事故との因果関係がはっきりしないケースです。
そのような時は、無理に自己判断せず行政担当部署に相談して指示を仰ぐことも大切です。
例:誤嚥事故発生!行政報告までの流れと初期対応
誤嚥事故が発生した際の一連の対応フローを、時系列に沿って整理します。
現場の介護職員が取るべき初動から、行政への報告書提出に至るまでの一般的な流れ(① ⇒ ⑪)を確認しましょう。
①利用者の救命・救急対応
事故発生直後はまず利用者さんの安全確保が最優先です。誤嚥による窒息であれば直ちに背部叩打法や腹部突き上げ(ハイムリック法)を行い異物を除去します。必要に応じて看護師や医師を呼び、緊急の場合は119番通報して救急搬送します。
②施設内への緊急連絡
近くの同僚や上司に事故発生を知らせ、応援を求めます。施設長や管理者にも早急に報告し、医療機関への連絡判断や行政報告の準備を開始できるようにします。
③利用者家族への連絡
利用者さんの容体と応急対応の状況について、ご家族や身元引受人に速やかに連絡します。夜間などで連絡が取れない場合も、留守番電話にメッセージを残す、SMSを送る等して「後で折り返すよう依頼した」事実を残しましょう。後日対面や電話で詳細説明する際のため、連絡日時や相手の反応も記録に残しておきます。
④ケアマネージャー等への連絡
利用者さんが在宅サービス利用中の事故であれば、担当の居宅介護支援事業所(ケアマネ)にも連絡します。通所介護中の事故なら送迎の変更調整、訪問介護中ならサービス中断等、関係者への連絡調整が必要です。施設入所者の場合も、嘱託医や看護師への報告・指示仰ぎが該当します。
⑤行政報告の要否判断
上述の基準に照らし、当該事故が行政へ報告すべき重大事故かどうかを管理者が判断します。明らかに報告基準に該当する場合は早急に報告の手続きを開始します。判断が微妙な場合は管轄の役所に問い合わせて指示を受けるか、ひとまず報告書を作成して提出する方向で動きます(不要と言われれば提出を控える)。
⑥行政への第一報(緊急時)
利用者さんが死亡した場合や重篤で危険な状態に陥っている場合は、書面の提出を待たずにまず電話等で行政担当部署へ第一報を入れます。市町村の介護保険担当課や保健福祉事務所など、各自治体が指定する報告先に連絡しましょう。「○○事業所の○○です。○月○日○時頃、利用者が食事中に誤嚥し○○の状態です。現在○○の対応をしています。追って正式に事故報告書を提出します。」等、事故の概要と現在の対応状況を伝達します。緊急連絡先はあらかじめ各事業所で一覧化しておくと安心です。
⑦事故報告書の作成
落ち着いてから、所定の「介護事故報告書」を作成します。報告書様式は自治体ごとに若干異なりますが、厚生労働省が標準様式を公表しています。現在、多くの自治体がこの厚労省統一様式または同等項目の様式を採用しています。自治体によっては独自様式を指定している場合もあるため、提出前に管轄先にどの様式を使うべきか確認すると確実です。提出方法も自治体により異なり、メール提出を認めている所もあればFAX・郵送のみの所もあります。厚労省はメール提出を推奨していますが、現場では対応が分かれるので、提出先ごとのルール(提出様式・方法・宛先)を事前に把握しておきましょう。
⑧事故報告書の提出(第一報)
完成した事故報告書を速やかに提出します。提出先は利用者さんの住所地の市町村が基本です。たとえば施設が大阪市内にあっても、利用者さんが他市町村の被保険者であればその市町村へ提出します(この場合、事業所所在地の大阪市にも報告書の写しを提出するよう求められることがあります)。提出期日は自治体により定めがありますが、一般的に事故発生から5日以内とされることが多いです。厚労省も「可能な限り5日以内の第一報提出」を求めています。緊急性が高い内容はできるだけ早く提出し、そうでない場合も5営業日以内を目安にしましょう。なお第一報ですべての情報を揃える必要はありません。原因分析や再発防止策など時間を要する項目は空欄でも構いませんので、判明している事実関係だけでも早めに報告書を提出してください。提出日を記入漏れすると受付日が不明確になり不都合ですので、報告書の所定欄に提出日付を忘れず記載します。
⑨事故原因の調査・分析
第一報提出後、事業所内で事故の詳しい原因究明を行います。職員への聞き取りや利用者さんの状態確認、事故現場の再現検証などを実施し、根本原因の分析と再発防止策の検討を進めます。このプロセスはリスクマネジメント研修の一環として、職員全員で時間を取りじっくり行うことが望ましいです。
⑩追加報告・最終報告の提出
原因分析や再発防止策がまとまった段階で、事故報告書の追加・最終報告を提出します。厚労省の統一様式では、原因分析(項目7)と再発防止策(項目8)を追記したものを事故発生から1か月以内に提出するよう求めています。自治体によっては「事故発生から15日以内に再発防止策まで含めた報告書提出」としているところもあります。いずれにせよ、遅くとも1か月以内には原因究明と再発防止策の立案を完了し、報告書をアップデートして提出しましょう。第一報提出時と同じく、提出日や報告者名の記入を忘れずに。
⑪内部記録の整理・保管
提出した報告書の控えや、事故当日の記録(経過記録、バイタルサイン記録、ヒヤリハット記録等)、関係者への連絡記録などを一式ファイリングし、事業所内で適切に保管します。事故報告書や関連記録は運営指導や監査でチェックされることがありますし、後日の社内研修教材としても活用できます。
事故報告書の書き方【誤嚥事故ケースの記入ポイント】
行政への報告に用いる事故報告書には、事故の経緯や対応、原因と対策など多くの情報を網羅的に記載します。
ここでは厚生労働省が公表した統一様式(介護事故報告書)の項目に沿って、85歳女性Aさんが特養の昼食中に誤嚥事故を起こしたケースを題材に、各項目の書き方ポイントを説明します。
実際の研修を想定し、具体例を交えながら解説しますので、自施設で事故報告書を作成する際の参考にしてください。
1. 基本情報欄(提出日・報告区分等)
報告書の冒頭には事業所名や提出日等の基本情報を記載します。
提出日は必ず記入しましょう。
提出日が抜けていると、報告の時期が不明確になり「報告の遅れ」を疑われる恐れがあります。
行政側の受理日記録だけに頼るのではなく、自ら証拠として日付を残す意識が大切です。
また報告書には「第○報」など報告回数(区分)を示す欄があります。
最初の提出が「第一報」、後日の追加提出が「第二報」…と分かるように○で囲む等して区別します。
厚労省式では一度提出して終わりではなく、状況変化や進捗に応じて何度でも提出する想定となっています。
そのため、第1報提出後に判明した事項があれば適宜追記・再提出して構いません。
「最初から完璧な報告をしなければ」と焦る必要はなく、まず迅速に概要を報告し、詳しい内容は後から補足するというスタンスで臨みましょう。
2. 事故の状況・程度
続いて、事故の結果の重篤度を概括するチェック欄があります。
ここでは事故発生後の利用者さんの状況に応じ、例えば「死亡」「入院」「受診(外来・往診)」「自施設での応急処置」等の選択肢にチェックします。
Aさんのケースでは、誤嚥直後に職員が背部叩打で異物を吐出させ、その後施設の車で病院の外来受診を行い、検査の結果大きな異常なく帰所しています。
この場合、「受診(外来)」および「自施設で応急処置」の項目にチェックすることになります。
万一事故直後に心肺停止となり蘇生を試みたような場合は「心肺蘇生処置」など該当欄にチェックします。
事故後の利用者さんの転帰を一目で示す項目なので、適切に選択しましょう(複数該当する場合は指示に従い複数選択可です)。
3. 事業所の概要
次に事業所の概要欄です。
事業所(施設)名、所在地、担当者氏名、サービス種別などを記入します。
注意ポイントは事業所名とサービス種別を正確に書くことです。
複数の事業所を運営する法人では、職員が兼務しているケースもあります。
そのため、「どのサービス提供中に起きた事故か」を明確にする必要があります。
例えば同じ法人でデイサービスと特養を運営している場合、特養入居者が事故を起こしたのに報告書にデイサービスの名前を書いてしまうと、行政は「事業所ごとのサービス区分管理ができていないのでは?」と不信感を抱くかもしれません。
最悪、介護報酬の不正請求など無関係な疑念を招くおそれもあります。
必ず事故が発生した該当事業所・該当サービス名を記入してください。
サービス種別も、訪問介護・通所介護・特定施設入居者生活介護など正式区分名で書きます。
法人格(株式会社等)や事業所番号の記入欄があれば漏れなく記載しましょう。
4. 対象利用者の情報
次に事故の対象となった利用者さんの情報です。
氏名、性別、年齢、要介護度、認知症の有無(認知症高齢者の日常生活自立度)、利用サービス名等を記入します。
これらは事業所の介護ソフトや介護記録を見れば分かる項目なので正確に転記します。
特に要介護度や認知症の状況は事故との関連も考えられるため、最新の認定区分を記載しましょう。
例えばAさんの場合「85歳女性、要介護3、認知症自立度IIa、特別養護老人ホーム入所中」といった具合です。
なお報告書によっては個人情報保護の観点から利用者氏名を伏せて「利用者A」等と表記する場合もあります(事前に提出先の様式ルールに従ってください)。
5. 事故の概要(発生日時・場所・事故内容 等)
ここから先が報告書の核心部分です。
事故の概要欄には主に以下の内容を記載します。
- 発生日時:事故の起きた日時(○年○月○日○時○分)
- 発生場所:事故が起きた場所(居室、食堂、浴室、送迎車内 等)
- 事故の種別:事故の種類(誤嚥、転倒、誤薬、行方不明 など)
- 発生時の状況・事故内容の詳細:事故がどのように起きたかの具体的な状況
- その他特記すべき事項:上記以外に記録すべき事項(発見までの時間差等)
それぞれ具体的に見ていきます。
①発生日時
できるだけ分単位の正確な時刻まで記載します。
「○時頃」など曖昧な表現は避けましょう。
人によって「~頃」の解釈はまちまちで、時間に幅を持たせると思わぬ誤解を招く恐れがあります。
例えば事故発生時刻を「午前10時頃」と記載したところ、別の記録では同じ職員が「午前10時から別の利用者にサービス提供」となっていた場合など、記録上は“10時に他業務中に事故対応していた”ように見えてしまう可能性があります。
行政が記録を精査した際、「この職員はサービス提供時間中に他の対応をしていてサービスを怠ったのではないか?」と疑念を抱くかもしれません。
そうした不必要な疑念を招かないためにも、日頃から何か起きた際は時計を見てメモする習慣を持ち、報告書には「○時○分」まで正確に書くようにしましょう。
なお発生日時と発見日時が異なる場合(事故発生に誰も気付かず後で発見した場合)は、その両方を記載します。
発生から発見まで長時間空いた場合、事業所の見守り体制の課題になるため、その時間差と理由を説明することが大切です。
「最後に〇時に様子を見た後、〇時~〇時の間に転倒したと推定される」等、可能な範囲で具体的に記録しましょう。
②発生場所
厚労省様式ではあらかじめ用意された選択肢(居室、トイレ、浴室、食堂、廊下、送迎車内 等)のチェック欄に印を付ける形式です。
該当箇所にチェックを入れるとともに、事故現場の状況が一目で分かる補足をしておくと親切です。
例えば「食堂(共同生活室)」にチェックした上で、可能なら見取り図や写真に印を付けて添付するとよいでしょう。
Aさんの場合は「食堂のテーブル席」で誤嚥が起きたため、「食堂等共用部」にチェックし、さらに食堂全体図にAさんの座席位置を✕印で示した図面を別紙添付しました。
特に転倒事故などでは、絨毯の上かフローリングか、周囲に障害物があったか等、場所の環境によって事故要因が大きく変わるため、現場の写真や図示を残すことが重要です。
事故現場を具体的にイメージできれば、「カーペットがめくれていた」「小さな段差があった」等、普段見落としていた危険因子にも気付けます。
③事故の種別
該当する事故カテゴリーにチェックします。
今回のケースでは「誤嚥」にチェックします。
様式によっては「その他」に自由記載する欄もあります。
例えば「誤嚥の後に転倒も伴った」等、複合的な事故の場合は注釈を付けたり別紙に経緯を説明することも検討しましょう。
④発生時の状況、事故内容の詳細
報告書の中でも最も重要な記載欄です。
事故が「誰の目の前で・いつ・何をしている時に・どのように発生したか等」をできるだけ詳細かつ客観的に記録します。
具体的に盛り込むべきポイントは以下の通りです。
事故に気付いた経緯(発生を覚知した状況):
誰がどのように事故を発見したか。事故を直接目撃したのか、異変に気付き駆け付けたのか、あるいは事故後の状態を見て初めて発見したのかを明確に書きます。
事故の様態・経緯:
利用者さんが何をしていて何が起きたのか、事故までの具体的な流れ。目撃した場合は一部始終を、発見時には利用者さんや目撃者から聞き取った内容をまとめます。
事故直後の利用者の状態:
事故発生直後または発見時の利用者さんの様子。顔色、意識レベル、声かけに対する反応、外傷の有無・状態など観察できた情報を書きます。
現場の状況:
事故現場の物的環境や人的状況。床や壁の状態(滑りやすい床、段差、床の汚れ等)、その場にいた他の利用者さんや職員の人数・配置、照明や天候など関連しそうな要因を記録します。
《Aさんのケース(事故内容の例)》
昼食時間、食堂では1テーブル3名の利用者さんに対し職員1名ずつが付き添い、食事介助を行っていました。
Aさんのテーブルでは他2名の利用者Bさん・Cさんと同席し、職員Dさんが3名を見守りながら随時介助していました。
開始から10分ほど経った頃、他の利用者Bさんが味噌汁をこぼしたため、D職員はテーブルの上の汚れを拭こうと席を一旦離れて布巾を取りに行きました。
1分も経たないうちに戻ってくると、Aさんが激しくむせて咳き込んでいるのに気づきました。
Aさんはその時白いご飯を口に入れていましたが、どのくらいの量を口に入れたかは定かではありません。
D職員が「どうしました!大丈夫ですか?」と声をかけつつ背中をさすると、Aさんは口に入っていた白米を断続的に吐き出しました。
吐出後も一時は顔を赤くして苦しそうに荒い呼吸をしていましたが、次第に呼吸は落ち着いてきました。
Aさん本人に「どうしてむせちゃったの?」と尋ねると、咳き込みながら「ご飯をたくさん口に入れたら苦しくなった」という趣旨の返答がありました。
現場には他に2つのテーブルがあり、各テーブルを1名の職員が担当して合計3名の職員が食事介助に当たっていました。
Aさんの異変にD職員が気付いた時、他のテーブルの職員もすぐ駆け付けられる状況ではありました。(※以上、事故状況については見取り図・写真資料も併せて記録)
上記のように、事故の経緯を時系列で臨場感を持って記録します。
「〇〇したところ、〇〇になった」「〇〇をしたら、〇〇した」など因果関係が分かるように書くと、第三者(行政職員や監査担当者)が読んだ時に状況を把握しやすくなります。
文章だけで伝わりにくい場合は、図解や写真を活用しましょう。
例えば今回のAさんの場合、席を離れた職員の位置やAさんとの距離感を図示したり、実際に誤嚥対応を再現した写真を添付することで、より具体的に状況を伝えています。
⑤その他特記すべき事項
事故状況欄に入りきらなかった注意事項を記載します。
例として先述の「発生日時と発見日時が異なるケース」を挙げます。
発生から発見まで時間が空いた場合、そのタイムラグがなぜ生じたのかをここで説明しておきます。
長時間誰も気付かない状況だったなら、見守り体制の問題として後で問われる可能性があります。
逆にすぐ発見できたとしても、「発生から◯分以内に異変に気付いた」ことを書いておけば、迅速な対応を証明できます。
また本欄は備忘録としての役割もあります。
事故直後の聞き取りでは詳細に覚えていたことも、いざ半年後・一年後の監査時に聞かれると記憶が薄れていることもあります。
その際、報告書の特記事項に理由や背景まで記録が残っていれば正確に説明できます。
「後になって説明があやふや→何か隠しているのでは?」と疑われないよう、細かな点も油断せず記録しておきましょう。
6. 事故発生時の対応
次に事故発生時の対応(初期対応)欄です。
ここには、事故発生直後に事業所(職員)が取った行動を時系列で記載します。
記載すべき主なポイントは以下の通り。
発見者がその場で行った行動:
倒れていた利用者さんを抱き起こした、声かけして反応を確認した、ケガの手当てをした、バイタル測定をした 等。事故を認知してから最初に行った応急対応を具体的に書きます。
医療的対応の有無とその判断理由:
看護職による観察・処置、医師の診察依頼、救急搬送 等を実施したか否か、それを選択した(しなかった)理由。例えば「頭部打撲があり嘔吐したため救急搬送した」「様子に問題なかったので主治医への連絡は見送った」等、実施・不実施それぞれの判断根拠を書きます。
その他特記すべきこと:
上記以外で初動対応に関して付記すべき事項があれば記載します。判断に迷った点や応急対応に要した時間など、後から振り返る際に意味のある情報を補足します。
現場では適切に対処していても、記録が不十分だと第三者には対応の是非が判断できません。
例えば今回のAさんの誤嚥事故で、報告書に「喉にご飯を詰まらせ激しくむせていた」と書いてあるのに、発生時の対応が「経過観察」とだけ記されていたら、「なぜそんな状態で経過観察なのか?本当にそれで良かったのか?」と不審に思われてしまいます。
そこで、取った対応の内容だけでなく、その判断理由もセットで記録するようにします。
これは次に同じような事故が起きたとき、対応の指針ともなります。
「前回○○だったから今回は病院に連れて行こう」といった判断材料になるからです。
《Aさんのケース(初期対応の例)》
D職員はAさんの異変に気付くとすぐさま駆け寄り、「大丈夫ですか!」と声をかけながら背中を力加減に注意して複数回叩き、Aさんが喉に詰めた食べ物を吐き出すのを助けました。
吐き出しが止まった後、Aさんの口腔内を目視で確認し、口の中に固形物が残っていないことを確認しました。
呼吸が次第に落ち着いてきたのを確認しつつ、バイタル測定のため看護職員をすぐ呼びました(血中酸素濃度は一時SpO290%台に低下したが酸素投与せず回復)。
その後の対応として、喉や気管に微細な残留物が残っていたり肺炎を起こす可能性も考えられるため、念のため嘱託医の診察を受けることにしました。
Aさんは徐々に苦痛の表情も消えて受け答えできる状態でしたが、後から容体が急変するリスクも踏まえ、経過観察のみにせず医療受診する判断をしました。
なお、この時点でAさんの長女(キーパーソン)への電話連絡はまだついておらず、留守番電話にメッセージを残しています。
上記の例では、
- 背部叩打法による異物除去
- 口腔内確認
- 看護師によるバイタルチェック
- 医師受診の判断と実施を行ったこと
そして「なぜ受診が必要と判断したか」を記載しています。
結果的にAさんは入院には至らず経過観察となりましたが、「どうしてそのとき入院させなかったのか」についても、医師の所見を引用する形で報告書に書いておくと親切です。
例えば「医師の診察とレントゲン検査の結果、気道内に残留物はなく本人に自覚症状もないため入院不要との判断となり、経過観察となった」といった記載です。
こうしておけば、「本当に入院させなくて良かったのか?」という疑問に対するエビデンスとなります。
7. 事故発生後の利用者の状況と報告先への連絡状況
「事故発生後の状況」欄には、事故対応後の経過や関係者への報告状況を記載します。
まず利用者さんの状況についてですが、これは実際に確認した利用者さんの容体や発言内容を記録します。
事故直後だけでなく、その後病院受診した場合は診察結果や利用者の様子も追記します。
Aさんのケースでは、「吐き出した後もしばらくは苦しそうだったが徐々に落ち着いた。呼吸困難感や痛みがないか尋ねたところ『今は苦しくない』と本人は答えた」旨を記載しました。
受診後であれば「○月○日○時頃嘱託医が診察。胸部X線検査でも誤嚥の所見なく、経過観察となった。本人も特に訴えなし」といった内容を記載します。
次に家族等への報告についてです。
ご家族への連絡日時と概要、相手の反応などを記録します。
Aさんの場合、事故発生から約10分後の12時15分頃に長女へ電話をしましたが不在で留守電にメッセージを残しました。
その約30分後に折り返しの電話があり、「昼食中に誤嚥事故が発生したこと」「これから念のため病院で検査すること」を説明した、という流れを報告書に記載しています。
このように「○月○日○時頃、誰に、何を報告したか」を箇条書きで記録すると分かりやすいでしょう。
夜間で連絡がつかなかった場合は、「○月○日○時 家族に連絡試みるも不在。翌朝改めて報告予定」などとし、「本人・家族・関係先への追加対応予定」欄にその旨記載します。
またご家族以外にも、報告すべき関係機関(担当ケアマネ、利用者さんが他市町村の保険者なら当該市町村等)への連絡状況もここに書きます。
行政への報告提出についても「○月○日付で◯◯市◯◯課に事故報告書提出」と記載すれば、どの時点で行政に届けたかの証跡になります。
8. 事故の原因分析
事故報告書の後半では、事故の原因分析と再発防止策について記載します。
これらは第一報提出後、情報が揃ってから追記していく項目です。
厚労省様式では「原因分析(①本人要因・②職員要因・③環境要因)」と明記されており、以下の順序で検討することが求められます。
①本人要因の分析
まず利用者さん本人に起因する要因です。
Aさんの場合、事故に直結した直接の原因は「食べ物を一度にたくさん口に入れたこと」でした。
ではなぜ一度にたくさん口に入れてしまったのか? それは「Aさんには早食いの傾向があり、飲み込む前に次の一口を口に入れてしまう癖があった」と分析できます。
この癖自体は長年の食習慣に起因するもので、一朝一夕に直すのは難しいかもしれません。
しかし、「この利用者さんにはそうした傾向がある」という情報は重要です。
食事介助時に一口ごと声かけしてゆっくり食べてもらう工夫が必要だったことがわかります。
②職員要因の分析
次に職員側の要因です。
Aさんの誤嚥事故は「食事介助中に職員が利用者の隣を離れたこと」が直接の引き金となりました。
D職員が席を離れている間にAさんが大きな一口を入れてしまったわけです。
ではなぜ職員は隣を離れたのか?
それは「他の利用者さんが味噌汁をこぼしたため、布巾を取りに行った」ことが原因です。
さらに言えば、「布巾をその場に常備していなかった」ことが根本にあります。
本来テーブル上に予備の布巾があれば、D職員が席を離れずに対応できた可能性があります。
つまり職員として“その場を離れざるを得ない状況”を作ってしまっていたことが事故の背景要因といえます。
③環境要因の分析
最後に環境(体制)要因です。
Aさんの食卓では職員1名が3人の介助を担っていました。
他のテーブルも同様で、職員に人的余裕がない状況でした。
もし周囲にヘルプできる職員がいれば、D職員はAさんの隣を離れずに「布巾を取ってくる役」を他の職員に任せられたかもしれません。
しかし各テーブル1名ずつで精一杯という配置では、誰か1人が離席するとそのテーブルは無防備になる環境でした。
つまり「食事介助中の職員配置に余裕がなかった」ことも事故原因の1つと言えます。
このように人的配置を含めたシステム面の問題も分析に含めます。
9. 再発防止策の立案
原因分析が明確にできれば、再発防止策も自ずとはっきりしてきます。
検討の際まず考えるべきは、分析した原因が「取り除くことができる原因か、できない原因か」という点です。
前述のAさんの事故原因を分類すると、
取り除くことが難しい原因(完全には防げない要因):
利用者本人の食習慣(早食いの癖)、他の利用者さんが食事をこぼすこと等
取り除くことができる原因(工夫や改善で防げる要因):
職員が離席しなければならなかったこと(布巾の未設置)、食事介助時の職員配置の不足等
このように不変要因と可変要因を分け、「可変要因」を中心に対策を考えることが重要です。
Aさんの例でいえば、次のような対策ができます。
①本人要因への対策
早食いの癖そのものを直すのは難しい(取り除けない原因)ですが、「一口ごとゆっくり食べるよう声かけ・見守りを徹底する」ことで窒息リスクを下げられます適切な食事ペースを促す声かけを記録に明示し、職員間で共有します。
また場合によっては食事形態を見直し、一口量を減らせるとろみ食に変更するなど栄養ケアマネジメントの見地からも検討します。
②職員要因への対策
他の利用者さんがこぼした際に席を離れないよう、「テーブル上にあらかじめ布巾を置いておく」運用に変更します。
さらに食事介助中は極力利用者のそばを離れないという原則を職員に再周知します(離席が必要な場合は近くの職員に一声かけサポートを依頼する等のルール化)。
③環境要因への対策
「食事中に補助に入れる職員を増やす」ことが理想ですが、人員配置上すぐには難しい場合もあります。
その場合、例えば「テーブル配置を変えて、1人の職員でも全利用者の様子を見渡せるようにする」といった環境調整も有効かもしれません。
今回の例では、ホール全体を見回れる位置に職員が立つことで複数テーブルを兼務サポートできるレイアウトを検討しました。
また、可能であれば食事時間帯だけでも各ユニットに応援職員を配置することも考えます。
以上、報告書の各項目について記入のポイントを説明しました。
実際に職員が事故報告書を作成した後は、必ず管理者が目を通して添削・チェックすることも重要です。
管理者自身が事故現場を見ていない場合でも、報告書を読んで理解できなければ、行政や第三者が読んでも理解できない可能性が高いです。
不明点があれば職員に「これはどういうこと?」「その後どうなった?」と確認し、追記修正させましょう。
そうすることで報告書の完成度が高まり、結果的に職員の振り返りと学びにもつながります。
再発防止と職員の学びへ
事故報告書の提出はゴールではなく、その後が肝心です。
行政へ報告したら終わりではなく、起きてしまった事故を教訓として事業所全体で再発防止に取り組む必要があります。
介護事故は頻繁に起こるものではないからこそ、一度発生した事故の事例は貴重な教材となります。
特に同種の事故が繰り返し起きる場合、それは事業所の責任です。
1度目は予測困難でも、2度目以降は予見・防止できたはずだからです。
提出した事故報告書はそのまま社内研修のケーススタディに活用しましょう。
事故対応に当たった職員だけでなく、事業所の全職員で情報共有し議論することが重要です。
具体的には、報告書を回覧・展開した上で、以下のような点をみんなで検討します。
事故原因の再検証:
例えば今回の誤嚥事故について、「Aさんの嚥下能力が最近低下していたのではないか?食事形態や介助方法は適切だったか?」、あるいは「提供すべき食事形態と異なるものを誤って提供していなかったか?」など、ケア内容に原因はなかったかも含め多角的に議論します。分析が不十分だと、また同じ利用者さんや他の利用者さんに事故が起こりかねません。
立てた再発防止策の妥当性:
「今回たまたま近くに職員がいて対処できたが、もし誰もすぐ気付かなかったらどうなっていたか?」「今回はすぐ吐き出せたが、吐き出せなかった場合、次の手段(吸引や背部叩打の継続など)を全職員で共有できていただろうか?」といった“別のケースを想定”した議論も行います。実際のケースとは異なるシナリオを考えることで、より対応のイメージを広げる狙いです。例えば気道完全閉塞で意識を失った場合の対応手順を再確認したり、誤嚥発見が遅れた場合に備えた見守り方法を検討したり、といった具合です。
このような研修を通じて、職員全員が事故報告書の意義や作成のポイントを学んでおけば、いざ事故が発生した場合も落ち着いて対応・報告書作成ができるようになります。
事故発生直後はただでさえ動揺しやすく、報告書を書くのも初めてだと戸惑うものです。
しかし事前に研修で模擬体験しておけば、職員同士助言し合いながら適切に報告書をまとめることができます。
おわりに
いかがだったでしょうか。
行政報告は「罰のため」ではなく、利用者さんの安全を守り、事業所の信頼を高めるための大切なプロセスです。
誤嚥事故が起きた時は、①⇒⑥の順で対応しましょう。
- 救命
- 家族・関係者連絡
- 報告要否の判断
- 第一報
- 原因分析
- 最終報告
迷う時は一人で抱えず、所管窓口へ早めに相談を。
提出後は報告書を研修で共有し、具体的な再発防止策を現場に落とし込むことが大切です。
学びを積み重ね、「事故に強い」職場づくりを進めていきましょう。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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