介護の現場において、おむつ交換は日常的なケアのひとつですが、実は感染リスクがとても高い場面であることをご存知でしょうか。
特に高齢者施設では、近年ノロウイルスなどの感染症集団発生がたびたび注目されています。
ノロウイルスは利用者さんの便を介して広がるため、「おむつ交換」における感染予防の徹底がとても重要です。
また、一見健康そうに見える利用者さんであっても、尿や便には薬剤耐性菌(いわゆる効きにくいばい菌)が高い確率で含まれていることが分かっています。
誰がどんな病原体を持っているか見た目では分からないため、すべての排泄物に同じ注意を払ってケアすることが大切です。
つまり、おむつ交換は標準予防策(スタンダードプリコーション)の考え方で、常に感染の可能性を念頭に置いて行わなければいけないケアなのです。
厚生労働省の高齢者施設向けの感染対策マニュアルには、おむつ交換は特に注意すべき高リスク場面として取り上げられ、適切な個人防護具(PPE)の着用や手指衛生など基本の徹底が強調されています。
現場では忙しさから手順が自己流になっていたり、「これくらい大丈夫だろう」と基本を省略してしまったりするケースも少なくありません。
しかし、その小さな油断が職員自身や他の利用者さんへの感染拡大につながる可能性があります。
おむつ交換の手順を今一度見直し、正しい方法をチーム全員で共有することで、利用者さんだけでなく職員自身の健康を守ることができます。
本記事では、おむつ交換に潜む感染経路と主なリスク、ありがちなミスとその影響、そして今日から実践できる正しい手順とポイントについて、最新のガイドラインや具体例を交えながらやさしい言葉で解説します。
基本を徹底し、職員も利用者さんも守るケアを一緒に目指しましょう。
オムツ交換時に想定される主な感染経路
おむつ交換の場面では、様々な感染経路によって病原体が広がる可能性があります。
主な感染経路として次の3つが知られています。
接触感染
もっとも注意すべき経路です。
接触感染とは、病原体が付着した手や物品、環境に触れることで起こる感染です。
おむつ交換では、利用者さんの便や尿などの排泄物そのもの、排泄物で汚れたおむつやシーツ、またそれらに触れた手指・手袋・衣服などが媒介となります。
例えば便には大腸菌やクロストリジウムなど多くの菌が含まれ得ますし、ノロウイルスも微量のウイルスで接触感染します。
手指は感染経路の中でも特に重要で、「手についたばい菌」が別の利用者さんの口に入ったり、自分の粘膜に触れたりすることで二次感染が起こります。
したがって、おむつ交換では手袋の着用と手指消毒・手洗いが何より大切になります。
飛沫感染
飛沫感染とは、咳やくしゃみ、会話などで飛び散るしぶき(直径5μm以上の粒)によって起こる感染です。
飛沫はおよそ1m程度飛ぶと落下し、空中には長く漂いません。
おむつ交換中でも、利用者さんが咳きこんだり会話したりすれば飛沫が飛ぶ可能性があります。
また嘔吐があればその嘔吐物にもウイルス(ノロウイルス等)が含まれ、飛沫が周囲約2メートルに飛び散るとも言われています。
実際、ノロウイルスは嘔吐時の飛沫感染の可能性が指摘されており、嘔吐が起きた場合はマスク着用や周囲の消毒が推奨されています。
おむつ交換で大量の下痢便を処理する際にも、勢いよくシーツを動かしたりすると細かいしぶきが飛ぶかもしれません。
飛沫感染を防ぐには、必要に応じてサージカルマスクや場合によってはフェイスシールド(ゴーグル)を着用し、処理中はできるだけ顔を近づけすぎない・ゆっくり作業するなどの配慮が有効です。
空気感染
空気感染とは、非常に微細な粒子(飛沫核、5μm未満の粒)が空中を長時間漂い、遠くまで移動して起こる感染です。
代表的な例は結核や麻しん(水ぼうそう)などで、幸い通常のおむつ交換で頻繁に遭遇するものではありません。
ただし、施設内でこれら空気感染症の入所者さんをケアする場面では注意が必要ですし、新型コロナウイルス感染症の一部の変異株は空気感染的な広がりを見せることも指摘されています。
また厳密には空気感染ではありませんが、ノロウイルスやクロストリジウム・ディフィシルの芽胞などは乾燥すると空中に漂いやすく、広範囲に拡散することがあります。
このため下痢便の処理時には換気を良くし、汚物は乾燥させないうちに処理することが求められます。
空気感染予防にはN95マスクや陰圧設備など高度な対策が必要ですが、通常の介護施設では個室隔離と職員の適切なマスク着用・換気で対応するケースが多いでしょう。
以上のように、おむつ交換では接触感染を中心に、場合によっては飛沫感染や空気感染にも留意する必要があります。
特にノロウイルスやインフルエンザなどは複数の経路で伝播することが知られており、一つの対策だけでなく総合的な感染対策が求められます。
よくある“手順ミス”とその影響
いくら知識を持っていても、現場では忙しさ等から手順上のミスが起こることがあります。
ここでは、おむつ交換時によく見られるミスと、それが職員自身や利用者さんに与える影響を確認します。
ミスに気づくことが、改善の第一歩です。
PPE(個人防護具)を着けない・不十分なままケアを始めてしまう
例えば「少し尿が出ただけだから」と手袋を省略したり、エプロン(ガウン)を着けずにおむつ交換を行ったりするケースです。
しかし、排泄物には思わぬ病原体が含まれる可能性があります。
手袋無しで直接触れてしまえば、職員の手指に菌やウイルスが付着し、その後自分の目鼻や口に触れて感染したり、環境中に拡散させる恐れがあります。
またエプロン無しで作業すれば、制服に飛沫や微粒子が飛んで汚染されるかもしれません。
知らぬ間に職員自身が病原体の運び手(媒介者)になってしまうリスクが高まります。
便には感染症がなくても日和見菌(抵抗力が落ちたときに悪さをする菌)や耐性菌が多く混入しうるため、「直接触れなくても必ず手袋とエプロンを着用する」ことが基本です。
PPEを怠るミスは、職員自身の感染リスクを高め、結果的に施設内での二次感染を招く可能性があります。
手袋の使い方・手指衛生のタイミングを間違える
PPEをつけていても、その使い方を誤れば効果が半減します。
代表的なのは手袋の不適切な交換です。
例えばおむつ交換の際、汚れたおむつを外した後も同じ手袋をつけ続け、そのまま新しい清潔なおむつを触ってしまうことがあります。
この場合、手袋自体が便で汚染されているため、新しいおむつや利用者さんの皮膚にばい菌を塗り広げる結果になります。
東京都看護協会も「排泄物に触れた後、新しいおむつに触る前には必ず手袋を交換しましょう。それを怠ると周囲に汚染を拡大させてしまいます」と指摘しています。
また一人のケアで使った手袋を外さずに別の利用者さんの所へ行く、あるいはその手でベッド柵やドアノブなど施設内の物に触れてしまうミスも見られます。
これは、手袋の意味をなくしてしまう危険な行為です。
同じ手袋を付けたまま複数の場所や人を触れば、汚染を持ち運んでばら撒いているのと同じだからです。
さらに、手袋を外した後に手指消毒や手洗いをしないまま次の行動に移ってしまうケースも意外とあります。
「手袋をしていたから大丈夫」と思ってしまうのですが、手袋を外す際に手が汚染されたり、手袋に小さな穴が開いていたりする可能性もあります。
ある調査では、おむつ交換後に石けんと水で手洗いを“必ずする”人は83%でしたが、“時々しないことがある”人が16%、全くしない人も1%いたとのことです。
また速乾性の手指消毒剤(アルコール消毒)を毎回使う人は50%で、「使わないこともある」が38%、「全くしない」が12%という報告もあります。
つまり5~6人に1人は手袋を外した後の手洗いを怠ることがあるという現状です。
このミスも、職員自身の体内への侵入リスクを高めるだけでなく、他の場所へ菌を運ぶ原因となります。
清潔と不潔の物品を分けていない
おむつ交換では清潔な物(新しいおむつ、清拭用の布、着替えなど)と汚染された物(使用済みおむつ、汚れたおしり拭き等)が必ず出ます。
これらをきちんと分けて管理しないと、清潔なものに汚染が移ってしまいます。
例えば、使用済みおむつをベッドの上に直接置いてしまったり、清潔な替えオムツを汚れたオムツのそばに無造作に置いたりすると、せっかくの清潔物が汚染されます。
同様に、おむつ交換カート(ワゴン)を使う場合にも注意が必要です。
便利なおむつ交換カートですが、厚労省マニュアルでは感染拡大のリスクが高いため使用しないことが望ましいとされています。
やむを得ず使う場合も、カート上で清潔(未使用のおむつ・手袋・エプロン等)と不潔(汚染したおむつ・使用済み手袋等)を交差させない配置にしなければなりません。
これができていないと、カート自体が菌やウイルスの運び屋になってしまいます。
またカートの取っ手(ハンドル)部分などは高頻度に手が触れるため、使用後は手袋をして0.02%次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)で拭き取り消毒することが推奨されています。
環境面では、汚物処理室やトイレなどでの不備も見られます。
例えば便や尿で床やバケツが汚れたのに十分消毒・清掃しないままだと、そこに触れた別の職員や利用者さんに病原体が広がります。
実際、床に血液や嘔吐物・排泄物が付着した場合は手袋を着用して0.5%次亜塩素酸ナトリウム液で清拭した後、通常の清掃を行い乾燥させることが標準です。
環境消毒の不足は、利用者さんへの交差感染(例えば汚染された環境→職員の手→別の利用者さんという経路)のリスクを高めます。
適切な廃棄処理をしない
使用済みおむつの扱いにも注意が必要です。
外したおむつをその辺に置きっぱなしにする、袋に入れず持ち運ぶ、ゴミ箱の蓋を開けたままにする、といったミスはないでしょうか。
使用済みオムツは取り外したらすぐにビニール袋に入れて密閉するのが鉄則です。
袋はあらかじめ口を大きく開けた状態で用意し、外したおむつを汚染面が内側になるように丸め込んで速やかに投入・密封します。
これを怠ると、臭気だけでなく空気中に病原体が拡散したり、周囲の物品に飛沫や汚れが付着したりする恐れがあります。
またゴミ袋がいっぱいなのに交換せず放置すれば、袋の外側にも菌が付着して周囲を汚染するかもしれません。
廃棄物の処理法については感染症法に基づくガイドラインがありますが、基本は他のごみと混ぜず感染性廃棄物として区分し、しっかり密閉して処理することが望ましいとされています。
これを守らないと、清掃スタッフや廃棄業者の方にも感染リスクを及ぼす可能性があります。
以上のようなミスはどれも、職員と利用者さん双方の健康被害につながりかねません。
一度発生した感染症は、施設内でクラスター(集団感染)化してしまうと対応が非常に大変ですし、最悪の場合は施設閉鎖や利用者さんの重篤化・職員の大量離脱にもつながります。
そうならないためにも、「もしかして自分は基本を省略していないか?」と振り返り、次章で述べる正しいおむつ交換手順を改めて確認しましょう。
正しいオムツ交換手順を確認する
それでは、正しいおむつ交換の手順を具体的に整理してみましょう。
感染対策の観点を踏まえた手順を段階ごとに説明します。
ポイントごとに根拠や理由も添えますので、なぜその手順が必要か理解しながら進めてください。
準備:事前に物品を揃え、環境を整える
おむつ交換を始める前に、必要な物品をすべて準備します。
利用者さんごとに以下の物品を揃えておきます。
- 新しいおむつ
- 尿とりパッド
- 使い捨て手袋(予備含め2双程度)
- 使い捨てエプロン(ビニールエプロン)またはガウン
- おしり拭きや清拭用の使い捨て布(1人1枚+予備)
- 陰部洗浄用のボトル(水を入れた洗浄ボトル、※基本1人1本)
- ゴミ袋(ビニール袋)
- 必要に応じてマスク
- アイシールド(フェイスシールド)など
これらを事前に準備しておくことで、途中で物品を取りに席を離れる必要がなくなり、ケア中に清潔な物品を汚れた手で触ってしまうリスクを防げます。
特に下痢がある場合は防護具に加えて使い捨てのおむつ交換シートなどもあると、シーツやベッドを汚さずに済むでしょう。
おむつ交換カートを使用する場合は、カートの上で清潔な物(未使用おむつ・手袋等)と汚染物(使用済みおむつ・手袋等)をはっきり分けて配置し、交差しないように注意してください。
部屋の環境も整えましょう。
室温は利用者さんが寒くない程度(目安22~26℃)に保ち、カーテンで仕切るなどプライバシーに配慮します。
利用者さんには「今からおむつを交換しますね」と優しく声をかけ、不安を和らげます。
こうした準備段階の配慮で、利用者さんの心理的負担を減らし協力を得やすくなるだけでなく、後述するような感染症の早期発見(便の状態観察)にもつながります。
PPE(個人防護具)の正しい着用
物品を準備したら、次に職員自身の防護のためPPEを正しい順番で着用します。
基本的な順序は以下① ⇨ ④の通りです。
①手指衛生
まず手袋をはめる前に手を清潔にします。
アルコール製剤で手指消毒を行うか、目に見える汚れがあれば石けんと流水で手洗いをします。
自分の手に付いているかもしれない病原体から利用者さんを守るための大切なステップです。
②エプロンまたはガウンの装着
続いて、ビニールエプロンを首からかけて着用します(必要に応じて不織布ガウンや長袖ガウンを使用します)。
特に下痢便で汚染が広範囲になる恐れがある場合は、袖付きガウンで腕や体幹まで防護すると安心です。
ガウン着用時は、しゃがんだ際に裾が床につかないよう注意しましょう。
また髪が長い場合は束ね、必要に応じてキャップを着用します。
③マスク・アイシールドの装着
利用者さんに咳や嘔吐の症状がある場合、あるいは排泄物が飛び散るリスクが高い場合は、サージカルマスクを着用します。
ノロウイルスなど感染性胃腸炎が疑われるケースでは職員も長袖ガウン+手袋+マスクのフル装備が基本です。
必要に応じてゴーグルやフェイスシールドも装着し、目や顔を飛沫から守ります。
④手袋の装着
最後に使い捨て手袋(ディスポ手袋)を装着します。
手袋はサイズの合ったものを選び、手首までしっかり覆うようにつけます。
二重手袋は基本的に不要です(かえって脱ぐときに汚染が広がる可能性が高くなるため)。
ポイントは「手袋は清潔操作ではない」という意識を持つことです。
手袋自体は無菌ではなく、触れたもの次第でいくらでも汚染されます。
したがって「手袋をつけているから安全」ではなく「手袋を汚したら交換・手洗い」が重要になります。
※もし新型コロナウイルス感染症が疑われる利用者さんの場合は、更に厳重な対策が必要です。
排泄物に直接触れない場合でも不織布マスクと長袖ガウンを必ず着用し、場合によってはN95マスクやフェイスシールドも検討します(※COVID-19では便からの感染リスクも指摘されています)。
施設内で流行性の感染症が発生している場合には、その都度最新のガイドラインに従ってPPEを強化してください。
汚れたおむつの取り外しと陰部の始末(汚染部分の処理)
いよいよおむつを交換しますが、汚れた部分の処理では特に感染拡大に注意が必要です。
以下、① ⇨ ③手順で慎重に行いましょう。
①汚れたおむつを外す
利用者さんの衣服やお布団を汚さないようにめくり、おむつをゆっくりと外します。
おむつを開く前に、便や尿の量・色・状態を観察します。
これは利用者さんの体調変化(下痢や血尿など)を早期に発見するチャンスであり、感染症の兆候(胃腸炎や尿路感染など)がないか確認する意味でも大切です。
おむつを外す際は、テープをはがして前側を畳み、便がついている部分が内側になるように丸め込みながら外します。
こうすると汚染面が露出しにくく、周囲を汚さずに済みます。
外したおむつは一旦手に持ったまま、次の陰部洗浄に移ります(※すぐに袋へ入れたいところですが、ここで袋に手を伸ばすと手袋で他の物に触れることになり逆に汚染を拡げるため、ひとまず片手で持っておきます)。
②陰部の洗浄・清拭
尿や便で汚れた陰部やお尻を清潔にします。
基本は上から下へ、きれいな方から汚れている方へ拭くことです。
具体的には、女性の場合は尿道口→膣口→肛門の順で前から後ろに向かって拭きます。
これにより、肛門周辺の細菌が尿道や膣に入るのを防ぎ、尿路感染症や膣炎などの逆行性感染を予防できます。
男性の場合も基本は陰茎→陰嚢→肛門の順に前から後ろです。
お尻(殿部)も、上側→下側→肛門周囲の順に拭きます。
こうすることで肛門周りの汚染を他の部分に広げないようにします。
拭く際には、おしり拭きや清拭用ウエスを適宜交換し、1~2回拭ったら新しい面や新しいシートを使うようにします(一枚で何度もゴシゴシ拭くと汚れを広げるだけなので注意)。
便が多い場合は温かいぬるま湯を入れた陰部洗浄ボトルで洗い流すのも有効です。
その際、水が飛び散らないようにボトルをできるだけ肛門に近づけて優しく洗います。
洗浄後はトイレットペーパーでポンポンと押し当てるように水分を拭き取ります。
ゴシゴシ擦ると皮膚を傷つけてしまうため、押し拭きで十分に水気を取るのがコツです。
皮膚が湿ったままだと褥瘡(床ずれ)の悪化にもつながるので、ここでしっかり乾燥させておきます。
おむつ皮膚炎の予防クリーム等を使う施設では、このタイミングで指にとり患部に塗布します(※手袋に付いた汚れを一度落としてから行うか、後述の手袋交換後に実施するとより衛生的です)。
③使用済みおむつの廃棄(一次処理)
洗浄・清拭が終わったら、先ほど手に持っていた使用済みおむつを速やかに廃棄します。
あらかじめ広げて準備しておいたゴミ袋に、おむつをポイっと落とし入れます。
手袋で袋のフチに触れないよう注意しながら、可能なら袋ごと口を結んで密閉してください(もしくは蓋付きの専用ゴミ箱に直接入れる施設もあります)。
ポイントは、汚れたおむつを外してから新しいおむつに取りかかる前に、この処理を完了することです。
周囲への汚染を防ぐため、汚物は見つけ次第すぐ容器に隔離するイメージです。
使用済みおしり拭きや手袋なども同じ袋に入れて構いません。
なお感染性の強い下痢便などで大量の汚染廃棄物が出た場合、袋を二重にしたり、赤色の専用廃棄物袋(感染性廃棄物)を使うことも検討してください。
手袋の交換と新しいおむつの装着(清潔な工程へ)
汚れたおむつと排泄物の処理が終わったら、清潔操作に移る前に手袋を新しいものに交換します。
具体的には、今付けている汚れた手袋をその場で外し、アルコールで手指消毒(必要なら手洗い)を行った上で新しい手袋を着用し直します。
このときエプロンは基本的にそのままで構いません(汚れていなければ)。
手袋を替える理由は、ここからの作業(新しいおむつを当てる作業)は清潔操作になるためです。
汚染された手袋のまま新しいおむつや利用者さんの清潔な皮膚に触れると、せっかく洗浄したところにまた菌を広げてしまう可能性があります。
手袋交換はひと手間に感じますが、感染を広げないための大事な区切りです。
同時に自分の手指の汚染もリセットできます。
新しい手袋をしたら、新しいおむつをあてます。
利用者さんを横向きに体位変換し、きれいなおむつをシーツと身体の間に差し込みます。
姿勢を戻して仰向けになってもらい、おむつのセンターラインが身体の中心に合っているか確認しましょう。
おむつのギャザー(立ち上がり部分)は指で外側に起こし、腿の付け根に沿ってフィットさせます。
テープは左右対称の位置で留め、指が1本入る程度のきつさで止めます。
しわやたるみがないか全周をチェックし、股ぐりに指を入れて締め付け過ぎていないかも確認します。
正しい装着によっておむつの性能が十分発揮され、モレ防止になるだけでなく、衣服や寝具、周囲環境の汚染も防げます。
最後に利用者さんの下着や衣服、寝具を整えます。
衣類やシーツにしわが寄ったままだと褥瘡の原因になりますので、ピンと伸ばして心地よい状態にしましょう。
「これで交換終わりましたよ。気持ち悪いところはないですか?」と声をかけ、終了を伝えて安心してもらいます。
使用後の片付けとPPEの脱衣、手洗い
おむつ交換が終わったら、速やかに後片付けと自身のPPEの処理を行います。
まず、ゴミ袋をしっかり縛って廃棄所に出すか、蓋付きの汚物入れに入れます。
次に個人防護具を脱ぎますが、脱ぐ順番にもコツがあります。
①手袋を外す
一番汚染している手袋から先に外します。
手袋の外し方は、片方の手でもう一方の手袋の外側(手首側)に触れてくるっと裏返すように外し、外した手袋はもう一方の手の手袋内側に丸め込みます。
次に手袋をしていない方の指を手袋の内側に差し込んで裏返しながら残りの手袋を外し、最初の手袋をくるんで密封します。
こうすると手袋の表面(汚れた面)に自分の皮膚が触れずに済みます。
外した手袋は感染性ごみとして廃棄しましょう。
②エプロン(ガウン)を外す
次にエプロンまたはガウンを外します。
首の紐→腰の紐の順に解き、体の前面側から裏返すように丸めながら外します。
引用画像:長谷川綿工
表面に触れないように注意し、こちらも丸めてビニール袋に入れます。
なお、おむつ交換を複数人連続で行う場合でも、エプロンは1人ごとに交換することが基本です。
部屋ごとに色付きのエプロンを替える等のルールを設けている施設もあります。
③フェイスシールド・マスクを外す
最後にマスクやフェイスシールドを外します。
外す際はゴム紐や耳かけ部分を持ち、前面には触れないようにします。
マスクも使い捨ての場合は廃棄します。
以上、脱衣は「汚いものから順に外す」が基本です。
脱いだPPEは所定の方法で廃棄または再利用(ゴーグル等は消毒して再利用)してください。
脱衣後は必ず手指衛生(手洗い)を行います。
特に排泄ケア後は石けんと流水による手洗いが原則です。
アルコール手指消毒でも良いですが、ノロウイルスなどアルコールが効きにくい病原体もありますので、可能な限り石けんと流水でしっかり洗い流すことが推奨されます。
爪の間や指の股、手首まで丁寧に洗いましょう。
手洗いを終えたら清潔なタオルやペーパータオルで拭き取ります。
最後に、作業中に汚染が生じた環境表面(ベッド柵や床など)があれば消毒・清掃します。
見落としがちなのが、使い終わった陰部洗浄ボトルやおむつ交換用マットなどです。
使い回す物品は利用者さん専用にするか、使用後に洗剤で洗浄・しっかり乾燥させます。
床やポータブルトイレなどに排泄物が付着した場合も速やかに次亜塩素酸ナトリウムで拭き取り消毒し、十分な換気を行ってください。
これで一連の手順は完了です。
正しい手順を読むと長く感じるかもしれません。
しかし、一度身につけてしまえば習慣的にできる基本動作ばかりです。
そしてこの基本の積み重ねが、感染を確実に防ぐ強力な武器となります。
「汚染したら交換・消毒」「清潔と不潔を分ける」「触れたら洗う」といったポイントをぜひ意識して、日々のケアに臨みましょう。
実践に役立つポイントとチェックリスト
正しい手順を理解したら、次は現場でそれを確実に実践する工夫が大切です。
忙しい業務の中でも基本を徹底するために、以下のポイントをチェックリスト形式で挙げます。
日々の自己点検や同僚同士の声かけに役立ててください。
☑ 物品の事前準備
おむつ交換に必要な物品(新しいおむつ、手袋、エプロン、処理用具など)は利用者さんごとにあらかじめ揃えてありますか?
ケアの途中で取りに行く必要がないよう準備し、清潔物を汚染しない工夫ができているか確認しましょう。
特にやむを得ずおむつ交換カートを使う場合、清潔ゾーンと汚染ゾーンの区別は明確になっていますか?
☑ PPEの着脱順序
手袋・エプロン・マスク等のつけ方外し方は正しい順序で行われていますか?
着用前の手指消毒から始まり、脱ぐときは汚れた手袋→エプロン→マスクの順でした。
もし順番が前後していたら、どこで手が汚染されるリスクがあるかを再確認しましょう。
☑ 手袋の使い回し防止
汚れた手袋のまま清潔なものに触れてしまうミスをしていませんか?
一つのケアの中で手袋の交換が必要なタイミング(汚物処理後、新しいおむつ装着前など)を把握し、確実に実行しましょう。
また手袋を付けたまま別室へ移動したり、手袋越しにあちこち触ったりしていないか自己点検してください。
手袋を外した後はすぐ手指消毒する習慣も重要です。
☑ 処理手順の清潔・不潔分離
おむつ交換の処理手順に無理や無駄がないか見直しましょう。
例えば、「汚れたおむつをすぐ袋に入れる」「前から後ろへ拭く」「道具の置き場所を工夫する」など、清潔なものに汚物が付かない動線になっていますか。
新人職員さんには具体的な順序を示したチェックリスト(例えば静岡県の感染対策チェックリスト)を活用して、一つひとつ確認してもらうのも有効です。
☑ 観察と記録
おむつ交換は単なる世話ではなく、利用者さんの健康状態を観察する大事な機会です。
便や尿の量・色・匂い、皮膚の様子(発赤やただれ、褥瘡の有無)を毎回確認し、異常があればすぐ報告・記録しましょう。
例えば「いつもは硬い便の方が急に水様便になった」「便の臭いが普段と違う」などは感染症のサインかもしれません。
早期発見・早期対応は感染拡大防止にも直結します。
☑ 自分の体調管理
意外に忘れがちですが、職員自身の健康管理も感染対策の一環です。
体調が悪いまま無理に勤務するとミスも起こりやすく、感染症にかかれば利用者さんにうつしてしまう恐れもあります。
特に嘔吐下痢などの症状がある職員は出勤を控える措置が必要です(ノロウイルスは職員から利用者への持ち込み事例も多いため)。
職場でお互いの体調を気遣い、「おかしいな」と思ったら早めに報告・休養できる雰囲気作りも大切です。
以上のチェックポイントを定期的に見直し、日々のケアで意識しましょう。
「分かっているつもり」でも、改めてチェックリストに沿ってみると新たな発見や改善点が見つかるものです。
必要に応じて自施設向けに項目を追加し、オリジナルのチェックリストを作成しても良いでしょう。
それを各居室や汚物処理室に掲示したり、ポケットマニュアルにして配布したりすると、いつでも確認できて便利です。
チームで取り組む見直しと研修の工夫
おむつ交換の手順改善は、現場のチーム全員で取り組むことが成功の鍵です。
一人ひとりが正しい知識を持つだけでなく、チームとして統一された実践ができてこそ、施設全体の感染リスクを下げられます。
ここでは、チームで見直しを進めるための工夫や研修のアイデアを紹介します。
現状の手順をチームで共有・見える化
まずは現在それぞれの職員がどのようにおむつ交換をしているか、共通の手順書を作って確認しましょう。
経験年数や背景が異なる職員が混在する職場では、手順が人によってバラバラになりがちです。
一度集まって「うちの施設のおむつ交換手順はどうなっている?」と擦り合わせる機会を作ります。
先ほどのチェックリストをベースに、標準的な手順を文章やイラストで整理し、「ここはまだ統一できていない」「このやり方はいいね」など意見交換しましょう。
場合によっては現行手順を動画に撮影してみるのも効果的です。客観的に見ることで改善点が見えてきます。
ロールプレイ研修の実施
知識として知っていても、とっさの場面で動けなければ意味がありません。
定期的に研修の場を設け、ロールプレイ(模擬演習)でおむつ交換を再現してみましょう。
例えば2人1組になり、一人がケア役・一人が観察役となって実演します。
観察役はチェックリスト片手に、手順通りにできているか、ミスがないかを見ます。
終わったら良かった点・ヒヤリとした点をフィードバックし合います。
こうした練習により、普段は意識していなかった自分の癖(例:「手袋を外す前にあちこち触っていた」等)に気付くことができます。
感染管理認定看護師など専門家を招いて指導を受けるのもよいですが、現場同士で教え合うだけでも十分効果があります。
「できて当たり前」の基本をあえて練習することで、全員の意識が高まります。
役割分担や二人介助の活用
重度の利用者さんの場合、おむつ交換に二人介助が必要なこともあります。
その際、役割を「清潔担当」と「汚染担当」に分ける方法があります。
例えば一人が手袋・エプロンを着けて汚い処理(汚物の除去など)を集中的に行い、もう一人は清潔な物品を手渡したり新しいおむつをセットしたりする役です。
清潔担当の人は汚染物に触れないようにすれば、あえて手袋をせず手指消毒だけで臨むこともできます(万一手が汚れたらすぐ手洗いすればOK)。
こうすることで一人が汚染作業に集中でき、効率と安全性が高まります。
ただし汚染が広範囲に及ぶ場合や感染症疑いのケースでは、清潔担当もマスク等は着用した方が安心です。
このようにチームで協力してケアする姿勢を普段から練習しておくと、いざという時スムーズです。
新人さんには先輩が隣について二人一組で実施し、都度声かけ・指導しながら安全に行うのも良い方法です。
情報共有と振り返り
日々のおむつ交換で気付いたこと(「ヒヤリハット」や「うまくいった工夫」など)は、ぜひチーム内で共有しましょう。
例えば「〇号室のAさんは暴れて危うく汚染しそうになったので、二人対応にしたら落ち着いた」や「新しいタイプのおむつに変えたら手順が少し変わった」等、情報は皆でアップデートする必要があります。
定期のミーティングで感染対策の話題を取り上げたり、伝達ノートに注意点を書いて回覧したりといった仕組みを作ると良いでしょう。
また、インフルエンザやノロなど流行期ごとにミニ研修を行い、厚労省や自治体から出ている最新情報(ガイドライン改訂や事例集)を確認するのも有効です。
研修資料、マニュアル資料をお探しの方は、コチラの記事をご参照ください。
「知らなかった」「古いやり方のままだった」ということがないよう、継続学習の場を設けてください。
経営陣・管理者のサポート
最後に大事なのは、施設として感染対策に必要な資源を確保することです。
どんなに職員が頑張っても、物品や環境が追いつかなければ十分な対策はできません。
例えば手袋やエプロンの在庫を切らさない、アルコール消毒液を各所に設置する、汚物処理室に手洗い設備を整える、十分な人員配置でゆとりあるケアを実現する等、管理者側の配慮も求められます。
おむつ交換の見直し研修を提案する際は、こうした資源の必要性も合わせて訴えると良いでしょう。
感染対策はコストではなく将来への投資です。
職員が健康で安心して働ける環境、利用者さんが安全に過ごせる環境を整えることは、ひいては施設の信頼や運営にもプラスになります。
以上のように、チーム全体でおむつ交換の手順改善・維持に取り組むことで、「うっかりミス」の発生率を大幅に下げ、常に高水準のケアを提供できるようになります。
感染症は目に見えない相手ですが、チームワークで立ち向かえば怖くありません。
互いに声を掛け合い、基本の徹底を励行する職場風土をぜひ作ってください。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は、おむつ交換に潜む感染経路と、その対策について詳しく見てきました。
ポイントは、「手袋・エプロンを必ずつける」「汚れたら替える」「触れたら洗う」といった基本を一つひとつ丁寧に行うことに尽きます。
感染防止対策の合言葉で「基本に勝る特効薬なし」というものがありますが、まさに現場での積み重ねが最大の予防策です。
おむつ交換は介護職員にとって日常茶飯事のケアですが、だからこそ慣れによる油断が起きやすい場面でもあります。
本記事を機に、ぜひ自身のケアを振り返り、同僚とも声を掛け合いながら手順を見直してみてください。
厚生労働省のマニュアルでも強調されているように、便には思わぬ病原体が潜んでおり、「直接触れなくても手袋とエプロンを着用する」のが基本です。
そして1回ごとのケアごとに手袋やエプロンは交換し、外したら手指消毒を欠かさないこと。
この当たり前のようでいて徹底が難しいポイントを、常に意識して実践しましょう。
利用者さんにとって清潔で快適な生活を提供すること、そして職員自身が健康で安全に働き続けること、その両方を守るために、感染防止は基本の徹底から始まります。
おむつ交換の手順という身近な基本を大切にする姿勢が、施設全体の感染対策力を底上げし、ひいては信頼されるケアにつながります。
今日からぜひ、学んだことを現場で活かしてください。
職員一人ひとりの意識と行動が、利用者さんと自分たちを守る大きな力になるのです。
共に安心・安全なケア環境を築いていきましょう。
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