高齢者虐待防止の鍵は“感情との向き合い方”│感情労働から考える介護現場の課題
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仕事中に“本心とは違う感情を演じること”を「感情労働」といいます。
私たち介護職は、日常業務で感情を抑える場面が多く、心の負担が積み重なりやすい業種です。
「感情労働」は信頼ややりがいを生む一方で、ストレスや虐待のリスクにもつながります。
この記事では感情との付き合い方や職場での支え合いについて、わかりやすく解説します。
この記事を読むメリット
- 感情労働の正しい理解と自己ケアの重要性がわかる
- 怒りやストレスをためない具体的な対処法が身につく
- 職場全体で感情を支え合う仕組みづくりの参考になる
それでは早速みていきましょう。
介護現場における感情労働とは

まずは「感情労働」という言葉の意味から確認してみましょう。
簡単に前述しましたが、感情労働とは「仕事のために自分の感情を調整すること」です。
もともとは社会学者アーリー・ホックシールドが提唱した概念ですが、介護や看護など人と深く関わる仕事にも広く当てはまります。
介護現場では、嬉しいときも悲しいときも、常に利用者さんに寄り添った対応が求められます。
例:
- 利用者さんにいつも笑顔で優しく接する
- 暴言を受けても冷静に受け止める
- 忙しくても態度に出さず丁寧にケアを続ける
こうしたことはすべて、介護職が日々行っている感情労働の一例です。
心の中では「大変だな」「少し休みたいな」と思っていても、それを表に出さずにケアを提供することもありますよね。
感情労働は避けて通れない仕事の一部ですが、自分の心に負担をかけすぎないことが大切です。
いつも笑顔でいようと無理を重ねたり、怒りや悲しみをぐっと堪え続けたりすると、本当の感情と建前とのギャップに心が疲れてしまいます。
心優しい介護職ほど「怒ってはいけない」「我慢しなきゃ」と自分を責めがちですが、それであなた自身が消耗してしまっては本末転倒です。
感情の蓄積が虐待につながる危険性
介護の現場でストレスや怒りの感情を蓄積させてしまうと、どんなリスクがあるのでしょうか。
一言でいうと「コップから水があふれる」状態になる危険があります。
心をコップに例えると、日々のストレスや疲労、不安が少しずつそのコップに注がれていきます。
余裕があれば水位は低く保てますが、人手不足や認知症ケアの大変さなどでどんどん水(ストレス)が溜まると、些細なことでコップから水があふれ出し、感情が爆発する状態になってしまうのです。
実際、介護職員が怒りをため込んでしまう要因はいくつもあります。
業務の過酷さ:
認知症の方へのケアがうまく伝わらないもどかしさ、夜勤で誰にも頼れない孤独感、利用者さん同士のトラブル対応に追われる過重労働など。
人間関係や環境:
利用者さんやご家族からの暴言といった理不尽さ、上司に相談しても軽くあしらわれる職場の風土など、支えがない状況。
こうした日々の積み重ねがまさに「心のコップが満杯」の状態です。
コップがいっぱいになると、あと一滴であふれてしまうように、ちょっとしたきっかけで怒りが爆発しやすくなります。
普段は冷静で優しい人でも、心に余裕がなくなると些細なことで感情を抑えきれなくなることがあるのです。
そして怒りが爆発すると、自分でも驚くような言動が出てしまいます。
判断力が鈍って言葉遣いが荒くなったり、声を荒げてしまったり、最悪の場合は手が出てしまうことすらあります。
怒りのコントロールを失うと、虐待につながるリスクが一気に高まってしまいます。
事実、厚生労働省の調査でも、高齢者虐待の要因として「職員のストレスや感情コントロールの問題」が大きな原因の一つとされています。
また、実際に虐待と認定されたケースの中には、過度なストレスから感情的に爆発してしまった例も多く見られます。
これは裏を返せば、感情の蓄積を放置しなければ防げたはずの虐待があることを示しています。
「自分も同じ状況になったら…」と不安に感じる方もいるかもしれません。
でも大丈夫です。怒りそのものは決して異常な感情ではなく、誰にでも湧き起こる人間的なものです。
大切なのは「怒ってはいけない」と抑え込むことではなく、自分の怒りに気づいて適切に対処することです。
感情とうまく付き合うためのケアの工夫
感情をためこまないためには、日頃から上手にガス抜きをしていくことが大切です。
ここでは介護職がすぐに実践できる、感情ケアの工夫をいくつか紹介します。
自分の感情に「気づく」習慣を持つ
まずは、「今、自分は怒りを感じているんだ」と気づくことがスタートラインです。
忙しく働いていると、いつの間にかイライラが募っているのに、本人はそれに気づかないこともよくあります。
そこで、普段から自分の心の状態をチェックする癖をつけておきましょう。
たとえば、「最近ため息が増えていないか」「同僚への声かけが機械的になっていないか」など、自分の言動や体のサインに目を向けてみてください。
そうしたサインに気づいたときが、最初のブレーキのタイミングです。
「あ、自分ちょっと疲れてるかも」「心のコップが満杯に近いな」と感じたら、それ以上溜め込まない工夫を始めましょう。
怒りの火種を小さいうちにクールダウン
イライラがこみ上げてきたら、爆発する前にクールダウンすることを心がけます。
よく言われるのが「6秒ルール」です。
怒りのピークは約6秒といわれており、その間に次のような対処を試してみてください。
深呼吸をする:
ゆっくり息を吸って吐くだけでも、自律神経が整い、気持ちが静まります。
その場をいったん離れる:
「少し席を外しますね」と断り、トイレに行くなど物理的に距離をとるだけでも効果的です。
冷たい水で手を洗う:
手首を冷やすことで、高ぶった気持ちが落ち着くことがあります。
心の中で唱える:
「大丈夫、落ち着こう」と自分に言い聞かせるだけでも、気持ちを切り替える手助けになります。
この数秒の工夫が、怒りの爆発を防いでくれることがあります。
「カッとなったときに一呼吸おいたら冷静さを取り戻せた」という経験談は少なくありません。
ぜひ意識してみてください。
小さなリフレッシュを習慣にする
日頃からストレスをこまめに発散することも重要です。
心のコップにストレスを溜めすぎないよう、安全弁を日常生活に取り入れていきましょう。
甘いものや温かい飲み物をとる:
休憩中にお茶を飲んだり、お菓子を少しつまんだりすると、ホッと一息つけます。
深呼吸やストレッチ:
外の空気を吸いに出たり、軽く体を動かしたりして緊張をほぐしましょう。
愚痴が言える相手を持つ:
同僚や友人に「今日はこんなことがあってね」と話すだけでも心が軽くなります。話せる相手がいない場合は、日記に書き出すのも効果的です。言葉にすることで気持ちが整理され、落ち着くことがあります。
大切なのは、怒りや悲しみを我慢して閉じ込めないことです。
「こんなことで弱音を吐くなんて」と抱え込む必要はありません。
プロであっても、人間である以上、感情があります。
小さなリフレッシュを積み重ねて、あなたの心に少しずつ栄養補給をしてあげましょう。
チーム全体で感情労働を支え合う
感情労働の負担を軽くするには、職場全体で支え合うことが欠かせません。
介護職の怒りやストレスは、個人の「性格」や「我慢強さ」だけの問題ではなく、職場環境や人間関係から生まれることが多いのです。
ですから、一人ひとりに我慢を求めるのではなく、職場全体で感情に向き合う仕組みを整えることが大切です。
ではここで、チームでできる仕組みを2つご紹介します。
「怒っても大丈夫」な職場づくり
あなたの職場には、怒りや悩みを気軽に話せる空気があるでしょうか?
もし「忙しくて誰にも相談できない」「弱音なんて吐けない」と感じるような職場であれば、それは虐待防止の観点からもリスクになります。
理想なのは「怒らない職場」ではなく、「怒っても大丈夫な職場」です。
つまり、感情を吐き出せる安全な場や、助けを求められる仕組みがあることが重要なのです。
たとえば月に1回のミーティングで最近の怒りや悩みを共有するだけでも、「自分だけじゃない」と安心でき、モヤモヤが軽くなります。
同僚同士で本音を話し合える時間を持ち、「怒ってもいい」「悩んでいい」と思える職場環境を目指しましょう。
感情は、見える形で共有するだけでも楽になります。
仲間同士でフォローし合う文化
日々のケアはチームワークがあってこそ成り立ちます。
だからこそ、お互いの変化に気づき「大丈夫?」と声を掛け合える関係性を築くことが大切です。
感情が高ぶっていそうな同僚を見かけたときは、そっと「少し休憩しませんか?」と声をかけてみましょう。
また、自分がしんどいときには、遠慮せず「代わってもらえますか」とお願いすることも大切です。
交代してフォローし合う仕組みがあるだけで、「ここは一人で抱えなくていい場所なんだ」と感じられ、安心できます。
さらに、普段から雑談をしたり、チーム内で気軽な会話ができる時間を持つことも効果的です。
業務中は難しくても、休憩時間や終業後に他愛のない話をするだけで関係が和らぎ、「この人には相談できそう」という信頼が育ちます。
介護の現場は「人」が資本です。
人間関係が良好であれば、スタッフ同士の連携もうまくいき、結果としてケアの質も上がります。
そしてその積み重ねが、高齢者虐待の予防にもつながっていきます。
事例紹介:感情と向き合い、虐待を防げたケース
最後に、私が体験したエピソードではありますが、「感情と向き合うこと」で高齢者虐待を未然に防げたケースをご紹介します。
このお話から、日々の感情労働とどう向き合えばよいのか、参考になる点があればうれしいです。
ケース紹介:感情と向き合い、虐待を防げた特養ホームの事例
特別養護老人ホームで働く介護職員のAさんは、認知症の利用者Bさんから「家に帰りたい」と毎日のように訴えられていました。最初は丁寧に対応していたものの、繰り返される訴えに徐々に疲れと苛立ちが溜まり、心の余裕がなくなっていきました。
ある日の夕方、Bさんが不安から大声を上げ始めたとき、Aさんはついに我慢の限界に達しそうになってしまいます。そのとき、近くにいた同僚のCさんがAさんの表情の変化に気づき、「Aさん、交代しましょう」と声をかけました。
Aさんはその言葉で我に返り、すぐにケアをCさんに任せてその場を離れました。別室で深呼吸をしながら気持ちを落ち着けた後、AさんはBさんのもとへ戻りました。するとBさんも落ち着きを取り戻しており、「ありがとうね」と穏やかな表情で語りかけてくれました。その瞬間、Aさんは「怒りに任せた対応をしなくてよかった」と安堵の気持ちで胸をなで下ろしました。
数日後、Aさんは上司に「最近Bさんの対応がつらかった」と素直に打ち明けました。上司はすぐにチームでBさんへのケア方法やフォロー体制について話し合いを開き、Aさんが一人で抱え込まずにすむような仕組みを整えました。
それ以降、職場内では「大丈夫?」「少し代わるね」といった声が自然に交わされるようになり、チーム全体で支え合う空気が生まれました。Bさんのケアも安定し、Aさんは「助けを求めてよかった。自分の心を大切にすることが、結果的に利用者さんの安心にもつながるんだ」と実感するようになったのです。
いかがでしたか?「自分も似た経験がある」と思われた方もいるかもしれません。
大切なのは、一人で抱え込まずに周囲に助けを求めたこと、そして自分の感情にフタをせずにうまくガス抜きしたことです。
Aさんのように、小さな変化に気づき、仲間に頼ることは、虐待を未然に防ぐ大きな一歩になります。
感情と向き合うことは、あなた自身と利用者さんの両方を守る大切なケアのひとつです。
このエピソードを思い出しながら、日々の業務の中でも自分の心の声に耳を傾けてみてください。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は、介護の現場における感情労働とその向き合い方について、高齢者虐待防止の視点から一緒に考えてきました。
あらためてお伝えしたいのは、介護職として働くあなた自身の心を守ることが、結果的に利用者さんを守ることにつながるという点です。
「プロなんだから我慢しなきゃ」と無理に気持ちを抑え込んだり、感情のつらさにフタをしてしまうのは、とても危険なことです。
戸惑いや苛立ち、悲しみといった感情は、誰もが持つ自然な心の反応です。
まずは「自分は今、つらいんだな」と認めるところから始めましょう。
そして、決して一人で抱え込まないでください。
感情労働は個人の努力だけで乗り越えるものではなく、チームや職場全体で支え合っていくべき課題です。
仲間に打ち明けたり、上司や専門職に相談したりして、少しずつ気持ちの負担を分かち合うことが大切です。
お互いに感情をオープンにできる風通しの良い職場環境が整えば、「怒りの前に対話をする」ことが可能になります。
そしてそれが、高齢者虐待の芽を早期に摘む力となります。
あなたが笑顔で働けることは、利用者さんの笑顔にも直結しています。
どうかご自身の心を大切にしながら、これからも利用者さんとあたたかな関係を築いてください。
その積み重ねが、高齢者虐待の予防にもしっかりとつながっていきます。
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