筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
高齢の利用者さんは、ご自身の体調の些細な変化を見逃しがちです。
しかし、私たち介護職はその「いつもと違う様子」に早く気づくことが、感染症の早期発見・拡大防止に繋がります。
インフルエンザや肺炎、ノロウイルス、尿路感染症、新型コロナウイルスなどは施設で特に注意すべき代表的な感染症です。
本記事では、初心者からベテランまで介護職全員が身につけたい「感染兆候を見逃さない5つの観察スキル」をわかりやすく解説します。
日常ケアの中で使える観察のコツやチェックリスト、ケーススタディも交え、研修資料としても役立つ実践的な内容にまとめました。
ぜひ日頃のケアに活かしてください。
①バイタルサインをチェックするスキル
体温や脈拍といったバイタルサインの変化は、感染症兆候の最も重要なサインです。
利用者さんの平熱や普段の脈拍・血圧を把握し、少しでも異変を感じたら測定しましょう。
特に発熱は見逃せません。
一般的に「体温が約38℃以上、または平時より+1℃超」で発熱と判断します。
平熱が低めの方では基準が異なる場合もありますが、微熱程度でも高齢者では注意が必要です。
高齢者は感染症でもはっきり熱が出ないことがあり、インフルエンザでも急な高熱が出ないケースがあります。
そのため全身のだるさや反応の鈍さなど、熱以外の兆候にも着目しましょう。
体温計測の習慣化:
毎日の健康チェックや、食欲低下・元気のなさ等に気づいた時は、まず体温測定を習慣づけます。
例えば朝夕の検温や、少しでも「熱い」「寒気がする」といった訴えがあれば確認します。
脈拍・呼吸も確認:
発熱時は脈拍が速くなりがちです。
脈が普段より明らかに速い(頻脈)または極端に遅い(徐脈)場合も異常の兆候です。
呼吸数が普段より増えていないか、息苦しそうにしていないかも観察しましょう。
必要であれば血圧や酸素飽和度(SpO₂)の測定も行います(機器がある場合)。
発熱時の対応:
もし38℃を超える発熱が確認できたら、感染症を強く疑います。
インフルエンザでは典型的には39~40℃の高熱が出ますが、前述の通り高齢者では必ずしも高熱にならないこともあります。
熱以外に咳やのどの痛み、下痢・嘔吐など他の症状がないか総合的にチェックし、速やかに看護職や医師に報告しましょう。
ケース例:
デイサービス利用中のAさん(80歳)は普段は平熱が36.2℃ですが、今日は何となく顔が紅潮し元気がありません。食事も半分残しました。職員が検温すると37.5℃。微熱ですが念のため看護師に報告し様子を見ると、夕方には38.3℃まで上昇しました。医師の診察の結果、インフルエンザを発症していたことが判明。早めの検温と報告で適切な対応につながりました。
このように、「ちょっとおかしいな」と思った段階でバイタルチェックを行うことが大切です。
バイタルサインの把握こそが感染兆候を見逃さない第一のスキルです。
②呼吸器症状を見逃さないスキル
咳や痰、息づかいの変化など呼吸器の症状は、肺炎やインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などの重要な手がかりです。
特に高齢者施設では肺炎が重大なリスクで、中でも食事中のむせ込みが原因の誤嚥性肺炎が多く見られます。
普段から利用者さんの咳の有無や呼吸の様子を注意深く観察しましょう。
咳・痰の観察:
咳が出始めたり、痰が増えていないかをチェックします。
痰の色が黄色や緑色に濁っていたり、咳が夜間にひどくなる場合は感染の可能性があります。
またのどの痛みや声のかすれにも注意しましょう。
例えば「ゴホゴホ」と乾いた咳が続く場合はインフルエンザや気管支炎の疑いがありますし、痰の絡む湿った咳や呼吸時のゼーゼー音(喘鳴)がある場合は肺炎の兆候かもしれません。
呼吸状態の観察:
息苦しそうに肩で息をしていないか、呼吸数が増えていないかを見ます。
普段穏やかな呼吸の方が、早口で喋れないほど呼吸が荒い、横になりたがらず座った姿勢で呼吸している(起座位呼吸)といった場合、肺炎や気管支喘息など呼吸困難の状態が疑われます。
唇や爪の色が紫色(チアノーゼ)になっていないかも確認しましょう。
感染症との関連:
インフルエンザでは高熱とともに咳・のどの痛み・鼻水などの症状が出ることが多いです。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も発熱と乾いた咳、強い息苦しさが典型症状です。
利用者さんが「息がしにくい」「胸が痛む」と訴えたり、明らかに呼吸状態が悪化した場合は、ためらわず医師の受診を勧めます。
ケース例:特養に入所中のBさん(85歳)は、食事中によくむせる方でした。この日も昼食時に激しくむせて咳き込み、少量の吐瀉がありました。介護職員は誤嚥の可能性を看護師に報告。その夜、Bさんは37.8℃の発熱と湿った咳が出現しました。すぐに受診したところ誤嚥性肺炎の初期と診断され、早期治療が開始できました。
このように、「いつもと違う咳」や呼吸の変化は見逃さないことが大切です。
呼吸器症状の観察スキルを磨き、肺炎やインフルエンザの兆候をいち早くキャッチしましょう。
③消化器症状を見逃さないスキル
食欲不振や吐き気、嘔吐・下痢などの消化器症状も感染症のサインです。
特に冬場はノロウイルスなど感染性胃腸炎が流行しやすく、施設内で集団発生する恐れもあります。
また高齢者はちょっとした体調不良で食欲が落ちるため、「食べられていない」こと自体が重要な兆候です。
食欲・摂取量の観察:
「食事を残していないか」「水分摂取量は減っていないか」を毎食観察します。
普段完食する方が明らかに食べ残す、食べるスピードが極端に遅い、飲み込みが弱くむせる、といった変化は要注意です。
摂食不良(食べられない状態)は体調悪化のサインであり、感染症時によく見られます。
食欲低下に加えて「なんとなく吐き気がする」と訴える場合は、胃腸の感染を疑います。
嘔吐の観察:
嘔吐があった場合、回数や量、内容物を確認します。
食後すぐに繰り返し嘔吐するようなら胃腸炎の可能性があります。
吐物に血液やコーヒー残渣様の色がないか(消化管出血の有無)もチェックし、処理は必ず手袋・マスクを着用して行います。
嘔吐物の適切な処理は二次感染予防の観点でも大事です。
下痢の観察:
急な下痢も感染症のサインです。
特にノロウイルスによる胃腸炎では突然の嘔吐・下痢が特徴です。
一人でも嘔吐下痢症状が出たら、他の利用者にも広がっていないか注意を払います。
下痢便の性状(泥水状か、水様か)、色や臭いにも留意し、血液や粘液が混じっていないかも確認します。
血液や膿のようなものが見られれば細菌性腸炎の疑いがあります。
ケース例:デイサービスで、Cさん(90歳)が午後に「お腹がムカムカする」と話しました。体温は37.0℃で平熱ですが、昼食はほとんど手をつけず、水分も取りたがりませんでした。夕方になり突然嘔吐し、その後水様の下痢も数回ありました。同じ日の利用者で他に1名軽い下痢を訴える方がいたため、施設ではノロウイルスによる感染性胃腸炎を疑い、直ちに両者を隔離して看護師が対応。結果的にノロウイルス感染と判明し、初期対応のおかげで広範な集団感染を防ぐことができました。
このように、食欲低下や吐き気、嘔吐・下痢といった消化器の兆候は迅速に察知し、適切な対応を取りましょう。
特に冬季はノロウイルスを念頭に置き、嘔吐物・便の処理や手洗いの徹底も重要です。
④排泄・尿路の症状を見逃さないスキル
尿や排泄の変化は、尿路感染症(膀胱炎や腎盂腎炎)などの兆候です。
高齢者はトイレの訴えが乏しかったり、自力で訴えられないことも多いので、介助の際に注意深く観察しましょう。
尿路感染症は高齢者施設でよく見られる感染症の一つで、放置すると敗血症など重篤化する恐れもあります。
尿の性状チェック:
おむつ交換やトイレ介助時に、尿の色・量・臭いを確認します。
正常な尿は淡黄色で透明ですが、濁っている、強いアンモニア臭がする場合は尿路感染を疑います。
また、おむつに通常と違うオレンジ色や赤み(血尿)が付いていないかも見ます。
血尿は膀胱炎などの明確なサインです。日中にトイレに行く回数が急に増えたり(頻尿)、間に合わず失禁するようになった場合も注意が必要です。
排尿時の様子:
利用者さんが排尿時に「痛い」「ヒリヒリする」と訴えたり、トイレに行っても少量しか出ず何度もトイレを往復するような場合、排尿痛や残尿感の可能性があります。
これらも尿路感染症の典型症状です。
もっとも、高齢者は認知機能の低下などからこれらを自覚・訴えにくいことがあります。
介護職員は表情の変化(排尿時に顔をしかめていないか)や動作(トイレを嫌がる・落ち着かない様子がないか)から痛みを推察することも大切です。
全身状態への影響:
尿路感染が起こると、場合によっては38℃以上の高熱や悪寒が出ることがあります。
しかし高齢者では必ずしも発熱せず、代わりにせん妄(急な意識混濁や混乱)や全身の倦怠感が目立つことも多いです。
「なんとなくぼーっとして反応が鈍い」「いつもより元気がない」といった普段との違いから尿路感染を見抜いたケースもあります。
実際、尿路感染の主な症状として食欲不振や全身のだるさ、意識の混乱が挙げられます。
ケース例:グループホームのDさん(82歳、軽度認知症)は、このところ昼間にウトウト眠ってばかりで会話も少なくなりました。普段は自分で歩いてトイレに行くのに、この日は失禁してしまい、「尿がしみる」とポツリと言いました。職員が検温すると37.9℃の熱。尿の色も濃く臭いも強かったため、すぐに看護師に連絡し受診へ。尿路感染症(膀胱炎)と診断され、抗生剤治療により数日で元の笑顔が戻りました。
尿や排泄の観察は地味なようですが、尿路感染のサインを掴む重要なスキルです。
おむつ交換やトイレ介助は単なる世話ではなく、「観察のチャンス」と捉えましょう。
尿の状態や排泄パターンの変化に気づいたら、遠慮なく看護職に報告してください。
⑤全身状態とその他のサインを見逃さないスキル
最後のスキルは全身を広く観る観察力です。
高齢者は典型的な症状が出にくい分、「なんとなく元気がない」「顔色が悪い」など全身状態の変化に目を光らせる必要があります。
また皮膚の状態(発疹や発赤など)や痛みの訴えも重要なサインです。
身体全体をくまなく観察し、「普段と違う何か」を感じ取るスキルを磨きましょう。
意識レベル・反応の観察:
意識がぼんやりしている、呼びかけへの反応が鈍いといった変化はありませんか?
普段ははきはき受け答えする利用者さんが元気なく返事する、ぼーっとして笑顔が見られない、といった場合はどこか具合が悪いサインです。
発熱や感染による脱水、あるいは尿路感染症によるせん妄など、急な体調悪化で意識レベルが低下することがあります。
日常的に利用者さんの表情や発言の様子を観察し、「今日は様子が違う」と感じたら要注意です。
顔色・皮膚の観察:
顔色が青白い、唇の色が悪い(チアノーゼ気味)などは全身状態の異変を示します。
逆に顔や頬がいつもより赤い場合は発熱によるほてりかもしれません。
皮膚に発疹や赤み、腫れ、熱感が出ていないかもチェックしましょう。
例えば帯状疱疹なら身体の片側に強い痛みを伴う発疹が現れますし、疥癬(ヒゼンダニ感染症)なら指の間などに小さな水疱や激しいかゆみが出ます。
また褥瘡(床ずれ)部位の発赤・腫れ・膿も感染徴候です。
入浴介助や清拭の際には、全身の皮膚状態をしっかり観察しましょう。
痛みの訴え:
高齢者は痛みを我慢したり、うまく表現できないことがあります。
それでも「どこか痛いところはないですか?」と尋ねると「実は…」と教えてくれる場合があります。
痛みの部位・程度・タイミングを聞き出しましょう。
「飲み込むと喉が痛い」は咽頭炎や扁桃炎の可能性、「咳や深呼吸で胸が痛む」は肺炎の可能性、「排尿時に痛い」は尿路感染症のサインです。
痛みは体の異変を知らせる重要なシグナルなので、見逃さずキャッチします。
ケース例:有料老人ホームのEさん(90歳)は軽度認知症がありますが、普段はスタッフに笑顔を向け穏やかに過ごしています。しかしこの日は朝から元気がなく、表情も暗め。声をかけても生返事で、ずっと椅子に座りうつむいていました。食事も半分以上残しています。職員が「どこか痛いですか?」と尋ねると、Eさんは「なんだか寒くて、頭も痛いの」とポツリ。体温は38.1℃、少し咳も出始めており、すぐに医師に連絡し受診となりました。診断は肺炎で、そのまま入院となりました。振り返ると朝の時点で「笑顔がない」「元気がない」という全身状態の変化から体調不良を察知できており、早期発見に繋がったケースです。
以上のように、全身状態を観る観察スキルは総合力と言えます。
「なんとなくおかしい」「いつもと違う」という直感も大切に、遠慮せずバイタルチェックや詳しい観察に踏み込んでください。
利用者さんの日常をよく知る介護職だからこそ気付けるサインがあります。
実践チェックリスト
最後に、本記事の内容を踏まえて感染兆候の観察チェックリストをまとめます。
日々のケア現場で「利用者さんのいつもの状態」を知り、以下のポイントに変化がないか確認しましょう。
少しでも異変を感じたら、早めに看護職員や医師に相談・報告することが大切です。
☑ 意識・様子
いつもよりぼんやりしていないか?反応が遅かったり表情が暗くないか?
☑ 体温
発熱はないか?体が熱っぽい、またはいつもより寒がっていないか?
☑ 顔色
顔や唇の色が悪くないか(青白い、紫色になっていないか)?逆に赤ら顔になっていないか?
☑ 呼吸
呼吸が荒く速くなっていないか?咳込む回数が増えていないか?痰の様子は普段と違わないか?
☑ のど・鼻
のどの痛みを訴えていないか?声がかれていないか?鼻水やくしゃみが増えていないか?
☑ 食事・水分
食欲は普段通りあるか?食事の食べ残しや飲み込みづらさ(むせ)はないか?水分摂取量は足りているか?
☑ 嘔吐・吐き気
吐き気を訴えていないか?嘔吐があれば回数や量・内容に異常は?
☑ 排泄(便)
下痢や軟便は出ていないか?便に血や粘液が混じっていないか?逆に便秘がひどくなっていないか?
☑ 排泄(尿)
尿の色が濃く濁っていないか?強い臭いはないか?トイレの訴え回数が急に増減していないか?排尿時に痛みを訴えていないか?
☑ 皮膚
発疹や発赤が出現していないか?掻きむしる様子や「かゆい」との訴えはあるか?腫れて熱を持っている部位はないか?
☑ 痛み
頭痛や関節痛、腹痛など「痛い」と言う箇所はないか?どの程度の痛みか、いつからか把握できているか?
以上のチェックポイントを日常ケアの中で自然に組み込んで観察することが、感染兆候を見逃さない秘訣です。
例えば「1ケア1観察」を心がけましょう。
トイレ介助中は尿や意識状態の観察、食事介助中は食べる様子や咳込みの観察、入浴介助では皮膚の観察…というように、日常業務と観察をセットにします。
介護職は利用者さんに最も身近に寄り添う存在です。
その強みを活かして「おかしいな」と思ったら素早く気付き、チームに共有しましょう。
高齢者は抵抗力が弱く早期発見・早期対応が命を守ります。
今回紹介した5つの観察スキルを活用し、利用者さんの健康を守る頼れる介護職員としてぜひ現場で実践してください。
あなたの観察眼が、利用者さんの笑顔と安全な生活を守る大きな力になります。
おわりに
いかがだったでしょうか。
感染症の兆候は、ほんのわずかな変化として現れることが少なくありません。
今回ご紹介した「5つの観察スキル」は、日々のケアの中で自然に活かせるものばかりです。
利用者さんの「いつもと違う」を見逃さず、早めに気づき、チームで連携することが、感染拡大の防止と命を守ることにつながります。
特別な医療知識がなくても、介護職だからこそ気づける視点があります。
この記事を研修や日々の振り返りに活用しながら、より安全で安心な介護現場づくりにお役立てください。
あなたの“観察力”が、利用者さんの笑顔を守る一歩です。
それではこれで終わります。
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