良い記録とダメな記録の比較|介護記録の書き方を解説
- 記録にいつも時間がかかってしまう方
- 「これでいいのか」と書き方に不安がある方
- 主観やあいまいな表現を書いてしまいがちな方
- 申し送りで何度も説明し直している方
- 記録でトラブルにならないか心配な方
この記事を読むメリット
その記録、誰が読んでも同じように伝わりますか?!
なぜ私たちは毎日、時間をかけて記録を書くのでしょうか。
一つは、チーム全体で利用者さんの状態を共有し、質の高い「チームケア」を提供するためです。
もう一つは、「自分たちが適切なケアを行っていたという事実を法的に証明するため」です。
忙しい業務の中で急いで書いた記録は、つい「自分の感想」や「曖昧な表現」になりがちです。
しかし、介護記録はご家族や、時には医療機関、最悪の場合は裁判で弁護士に「開示」される可能性がある公的な文書です。
「頑張ってケアをした」というあなたの真面目な姿勢も、記録の書き方が悪ければ「怠慢」や「不適切な対応」として受け取られてしまう危険性があります。
「ダメな記録」と「良い記録」の違い3つ
では、具体的に何が「ダメ」で、どうすれば「良い」記録になるのでしょうか。
現場で意識すべき3つの境界線を比較してみましょう。
境界線1:主観(感想・感情)か、客観(事実・数値)か
❌ NG:「朝からご機嫌ナナメで、怒っていた」
⭕️ OK:「朝食時、配膳すると『こんなもの食べられるか!』と机を強く叩き、食事を床に落とされた」
「怒っている」「不機嫌」というのはスタッフの主観(感想)です。
記録には「本人が何と言ったか(発言)」「どんな行動をしたか(事実)」をありのままに書きます。
境界線2:曖昧(〜のようだ)か、具体的(5W1H)か
❌ NG:「お茶をたくさん飲んでくれた」
⭕️ OK:「10時の水分補給時、麦茶をむせることなく200ml全量摂取された」
「たくさん」「少し」という表現は、読む人によって基準がバラバラです。
「200ml」「3口」など、誰が読んでも共通の認識が持てる「数値」を用いて具体的に書くのが鉄則です。
境界線3:専門職の視点(対応とその後)があるかないか
❌ NG:「居室で転んで尻餅をついていた」
⭕️ OK:「14:00、居室のベッド横で尻餅をついているのを発見。本人は『滑って転んだ』と発言。打撲や出血等の外傷なし、痛みの訴えなし。看護師へ報告。バイタル異常なし。その後はフロアのソファで安静に過ごされる」
「転倒した」という事実だけで終わる記録は、素人のメモです。
プロの記録は「発見時の状況」+「スタッフがどう対応したか」+「その後の様子(継続観察)」までがセットになります。
よくあるNG例:リスクのある「4つのダメな記録」
現場の記録をチェックしていると、悪気なく書いてしまっている「リスクだらけのNGパターン」が4つ存在します。
ご自身の記録が当てはまっていないか確認してください。
NGパターン1:感情爆発記録
「何度もトイレに行きたいとワガママを言い、業務の妨げになった」
「わざとご飯をこぼした」など、スタッフのイライラや愚痴がそのまま文字になってしまっている記録。
これは、ご家族が開示請求した際、「スタッフから虐待的な扱いを受けているのではないか」という疑念を抱かせる最悪のパターンです。
NGパターン2:超短文・省略記録
「変わりなし」「いつも通り」「特変なし」。
確かに何も起きていない日もありますが、毎日これが続くと、本当に状態を観察しているのか疑われます。
「食事は全量摂取、活気あり。変わりなく過ごされる」など、何を見て変わりなしと判断したのかを一言添えるのがプロです。
NGパターン3:専門用語・業界略語の乱用
「BPSDが悪化」「不穏あり」「ピッセ(便)大量」など、施設内でしか通用しない略語や、ご家族が読んでも意味が分からない専門用語を乱用した記録。
記録は第三者が読むことを前提に、平易でわかりやすい言葉を選びます。
NGパターン4:後日まとめて一気書き
時間がなくて、数日分の記録を後からまとめて書く行為。
人間の記憶は曖昧なため、事実が歪んだり、時間軸がズレたりします。
万が一事故が起きた際、記録の矛盾を突かれると、施設側は一切の弁明ができなくなります。
たった1行の文章が招いた、ご家族との信頼崩壊
筆者の私自身、長く介護の仕事に携わっていますが、過去に「記録の書き方」一つで大きなトラブルに発展した事例を経験しました。
ある若手スタッフが担当していた利用者さんが、夜間に居室で転倒しました。
幸い外傷はなかったのですが、そのスタッフは焦りと忙しさから、記録にこう書いてしまいました。
「〇〇様が勝手に一人で歩いて、バランスを崩して転倒した。」
後日、この利用者さんが痛みを訴え、受診した結果、骨折が判明しました。
ご家族から事故当時の状況を知るため記録の開示を求められ、上記の1行がご家族の目に触れることになりました。
ご家族は激怒されました。
骨折したことに対してではなく、「勝手に一人で歩いて」という言葉に対してです。
「うちの親は『勝手な』行動をして迷惑をかける存在なのか」「スタッフはちゃんと見守りをしてくれていたのか、責任逃れをしているのではないか」と、一気に不信感が爆発してしまったのです。
もしこの記録が、
「ナースコールを押さずに自室のベッドから立ち上がり、トイレへ向かおうとした際にバランスを崩し転倒。発見時『トイレに行きたかった』と発言あり。」
と、客観的な事実のみで書かれていれば、「勝手な行動」ではなく「排泄の生理的欲求による行動」であったことが伝わり、ご家族の受け取り方も全く違ったはずです。
介護記録は、スタッフの印象や評価を書くものではありません。
この一件で、私は「言葉の選び方ひとつが、築き上げてきた信頼を一瞬で壊す刃にも、自分たちを守る盾にもなる」ということを、チーム全体に痛烈に指導しました。
NG記録をOK記録に変える「変換トレーニング」
それでは、現場で実際に起こり得る3つのケースについて、「ダメな記録」を「良い記録」に変換するトレーニングをやってみましょう。
ケース1:食事介助
❌ NG記録: 「ご飯をあまり食べず、ワガママを言って怒っていた。困る。」
⭕️ OK記録: 「昼食時、主食を3口召し上がったところで『もういらない!』とスプーンをテーブルに投げ置かれる。理由を尋ねると『お腹が痛いから食べたくない』との訴えあり。排便状況を確認し、看護師へ報告。下膳し、自室にて横になり休んでいただく。」
「ワガママ」と切り捨てるのではなく、「なぜ食べなかったのか(腹痛)」という背景の事実を記録します。
そして、専門職としてどう対応したか(看護師への報告と休息の提供)を明記することで、適切なケアが行われた証拠となります。
ケース2:入浴拒否
❌ NG記録: 「お風呂を強く拒否されたので、入浴は中止した。」
⭕️ OK記録: 「14時、入浴へお誘いするが、『今日は寒いから絶対に入りたくない!』と強い口調で拒否される。無理強いはせず、代わりに足浴を提案したところ『それならいいよ』と同意あり。10分間足浴を実施し、さっぱりした表情で『温まった』と笑顔が見られる。」
単に「中止した」と書くと、ケアの放棄(ネグレクト)と捉えられかねません。
拒否の理由(寒い)を書き、その上で「代替案(足浴)を提案・実施した」というプロセスを残すことで、スタッフが工夫してケアに当たったことが伝わります。
ケース3:不穏・徘徊
❌ NG記録: 「夕方からソワソワして落ち着きがなく、フロアを歩き回っていた。」
⭕️ OK記録: 「16時頃からフロア内を歩き回り、『もうすぐ子どもが帰ってくるから、晩ご飯を作らなきゃ』と焦った様子で発言される。スタッフと一緒に洗濯物のタオル畳みをお願いすると、『手伝うわ』と落ち着いて椅子に座り、17時の夕食前まで熱心に取り組まれる。」
「ソワソワして落ち着きがない」という曖昧な表現を避け、「何を言っていたか(帰宅願望・役割の認識)」を具体的に書きます。
さらに、バリデーション(感情への寄り添いと代替行動の提案)によって、どのように落ち着いていただいたかという成功体験を記録することで、次に担当するスタッフへの素晴らしい引き継ぎになります。
おわりに
質の高い介護記録とは、決して「文学的な美しい文章」や「長々とした大作」のことではありません。
「事実が客観的に書かれており、誰が読んでも状況が目に浮かび、次にどう対応すればよいかが分かる親切な文章」のことです。
申し送りの時間が長引いてしまうのは、記録が曖昧で「結局、〇〇さんはどういう状態だったの?」と口頭で補足しなければならないからです。
全員が良い記録を書けるようになれば、申し送りの時間は劇的に短縮され、その分を利用者さんとの直接のケアやコミュニケーションに充てることができます。
そして何より、事実に基づいた客観的な記録は、私たちが日々どれほど真剣に、そして専門的な視点を持って利用者様に向き合っているかを証明する「プロの証明書」です。
今日の記録から、「これは私の感想になっていないか?」「数字で具体的に書けないか?」と、ほんの少し立ち止まって見直してみてください。
その積み重ねが、あなた自身と施設を守り、より良いケアへと繋がっていくはずです。
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