耳が遠い高齢者との会話方法|大声不要!信頼を深めるプロの対応のコツ【介護職員研修】
- 耳が遠い利用者さんへの対応に悩んでいる方
- 職員の対応方法に悩んでいるリーダー
- 何度も聞き返されてストレスを感じている方
- 新人指導や研修内容を探している方
この記事を読むメリット
「大声を出しても伝わらない」のには理由がある

「〇〇さん! お茶ですよ!!」 スタッフが一生懸命に声を張っているのに、ご本人はキョトンとしている。あるいは「うるさい!」と怒り出してしまう。現場でよく見る光景です。
実は、耳が遠い高齢者に対して「ただ音量を上げる」というアプローチは、多くの場合うまくいきません。
ご本人にとっては言葉の内容が聞き取れないまま、ただ「大きな音がぶつかってくる」ように感じられ、「怒鳴られている」「責められている」という恐怖や不快感だけが残ってしまうからです。
今回の研修の最大の目的は、「音量(ボリューム)」に頼る会話から卒業することです。
お互いに疲弊しない、正しい難聴ケアの技術を習得しましょう。
やってはいけない「3つのNG対応」
良かれと思ってやっていることが、実はご本人の尊厳を傷つけ、関係性を悪化させているケースがあります。
❌ NG例1:耳元でいきなり大声を張り上げる
後ろや横から近づき、耳元で突然「〇〇さーん!」と叫ぶ。
補聴器をつけている場合などは特に、音が割れて余計に聞き取りづらくなります。
また、突然の大きな音は心臓にも悪く、「怒鳴られた」という恐怖心からスタッフに対して心を閉ざしてしまいます。
❌ NG例2:高音のトーンで早口でまくしたてる
女性スタッフに多い、高くて速い声かけ(「お風呂に行きますよー!準備してくださいねー!」)。
後述しますが、加齢性難聴は「高い音」から聞こえなくなります。
そのため、どれだけ声を張っても言葉として認識されず、「不快な金属音や雑音」にしか聞こえません。
❌ NG例3:諦めて会話を打ち切る・無視する(サイレントケア)
何度も聞き返されることに疲れ、「あ、もういいです」と話を投げ出したり、最初から無言で介助を行ったりする。
「私はもう相手にされないお荷物なんだ」と自尊心を深く傷つけます。
会話の機会を奪うことは、社会的孤立を招き、認知症の進行を早める最大の要因になります。
事例:熱心な声かけが「虐待の疑い」と誤解された
私がフロア責任者を務めていた頃、非常に真面目で熱心なスタッフがいました。
彼女は、耳の遠い利用者さんに今日のレクリエーションの内容を理解してもらおうと、必死に大声で、何度も繰り返し説明をしていました。
しかし、その声がフロア中に響き渡っていたため、面会に訪れた別のご家族から「あのスタッフさんは、うちの親のこともあんな風に怒鳴りつけているのか」と、虐待を疑う大クレームに発展してしまったのです。
スタッフ本人は「理解してほしかっただけ」と涙を流して落ち込みました。
大声での会話は、周囲の環境や施設の雰囲気までも「不穏」にさせてしまいます。
プロの難聴対応とは、「フロアを静かに保ちながら、ピンポイントで情報を届ける技術」です。
「加齢性難聴」の3つの特徴(科学的根拠)
なぜ大きな声が伝わらないのか。加齢による耳の変化を知ることで、対策が見えてきます。
特徴1:高音域(高周波)が聞こえない
年齢とともに、高い音から徐々に聞こえなくなります。
特に「サ行、タ行、カ行、ハ行」などの子音の聞き取りが困難になります。(例:「佐藤さん」が「あおうあん」のように聞こえる)
特徴2:音が歪んで聞こえる(補充現象)
小さい音は聞こえないのに、ある一定の大きさを超えると、音が割れたり響いたりして急に「うるさい!痛い!」と感じる現象です。
大声が逆効果になる最大の理由はこれです。
特徴3:言葉の聞き分け(語音明瞭度)の低下
音自体は耳に届いていても、脳がその音を「意味のある言葉」として変換する能力が低下します。
「加藤さん」が「佐藤さん」に聞こえるなど、聞き間違いが頻発します。
大声不要のコミュニケーション5大鉄則
声帯を痛めることなく、スッと相手の心に言葉を届けるための5つの鉄則です。
鉄則1:正面・1メートルの距離・視線を合わせる
いきなり話し始めず、必ず正面に立ち、視界に入ります。
距離は近すぎず遠すぎない「1メートル」が最適です。
目が合い、相手が「聞く姿勢」になってから話し始めるのが絶対のスタートラインです。
鉄則2:声を「低く」し、お腹から響かせる
高い声で叫ぶのではなく、ワントーン「低い声(チェストボイス)」を意識し、喉ではなくお腹から響かせるように話します。
低音は高齢者の耳に最も届きやすく、かつ落ち着きを与えます。
鉄則3:口元をはっきり見せ、1音ずつ区切る
マスクを外せる状況であれば口元を見せ(読唇術の補助)、「あ・さ・ご・は・ん・で・す」と、アナウンサーのように母音(アイウエオ)の形をはっきりさせて1音ずつ区切ります。
鉄則4:「1言1情報(ワンメッセージ)」で簡潔に
「今日は火曜日だから、先にお風呂に入って、そのあとご飯にしましょうね」といった長い文章は脳で処理できません。
「お風呂に行きます」「そのあと、ご飯です」と、短く区切って伝えます。
鉄則5:身振り手振り・視覚情報のフル活用
耳だけに頼りません。
「お茶」と言いながら湯呑みを指差す。「お風呂」と言いながら頭を洗うジェスチャーをする。
どうしても伝わらない時は、小さなホワイトボードで「筆談」を行うのが最も確実で疲れない方法です。
明日からフロアで使える「伝わる声かけ」
ケース1:朝の訪室時、何度声をかけても気づいてくれない時
❌ NG: ドアを開けながら「〇〇さん!おはようございます!起きてください!」と大声で叫ぶ。
⭕️ プロ: (ベッドの横に立ち、視界に入ってから軽く布団の上から肩をトントンと叩く)。目が合ったら、笑顔で深く一礼し、口を大きく動かして低めの声で「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す」。
ケース2:食事の案内時、「え?何だって?」と何度も聞き返される時
❌ NG: 「だーかーらー、ご・は・ん・で・す・よ!!」とイライラして音量を上げる。
⭕️ プロ: 「(お腹から響かせる低い声で)お・しょ・く・じ・で・す」。それでも伝わらなければ、お箸とお茶碗を持つジェスチャーをしながら笑顔で頷き、食堂の方向を指差す。
ケース3:集団レク時、周りの雑音でスタッフの声が届かない時
❌ NG: テレビの音がついたまま、さらに大きな声でレクの進行をしようとする。
⭕️ プロ: まず環境音(テレビやラジオ)を確実に消す。耳の遠い利用者さんはスタッフの口元が真正面から見える一番前の席に誘導し、ホワイトボードに「今日は カラオケ大会」と大きな文字で書いて視覚情報を補う。
おわりに
耳が遠い方へのコミュニケーションで最も大切なのは、「正しい音量設定」ではなく「伝達を諦めないという態度」を示すことです。
ジェスチャーを交え、ゆっくり、低い声で、正面から語りかけてくれるスタッフの姿を見れば、たとえ言葉の半分が聞き取れなかったとしても、「この人は私に一生懸命何かを伝えようとしてくれている」という真心は確実に伝わります。
「耳が遠いから話しても無駄」とコミュニケーションを避けることは、プロとして絶対に避けなければなりません。
また、補聴器を使用されている方の場合は、電池切れや耳垢の詰まりがないか、日勤と夜勤のチームでしっかりと管理・連携していくことも重要です。
聞こえの壁をチームの工夫で取り払い、誰もが置いてきぼりにされない、穏やかで笑顔あふれるフロアを創り上げていきましょう。
お知らせ①【介護事業所の必須研修資料一覧(2026年度版)】
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