筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
日々の業務に追われる中で、無意識のうちに「うっかり行為」や「気づきにくい不適切ケア」が行われてしまうことがあります。
これらの行為は、意図的な虐待ではなくとも、高齢者の尊厳や権利を侵害し、結果的に虐待と見なされる可能性があります。
例えば、利用者さんができることを職員が代行してしまうことや、無意識のうちに命令口調で接してしまうことなどが挙げられます。
このような「当たり前のケア」を見直すことは、高齢者虐待を未然に防ぐ第一歩です。
本記事では、具体的な事例を通じて、不適切ケアと虐待の境界線を明確にし、日々のケアを振り返る重要性について考察します。
この記事を読む価値
- ベテラン職員から新人職員まで学べる内容です。
- 読み進めるだけで研修にできます。
- 極力、難しい表現は避けてあります。
早速、見ていきましょう。
よくある“うっかり”事例から学ぶ不適切ケア
「うっかり行為」や「気づきにくい不適切ケア」は、介護現場で日常的に起こりうるものでありながら、放っておくと高齢者の尊厳を損なう深刻な問題へとつながってしまいます。
たとえば、食事介助の場面では、自力で食事をとれる方に対し、時間短縮のためにすべて介助してしまうと、本人の能力を奪うことになりかねません。
これは不快感を生むだけでなく、認知症の進行を促す要因にもなります。
高齢者の状態をよく観察し、できる部分は本人に任せる「利用者本位」のケアが求められます。
また、介助中に「早くして」と急かす声かけも問題です。
特に認知症の方には、強い口調が混乱や不安を引き起こし、心理的虐待とみなされることもあります。
落ち着いたトーンで、分かりやすく話す姿勢が大切です。
排泄の訴えを無視したり、対応を遅らせたりする行為も、不適切なケアに当たります。
これはネグレクトと見なされる可能性もあり、身体的・精神的負担を大きくします。
高齢者の訴えには耳を傾け、速やかな対応を心がけるべきです。
さらに、認知症の方に対して叱責するような言動や、子ども扱いするような態度も、本人にとって大きな心理的ストレスとなり、不適切なケアに該当します。
行動の背景に目を向け、共感的に接することが求められます。
また、一斉介護によって利用者さんの起床や就寝を介護者の都合で強制する行為も問題です。
個々の生活リズムを尊重し、可能な範囲で本人の希望に合わせたケアを行うことが、尊厳ある支援につながります。
これらの行為は、悪意がなくとも、結果的に高齢者の権利を侵害する恐れがあります。
だからこそ、日常の中で「当たり前」と思っていたケアを今一度見直すことが大切です。
スタッフ一人ひとりが自分の関わり方を振り返り、職場全体で情報共有をしながら、より良いケアを目指していくことが、高齢者虐待の未然防止につながります。
グレーゾーンってどこまで?“虐待”との境界線を知る
高齢者虐待防止において、「不適切なケア」と「虐待」の境界線はしばしば曖昧で、介護現場では判断に迷うケースが多々あります。
ここでは、法的な定義と具体的な事例を通じて、グレーゾーンの理解を深めることを目的とします。
法的な高齢者虐待の定義
「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(高齢者虐待防止法)では、高齢者虐待を以下の5つに分類しています。
①身体的虐待:暴力や身体拘束など、身体に外傷が生じる、またはその恐れがある行為。
②心理的虐待:暴言や無視、威圧的な態度など、精神的苦痛を与える行為。
③介護・世話の放棄・放任(ネグレクト):食事や入浴などの世話を怠り、身体・精神状態を悪化させる行為。
④性的虐待:わいせつな行為や、服を着せずに裸にさせるなどの行為。
⑤経済的虐待:通帳や現金を取り上げたり、本人の財産を不正に使用する行為。
これらは、養護者(家族や親族)および養介護施設従事者等(介護職員)による行為が対象となります。
不適切ケアと虐待の違い
「不適切なケア」とは、明確に虐待とまでは言えないものの、利用者さんやそのご家族が不快感や悲しみを感じるケアを指します。
例えば先ほどお伝えした以外にも、次のような事例は「不適切なケア」に該当します。
食事介助の際の強制:なかなか食事を食べようとしない利用者さんに無理やり食事介助することは、身体的虐待にあたる可能性があります。
声かけをせずに介助を行う:利用者さんの意思を尊重せず、流れ作業のように介助することは、不適切なケアです。
センサーマットや鈴の使用による行動制限:利用者さんの行動の自由を制限し、尊厳を損なう可能性があります。
コールボタンの移動や身体的な対応:コールボタンを手の届かない場所に移動させ、手の甲を叩くことは、身体的虐待と介護放棄にあたる可能性があります。
排泄後の放置:「汚いね~。まだ時間じゃないから交換しないよ。」とそのまま放置することは、介護放棄(ネグレクト)にあたります。
これらは、意図的な虐待ではない場合もありますが、放置されることで虐待にエスカレートする可能性があります。
もっと具体的に「どのようなことが不適切なケアになるか」を知りたい方は、コチラの記事をご参照ください。
https://kaigoshi-tomoblog.com/prevention-of-improper-care/
“うっかり”を放置しない介護現場へ
介護の現場では、「うっかり」や「つい」が不適切なケアにつながり、結果として高齢者虐待と見なされることがあります。
その背景には、慢性的な人手不足や過重な業務、認知症に対する理解の不足といった、構造的な課題が深く関わっています。
誰かが悪意を持って行っているとは限らず、むしろ「悪気はなかった」「急いでいたから」というような場面が多いのです。
現場では、忙しさのあまりご本人の意向を確認せずに介助してしまう、少し声を荒げてしまう、あるいは「動かないで」「トイレはあとで」といった対応が行われることがあります。
しかし、これらはすべて、利用者さんの尊厳や安心感を損なう行動であり、積み重なると虐待の温床となります。
とくに認知症の方の場合、言動に一貫性がなかったり、突発的な行動を取ることがあるため、職員側が「困った人」と捉えてしまいがちです。
しかし、その行動には背景があり、理解しようとする姿勢がなければ、ケアは一方的で不適切なものになってしまいます。
たとえば、「何してるの!」「勝手に動かないで!」と強い口調で声をかけてしまうこともあるかもしれません。
けれども、それは高齢者にとって恐怖や不安を与える対応です。
さらに、本人ができることまで職員が先にやってしまうと、自立の機会を奪い、認知機能や意欲の低下を招くこともあります。
これは介助という名の「能力の剥奪」になりかねません。
また、「転ぶと危ないから」「動くと大変だから」といった理由で身体拘束を行うこともありますが、これは「緊急やむを得ない場合」以外は原則として虐待にあたります。
職員の都合や効率を優先したケアではなく、高齢者本人の立場に立ち、「もし自分や家族が同じような対応を受けたらどう感じるか?」と考えてみることが大切です。
こうしたリスクを減らすためには、日々のケアの中で「今の対応はよかったか?」「他に方法はなかったか?」と振り返ること、そしてチーム内で共有する文化をつくることが重要です。
「これは不適切かも」と思ったら、ためらわず声に出し合える風通しの良い環境づくりが、不適切なケアの芽を早期に摘むことにつながります。
また、虐待の可能性に気づいたときは、専門機関や上司に相談することも忘れずに。
大切なのは、完璧な対応を目指すことではなく、「気づいたことを共有し、よりよいケアを目指す姿勢」です。
現場で働くすべての人が、利用者さんの尊厳を守る意識を持ち続けることが、安心して暮らせる介護を支える土台となります。
「虐待」や「不適切なケア」防ぐためにできること
高齢者虐待を防止するためには、現場レベルでの具体的な取り組みが不可欠です。
以下に、効果的な改善策を紹介します。
チーム内での事例共有・振り返りミーティング
定期的な事例共有や振り返りミーティングは、職員間での共通認識を深め、不適切なケアの早期発見と改善に繋がります。
これにより、職員各々の認識のずれを明らかにし、組織全体としての対応力を高めることができます。
「チェックリスト」の活用
自己点検を促す「チェックリスト」は、職員が自らのケアを客観的に見直すための有効なツールです。
これにより、無意識のうちに行っている不適切なケアに気づき、早期に対応することが可能となります。
【チェックリスト:例】
- あだ名や〇〇ちゃん呼び、呼び捨てにする
- 声がけをせず、いきなり車椅子をおす
- 「~したらダメ!」などと命令口調で行動を抑制する
- 利用者さんの許可無く、私物を触ったりする
- 衣服の着脱に「時間がかかりすぎる」という理由だけで、全介助を行う
- 利用者さんやご家族の言動をあざ笑ったり、悪口を言ったりする
- 「トイレに行きたい」と頻繁に言う利用者さんに「今言ったところだよ!」と言って対応しない
- 利用者さんの呼びかけに対して「ちょっと待って」と長時間放置する
- 子ども扱いしたりする
- 食事や入浴介助の無理強いなど、利用者さんに嫌悪感を抱かせるような援助をする
接遇研修・声かけ研修の導入
利用者さんとの良好なコミュニケーションを築くために、接遇研修や声かけ研修の導入が重要です。
これらの研修を通じて、職員は適切な言葉遣いや態度を学び、利用者さんの尊厳を尊重した対応ができるようになります。
接遇や基本的なコミュニケーションスキルの研修を実施する場合は、こちらの記事をぜひ参考にしてみてください。
https://kaigoshi-tomoblog.com/home-visit-nursing-care-hospitality-training/
職員間の声かけでの予防
職員間での自由な意見交換ができる職場環境を整えることも、虐待防止に効果的です。
例えば「それ、ちょっと気になるよ」といった感じで、上司や同僚が積極的に声をかけ合い、疑問や不安を共有することで、問題の早期発見と解決が期待できます。
これらの取り組みを実践することで、高齢者虐待の発生を未然に防ぎ、利用者さんが安心して生活できる環境づくりに繋がります。
今日からできる「ケアの見直し」
職員一人一人が今日からできる、具体的な取り組みを紹介します。
一人ひとりの意識改革
まずは、職員一人ひとりが自身のケアを常に意識し、「もしかしたら不適切かも?」という視点を持つことが重要です。
「チェックリスト」を活用し、自身のケアを客観的に見つめ直すことは、不適切なケアを未然に防ぐための有効な手段です。
誰かが違和感を感じているケアは、不適切なケアの可能性があります。
もし指摘されたら反論せず、「そうかもしれない…」と素直に受け入れる姿勢も重要です。
利用者さんの尊厳を守るケアの実践
今一度、利用者本位の視点を常に持ち、業務中心の考え方にならないよう意識してみましょう。
流れ作業のようなケアは、不適切な声かけや対応につながる危険性があります。
接遇研修や声かけ研修に参加し、日頃からの言葉遣いや態度、気づきや配慮など、接遇に関する視点を学び、普段の業務内で意識していくことが重要です。
認知症の方に対しては、特に丁寧な声かけや共感的なコミュニケーションが重要であり、声かけ研修は、一方的な言動ではなく、利用者さんの気持ちに寄り添った対応を学ぶ機会となります。
風通しの良い職場づくりと心理的安全性
職員間の意見が通りやすい、風通しの良い職場づくりを目指すことが大切です。
上司や先輩が積極的に声をかけ、職員の悩みを聞くことも、ストレス軽減につながり、感情的な虐待を防ぐ上で重要です。
管理者は、職員の様子や仕事ぶりに関心を持つことが求められます。
ミスをした際に責めるのではなく、学びの機会と捉え、チーム全体で支援する体制が、安心して声を出せる雰囲気につながります。
おわりに
いかがだったでしょうか。
虐待や不適切なケアを防ぐためには、職員一人ひとりが日々のケアを振り返り、「これで本当に良いのだろうか?」と自問自答する姿勢が求められます。
「うっかり行為」や「気づきにくい不適切ケア」は、誰にでも起こり得るものであり、特別なことではありません。
だからこそ、チェックリストの活用やチーム内での事例共有、接遇研修の導入など、現場レベルでの具体的な取り組みが重要です。
また、職員間で自由に意見を交換できる風通しの良い職場環境を整えることも、虐待防止に効果的です。
利用者さんの尊厳を守るケアをチーム全体で目指すことで、高齢者が安心して生活できる環境づくりにつながります。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
「他の【高齢者虐待防止に資する研修】の資料が見たい!」という方は、コチラの記事を参考にしてください。
お知らせ①【介護事業所の必須研修資料一覧(2025年度版)】
介護サービスごとにわかりやすく、情報公表調査で確認される研修と、義務づけられた研修を分けて記載しています。
また、それに応じた研修資料もあげています。研修資料を探している方は、ぜひ参考にしてください。
お知らせ②【介護職の方へ!老後とお金の不安を解消する方法!】
介護職の仕事をしていると、低賃金や物価の高騰、そして将来に対する漠然とした不安がついて回ります。
特に独身の方は老後の生活費や年金に対する不安が大きいのではないでしょうか?
下記のブログは、そんな不安を解消するために実践すべき7つの方法です。
- 【節約】 これだけでOK!サクッとできる節約テク二ック
- 【資産運用】 低収入でも大丈夫?iDeCo & NISAの超カンタン活用術!
- 【転職】 未経験OK・高待遇!失敗しない介護職の転職術
- 【婚活】 忙しくて出会いがない…独身介護職のための婚活戦略!
- 【お金の勉強】 将来が不安?介護職のためのかしこい資産運用セミナー!
- 【ポイ活】 介護職におすすめ。スマホで簡単【ワラウ】でポイ活デビュー♪
- 【副業】 介護職の副業は、これこれ1択!
少しの工夫と努力で、将来の不安を減らし、安心した未来を作るための第一歩を踏み出してみましょう! 詳しくはこちらの記事をご覧ください。