「忘れる不安」に寄り添う:接遇会話術【介護施設の接遇研修】
- 同じ質問への対応に困っている方
- 認知症ケアに苦手意識がある方
- つい強い口調になってしまう方
- 接遇スキルを高めたい介護職の方
- 利用者さんの不安に寄り添いたい方
「今日は何日?」「ご飯はまだ?」と何度も繰り返される質問に、どう対応すればよいか悩んだ経験はありませんか。
忙しい中で同じ説明を続けることに、戸惑いやいら立ちを感じるのも無理はありません。
でも認知症の方にとってその一言は、毎回が「初めての不安」です。
大切なのは正確に答えることよりも、その不安にどう寄り添うかです。
この記事では、繰り返し質問の背景にある心理と、安心を届ける具体的な接遇のコツを分かりやすく解説します。
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この記事を読むメリット
情報は消えても「感情」は残る

「今日は何日?」「ご飯はまだ?」「私の荷物はどこ?」
一日に何十回も繰り返される同じ質問。
私たち介護職も人間ですから、忙しい時間帯にはつい「さっきも言いましたよね」と語気が強まってしまうこともありますよね。
しかし、認知症の方にとって、その質問は「人生で初めて聞く大切な一言」であることがほとんどです。
厚生労働省の認知症ケア研修等でも強調されるのは、「エピソード記憶は失われても、その時の感情(感情記憶)は強く残る」という事実です。
内容に正解を出すのではなく、その方の「不安」に正解を出す。これこそが、認知症接遇の極意です。
なぜ何度も聞くのか? 「忘れる不安」の正体
認知症の方が同じ質問を繰り返す背景には、単なる「物忘れ」以上の深刻な心理状態があります。
世界が砂のように崩れていく恐怖
認知症の中核症状により、直前の記憶が保持できなくなると、本人にとって世界は「連続性のない、断片的なもの」に変わります。
「今、どこにいるのか」「次に何をすればいいのか」が分からない。
それは、私たちが言葉も通じない見知らぬ土地に、一人きりで放り出された時の恐怖に近いと言われています。
「確認」は「安心」への唯一の手がかり
厚生労働省の資料によれば、認知症によるBPSD(行動・心理症状)の多くは、こうした「不安」や「混乱」が引き金となります。
何度も同じことを聞くのは、本人にとって「今、私は大丈夫だ」と確認し、安心を得るための必死の防衛本能です。
「さっきも言いました」がNGな理由:言葉が壊す信頼
つい口に出てしまう「さっきも言いましたよ」という言葉。
これがなぜ、接遇として最悪の選択肢なのか、その理由を整理します。
「恥」と「不信感」を植え付ける
本人は「さっき聞いた」ことを忘れています。
そこに「さっき言った」と突きつけられると、本人は「自分は何かおかしなことをしたのか?」「この人は私を責めている」という不快な感情だけを強く受け取ります。
負のスパイラルへの入り口
不快な感情(怒りや悲しみ)は、認知症の方の脳をさらに興奮させ、徘徊や興奮といったBPSDを悪化させます。
私の経験ですが、以前ある職員が「もう10回目ですよ!」と声を荒らげた際、それまで穏やかだった利用者さんが、数分後に激しい帰宅願望(不穏状態)に陥ったことがありました。
言葉一つが、その後の数時間のケアの難易度を劇的に変えてしまうのです。
【実践】安心を届ける「3ステップ対応術」
では、実際にどう対応すべきか。【接遇】の技術を3つのステップで紹介します。
ステップ① 受容:感情を丸ごと受け止める
まずは「内容」ではなく「表情」と「声」で応えます。
作業をしながら背中で「あー、はいはい」と答える。
手を止め、相手に体を向け、目を見て「ああ、〇〇が気になるんですね」と、まずは相手の関心事を肯定します。
ステップ② 共鳴:同じ言葉を繰り返す(ミラーリング)
「ご飯はまだ?」と聞かれたら、「ご飯が楽しみなんですね」と同じ言葉を返します。
これにより、利用者さんは「この人は私の話を聞いてくれている(味方だ)」という安心感を得ます。
ステップ③ 安心の保証:根拠のない「大丈夫」ではなく
「まだですよ」で終わらせず、「今、厨房でおいしく作っていますからね」「私が責任を持って確認してきます」など、「誰かが動いてくれている」という安心感を与えます。
この時、優しく肩に手を置くなどのタクティールケア(触れるケア)を併用すると、オキシトシン(安心ホルモン)が分泌され、より効果的です。
執着を和らげる「すり替え」と「環境調整」
ステップ3まで行っても、質問のループが止まらない場合があります。
その時に使うのが「プロの交わし技」です。
自然な「話題のすり替え」
質問のループを無理に断ち切るのではなく、相手の好きな話題や、今できる役割(作業)へ視点を誘導します。
「ご飯まで時間があるので、少しお花の水やりを手伝っていただけませんか?」
「そういえば、〇〇さんはお料理が上手だと伺いました。コツを教えてください」
これは相手を騙すことではなく、「不安な思考のループ」から外へ連れ出してあげるという、積極的な接遇です。
視覚情報の活用(環境調整)
「今日は何日?」と何度も聞く方には、大きなカレンダーを用意し、一緒に今日の日付に赤丸をつける。あるいは、一日のスケジュール表を目に付く場所に置く。
厚労省の「認知症の人のためのケアマネジメント変革(センター方式)」でも推奨されている通り、言葉(聴覚)だけでなく、目に見える形(視覚)で安心を提供することで、質問の回数自体を減らせる可能性があります。
職員の心を守る「ゆとり」の接遇
最後に、一番大切なことをお伝えします。
それは、職員自身のメンタルケアです。
「100点」を目指さない
何度も同じことを聞かれてイライラするのは、あなたがプロ失格だからではありません。
人間として自然な反応です。
「この人は今、不安の海で溺れているんだな。私は浮き輪を投げているだけだ」と、少し客観的な視点を持つことで、心の距離を保つことができます。
チームで「バトン」をつなぐ
一人の職員が対応し続けると、どうしても限界が来ます。
「すみません、今ちょっと余裕がないので、代わってもらえますか?」とチーム内でSOSを出せる環境を作ること。
これが、結果的に利用者への質の高い接遇を維持することに繋がります。
ワーク:その対応、不安を和らげられているか?!
(個人ワーク3分+共有5分)
「同じ質問を繰り返された場面」を思い出し、自分の対応を振り返ってみましょう。
・そのとき相手の「不安」に目を向けられていたか
・「さっきも言いました」と伝えていないか
・安心を感じてもらえる言葉に言い換えるとどうなるか
グループで共有し、「安心を届ける声かけ」に変える工夫を話し合ってみましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
認知症の方は、あなたが何を言ったかは忘れてしまうかもしれません。
でも、あなたが「優しく接してくれた人」であること、その場の空気が「温かかったこと」は、驚くほど長く心に残っています。
「接遇」とは、単なるマナーではありません。
何度も同じことを聞かれるその瞬間、あなたは利用者様にとっての「暗闇を照らす唯一の光」になっています。
その一言、その笑顔が、認知症の方の今日一日をどれほど救っているか。
どうかその誇りを胸に、明日からのフロアに立ってください。
お知らせ①【介護事業所の必須研修資料一覧(2026年度版)】
介護サービスごとにわかりやすく、情報公表調査で確認される研修と、義務づけられた研修を分けて記載しています。
また、それに応じた研修資料もあげています。研修資料を探している方は、ぜひ参考にしてください。
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介護職の仕事をしていると、低賃金や物価の高騰、そして将来に対する漠然とした不安がついて回ります。
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下記のブログは、そんな不安を解消するために実践すべき7つの方法です。
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