現場では、怒りや悲しみといった強い感情に直面する場面が少なくありません。
利用者さんやご家族から怒鳴られたり、それに対して職員が思わず涙してしまったりと、感情が大きく揺れる出来事が起こりがちです。
こうした「感情労働」の連続の中で働く介護職員にとって、感情に振り回されず上手に対応する力が求められています。
では、なぜ「感情対応」への研修が必要なのでしょうか。
近年、介護施設ではアンガーマネジメントなど感情をコントロールする研修が増えてきています。
怒りの感情への対処法を学ぶことでトラブルを回避し、より良いケアにつなげる狙いがあります。
また、職員自身のメンタルヘルスを守り離職を防ぐためにも、感情対応スキルは欠かせません。
この記事では、介護職員の皆さんに向けて、現場で役立つ感情対応の基本知識と具体的なスキル、そして研修で使えるワークをご紹介します。
やさしい語り口でまとめていますので、リラックスして読み進めてください。
怒鳴る家族の背景には何がある?
利用者さんのご家族が感情的になり、思わず職員に怒鳴ってしまうことがあります。
その怒りの裏側には何が潜んでいるのでしょうか?
実は、「怒り」は二次感情とも言われ、本当の原因は不安や悲しみ、焦りなど別の感情である場合が多々あります。
例えば「なぜもっと早く呼ばなかったんだ!」という怒鳴り声の裏には、「大切な家族の異変をすぐ知らせてもらえず不安だった」「自分がそばにいてあげられなかった悔しさ」などの一次感情が隠れているかもしれません。
また、目の前で怒りをぶつけてくる人も、本当の怒りの原因は目の前の出来事ではなく別のところにあることが少なくありません。
介護疲れや先の見えない不安、施設への期待が裏切られた思いなど、様々な背景が考えられます。
「怒鳴られてつらい…」と感じたときこそ、「怒っているのは私個人のせいじゃない」と心の中で念じてみましょう。
ご家族の厳しい言葉に真正面からぶつかるのではなく、「この方はそれだけ切羽詰まった気持ちなんだ」と受け止めることで、少し冷静になれるはずです。
泣き出す職員の心の中にあること
一方、介護スタッフ自身が感情的になって涙を流してしまう場面もあります。
同僚が利用者さんの訃報を聞いて号泣したり、厳しい叱責を受けて思わず涙ぐんだり…。
職員が泣いてしまうとき、その心の中では何が起きているのでしょうか。
大きな原因の一つは、「共感疲労」です。
介護職は日々利用者さんやご家族のつらい状況に寄り添う中で、自分も同じように悲しみや苦しみを感じて心が疲弊してしまうことがあります。
優しい性格の人ほど感情移入しやすく、他人の悲しみを自分のことのように受け止めて疲れてしまう傾向があります。
積もり積もったストレスや心の負担が限界に達したとき、人は涙となって感情が「噴き出す」ことがあります。
つまり、涙は決して弱さの表れではなく、「強さの限界」がこぼれ出た結果なのかもしれません。
実際、介護現場では「泣いて吐き出すことで翌日からまた頑張れる」というカタルシス(心の浄化作用)も認められています。
大切なのは、泣いてしまう職員本人も周囲も「涙を否定しない」ことです。
人の死に直面して涙が出るのは人間として自然な感情であり、プロでも泣いてはいけないなんてことはありません。
かえって、涙をこらえ続けるほうが心に負担を溜めてしまいます。
涙にはストレス物質を排出し脳内のリラックス物質を分泌する効果があり、泣くことは心身に良い作用をもたらすとも言われます。
ですから、同僚が涙を流したときは「感情を発散できているんだな」と前向きに捉え、安心して泣ける場を整えてあげましょう。
「感情」は悪者ではない
怒りにせよ悲しみにせよ、感情そのものを悪者扱いしないことが肝心です。
「怒ること自体は悪ではない。大切なのはその感情とどう向き合うか」という言葉もあります。
怒りは本来、自分や大切な人を守ろうとする防衛反応であり、「もっと良くしたい」「ちゃんとやりたい」という想いの裏返しでもあります。
したがって、その感情自体を否定せず上手に付き合うことが重要なのです。
涙についても同様です。
「泣いてしまうなんてプロ失格?」と悩む必要はありません。
涙は人間らしさの証であり、感じる心があるからこそ出るものです。
特に介護のような人と人との関わりでは、感情を伴わずに仕事をすることは不可能です。
無理に感情を押し殺すより、適切に表現しコントロールする方が健全でしょう。
先輩方の中には「それだけ真剣に向き合っている証拠だよ」と肯定してくれる方もいます。
ポイントは、感情に飲み込まれずに「今自分は何を感じているのか」を自覚しつつ、そのエネルギーを利用者さんへのより良いケアにつなげていくことです。
怒りに対してどう接する?
利用者さんやご家族の怒りに直面したとき、介護職員はどう対応すれば良いでしょうか。
鍵となるのは「傾聴」と「共感」です。
まず相手の話を最後まで遮らずに聞くことを最優先します。
事実と異なる主張や理不尽な点があっても途中で訂正したり反論したりせず、相手の言葉を全部受け止める姿勢を示しましょう。
怒っている相手はこちらの話を聞ける状態ではないため、沈黙も一つの対応です。
相手が一通り話し終えるまで頷きながら静かに耳を傾けます。
感情的になっている人は、自分の思いを吐き出すだけでも少し落ち着くものです。
うなずきや相槌は、「聞いています」「理解しようとしていますよ」というサインになります。
機械的ではなく相手のペースに合わせ、ゆっくり頷いたり「ああ」「そうでしたか」などと合いの手を入れましょう。
また、相手の言葉の繰り返しや言い換えも有効です。
相手の発したキーワードをこちらの言葉で復唱すると、「ちゃんと理解しようとしている」と感じてもらえます。
何より大切なのは共感の言葉をかけることです。
怒っている人に対してはまず事実関係の説明より先に「感情のおもみ」を受け止めます。
例えばご家族が「なんでもっと早く連絡くれなかったの!」と怒鳴っている場合、「ご心配だったのですね」「急なことで驚かれましたよね」と相手の不安や怒りを代弁する言葉を先に伝えます。
これは相手の気持ちに寄り添う第一声で、相手も「自分の感情をわかってもらえた」と感じ、少し落ち着きを取り戻す効果があります。
共感するときのコツは、「わかります」と簡単に言い切らずに、相手の感情を具体的に言語化することです。
たとえば「腹が立っているんですよね」「大変つらい思いをされましたね」といった具合です。
こうした一言で相手の感情に寄り添った後は、説明やこちらの意見表明はワンテンポ置いて行います。
感情を受け止めてもらえた相手は、先ほどより耳を傾けてくれるでしょう。
静かに事実を説明したり謝罪すべきことは謝罪します(※理不尽なクレームでもまず「不安にさせてしまい申し訳ありません」とお詫びする姿勢は有効です)。
決して感情的に言い返したり、焦ってまくしたてたりしないよう注意します。
何を言われても動じない落ち着いた対応こそが、怒りを鎮める近道です。
泣き出した職員にかけるひとこと
一緒に働く同僚が涙をこぼしてしまったとき、周囲はどんな声掛けをすれば良いでしょうか。
まず大前提として、泣いている人の感情を否定しないことが何より大切です。
よくやりがちなのが「あんまり泣かないで」「もう大丈夫だから泣くのはやめて」といった言葉ですが、これは本人の感情を押し殺す結果になりかねません。
泣いている本人も「泣いてごめんなさい…」と自己嫌悪に陥ってしまう恐れがあります。
代わりに、受容的で温かい一言をかけましょう。
「大丈夫だよ」「ゆっくりでいいよ」「我慢しなくていいよ」。
そんな短いフレーズでも、相手の感情を受け入れるメッセージになります。
「みんな同じように感じるよ」「つらかったね」といった共感の言葉も良いでしょう。
要は、「泣いてしまうのはおかしなことじゃないよ」「ここは泣いてもいい場所だよ」と安心させてあげることが目的です。
「涙が出ることは悪いことではありません」と強調しつつ、「大丈夫」「無理しなくていい」といった受容的な声掛けをしましょう。
例えば「感情があふれるときもあるよね。無理しなくて大丈夫だから、落ち着いたらまた話そうか」と伝えれば、相手は「ああ、自分のこの状態をわかってくれている」と感じられます。
そして、そっと寄り添い、安心できる場を作ることも忘れずに。
同僚が人目もはばからず泣いてしまっているなら、可能であれば人の少ない場所へ誘導したり、「少し外の空気を吸いに行こうか」と席を外す提案をしてみても良いでしょう。
職員が泣くことに理解のある職場風土を築くのも大事です。
先輩や上司は「あなたが泣いてしまうほど頑張ったということだよ。素晴らしいことだ」と肯定的に受け止めてあげてください。
涙が引いたあとには、「気持ちが落ち着くまで休んでね」「何かあったら話聞くからね」と声を掛け、フォローしてあげると本人も救われます。
自分自身の心を守るには
感情的な利用者さんやご家族に対応していると、こちらまで怒りや悲しみの渦に飲み込まれそうになることがあります。
介護職員自身が自分の心を守るためにできる工夫を押さえておきましょう。
まず「感情をもらいすぎない」心構えです。
相手の怒りや悲しみに共感することは大切ですが、同調しすぎて自分まで深く傷ついてしまっては長く働けません。
必要以上に自分を責めたり「自分のせいだ…」と感じるのを防ぐために、心の中で境界線を引くイメージを持ちましょう。
先述のとおり、怒りをぶつけられたときは「これは私個人への攻撃ではない」と思い起こすだけでも、自責の念や恐怖心が和らぎます。
また、激しく興奮した利用者さんへの対応は決して一人で抱え込まないことも重要です。
相手が怒鳴り散らしていたり暴力の危険がある場合には、すぐ他の職員に協力を求めましょう。
複数人で対応すれば物理的にも心理的にも余裕が生まれますし、「自分だけでなんとかしなきゃ」というプレッシャーも減ります。
次にストレスの逃がし方を日頃から持っておくことです。
仕事で受けた感情的なストレスは、意識的に発散しないと蓄積してしまいます。
まず基本はしっかり休むこと。十分な睡眠をとり、疲れた心身をリセットしましょう。
疲労困憊だと感情のコントロールもうまくできなくなってしまいます。
加えて、自分なりの趣味や気分転換の時間を確保するのも有効です。
「これをしているときは仕事のことを忘れて楽しめる!」というものが一つでもあると違います。
カラオケで大声を出す、運動で汗を流す、好きな音楽を聴く、おいしいものを食べる…なんでも構いません。
意識的に心のガス抜きをしてあげましょう。
同僚に話を聞いてもらうのも立派なストレス解消法です。
信頼できる仲間に悩みや愚痴を吐き出せば心が軽くなります。
同じ介護現場で働く者同士、共感し合えることも多いでしょう。
職場で日常的に「支え合い」ができる環境を作れると理想的です。
たとえばイライラしている職員がいたら他の人が「大丈夫?少し休憩しよう」と声をかけ交代するといったフォローもできます。
お互い様の精神で助け合えば、一人で感情を抱え込み「心のコップ」を満杯にしなくて済みます。
そして、もし自分の感情が爆発しそうになったら、その場を一旦離れる勇気も持ってください。
トイレに行って顔を洗う、深呼吸をする、6秒数えるなど、怒りのピークをやり過ごすテクニックも有効です。
感情的になったまま対応を続けると事態は悪化しがちですから、「ちょっと失礼します」と数分席を外れるのは決して悪いことではありません。
自分の心の安全を確保してこそ、利用者さんの安全・安心も守れます。
よくある事例と対応例
ここからは、介護現場で実際によく起こりうる感情的な場面の具体例を挙げ、その対応方法を考えてみましょう。
研修でも使いやすいよう、ケーススタディ形式で紹介します。
事例①「なぜもっと早く呼ばなかった!」とご家族に怒鳴られた場合
【ケース】
夜間に利用者さんの容体が急変し、朝になってから主治医とご家族に連絡・報告をしたところ、駆けつけたご家族から「なんで、もっと早く連絡をくれなかったんですか!」と怒鳴られてしまいました。
マニュアルに沿った対応をしたものの、ご家族は強い口調で職員を責め立てています。
【背景】
ご家族は連絡が遅れたことに対する不安と怒りで感情的になっています。
大切な家族の異変を知らされなかったことで、「見捨てられたのでは」「もっと早ければ何かできたのでは」という焦りや後悔の気持ちが渦巻いているのかもしれません。
【対応例】
まずは事実関係より先に、相手の感情に共感します。
職員はご家族に向き直り、深くお辞儀をしながら落ち着いた声で「ご心配だったのですよね。突然のことで本当に驚かれましたよね…」と声をかけました。
この一言に、ご家族は「そうなんだ、私は心配でたまらなかったんだ」と自分の気持ちを受け止めてもらえた感覚を持ち、表情に少し変化が見られました。
その後職員は、「連絡が遅くなってしまい申し訳ありません」としっかり謝罪しました。
ここでもすぐ言い訳はせず、お詫びと共感を優先したのがポイントです。
ご家族が一通りお気持ちを話し終えたのを確認してから、職員は経緯の説明を始めました。
「夜間に状態が急変し、まずは主治医に連絡して指示を仰ぎました。命に別状がないことを確認し経過を見守っておりましたが、深夜でしたのでご連絡が朝になってしまいました。ご心配をおかけして本当に申し訳ありません」。
ここで初めて事実関係を述べたのです。
ご家族は依然として不満げでしたが、職員が最後まで黙って自分の話を聞いてくれたことで、最初の激しい怒りは次第にトーンダウンしていました。
感情的なクレーム対応の基本は「事実より感情を先に受け止める」ことと、「説明や弁解はワンテンポ遅らせる」ことです。
反論したい気持ちをぐっとこらえ、相手の言葉を遮らず最後まで傾聴したこの職員の対応は理想的でした。
結果としてご家族は徐々に落ち着きを取り戻し、「ちゃんと話を聞いてもらえた」と感じることで信頼関係の再構築にもつながりました。
クレームの裏には期待や不安がある。その奥底の感情に寄り添う姿勢が、怒りを鎮める鍵です。
事例②:利用者さんの訃報で職員が号泣してしまった場合
【ケース】
長年施設を利用していたAさんが亡くなりました。
最期を看取った職員Bさん(新人)は、Aさんに深く愛着を感じていたこともあり、ご家族へ電話で訃報を伝えた直後に堪えきれず号泣してしまいました。
その場に居合わせた先輩職員や上司も対応に戸惑っています。
【背景】
Bさんは初めて担当利用者を亡くし、悲しみとショックで心のコントロールを失っている状態です。
プロ意識の高いBさんほど「仕事中に泣くなんて…」と自分を責める気持ちもあるかもしれません。
しかしそれ以上に、長年ケアしてきたAさんとの別れがつらく、感情が溢れ出ている状況です。
【対応例】
周囲の職員はまずBさんのそばに駆け寄り、肩にそっと手を置きました。
「泣いてしまってごめんなさい…プロ失格ですよね…」と絞り出すBさんに対し、先輩職員は優しく首を振りながら、「泣いて当然だよ。Aさんのこと大事に思ってたんだもん。」と声を掛けました。
さらに上司も「人の死に涙が出るのは、人間として当たり前のことだよ」と伝え、Bさんの手を握りました。
Bさんは「ありがとうございます…」とさらに涙を流しつつも、次第に表情がほころび、安心した様子が伺えました。
その後、上司はBさんに「落ち着くまで少し休憩しておいで」と提案し、別室で休むよう勧めました。
他の職員は、代わりにご家族対応や必要な処置を引き継ぎ、Bさんが安心して涙を流せる時間と空間を確保しました。
Bさんはしばらくして泣き止むと、目を赤く腫らしながらも「すみませんでした。でも少しスッキリしました…」と戻ってきました。
上司は「泣いたことを謝る必要はないんだよ。むしろAさんも君みたいな人に見送られて幸せだったと思う」と声を掛け、Bさんをねぎらいました。
職員の「悲しみの感情」を職場全体で受け止めることができた好例です。
「仕事中に泣いてはいけない」という固定観念に囚われず、周囲が泣くことを許容し温かく支えることで、Bさんは自分の感情を安心して表出できました。
「なんで泣いちゃいけないの?」という問いかけがあるように、人の最期に立ち会って涙するのは自然なことであり、それだけ真剣に向き合った証でもあります。
大切なのは、一人で抱え込ませずチームでフォローすることです。
今回のように上司自らが涙を肯定する発言をしたことは、職員にとって大きな救いになりました。
また、他の職員がテキパキと業務を引き受けたことで、Bさんは安心して気持ちを落ち着けることができました。
「泣くなんてダメだ」と叱責するのではなく、「あなたの気持ちがわかるよ」と伝えることで、職員同士の信頼も深まるでしょう。
事例③:同僚の強い口調に職員が感情的に反応してしまった場合
【ケース】
夜勤中、ある業務ミスをめぐって職員CさんとDさんの間でトラブルが発生しました。
Dさん(先輩)が苛立った様子できつい口調で注意したところ、指摘されたCさん(後輩)は悔しさと悲しさでいっぱいになり、「そんな言い方ないじゃないですか!」と感情的に声を荒らげてしまいました。
以後二人の空気は険悪になっています。
【背景】
先輩Dさんは人手不足や業務の忙しさから心に余裕がなく、つい語気を荒らげてしまいました。
一方、後輩Cさんはミスを責められたショックと、Dさんにきつく詰め寄られた恐怖・悔しさから感情が爆発しています。
職員同士の衝突は、お互いに「わかってほしい」という気持ちがうまく通じないときに起こりがちです。
【対応例】
もしあなたがこの場に居合わせた第三者なら、クッション役になりましょう。
例えば他の同僚が間に入って「まあまあ、落ち着いて。Cさんも今は動揺してるみたいだから、一旦休憩しよう」と場を収めることもできます。
また上司がいる場合は、すぐに気づいて二人を引き離し、それぞれ別々に話を聞くのも手です。
今回は同僚Eさんがその場で仲裁に入りました。
Eさんはまず怒りで震えるCさんに小声で「大丈夫、落ち着いてね」と声をかけつつ、Dさんに対しては「後で改めて話し合いましょう。今は少し時間をおきませんか」と提案しました。
Dさんも興奮していましたが、第三者に促されてハッとし、「わかった…」とその場を離れました。
CさんにはEさんが付き添い、人気のない廊下で深呼吸するよう促しました。
Cさんは涙ぐみながら「私だって頑張ってるのに…あんな言い方ひどいです」と吐き出しました。
Eさんは「つらかったね。びっくりしたよね」とCさんの感情に共感しつつ、「Dさんも焦ってたんだと思う。でも、あの言い方はきつかったよね」と双方の状況を整理して伝えました。
少し落ち着いたところで、「この後どうしようか。もしよければ上司にも相談して一緒に話そう」と提案し、Cさんも頷きました。
後日、上司立ち会いのもとDさんとCさんが冷静に話し合う場が設けられました。
Dさんは「あのときはごめん。言い方がきつかった」と謝罪し、Cさんも「感情的になって申し訳ありませんでした」と頭を下げました。
お互いの言い分と気持ちをじっくり話すことで誤解も解け、最後には握手を交わして和解しました。
職員同士の感情的衝突は、早めの仲裁と対話が重要です。
感情が高ぶった状態ではお互いに冷静さを欠いているため、一旦クールダウンする時間と場を設けることが解決への第一歩になります。
第三者が「ちょっと休みましょう」と声をかけ、物理的に引き離すのは有効な手です。
その際、双方の気持ちを否定せず「どちらも今は感情的になっている」という事実を伝えましょう。
落ち着いてから対話の場を持てば、本当は何に怒りや悲しみを感じたのかを冷静に言葉にできます。
今回も、Dさんは「利用者さんの安全が心配で焦っていた」、Cさんは「頭ごなしに否定されて悲しかった」という本音をお互い知ることができました。
感情の奥にあるニーズや不安に気付けば、今後は「どう伝えるか」「どうフォローするか」の工夫も生まれるでしょう。
また、普段から職場内で感情を共有し合える“安心の空気”を作っておくことも大切です。
「怒りっぽい先輩」「すぐ泣く後輩」などとレッテル貼りするのではなく、お互いの感情に気付き、声を掛け合う文化を育ていきましょう。
例えば、「最近疲れていそうだけど大丈夫?」と声をかけたり、忙しい時ほど「ありがとう」「助かったよ」といった労いの言葉を意識的に伝えるだけでも違います。
同僚同士が感情を表しやすく支え合える職場は、結果的に対人トラブルも減り、みんなが気持ちよく働ける環境につながります。
実践ワーク・研修に使える問い
感情対応力を高めるには、実際に手を動かしたり声に出したりするワークショップ形式の研修も効果的です。
ここでは、そのまま使える問いかけや練習方法をご紹介します。
ぜひ職場の研修や勉強会で活用してみてください。
それぞれの立場の気持ちを書き出してみよう
まず、おすすめしたいのは視点転換の練習です。
先ほど取り上げたような事例について、登場人物それぞれの感情を想像し箇条書きで書き出してみるワークです。
例えば事例①では、
利用者さんのご家族:「呼ばれなかった」ことへの不安、悲しみ、苛立ち、「大切な親を守りたい」という強い思い
職員:怒鳴られたショック、申し訳なさ、悔しさ、「誠実に対応したい」という思い
利用者さん本人:苦痛や不安(※意識があれば)
といった具合に、各立場の胸中にある感情をできるだけ具体的に書いてみます。
ポイントは「怒り」なら一次感情である「不安・心配」「寂しさ」「悔しさ」などにまで踏み込むことです。
研修ではグループごとに模造紙や付箋に書き出し、発表し合うと良いでしょう。
自分とは異なる立場の感情を想像するプロセスは共感力を養う訓練になりますし、「相手の怒りの奥にはこんな気持ちがあったのか」と気付くことで対応策も見えてきます。
感情に気づく・ことばにする練習
感情対応力の基礎となるのは、自分の感情に気づき適切に言語化する力です。
そこで、日常的に以下のような練習を取り入れてみましょう。
感情チェックイン:
朝礼やミーティングの冒頭に「今の気分を一言で」順番に共有する時間を作ります。
「疲れてます」「ちょっと不安です」「元気いっぱいです」など、シンプルでOKです。
自分の感情を認識し言葉に出す習慣がつくと、ストレスサインにも早めに気付けますし、お互いのコンディションを知ることでチーム内の思いやりも生まれます。
出来事と感情の振り返り:
介護記録とは別に、感情の日誌をつけてみるのも有効です。
「今日利用者さんに◯◯と言われて悲しかった」「◇◇ができて嬉しかった」など、その日の出来事と感じた感情を書き留めます。
時間が経ってから振り返ると、「なぜ自分はあのとき怒ったのか?」「本当は何に悲しんでいたのか?」と客観視でき、感情のパターンに気付くことができます。
これも立派なトレーニングです。
感情ことばのボキャブラリーを増やす:
研修ではよく感情カード(さまざまな感情を表す言葉が書かれたカード)を使ったゲームなども行われます。
「嬉しい」「悲しい」だけでなく「もどかしい」「誇らしい」「疎外感」など多彩な言葉を知ると、自分や他者の感情をピタリと言い表すことができるようになります。
それにより、感情に振り回されるのではなく適切に扱う力が高まります。
ロールプレイやミニ振り返りの提案
ロールプレイ(役割演習)は感情対応スキルの研鑽にとても効果的です。
研修参加者が利用者さんや家族役、介護職員役に分かれて特定の場面を演じ、その対応を練習します。
例えば事例①の怒鳴る家族役と謝る職員役を演じてもらい、傾聴・共感のスキルを実践してみるのです。
ロールプレイの目的は「相手の考えや感情を理解し、適切な対応を学ぶこと」にあります。
演じる中で感情を疑似体験すると、「こう言われたら腹が立つな」「こんな対応をされたら安心するな」ということが肌感覚で理解できます。
終わった後でグループ全員でフィードバックし合えば、良かった点・改善点も共有できます。「もっと声のトーンを落としてみては?」「この一言が効果的だった」といった具合に意見を出し合いましょう。
それにより伝え方の工夫も身につき、実際の現場で役立つ引き出しが増えます。
緊張するかもしれませんが、失敗しても安全な場で何度も練習することでメンタル面も鍛えられます。
時間がない場合でも、ミニ振り返りの機会をぜひ設けてください。
夜勤明けの引き継ぎ時や定例会議の際に5分だけ、「最近ヒヤッとした感情対応の場面は?どう対応したか?」を各自発表するのです。
経験をシェアすることで「あなただけじゃないよ、みんなあるよ」と安心できますし、先輩からアドバイスをもらって次への学びにもつながります。
このように感情にまつわる出来事をチームで共有し知恵を出し合う取り組みは、職場全体の対応力向上に寄与します。
おわりに
いかがだったでしょうか。
介護現場では様々な感情が渦巻きますが、感情に振り回されず丁寧に向き合うことで、より良いケアと職場環境を生み出すことができます。
怒りや悲しみといった感情そのものを否定するのではなく、「なぜその感情が生まれたのか」「どうケアすれば落ち着くだろうか」と考えながら対応する姿勢が大切です。
怒りに対しては傾聴と共感で受け止め、悲しみに対しては寄り添いと支え合いで包み込む、そんな感情対応力をぜひ現場で発揮してください。
この力は一朝一夕に身につくものではありません。
しかし、経験を重ねるごとに少しずつ育まれていくものですし、チームでお互いに支え合うことでより強く伸びていきます。
現場で起きた感情的な出来事も「共有して学びに変える」ことでスタッフ全員の財産になります。
まさに「クレームはチャンス」「ピンチは成長の種」です。
困ったときは仲間に相談し、お互いの心の支えになりましょう。
そうした職場の連帯感こそが、利用者さんにとって安心できる空気を作り出す土壌にもなります。
最後にもう一度強調します。
感情対応力は「経験」と「支え合い」で育つもの。
現場での一つひとつの出会いと出来事を糧に、そして仲間と励まし合いながら、ぜひ明日からも実践に活かしてみてください。
あなたの優しい対応が、怒りに震えるご家族の心を解きほぐし、涙に暮れる同僚の心を軽くするはずです。
お読みいただきありがとうございました。
明日からの介護現場で、少しでも笑顔と安心が増えますように。
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