【介護施設】利用者同士のトラブル対応研修|具体例つき
- 利用者同士のトラブル対応に悩んでいる方
- 認知症の方への関わり方に自信がない方
- 現場での正しい初期対応を学びたい方
- 新人スタッフの指導を任されている方
- 施設内研修の資料を探している方
介護現場で多くのスタッフを悩ませるのが、利用者同士のトラブルです。
「席を取られた」「悪口を言われた」などの口論は、周囲の不安にもつながります。
しかし、どのように介入すべきか迷う場面も少なくありません。
本記事では、トラブルが起きる原因を整理したうえで、基本となる初期対応の流れと、現場ですぐ使える具体的な対応例(OK・NG)を分かりやすく解説します。
研修や新人指導にも活用できる実践的な内容です。
この記事を読むメリット
介護現場で「利用者同士のトラブル」が起きる理由

具体的な対応策を知る前に、まずは「なぜトラブルが起きるのか」という根本的な原因を理解しておくことが重要です。
理由は大きく分けて3つあります。
①認知症の症状によるもの
記憶障害によって「自分の物を盗まれた」と誤認する物盗られ妄想や、感情のコントロールが難しくなる前頭側頭型認知症の症状などが原因で、悪気なく他者を攻撃してしまうことがあります。
②環境変化・集団生活のストレス
長年自分のペースで生活してきた高齢者が、急に「集団生活」を強いられること自体が大きなストレスです。他人の生活音や、見知らぬ人が常に視界に入る環境に疲弊し、些細なことで苛立ってしまうのです。
③元々の性格やこだわりの強さ
「自分の場所はここ」「こういうルールであるべき」という長年の価値観やマイルールが強い方は、それにそぐわない他者の行動を許容できず、衝突しやすくなります。
介護士に求められるのは、「どちらが悪いか」を裁く裁判官になることではありません。
お互いのストレスを最小限に抑え、安全に生活できるよう環境を調整する「クッション」としての役割を果たすことです。
【基本ステップ】トラブル発生時の正しい初期対応
いざ目の前でトラブルが発生した際、焦って力任せに止めに入ったり、大声を出したりするのは逆効果です。
以下の4つのステップを基本行動として頭に入れておきましょう。
ステップ①:速やかな引き離しと安全確保
怒鳴り合いや手が出そうな状況であれば、まずは物理的な距離を取ることが最優先です。
「〇〇さん、少しお茶を飲みに行きましょうか」「こちらのお部屋で話を聞かせてください」と、スタッフが間に入って速やかに別の場所へ誘導します。
ステップ②:双方の言い分を個別に「傾聴」する
別々の場所に誘導したら、必ず1対1の状況で話を聞きます。
この時、「あなたが悪い」と否定したり、「まあまあ、落ち着いて」と感情を蓋をするような言葉は避けてください。
「〇〇さんは、そう思われたのですね」「それは腹が立ちましたね」と、まずは本人の感情(それぞれの正義)を受け止めることが大切です。
ステップ③:事実確認と記録
双方が落ち着いたら、客観的な事実を記録に残します。
例:筆者の施設での取り組み
私の勤務する施設では、トラブル発生時の記録において「事実」と「スタッフの推測・感情」を明確に分けて書くことを研修で徹底しています。 例えば、「AさんがBさんに怒っていた」と書くのではなく、「Aさんが『ここは私の席だ』と大声で叫び、Bさんの肩を小突いた」と事実のみを記載します。これにより、後からケアマネジャーや他のスタッフが見た際に、誰でも正確な状況把握ができるようになります。
ステップ④:チーム・多職種での情報共有
トラブルの経緯と対応は、必ずその日のうちに申し送りや介護記録ツールで全スタッフに共有します。
個人の問題として抱え込まず、施設全体の課題として捉えることが重要です。
よくあるトラブル3選とOK・NG対応例
ここからは、現場で特に頻発する3つの事例をピックアップし、具体的なOK対応とNG対応を解説します。
施設内研修のロールプレイングの題材としてもご活用ください。
事例①:物や場所の「これ私の!」トラブル
デイルームのお気に入りの席や、テレビのチャンネル、または他人の杖や衣類を自分の物だと思い込んで起きてしまうトラブルです。
❌ NG対応:「ここは皆さんの場所ですよ」「これは〇〇さんの物だから返してください!」と正論で説得する。
認知症の方にとって、自分の見えている世界こそが「現実」です。それを真っ向から否定されると、自尊心が傷つき、「スタッフも敵だ」とさらに興奮させてしまいます。
⭕ OK対応:理由を否定せず、別の魅力的な提案(代替案)をして環境を調整する。
「〇〇さん、あちらの席の方が景色がよく見えて暖かいですよ」「お茶が入ったので、こちらで一緒に飲みませんか?」と、意識を別のものに向けさせます。
例:筆者の施設での体験談
私の施設でも、食卓の「いつもの席」を巡るトラブルが絶えない時期がありました。そこで、ご自身の名前を大きく書いた可愛らしい「卓上ネームプレート」を置くように環境調整を行いました。視覚的に「自分の居場所」が明確になったことで安心されたのか、席を巡る争いはパタリとなくなりました。
事例②:認知症の症状による「暴言・不穏」トラブル
言葉がうまく出ないもどかしさや、被害妄想から、他の利用者さんに強い口調で怒鳴ってしまったり、威圧的な態度をとってしまうケースです。
❌ NG対応:「他の人が怖がっているから怒鳴らないで!」「静かにしてください!」と介護士が強い口調で制止する。
強い言葉で押さえつけようとすると、火に油を注ぐ結果になります。
認知症による「不快感」や「不安」が怒りとして表出しているため、言葉そのものより背景にある感情を見る必要があります。
⭕ OK対応:興奮している「動機」に焦点を当て、場面展開を図る。
「〇〇さん、何かお困りですか?」「お疲れではないですか?少しあちらで休みましょう」と、まずは共感の姿勢を示します。
トイレに行きたい、お腹が空いた、部屋が暑いなど、怒りの裏にある生理的・心理的欲求を満たすことで、スッと穏やかになるケースが多々あります。
事例③:「気が合わない」人間関係のトラブル
特定の利用者さん同士の相性が悪く、陰口を叩いたり、レクリエーションのグループから意図的に排除しようとするケースです。自立度が高い利用者さんの間で起きやすいトラブルです。
❌ NG対応:「みんな仲良くしましょうよ」「大人なんだから我慢してください」と理性に期待する。
学校のクラスと同じで、どうしてもウマが合わない人は必ずいます。無理に仲良くさせようとするのは、双方にとって多大なストレスになります。
⭕ OK対応:物理的な距離を保ち、それぞれの「役割」を作って意識を分散させる。
席配置や送迎の車を意図的に別にするなど、可能な限り接触の機会を減らします。
例:筆者の施設での体験談
私の勤務先では、スタッフ間で「利用者さんの相性マップ」を常にアップデートし、シフトの申し送り事項として必ず確認するようにしています。どうしても同じ空間にいなければならない時は、一方の方には「タオルの三つ折り作業」、もう一方の方には「カレンダー作りの色塗り」など、別々の『役割(仕事)』をお願いしています。自分の仕事に集中していただくことで、他者への関心や干渉を自然に減らすことができています。
トラブル対応で心がけたい3つのマインド
トラブル対応を重ねると、介護士自身も精神的に疲弊してしまいます。
スタッフがバーンアウト(燃え尽き症候群)を防ぐためにも、以下の3つのマインドを施設全体で共有しましょう。
「どちらが良い・悪い」の審判にならない
介護士は警察でも裁判官でもありません。
表面的には「暴言を吐いた側」が悪く見えても、そうさせてしまった要因(痛みを我慢していた等)があるかもしれません。
常にフラットな目線を持ちましょう。
感情に巻き込まれない「一歩引いた視点」を持つ
利用者さんの怒りの感情にあてられて、スタッフまでイライラしてしまっては悪循環です。
「この方は今、病気(認知症)のせいで不安なんだな」と、プロとして感情の切り離し(アンガーマネジメント)を行うことが大切です。
絶対に「一人」で抱え込まず、組織で対応する
「自分が担当の時にトラブルが起きてしまった…」と落ち込む必要はありません。
トラブルは誰のシフトでも起こり得ます。
一人で解決しようとせず、リーダーや看護師、ケアマネジャー等、必ずチームで相談して対応策を練ってください。
施設全体で取り組むべき再発防止策
その場しのぎの対応で終わらせず、施設全体のケアの質を向上させるためには、事後のフォローアップが不可欠です。
ヒヤリハット・事故報告書の積極的な活用
トラブルを「あの人たちは仲が悪いから」という個人の問題で終わらせず、「なぜ起きたのか?」「環境設定に問題はなかったか?」をカンファレンスで分析します。
例:筆者の施設での取り組み
私の施設では、利用者さん同士の口論も立派な「ヒヤリハット」として報告を上げています。些細な口論の芽を早期に摘み取ることで、暴力沙汰への発展や、骨折などの重大事故を未然に防ぐ土壌作りに役立っています。
ケアプランの再評価と見直し
トラブルが頻発する場合、認知症の進行や、身体的な苦痛が隠れている可能性があります。
主治医への相談や、ケアマネージャーと連携してサービス内容(デイサービスの回数変更など)やケアプランの見直しを検討します。
おわりに
利用者さん同士のトラブル対応は、介護現場において避けては通れない壁です。
しかし、裏を返せば、この対応スキルを身につけることは「現場のケアの質を飛躍的に高める」ことと同義です。
今回ご紹介した「傾聴」「環境調整」「チームでの共有」という基本ステップと具体例は、明日からのケアにすぐ活かせる実践的なものばかりです。
施設内でこのような研修を実施し、スタッフ全員が同じ基準でトラブル対応ができるようになれば、スタッフの業務負担や精神的ストレスが激減し、離職防止にも大きく貢献します。
また、転職活動などにおいても、「複雑な人間関係のトラブルを、チーム連携や環境調整で解決に導いた経験」は、介護士として非常に高く評価される強みとなります。
ぜひこの記事を参考に、施設内での対応ルールの見直しや、スタッフ研修に役立ててみてください。
現場で奮闘する皆さんの日々のケアが、少しでもスムーズで笑顔あふれるものになることを応援しています。
お知らせ①【介護事業所の必須研修資料一覧(2026年度版)】
介護サービスごとにわかりやすく、情報公表調査で確認される研修と、義務づけられた研修を分けて記載しています。
また、それに応じた研修資料もあげています。研修資料を探している方は、ぜひ参考にしてください。
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