近年の法改正により、介護施設では感染症や災害発生時に備えたBCP策定が義務化されました。
本記事では感染症BCPの目的や必要性、作成方法、実際のクラスター発生シミュレーション、職員の役割分担、家族対応、研修・訓練方法、そして既存の感染症マニュアルとの連携方法までを網羅します。
現場の視点に立ち、平易な言葉とわかりやすい構成でまとめましたので、研修教材としてもご活用ください。
感染症BCPとは何か ~目的と背景~
感染症BCPとは「感染症発生時に事業を継続するための計画」のことです。
もともとBCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)は災害や緊急事態で損害を最小限に抑え、重要業務を止めない・早期復旧するために平時から策定しておく企業計画を指します。
介護業界でも2021年度の介護報酬改定でBCP策定が義務化され、感染症や自然災害など緊急事態下でも利用者さんの安全を守りながらサービスを続けるための準備が求められるようになりました。
BCPは、新型コロナウイルスやインフルエンザ等の感染症アウトブレイクを想定した計画です。
令和7年(2025年)4月以降、介護施設で感染症BCPおよび災害BCPを策定していない場合は基本報酬が減算される規定も設けられています(感染症・災害どちらか一方のみ未策定でも減算対象)。
また、BCP策定後は職員への周知・研修・訓練の実施も義務付けられています(現時点では未実施でも減算対象ではありませんが、将来的に減算となる可能性があります)。
こうした背景から、感染症BCPは介護現場において必ず整備すべき重要な計画となっています。
感染症BCPは単なる感染予防の手順書ではなく、「事業を止めないための体制づくり」に重点があります。
従来の感染対策マニュアルが手指消毒やガウンテクニック、利用者ケア方法など感染拡大防止策に重きを置くのに対し、感染症BCPでは職員体制の維持・確保や業務優先順位の整理、連絡体制や情報発信、労務管理といった事業継続のための事項を詳しく定めます。
言い換えれば、感染症マニュアルは「感染から人を守ること」が目的で、感染症BCPは「人を守りつつ事業を続けること」が目的です。
両者は目的も内容も異なりますが、互いに補完し合うものとして後述するように併用が重要になります。
感染症対策マニュアルをお探しの方は、コチラの記事をご参照ください。
感染症BCPが必要な理由
介護現場で感染症BCPが必要とされる理由は、大きく3点あります。
- 職員不足のリスク
- 運営停止のリスク
- 利用者支援の継続性・安全確保
それぞれ、具体的にみていきましょう。
①職員不足のリスク
高齢者施設等で感染症クラスターが発生すると、複数の職員が感染・濃厚接触で出勤停止となり、大幅な人手不足に陥る可能性があります。
実際、新型コロナウイルス流行下では多くの施設で職員欠勤が相次ぎ、サービス提供の継続が困難になる事態が発生しました。
BCPではこうした職員不足時にどう対応しサービスを維持するかをあらかじめ計画しておく必要があります。
②運営停止のリスク
介護施設・事業所は高齢者や要介護者の日常生活を支える「生活の場」「頼みの綱」です。
災害時と同様に、感染症流行時であってもサービスを直ちに全面停止することはできず、最低限のサービス提供継続が求められます。
万一事業の一時縮小や事業所閉鎖が避けられない場合でも、利用者さんへの影響を極力抑える代替手段を講じることが重要です。
BCPは「どのサービスを優先し、何を維持するか」の方針を示すことで、突発事態でも迅速な判断と対応を可能にします。
③利用者支援の継続性・安全確保
介護サービスを利用する方は、免疫力が低下した高齢者や持病のある方が中心で、感染症にかかると重症化リスクが高い層です。
施設内で集団感染が起これば深刻な人的被害につながりかねません。
そのため利用者さんの命と健康を守る観点から、感染予防策を事前に定めて確実に実行することが求められます。
BCPには発生時の感染拡大防止策や利用者避難・療養方法も織り込み、利用者さんの安全確保とケア継続を両立させる計画とします。
また事業継続は職員の安全・健康確保とも表裏一体です。
感染拡大下での業務継続は職員自身の感染リスクや長時間勤務など精神的・身体的負担も伴うため、職員を守る措置を講じることも事業者の責務です。
以上のように、感染症BCPは「利用者さんの生活と命を守り抜く」ため、そして「必要なサービス提供を止めない」ための備えと言えます。
BCPを策定し周到に準備しておくことで、たとえクラスター発生など突発事態に直面しても慌てず対応でき、サービス中断期間を最小限に抑えることができます。
感染症流行は今後も起こり得るため、「備えあれば憂いなし」の精神でしっかり準備を整えておきましょう。
感染症BCPの基本構成 ~押さえるべき4つの柱~
感染症BCPには、現場で実際に役立つ具体的な計画項目を盛り込む必要があります。
基本的な構成要素として「初動対応」「職員体制」「関係機関との連携」「事業継続の工夫」の4つを押さえておきましょう。
それぞれの概要は以下のとおりです。
①初動対応
感染疑い者や陽性者が発生した直後に取るべき対応手順です。
例えば「発熱や体調不良者を発見した際は直ちに管理者へ報告し、感染防止策を講じる」「施設内で隔離可能な部屋に誘導し、必要に応じて他利用者さんとの接触を避ける」「速やかに保健所や行政担当部署へ報告・相談する」「関係職員を招集し臨時ミーティングで対応策を共有する」など、発生後数時間~初日以内に行うべき措置を定めます。
初動対応を明確に決めておくことで、いざという時に現場が混乱せず落ち着いた対応が可能になります。
②職員体制
平時から決めておく役割分担や指揮命令系統、職員配置計画です。
誰が初動対応の指揮を執るのか、誰が家族連絡を担当するか、感染者対応班や代替要員はどう確保するか等を決めておきます。
また職員の欠員に備えた人員確保策も重要です。
たとえ職員の一部が休んでもサービスを継続できるよう、内部での多能工化・応援体制や、外部から応援職員を確保する手立て(他事業所や派遣会社、行政への応援要請など)を検討しておきます。
特に基礎疾患のある職員や妊娠中の職員は感染時重症化リスクが高いため、配置に配慮する計画も含めましょう。
誰が・いつ・何をするのかを決めて組織全体で共有しておくことが肝心です。
③関係機関との連携
感染症発生時には保健所や行政機関、他の医療・福祉機関との連携が欠かせません。
BCPには「保健所への報告・指示仰ぎ」「行政(市町村や都道府県)への状況報告」「必要に応じて医療機関への受診調整」「ケアマネージャーへの連絡」など、外部との連携フローを組み込みます。
クラスター発生時にマスコミから取材が来るケースも想定し、情報公表の判断・対応窓口も決めておくと安心です(公表内容はプライバシーに配慮しつつ、必要時は行政とも相談して決定)。
また、法人で複数施設を運営している場合は法人本部との連携も重要です。
他拠点からの物資支援や応援職員派遣など、平時から協力し合える体制づくりを検討しておきましょう。
④事業継続の工夫
人手や資源が限られる中でも最低限のサービス提供を維持するための創意工夫もBCPの柱です。
具体的には「業務の優先順位をあらかじめ決めておき、重要度の低い業務は縮小・一時停止する」「利用者さんへのサービス形態を変更して対応する」等が考えられます。
例えば通所系サービスでクラスターが発生した場合、一時的にセンターを休業しても、利用者宅への弁当配達や安否確認の電話連絡を行い生活支援を継続する、必要に応じてホームヘルパーが短時間の訪問対応を代替提供するといった代替策があります。
訪問系サービスでは訪問時間の短縮や頻度調整を行い、接触機会を減らしながら必要最低限のケア提供を続ける工夫が考えられます。
入所施設ではフロアや居室単位でゾーニング(感染者エリアと非感染エリアを明確に分ける)を行い、感染拡大を防ぎつつケアを継続します。
同時に業務の優先順位も定め、生命維持に直結するケア(食事・排泄介助等)を最優先とし、レクリエーションなどは一時中止する判断も必要です。
こうした事業継続策を事前に計画しておけば、実際にクラスターが起きた際にもサービスの灯を消さずに利用者を支え続けることができます。
感染症BCP作成の手順とポイント(ひな形の活用)
感染症BCPの作成手順は大まかに、以下の① ⇨ ④ ステップで進めます。
①リスク想定と方針決定
自事業所で起こり得る感染症シナリオ(新型コロナやインフルエンザによるクラスター等)を想定し、「どのような被害が出るか(職員○割欠勤、利用者○割利用休止など)」「その状況でどこまでサービスを続けるか(最低限維持すべき業務)」といった事業継続の基本方針を経営層と現場で話し合って決めます。
平時に優先業務を洗い出し、サービス継続レベルの判断基準(どの段階で部分休止するか等)も検討します。
②ひな形・テンプレートの入手
厚生労働省は介護施設・事業所向けに「感染症発生時の業務継続ガイドライン」とサービス種別ごとのBCPひな形(入所系・通所系・訪問系)を公開しています。
まずはこれら公式資料を入手しましょう。
ひな形には各項目で何を検討すべきかが網羅されており、自事業所の状況に合わせて追記・修正する前提で使える雛形様式です。
また厚労省のガイドラインには具体的な策定ポイントや例示も示されています。
公的機関の資料だけでなく、各都道府県や業界団体でも独自のBCP策定マニュアルや様式例を提供している場合があります。
例えば、東京都福祉局では高齢者施設等向けに「感染症BCP策定講座」の教材を公開し策定支援を行っています。
自地域の行政ホームページも確認し、参考になる資料があれば積極的に活用しましょう。
③現行マニュアル類との突合・統合
手元にある感染症マニュアルや緊急時対応マニュアルと照らし合わせ、重複や不足を確認します。
前述のように感染症BCPと感染症マニュアルではカバーする内容が異なるため、既存の感染対策手順(消毒方法やゾーニング方法など)は基本的にマニュアルに譲りつつ、BCPには事業運営面の計画を書き込みます。
必要に応じてマニュアルとBCPを相互参照させ、「○○の場合の消毒手順は感染症マニュアルXXページ参照」といった記載を入れると実践時に混乱がありません。
④BCPドラフトの作成
ひな形に従って自施設のBCP案を作成します。
初動対応フロー、体制図、連絡網、優先業務リスト、代替サービス案、物資備蓄一覧など盛り込む内容は多岐にわたりますが、一つひとつ現場の状況を踏まえて具体的に記載します。
現場職員からも意見を募り、「机上の空論」にならない現実的な計画としましょう。
可能であれば過去の感染症発生事例(自施設や近隣施設の事例)が参考になります。
それらを踏まえ「この対策で本当に乗り切れるか?」とシミュレーションしながら書き込むことがポイントです。
④職員への周知と訓練
策定したBCPは全職員に配布・共有し、内容を周知徹底します。
特に初動対応や各自の役割については理解を深めるため、研修や訓練で実際にシミュレーションします(研修・訓練計画については後述)。
現場から上がった意見や訓練で判明した課題をもとに、BCPは適宜見直し・更新していきます。
一度作って終わりではなく、PDCAを回しながら常に実効性を高めていく姿勢が重要です。
クラスター発生を想定したシミュレーション事例
実際に感染症クラスター(集団感染)が発生したとの想定で、通所サービス事業所の場合と入所施設の場合それぞれでBCPに沿った対応シミュレーションを行ってみます。
研修の題材としても活用できるよう、具体的な状況設定と対応例を示します。
通所サービスでクラスター発生!ケースシミュレーション
状況:
デイサービスセンター(通所介護)利用者30名規模の事業所。
ある平日の午後、送迎から戻った利用者Aさんが発熱(38℃台)し、新型コロナ陽性が判明。
他にも数名の利用者と職員1名に発熱症状が見られ、クラスター発生が疑われる状況です。
初動対応:
職員はただちに管理者に報告し、保健所にも第一報を入れました。
発熱者は別室に隔離し、同席していた他利用者さんにもマスク着用を依頼して動線を分けました。
保健所の指示で濃厚接触者となり得る利用者・職員にPCR検査を実施することにし、結果判明まで当該デイサービスの新規受け入れを停止しました。
またBCPに定めた緊急連絡網に沿い、職員全員に事態を共有し明日の業務体制見直しについて招集をかけました。
職員体制の確保:
翌日以降、発熱等で自宅待機となる職員が数名出る見込みのため、BCPに沿って優先業務のみを提供する縮小体制へ移行しました。
具体的には、送迎業務や食事提供など生活維持に必要なサービスは継続し、レクリエーションや入浴介助は一時中止としました。
職員配置は、兼務可能な職員を他部署(併設のグループホーム等)から応援に充てる計画を発動し人手を補いました。
どうしても人手が足りない場合に備え、市町村の福祉人材バンクにも問い合わせ準備を開始しました。
関係機関との連携:
ケアマネージャーや利用者のご家族には、速やかにクラスター発生と当面のサービス縮小について説明と協力依頼を行いました。
幸い軽症者が多く入院の必要はありませんでしたが、地域の医療機関とも連携を取り、悪化時の受け入れ調整を依頼しています。
保健所とは感染者の健康観察方法や濃厚接触者の特定について連絡を密にし、行政にもクラスター発生報告書を提出しました。
事業継続の工夫:
デイサービス自体は数日間休止せざるを得なくなりましたが、BCPで定めた代替サービスを実行しました。
具体的には全利用者への安否確認のため毎日の電話連絡を開始し、希望者には昼食のお弁当を職員がご自宅へ届ける体制を取りました。
またケアマネージャーとも協力し、自宅で過ごす利用者への訪問介護や必要物資の届け出などを調整しました。
サービス利用控えによる生活不安を和らげるため、可能な範囲でのフォローアップを実施したのです。
利用者さんやご家族からは「電話を毎日もらえ安心した」「食事を届けてもらえて助かった」等の声が聞かれました。
収束と再開:
その後、PCR検査で判明した陽性者は利用者5名・職員2名となりましたが、全員が軽症で自宅療養となりました。
発生から1週間後、新たな感染が認められなくなったため保健所と相談の上でセンターを再開しました。
再開時には改めて全利用者さんとご家族に対し安全確認と再開の案内を行い、希望者からサービス利用を再開しています。
今回の事態を受け、事業所ではBCPの見直し会議を開き「濃厚接触者特定の手順」や「臨時休業中の記録様式」など改善点を洗い出しました。
これらを次回の訓練に活かし、さらに実効性の高い計画へアップデートしていく予定です。
入所系施設でクラスター発生!ケースシミュレーション
状況:
特別養護老人ホーム(入所定員50名)。
館内でインフルエンザ様の発熱症状者が相次ぎ、2日間で入所者10名・職員4名が発熱。
このうち数名がインフルエンザ陽性と判明し、施設内クラスター状態となりました。
初動対応:
最初の数名の発熱が判明した段階で管理者に報告が上がり、施設はBCPに基づく非常体制へ移行しました。
すぐに感染拡大防止策(ゾーニング)を実施し、感染者がいるユニットフロア全体を「レッドゾーン(汚染区域)」として隔離エリアに指定。
他の非感染エリア(それ以外のフロア)は「グリーンゾーン(清潔区域)」とし、動線を明確に分離しました。
感染者と非感染者のエリアをカーテンやパーテーションで仕切るとともに、人や物の行き来に制限をかけています。
また担当職員の分離も即時に行い、レッドゾーン担当チームとグリーンゾーン担当チームを編成しました。
発熱している職員は自宅待機とし、必要人数の確保が難しいため急遽近隣の関連施設から応援職員2名を派遣要請しました。
入所者対応とケア継続:
感染した入所者さんは幸い軽症でしたが、食事摂取量低下などの症状がみられたため、看護師が健康観察を強化し医師とも連携しながらケアを続けました。
ケア方法も感染拡大防止を優先した特別対応とし、たとえば入浴介助は中止し清拭対応に切り替える、リハビリもいったん休止し居室で安静に過ごしてもらう等、BCPに基づきケア内容を調整しました。
必要なケア(食事・排泄介助や体位交換など)は防護具を着用の上で確実に提供しつつ、職員間の接触も最小限にするよう心がけました。
物資・設備対応:
インフルエンザ治療薬や検査キット、マスク・ガウン等の備蓄をBCPで定めた量から放出し対応しました。
備蓄量が不足しないよう、平時に定めた閾値に達した物資はすぐ追加発注をかけています。
また消毒の強化として、共有部分の清拭消毒頻度を倍増し、換気設備もフル稼働させました。
発熱者の居室には空気清浄機を増設し、廊下への飛沫拡散を防ぐ工夫も行っています。
情報共有と家族対応:
クラスター発生当日中に、施設長名で入所者家族向けに文書と電話で状況説明と協力依頼を行いました。
「○○ユニットでインフルエンザ感染が発生し、現在隔離対応中であること」「ご家族への面会は当面オンライン面会に切り替えること」「差し入れ物品は玄関でお預かりし消毒後にお渡しすること」等を伝達し、不安の軽減に努めました。
幸い大半のご家族は施設の対応に理解を示し、「お任せします」「現場の皆さんも気を付けてください」といった励ましの言葉もいただきました。
行政に対しても即日で感染発生報告書を提出し、保健所とは毎日のように連絡を取り合い経過を伝えつつ助言を仰いでいます。
収束と検証:
発生から10日ほどで新規感染は止まり、療養者も順次回復しました。
保健所の確認のもと、ゾーニングを解除して通常ケア体制へ戻しています。
施設では今回の対応を振り返り、BCP訓練を通じて計画が有効に機能した点・不足があった点を検証しました。
特に夜勤者が発熱したケースなどは想定していなかったため、今後は「ワンオペ夜勤中に体調不良となった場合の連絡・代行フロー」を追記することにしました。
また職員からは「ゾーニング開始直後は動線が分かりづらかった」「情報伝達が初日は混乱した」との声も上がったため、平時からゾーニング訓練を行い誰が見ても分かる区域区分を素早く作れるようにすることや、緊急時の情報共有ツール(LINEグループ等)の整備も検討しています。
こうした振り返りを次に活かすことで、BCPはより実践的なものへと進化していきます。
現場職員に求められること(役割分担・情報共有・平時の備え)
感染症BCPを机上で作成しても、現場の職員一人ひとりが理解し行動できなければ絵に描いた餅です。
現場職員には以下のポイントが求められます。
- 自身の役割を把握する
- 確実な情報共有
- 平時からの備え
- 冷静さと柔軟さ
それぞれ、具体的にみていきましょう。
①自身の役割を把握する
BCP策定後は、各職員が緊急時に担うべき役割を周知徹底しましょう。
「誰が何をするか」を決め組織で共有することが重要と前述しましたが、例えば「○○リーダーは初動対応全体の指揮」「看護職は保健所連絡と健康観察」「ケアマネジャーは家族連絡と調整役」「ヘルパーは感染エリア担当」等、自分の役割カードを作っておくと分かりやすくなります。
特に夜間や休日など管理者不在時に誰が判断代行するか、といった点も含めて周知しておきます。
②確実な情報共有
日頃から情報共有の体制と手段を整えておき、非常時に迅速なコミュニケーションが取れるようにします。
「連絡網の整備」「非常連絡手段(電話の他、SNSグループや一斉メール等)の確認」「共有フォルダやホワイトボードでの情報可視化」などを平時から練習しておきましょう。
平時に情報共有の流れを整えておけば、緊急時にも慌てず対応できるとされています。
例えば緊急招集の訓練を行い、何分以内に全職員へ連絡が行き渡るかテストするのも有効です。
③平時からの備え
「平時の準備8割、緊急時の対応2割」と言われるように、日頃の備えが非常時に物を言います。
物資備蓄の管理(マスクや防護具、消毒液、非常食など在庫の定期点検)、感染予防策の徹底(手洗い・手指消毒や健康チェックの習慣化)、関連知識の学習(感染症の基礎知識やワクチン情報の共有)などは各職員が平常時から意識しておく必要があります。
またBCPや感染症マニュアルの内容についても折に触れて読み返し、新任職員にもオリエンテーションで教育することが望まれます。
訓練で指摘された課題に対する改善策の実施状況をフォローするのも現場の大事な取り組みです。
④冷静さと柔軟さ
緊急時には現場が混乱しやすくなりますが、職員自身が感染の不安や過重労働で追い詰められないよう、組織的なサポートも重要です。
例えば「誰でも疲弊したら交代を申し出てよい」「不安なことはすぐ上長に相談」といった職場の雰囲気づくりや、心身のケア体制も含めて備えておきましょう。
BCPには職員のメンタルヘルス支援や過重労働対策も盛り込まれるべきとされています。
現場職員同士で支え合いながら、柔軟に協力して乗り切る体制を築いてください。
ご家族や利用者さんへの周知方法と安心確保
利用者さん本人やご家族への説明・周知も感染症BCPにおける重要事項です。
平時・緊急時それぞれで、次の4つのポイントを抑えて、適切なコミュニケーションを図りましょう。
- 平時からの情報提供
- 発生時の迅速・丁寧な報告
- 不安への対応と安心確保
- 再開時のフォロー
それぞれ、具体的にみていきましょう。
①平時からの情報提供
BCPを策定したら、その存在と概要を利用者さん・ご家族にも知らせておくことが望ましいです。
たとえば施設だよりや保護者会で「当施設は感染症BCPを整備しています」と周知し、緊急時の対応方針(「万一感染が発生しても必要サービスは継続します」等)を事前に説明しておけば、いざという時の安心感が違います。
特にご家族から「感染者が出たら施設はどうなるの?」といった不安の声がある場合には、BCPの存在を伝えることで安心材料となります。
②発生時の迅速・丁寧な報告
施設内で感染者やクラスターが発生した場合、可能な限り早く利用者さんのご家族へ状況を報告します。
報告内容は「発生状況」「現在講じている安全策」「利用者への影響(体調やケア状況)」「今後の見通し」等を含めます。
口頭連絡に加え文書でも説明資料を作成し、情報が正確に伝わるようにします。
ここで重要なのは隠し事をしない透明性とプライバシー配慮のバランスです。
誰が感染したかなど個人情報に触れすぎない範囲で、しかし家族が知りたい肝心の点(自分の家族は大丈夫か?施設対応は適切か?)には答える内容とします。
厚労省も「公表内容はプライバシーに配慮しつつ検討する」「公表範囲・方法は事前に方針を決めておく」ことを推奨しています。
BCPには家族連絡の責任者や手段(一斉メールや電話連絡網など)も定めておき、漏れなく速やかな報告を実現しましょう。
不安への対応と安心確保
クラスター発生時は利用者・家族とも大きな不安を抱えます。
家族からの問い合わせには可能な限り丁寧に対応し、現状や対策を繰り返し説明して信頼を保ちます。
「もし○○になった場合はどうなりますか?」といった想定問答集をBCPに用意し、職員間で共有しておくとスムーズです。
利用者本人にも、職員が頻繁に様子を見に行き声かけする、分かりやすい言葉で今起きていることと対策を伝える、といった働きかけで安心感に繋げます。
たとえば「今フロアを分けてお部屋で過ごしてもらっていますが、私たちは必ず様子を見に来ますから安心してくださいね」など一言かけるだけでも利用者の不安軽減に効果があります。
再開時のフォロー
事業を休止・縮小していた場合、再開時にも丁寧な案内が必要です。
再開の判断をした旨と根拠(一定期間新規感染がない等)を伝え、「安全に配慮しつつ通常運営に戻します」と説明します。
利用控えをしていた方々に対しても利用再開を促しつつ、不安が強い場合は引き続き電話相談や必要な支援を行います。
再開後しばらくは家族からの問い合わせも増えるため、「○○担当者が窓口になります」と周知して対応を一本化すると現場の負担が減ります。
このように、平時から非常時まで一貫して誠実で開かれた情報提供を行うことが、利用者・家族の安心確保に繋がります。
BCPには対外的な説明方法まで含めて記載し、職員全員がその方針を共有しておきましょう。
BCP研修・訓練の進め方(頻度・シナリオ・効果的な方法)
策定した感染症BCPは机上の計画で終わらせず、定期的な研修・訓練によって実効性を高めることが重要です。
研修・訓練のポイントをまとめます。
頻度
厚労省はBCPの周知・研修・訓練を行うことを義務付けており、少なくとも年1回程度の訓練実施が推奨されています。
可能であれば年2回(半年に一度)程度、異なる想定で訓練を行うと尚効果的です。
研修とは別に、策定後初回は早めに全職員向け説明会を開き、計画内容を浸透させましょう。
その後は年次計画に組み込み、定期的に訓練を実施してください。
訓練の種類
主な訓練手法として「机上訓練(テーブルトップ演習)」と「実動訓練」があります。
机上訓練は会議室などでシナリオに沿って討議形式で対応をシミュレーションする方法で、時間や資源を取らず実施しやすい利点があります。
実動訓練は実際に動いてみる訓練(防護具を着用して隔離対応を試す等)で、現場の課題を炙り出すのに有効です。
まずは机上訓練から始め、慣れてきたら一部実動も取り入れると良いでしょう。
シナリオ作成
訓練は漫然と行うのではなく、具体的な想定シナリオを設定して行います。
「平日14時にデイサービス利用者から発熱者が1名発生」「日曜早朝に夜勤中の職員が発熱し、そのまま救急搬送」等、時間帯や状況を変えた複数のシナリオを用意します。
シナリオごとに参加メンバー(全職員参加が理想ですが、難しければ管理者・リーダー級のみの日も可)、訓練の方法(机上で対応手順を議論、ロールプレイ形式で電話連絡を実演、など)を計画します。
最初から全行程を通しでやるのではなく「初動対応のみ」「連絡体制の確認のみ」などパートを分けて訓練するのも効果的です。
たとえば初動対応訓練では、発熱者発見から管理者報告・保健所連絡・隔離措置までを時系列で追い、抜け漏れがないかチェックします。
別の機会に人員確保訓練として、10名欠勤という想定で誰をどこから集めるかブレインストーミングする、といった具合です。
訓練の進め方
訓練時はまず担当者がオリエンテーションを行い、シナリオの前提を共有します。
それからBCPの想定通りに各自が動けるかシミュレーションを開始します。
進行役(ファシリテーター)が現在の状況(被害想定)を提示し、参加者に対応策を考えてもらう形で進めると良いでしょう。
机上訓練では模造紙やホワイトボードに時系列で対応を書き出すと可視化できておすすめです。
実動訓練の場合は、あらかじめ必要物品(防護具や消毒液、連絡用電話機など)を準備し、本当にやってみます。
その際、記録係を置いて行動や発言を記録してもらうと後で検証しやすくなります。
訓練後の振り返り
訓練終了後は必ず評価・振り返りの場を持ちます。
参加者全員から感じた課題や改善案を出してもらい、講評や意見交換を行いましょう。
「初動報告に時間がかかった」「連絡網で連絡がつかなかった人がいる」「非常持出物品がすぐ用意できなかった」など、生の気付きは宝の山です。
出た課題はリスト化し優先度を付けてBCP本体やマニュアル類の改定に反映させます。
改善策を講じたら次回訓練で検証し、また見直すというPDCAサイクルを回していきます。
全職員の参加と意識向上
訓練には可能な限り全職員が関与することが望ましいです。
特に普段あまり緊急対応に関わらないパート職員や新人職員ほど、訓練を通じて理解を深める機会が必要です。
「ベテラン職員だけでなく経験の浅い職員も積極的に意見を出せるよう工夫しましょう」と指摘されている通り、様々な立場の職員が参加しやすい雰囲気作りがポイントです。
たとえばグループ討議では部署混合のチーム編成にする、発言しやすいよう質問を投げかける等のファシリテーションを行います。
また他施設との合同訓練も有益です。
近隣の介護事業所や医療機関と協定を結び合同シミュレーション訓練を行えば、お互いの協力体制構築にも繋がります。
BCPの研修・訓練は単なる「お勉強」ではなく、現場力を高める実践トレーニングです。
年に1回でも実施すれば、職員の意識は確実に変わり有事への対応力が向上します。
忙しい業務の合間を縫っての訓練実施は大変ですが、利用者の命を守り事業を継続するための投資と捉えて計画的に取り組みましょう。
感染症BCPと感染症マニュアルの併用・連携
最後に、感染症BCPと既存の感染症マニュアルをどのように併用し連携させるかについて触れておきます。
前述のとおり、感染症マニュアル(感染対策マニュアル)は主に感染予防・拡大防止の技術面に特化した手順書であり、感染症BCPは事業継続の体制面に重点を置いた計画です。
この2つは車の両輪であり、どちらか一方では不十分です。
併用にあたっては次の点を意識しましょう。
役割分担を明確に
まず両者のカバー範囲を明確に区別します。
例えば「消毒方法・ゾーニング方法・感染者のケア方法などは感染症マニュアルに詳述し、BCPではそれらを“実施する”と記載するに留める」一方、「職員の確保策・業務優先順位・代替サービス内容・連絡体制などはBCPに詳細を記載し、マニュアルでは触れない」などです。
こうすることで重複や矛盾が避けられ、両文書を突き合わせて現場対応する際に混乱を防げます。
相互参照を入れる
BCPとマニュアルがお互い補完できるように、文書内にクロスリファレンス(相互参照)を入れます。
例えばBCPの初動対応欄に「感染者への具体的な対応手順は感染症マニュアル参照」と記載したり、逆にマニュアルに「クラスター発生時の人員体制はBCP参照」と注記するといった具合です。これにより非常時にどの資料を見ればいいか迷うことが減ります。
整合性の確認
BCP策定時や更新時には、必ず感染症マニュアルの内容とも整合性をチェックします。
せっかくBCPで決めたことがマニュアルと食い違っていては問題です。
例えば「防護具の備蓄量」はBCPとマニュアル双方に記載があり得ますが、どちらかが古い数値ではいけません。
定期的に両ドキュメントを見直し、矛盾や漏れがない状態に保つようにします。
教育・訓練もセットで
職員研修の場でも、感染対策マニュアル研修とBCP訓練をできるだけセットで実施すると理解が深まります。
一方で内容が多すぎる場合は分けても構いませんが、「マニュアル研修では感染防止策を習得し、BCP訓練ではその上で事業継続の判断・手順を練習する」という位置づけで、職員に両者の違いと必要性を認識させます。
厚生労働省が提示する「介護現場における感染対策の手引き」(感染症マニュアル)第3版など最新の知見を反映したマニュアル類と、今回詳述した感染症BCPとを両輪として活用することで、初めて盤石な感染症危機管理体制が築けます。
どちらか片方では不十分であり、両者を連携させることで効果が最大化する点を現場全員で共有しておきましょう。
以上、介護現場における感染症BCPについて、基本知識から具体的な策定・実践方法まで包括的に解説しました。
感染症BCPは「最悪の事態を想定し、最善を尽くす」ための羅針盤です。
法令上も整備と訓練が求められる今、ぜひ本記事の内容を参考に各事業所で実効性ある計画を作り上げ、定期的に訓練を行ってください。
平時の地道な備えが、いざという時に利用者の生命と暮らし、そして事業を守る力になります。現場職員一丸となって備えを万全にし、安心・安全な介護サービスの提供を継続していきましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
感染症BCPの整備は、単なる書類作りではなく、現場の命と暮らしを守るための“生きた計画”です。
今回ご紹介した内容を参考に、各施設で実態に合ったBCPを作成し、日々の業務の中で周知・訓練を重ねていくことが重要です。
BCPは一度作って終わりではなく、実践を通じて育てていくもの。
職員一人ひとりが役割を理解し、いざという時に落ち着いて対応できるよう、平時から備えておきましょう。
利用者さんとご家族、そして職員自身の安心・安全を守るために、感染症BCPは今や介護現場の“必須装備”といえます。
それではこれで終わります。
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