- すぐに使える研修資料・マニュアル・事例などがほしい
- 資料作成を急いでいる、でもちゃんと伝わる内容にしたい
- 現場の職員が興味持ってくれるテーマって何?
- 去年と同じ内容じゃまずいよな…
- 研修担当じゃないけど、あの人に教えてあげたいな
筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
誤嚥(ごえん)とは、飲食物や唾液などが本来通るべき食道ではなく誤って気道に入ってしまうことを指し、介護の現場でよく遭遇する事故の一つです。
消費者庁の調査によれば、2021年度における65歳以上高齢者の不慮の事故による死亡原因の第2位が「不慮の窒息(誤嚥等)」で、その死亡者数は7,246人にも上ります。
誤嚥による窒息や誤嚥性肺炎は命に関わる重大リスクであり、認知症高齢者や嚥下機能低下のある利用者さんを含め、すべての介護職員が正しい知識を持って予防に取り組む必要があります。
本記事は、誤嚥事故の原因をあらゆる側面から網羅し、具体的な予防策や現場での工夫を丁寧に解説します。
この記事を読むメリット
- 原因が一目でわかる
- すぐ実践できる予防策がそろっている
- 研修・新人教育にそのまま使える
それでは早速、みていきましょう。
誤嚥事故が起こる原因
まず、誤嚥事故がなぜ起こるのか、その主な原因を整理します。
原因は大きく分けて、次の三つの観点から考えることができます。
- 利用者本人の身体・健康状態に関わるもの
- 飲食物の性状に関わるもの
- 環境や介助方法に関わるもの
それぞれ具体的な例を挙げながら見ていきましょう。
① 利用者の身体・健康状態による原因
加齢や病気の影響で嚥下反射や咳き込みの力が低下し、誤嚥が起こりやすくなります。
主な要因は以下のとおりです。
嚥下機能の低下:
脳梗塞、パーキンソン病、糖尿病性神経障害などによる機能低下
認知機能の低下:
失認・失行・異食・注意力の低下による誤嚥
口腔機能の衰え:
義歯不適合・乾燥・感覚鈍化による食塊形成不良
体調不良:
発熱・疲労・眠気・筋力低下
嚥下障害のサイン:
食事中のむせ・口残り・湿性嗄声・痰増加など
② 食事内容・飲食物に起因する原因
食事そのものが誤嚥リスクとなることがあります。
詰まりやすい食品:
餅・白玉・海苔・硬い肉塊・こんにゃく・パサつくパンや芋類
刺激の強い食品:
酸味の強い酢の物や柑橘類、炭酸・香辛料など
飲み込みにくい液体:
サラサラした水やお茶、薄い味噌汁
温度・硬さの不適合:
熱すぎ・冷たすぎるもの、大きすぎ・硬すぎる食材
口腔残留物:
頬や舌に残った食べかすの後誤嚥、不顕性誤嚥
唾液・逆流物の誤嚥:
就寝中や嘔吐時の誤嚥にも注意
③ 環境・介助方法に起因する原因
環境や介助の仕方も大きな影響を与えます。
不適切な姿勢:
顎が上がった姿勢や背中が曲がった状態での食事
介助ミス:
急がせる、飲み込み確認不足、スピードや一口量の調整不足
水分補給不足:
パサつく食品に対して水分を勧めない
中断・見守り不足:
口に食べ物を残したまま移動するなど
家族・他利用者の影響:
差し入れの誤配慮、他者の食事を誤って食べる
情報共有不足:
リスク情報・対応手順がスタッフ間で共有されていない
このように、誤嚥の背景には 身体機能の衰え・食べ物の性状・環境と介助の問題 が複雑に関係しています。
予防のためには、利用者さん一人ひとりの嚥下機能を把握すること。
その上で、食事形態や姿勢、介助法を調整し、チームで情報共有・記録を徹底することが重要です。
誤嚥事故を防ぐための予防策・工夫
誤嚥事故は「起こってから対処する」のではなく「起こさないこと」が何より重要です。
ここでは、先に挙げた原因ごとに、有効な予防策や現場で実践できる工夫のポイントを整理します。
すべての職員が日頃から注意を払い、チームで継続して取り組むことで、利用者さんの安全な食事を守りましょう。
食事内容・調理法の工夫
誤嚥予防には、利用者さんの嚥下機能に合わせた 食事内容と調理法の工夫 が欠かせません。
特に「食材の選び方」「固さや大きさの調整」「とろみと温度管理」の3つが大きなポイントです。
①安全な食品選び
誤嚥リスクの高い食材は避け、柔らかく喉越しの良い食材を使います。
誤嚥しやすい食品 | 誤嚥しにくい調理例 |
---|---|
餅・団子・海苔 | 茶碗蒸し・ゼリー・ムース |
硬い肉・こんにゃく | ハンバーグ・魚のつみれ |
クッキー・パン | お粥・シチュー・あんかけ |
サラサラ飲み物 | とろみ茶・ポタージュ |
②適切な固さ・大きさへの調整
やわらか料理がよい方には「歯ぐきで潰せる柔らかさ」を目安に調理します。一口で飲み込める大きさにカットすると咀嚼しやすくなります。刻みすぎは逆効果になることもあるため注意が必要です。
③とろみと温度の工夫
サラサラした飲み物は誤嚥しやすいため、とろみ剤を使い粘度を調整します。
- スプーンですくってゆっくり落ちる程度が目安
- 熱すぎる・冷たすぎる料理は避け、人肌程度の温度に
正しい食事姿勢・環境づくり
- 基本の姿勢の確保
- 落ち着いて食事を迎える環境
- 一口量とペースの調整
- 疲労時・食後の対応
この4つを丁寧に行うことです。
それぞれ具体的にお伝えします。
①基本の姿勢確保
誤嚥を防ぐ第一歩は、正しい姿勢での食事です。ベッド上では背もたれを30〜45度以上起こし、可能であれば椅子や車椅子に移乗して座るようにします。背筋を伸ばし、顎を軽く引いた姿勢が理想です。足底を床につけ、テーブルの高さは肘が直角になる位置に調整します。クッションで体幹を支え、滑り止めを使うと安定感が増し、安全な姿勢を保つことができます。
②落ち着いて食事に迎える環境
テレビの音や人の出入りなど、注意をそらす要因を減らし、静かで落ち着いた環境を整えます。室温も快適に保ち、認知症の方にはテーブル上を整理し必要なものだけを置くようにします。毎日決まった時間に食事を行う習慣をつけることで、体が自然と食事の準備状態になり、誤嚥リスクを減らせます。
③一口量とペースの調整
一口の量を少なめにし、飲み込んだのを確認してから次の一口をすすめます。お茶や汁物とおかずを同時に口に入れず、必ず飲み込んでから次を摂るよう習慣づけます。複数の品を一度に口に入れる“口内調味”は誤嚥リスクが高まるため避けることが大切です。
④疲労時・食後の対応
疲れが見えた場合は休憩をはさみ、無理をさせないことが重要です。食後すぐに横になると逆流や誤嚥を起こしやすくなるため、30分は座位を保ちましょう。その間に口腔ケアやうがいを行い、口の中の食べかすを除去します。歯磨きは30分ほど時間をおいてから優しく行うと、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。
介助方法と見守りの工夫
食事介助と見守りには、次の4つのポイントが欠かせません。
- 適切な食事介助
- 確実な見守り
- 利用者同士の誤食防止
- 家族への説明と協力
それぞれ具体的にお伝えします。
①適切な食事介助
介助者は、利用者さんの嚥下のタイミングをしっかり観察しながら介助します。飲み込んでいないのに次の一口を入れることは絶対に避けなければなりません。スプーン一杯ごとに「飲み込みましたか?」と声をかけたり、頷きや喉の動きを見て確認してから次を提供します。早食いの方には小出しで料理を提供する、職員があらかじめ一口大にカットするなどしてペースを調整します。
②確実な見守り
食事中に利用者さんから目を離さないことが基本です。特に嚥下障害のある方や認知症で異食の恐れがある方には、マンツーマンで見守る姿勢が必要です。口に物が残ったまま立ち上がろうとした場合はすぐに制止し、飲み込んでから移動するよう声かけします。また、むせ込みが起きたときは本人だけでなく周囲の利用者さんにも注意を払い、二次的な事故を防ぎます。
③利用者同士の誤食防止
複数人での食事では、誤って他の人の料理を食べてしまう事故を防ぐ工夫も必要です。席の配置を工夫し、誤食しやすい方の隣に職員が座る、食形態の違う利用者を隣にしない、配膳のタイミングをずらすといった対応が有効です。食事中はホール全体を巡視し、他者の料理を取っていないか見守ることも大切です。
④家族への説明と協力
ご家族にも誤嚥リスクを理解してもらうことが重要です。差し入れを希望された際には、食品の安全性を職員が確認します。危険な食材(餅・せんべい・硬い肉など)は避けてもらい、必要に応じて刻み食やソフト食をお願いするなど、具体的に説明します。ご家族には悪意がないため、こちらから積極的に情報を共有し、協力を得る姿勢が事故防止につながります。
施設としての取り組み
誤嚥事故を防ぐためには、現場での介助技術だけでなく、施設全体としての「体制づくり」がとても重要です。
特に食事介助の時間帯は、事故のリスクが高まるため、十分な人員配置と情報共有、そして緊急時対応の整備が欠かせません。
ここでは施設としてできる取り組みを、4つに分けて解説します。
- 食事介助時の体制強化
- ハイリスク利用者の把握
- 緊急時対応の周知と訓練
- 職員教育の徹底
それぞれ具体的にお伝えします。
①食事介助時の体制強化
食事中の見守りには、十分な職員数の確保が基本です。人手不足でワンオペになると、誤嚥リスクの高い利用者さんを十分に観察できず事故の危険が増します。リスクが高いフロアでは増員し、難しい場合は二部制にするなどの工夫が必要です。新人や実習生が介助に入るときは、必ずベテラン職員がフォローし、安全な介助が行えているか確認します。
②ハイリスク利用者の把握
各フロアで「誤嚥リスクが高い利用者」を明確にし、重点的に見守る体制を整えます。
といった方をリストアップし、担当職員を決めて優先的に観察します。義歯の状態もチェックし、装着不良による誤嚥を防ぎます。過去の窒息やヒヤリ事例はカンファレンスで共有し、再発防止策を徹底します。
③緊急時対応の周知と訓練
万一の窒息時には、すぐ対応できるよう応急マニュアルを整備し、全職員に周知します。
といった流れをポスターで掲示し、定期的な訓練を行います。吸引器や酸素マスクなど救急物品はすぐに使える状態で備え、使用方法の習熟も進めます。緊急対応の備えがあることで、職員の安心感と冷静な介助につながります。
④職員教育の徹底
誤嚥事故防止には、職員全員の知識と意識の底上げが欠かせません。新人研修や定期研修で嚥下の仕組みや危険性、適切な介助方法を学び、実例をもとにしたケース検討で意識を高めます。ヒヤリハットの共有を通じて、重大事故を未然に防ぐ感度を養うことも大切です。また、看護師・ST・管理栄養士など多職種と連携し、医学的助言をケアに反映させ、安全で質の高い食支援を実現します。
利用者さんの嚥下機能向上のためのケアと訓練
誤嚥を防ぐには、介助者側の対応だけでなく、利用者さん自身の嚥下機能を維持・向上させることもとても大切です。
次の4つのケアと訓練を、日常の中に無理なく取り入れましょう。
- 嚥下体操の実践
- 発声練習
- 口腔ケアの徹底
- 専門職への相談・リハビリ
それぞれ具体的にお伝えします。
①嚥下体操の実践
嚥下機能を鍛える体操は、デイサービスなどでも広く取り入れられています。首の前後運動は喉周りの筋肉を柔らかくし、「お茶を飲んだときにむせにくくなった」という利用者さんの声もあります。肩をすくめて下ろす運動は、肩こりを和らげ喉の動きを改善します。椅子に座ったまま5〜10分程度でできる簡単な体操なので、食前の習慣にすると効果的です。
②発声練習
口や舌の筋肉を鍛える発声練習も有効です。代表的なのが「パ・タ・カ・ラ体操」。
を動かす訓練になります。ゆっくり大きく発音するのがコツで、1日数回続けることで嚥下機能の維持・強化が期待できます。
③口腔ケアの徹底
誤嚥性肺炎の大きな原因は、口腔内の細菌が唾液とともに気道に入ってしまうことです。食後・起床時・就寝前の歯磨きや義歯清掃を徹底し、細菌の繁殖を防ぎます。歯磨きは食後30分ほど経ってから行い、歯茎や舌苔も清掃します。うがいが難しい方はスポンジブラシなどで拭き取り、必要に応じて歯科衛生士や看護職と連携して専門的なケアを受けましょう。
④専門職への相談・リハビリ
嚥下機能の低下が疑われる場合は、早期に専門医や言語聴覚士(ST)に相談します。VEやVFによる評価を受け、安全な食形態やリハビリ方法の助言をもらうことが有効です。舌や嚥下反射の訓練を日常に取り入れることで機能維持を図れます。また、栄養士と連携してとろみ食や誤嚥しにくいメニューを提供し、チームで利用者さんの安全な食生活を支えます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
誤嚥事故の原因と予防策は、利用者さんの状態・食べ物・環境など多方面からの理解が欠かせません。
誤嚥は命に関わる重大事故ですが、職員一人ひとりが原因を正しく把握し、対策を徹底すれば多くは防げます。
ただし、安全ばかりを重視しすぎて食事の楽しみを奪ってはいけません。
誤嚥予防と同時に、利用者さんにとって「おいしく・楽しい食事」を守る工夫が大切です。
日々の小さな工夫とチームの連携が、事故防止と笑顔につながることを意識しましょう。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
「他にも【事故発生または再発防止に関する研修】の資料となる記事をみてみたい!」という方は、コチラの記事もご覧下さい。介護施設の「事故発生または再発防止に関する研修」【研修資料一覧】
【介護事業所の必須研修資料一覧(2025年度版)】
お知らせ①介護サービスごとにわかりやすく、情報公表調査で確認される研修と、義務づけられた研修を分けて記載しています。
また、それに応じた研修資料もあげています。研修資料を探している方は、ぜひ参考にしてください。
【介護職の方へ!老後とお金の不安を解消する方法!】
お知らせ②介護職の仕事をしていると、低賃金や物価の高騰、そして将来に対する漠然とした不安がついて回ります。
特に独身の方は老後の生活費や年金に対する不安が大きいのではないでしょうか?
下記のブログは、そんな不安を解消するために実践すべき7つの方法です。
少しの工夫と努力で、将来の不安を減らし、安心した未来を作るための第一歩を踏み出してみましょう! 詳しくはこちらの記事をご覧ください。