①認知症とは?基本の理解と4つの主な種類

認知症は「病名」ではなく、脳のさまざまな病気や障害によって認知機能が低下し、日常生活に支障が出る状態を総称したものです。
加齢による「物忘れ」とは異なり、出来事自体を忘れてしまったり、判断力や手順を踏む能力が落ちるため社会生活に大きな影響が出ます。
近年は高齢化に伴い患者数が増え、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されており、介護現場で対応する機会がさらに増えると見込まれています。
認知症を学ぶ上で、この基礎的な知識の共有は重要です。
認知症の四大タイプ
認知症にはさまざまな原因がありますが、全体の約9割は4種類の認知症が占めています。
各タイプの特徴を理解することが、適切なケアにつながります。
| タイプ | 主な原因と特徴 | よく見られる症状 |
|---|---|---|
| アルツハイマー型認知症 | 全体の約70%を占める最も一般的な認知症で、脳内にアミロイドβタンパクが蓄積して神経細胞が破壊されることで発症します。発症原因は明確ではありませんが、糖尿病や高血圧などの生活習慣病がリスクを高めるといわれています。 | 初期には日常の行動自体を覚えていないなどの「記憶障害」が出現し、進行すると徘徊・失禁・性格変化などがみられます。 |
| 血管性認知症 | 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって脳の一部が壊死し、脳の血流が悪化することで発症します。生活習慣病が原因となるため、予防には血圧管理や生活習慣の改善が重要です。 | 障害された部位に応じて症状が異なり、歩行障害・麻痺・排尿障害・言語障害などが現れます。発作のたびに段階的に悪化する「まだら認知症」が特徴です。 |
| レビー小体型認知症 | 脳の神経細胞にレビー小体という特殊なたんぱく質がたまり、神経細胞が破壊されることで発症します。原因は不明ですが、男性の発症率が高いとされます。 | 手足の震えや歩行障害などパーキンソン病に似た症状と、はっきりとした幻視やうつ症状が特徴です。認知機能の変動が大きく、意識がはっきりしているときとぼんやりしているときを繰り返します。 |
| 前頭側頭型認知症(ピック病など) | 脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することで起こり、50〜60代の比較的若い世代で発症しやすい疾患です。 | 性格や行動の急激な変化が目立ち、反社会的な行動が増える、柔軟な思考ができなくなる、衛生管理ができないなどの症状が現れます。同じ行動を繰り返す常同行動や時間へのこだわりも特徴で、進行すると言葉が出にくくなります。 |
正しい理解がケアの第一歩
認知症の種類により、症状の現れ方や進行速度、薬物療法の適用も変わります。
「アルツハイマー型が最も多く、血管性が次に続く」という統計を知っておくことで、介護施設で出会う利用者さんの状態が理解しやすくなります。
まずは「なぜその症状が起きるのか」「どのタイプに多い症状か」を学び、本人やご家族への説明に活かしましょう。
②認知症の症状と進行(中核症状・BPSDの違い)
認知症の利用者さんの接するうえで、中核症状とBPSDについての理解は必須です。
この研修では認知症の症状と、進行過程に出る症状を具体的にお伝えします。
中核症状とは
認知症の症状は大きく「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」に分けられます。
中核症状とは、脳の神経細胞が損傷して認知機能が低下することによって直接的に現れる症状を指します。
代表的な中核症状には以下のようなものがあります。
記憶障害:
数分前の出来事を留めておく「近時記憶」が難しくなり、夕食を食べたばかりなのに「まだ食事をしていない」と訴えたり、同じ質問を繰り返したりします。進行すると過去の記憶も失われます。
見当識障害:
今の日時や場所、対人関係が分からなくなる状態で、外出先で迷子になる、家の中でトイレの場所が分からないといったことが起こります。
失語・失行・失認:
言葉を理解したり発したりすることが難しくなる「失語」、服を着るなどの動作ができなくなる「失行」、見えているものの意味を理解できない「失認」が現れます。
判断力障害と実行機能障害:
状況を適切に判断したり計画を立てて行動する力が低下し、家事の段取りが組めない、金銭管理ができないといった問題が起きます。
BPSD(周辺症状)とは
BPSDは「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の略で、精神症状や行動症状をまとめた呼称です。
中核症状に環境要因や心理要因が加わることで発生します。
過活動状態と非活動状態で現れ方が異なり、次のような症状が含まれます。
過活動状態:
幻覚・妄想(特に「物盗られ妄想」や「知らない人がいる」といった幻視)、大声や暴言、帰宅要求、性的逸脱行為、暴力、徘徊、過食など。
非活動状態:
うつ状態や不安、無気力、不眠、拒食、摂食障害など。外からは気づきにくい症状も多いため、表情や生活リズムの変化に注意が必要です。
BPSDは本人の性格や生活歴、環境、介護者の対応によって大きく変化します。
中核症状と異なり、適切な関わり方や環境調整により軽減できることが多いため、ケアの質が問われます。
BPSについてもっと深堀した研修を実施したい場合は、こちらの記事をご参照ください。
認知症の進行段階
認知症は一般に次のような段階を経て進行します。
初期(軽度)段階:
物忘れが増え、ご家族や近所の人の名前が出ない、道に迷うことが増えます。本人は自覚しており、不安や抑うつが出ることもあります。生活は自立していますが、サポートが必要になり始めます。
中期(中等度)段階:
記憶障害が顕著になり、新しいことを覚えられないため同じ質問を繰り返したり、時間や場所が分からなくなります。徘徊や妄想、失禁などのBPSDが現れ、日常生活には常時の支援が必要になります。
後期(重度)段階:
会話が難しくなり、家族を認識できなくなります。運動機能が低下し、歩行や食事、排泄の全面的な介助が必要になります。誤嚥や肺炎のリスクが高まるため、医学的ケアと口腔ケアが重要です。
進行を早める要因として、脳への刺激が少ない生活や過度のストレス、環境の急激な変化が挙げられます。
逆に、本人の好きな活動を続けることや適度な運動、社会参加、薬物療法、耳の補聴器などで五感を刺激することが進行抑制に効果的とされています。
③実際のケアで知っておきたい「声かけ・対応の工夫」
介護現場でのコミュニケーションは、認知症の人の不安を和らげBPSDを予防するうえで大きな意味を持ちます。
この研修では多くの現場で共有されている基本的な声かけのポイントを紹介します。
相手の世界に寄り添う
認知症の人にとって、記憶障害や見当識障害による不安は大きなストレスです。
否定や訂正は相手の自尊心を傷つけるため、「本人の言葉を受け止め、不安を取り除く」姿勢が大切です。
夕食を食べたことを忘れて「まだ食べていない」と訴える場合、決して「さっき食べたでしょ」と否定せず、「お腹がすいたんですね。少しお茶を飲んで待ちましょう」と気持ちを受け止める対応を心がけます。
ゆっくり・優しい話し方
話すときは相手の目線に合わせ、ゆっくりと穏やかな声で短く伝えることが基本です。
短い文で1つの内容にし、理解を助けるジェスチャーや表情を添えると伝わりやすくなります。
急かしたり複数の指示を同時に伝えることは混乱を招くので避けます。
相手のペースに合わせる
焦らず相手のペースに合わせることも重要です。
歩行や食事、着替えを介助するとき、介護者が先回りして手を出し過ぎると本人の自立心を奪い、BPSDを誘発します。
できるところは本人に任せ、失敗しても穏やかにサポートしましょう。
身体的な安心感を与える
手をさする、肩にそっと触れるなどの優しいタッチングは、不安や興奮を鎮める効果があります。
ただし、突然触ると驚かせてしまうため、声をかけてからゆっくりと行い、相手が嫌がる場合は無理強いしません。
認めて共感する
「ありがとう」「助かりました」と感謝を言葉にして伝えると、自己肯定感が高まり安心してもらえます。
できたことを褒める、心情に共感することで信頼関係を築くことができます。
NG行動を避ける
適切な声かけと同時に、避けるべき行動を心得ておくことも大切です。
以下のような対応はBPSDを悪化させるため、意識して避けましょう。
否定や説得、叱責:
本人の勘違いや妄想を頭ごなしに否定することは、不信感や反発を招きます。
急かす・命令する:
本人のペースを無視し、早く動くように促したり強制することはプレッシャーとなり混乱や抵抗を引き起こします。
子ども扱いする:
赤ちゃん言葉や過剰な手助けはプライドを傷つけ、依存心や怒りを生みます。
無視や放置:
分からないことがあったときに返事をしない、目を合わせないなどは、相手の孤立感を高めます。
認知症ケアの現場でありがちな困りごとと対応策
具体的に、現場にありがちな困りごとを取り上げ、その対応策を考えることで、よい研修にすることができます。
5つのよくある困りごとと、その対応策を記載します。
帰宅願望(家に帰りたい)
夕方になると「家に帰らせてください」と訴える人は多く、介護現場では日常茶飯事の困りごとです。
この願望の背景には、「今ここにいる理由が分からない」「家族に迷惑をかけていると思っている」「夕飯の準備をしなくては」という責任感など様々な感情が隠れています。
そのため、単に「ここがあなたの家ですよ」と説得するのではなく、不安を受け止め、居心地の良い環境を整えることが大切です。
実際の現場では、生活歴を知り「家で大切にしていた習慣や役割」を取り入れることで落ち着くケースが多いです。
例えば、洗濯物たたみや新聞を読む習慣を取り入れたり、本人の部屋に自宅から持参した家具や写真を置いて安心感を高めることが有効です。
対応のポイントは、次のようになります。
帰宅の理由を尋ねず感情に寄り添う:
「帰りたいですね」と共感しながら、散歩に誘ったりお茶を飲むなど別の行動に誘導します。
環境を整える:
部屋に家族写真や本人の愛用品を置き、施設の中でも「自分の場所」と感じられる空間をつくります。
役割を提供する:
折り紙を折る、郵便物を仕分けるなど、本人が得意だった作業をお願いして自信と達成感を持ってもらいます。
物盗られ妄想・幻視
財布や眼鏡を自分でしまったことを忘れて「誰かに盗まれた」と訴える、部屋にいない人が見えると訴えるなどの妄想や幻視はレビー小体型認知症に多い症状ですが、他のタイプでもBPSDとして見られます。
本人は真剣に感じているため否定すると不信感が強まります。
対応のポイントは、次のようになります。
一緒に探す:
本人と一緒になくなった物を探し、見つかったときは「見つかって良かったですね」と共感します。介護者がすぐに見つけると「あなたが隠したのでは」と疑われるので、あえてゆっくり探したり、職員同士で協力して自然に見つかるようにします。
日常的に決まった場所を用意する:
財布や鍵などをいつも同じ箱やポーチに入れる習慣をつけると安心感が生まれます。写真やイラストのラベルを貼って分かりやすくするのも効果的です。
妄想の内容に入り込み過ぎない:
幻視については、否定せずに「心配ですね」「怖かったですね」と共感し、安全な場所で過ごしてもらいます。怖い幻視が続く場合は医師へ相談し、薬物療法も検討します。
食事・トイレに関する訴え
「食べていない」「トイレに行った覚えがない」と繰り返し訴える場合、記憶障害によるものです。
叱責や指摘は避け、静かに対応します。
対応のポイントは、次のようになります。
【食事を忘れる場合】
食べたことを否定しない:
「まだ食べていない」と言われても「もう食べましたよ」と言い返さないようにします。代わりに「お腹がすいているんですね。お茶とお菓子を用意しますね」と別の軽食を提供することで満足感を得てもらいます。
食事の時間をわかりやすくする:
時計やカレンダーにイラスト付きで食事の時間を記し、食堂への誘導サインを貼ります。
【トイレの訴え】
静かにサポート:
失禁やトイレの失敗があった場合、本人が羞恥心を感じやすいので目立たないよう素早く衣服や床を清潔にします。周囲の職員と協力し、他の利用者に気づかれないような配慮も重要です。
トイレの場所を示す:
トイレへのルートに矢印を貼り、ドアに大きな写真や文字で示すなど、見当識障害に対応した環境整備を行います。
暴力・興奮
認知症の人が大声を出したり物を投げる場合、身体的な痛みや強い不安が原因であることが多いです。
刺激やストレスが多い環境、排泄の不快感、空腹なども引き金となります。
対応のポイントは、次のようになります。
距離を保ち安全を確保する:
興奮状態のときは無理に止めたり背後から触れないようにし、危険がない距離を保ちます。落ち着くまで別室で過ごしてもらうことも選択肢です。
原因を探る:
身体の痛みや便秘、脱水など身体的要因がないか確認します。環境音や照明が刺激になっていないか、スタッフの言葉遣いに問題がなかったかを振り返ります。
感情に共感し、不安を軽減する:
「怖い」「嫌だ」という気持ちを受け止め、「大丈夫ですよ」と安心を伝えます。興奮が続く場合は医師に相談し、薬物療法や専門職の介入を検討します。
同じ話や質問を繰り返す
記憶障害によって同じ質問や話が繰り返されることはよくあります。
介護者がイライラしてしまう場面ですが、本人は覚えていないだけで悪気はありません。
対応のポイントは、次のようになります。
何度でも新鮮に聞く:
同じ話を何度聞いても初めて聞いたように反応し、「そうなんですね」「それは楽しかったですね」と共感します。頷きや微笑みを交えて安心感を与えます。
質問の答えを視覚化する:
質問の内容が「今日は何日?」のような場合、カレンダーやホワイトボードに答えを書いて本人が確認できるようにします。情報を可視化することで繰り返し質問が減ることもあります。
⑤認知症の人の尊厳と理解
認知症ケアの根底には、人間としての尊厳を守る姿勢があります。
2024年から介護職員に義務付けられた認知症基礎研修では、人格を尊重した支援が強調されています。
この研修では、尊厳を学び理解することで、利用者さんと信頼関係を深めることがねらいです。
人生歴の理解と個別支援
本人の生い立ち、家族構成、職業、趣味などを知ることは、その人らしさを尊重するうえで不可欠です。
過去の経験や価値観を共有することで、安心できる話題を提供でき、役割や趣味を活かした活動を支援できます。
パーソンセンタードケア
「その人を中心に考えるケア」はイギリスの心理学者トム・キットウッドが提唱した考え方で、認知症の人を単にケアの対象ではなく一人の人間として尊重することを重視します。
本人の希望や感情に耳を傾け、能力を活かすケアを行うことで自尊心を高め、BPSDの軽減につながります。
チームで支える
認知症ケアは一人で抱え込むものではありません。
家族、同僚、看護師、医師、ケアマネジャーなど多職種が情報共有を行い、統一した方針で支援することが重要です。
困難な行動があった場合でも、チームで原因を検討し、対応を共有することで無用な拘束や薬物使用を避けられます。
介護者自身のケア
介護者がストレスを抱えすぎると、暴言や虐待など不適切な対応につながる危険性があります。
適度に休息を取り、同僚と気持ちを共有し、研修や勉強会に参加するなど自分自身を大切にすることが、結果的に利用者への良質なケアにつながります。
おわりに
いかがだったでしょうか。
認知症は四大タイプに分類され、それぞれ原因や症状が異なること、そして症状は中核症状とBPSDに分けられることを理解することが出発点です。
症状の進行やBPSDの原因を踏まえ、声かけや環境調整、ケース別対応を工夫することで、本人の不安を軽減し尊厳を守るケアができます。
常に本人の立場に立って考え、「その人らしさ」を支え続ける姿勢が、認知症ケアで最も大切なことです。
それではこれで終わります。
この記事が、認知症研修作成の参考になれば幸いです。
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