高齢者介護の現場では、利用者さんのちょっとした体調の変化から感染症を早期に疑い、適切に対応することがとても重要です。
そこで今回は「この症状、何の感染症?」をテーマに、介護職員向けの中級レベル感染症クイズを作成しました。
現場でよく遭遇する状況を想定した三択問題を9問用意しています。
各問題の解説では、正解とその理由に加え、現場で役立つ知識や対応のヒントも紹介します。
ぜひ実践に役立ててください。
それではチャレンジしてみましょう!
第1問
【症状】
1月中旬、特養に入所中の80歳のAさんは、38.5℃の発熱とともに全身の強いだるさを訴えています。関節痛や筋肉痛もあり、「身体が痛くて起き上がれない」と言います。咳と鼻水の症状も少し見られますが、急に高熱が出て寒気がする様子です。同じフロアの他の利用者さん2名と職員1名も、最近似た症状で休んでいます。この症状から最も疑われる感染症はどれでしょうか?
【選択肢】
- インフルエンザ
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
- RSウイルス感染症
【正解】
① インフルエンザ(インフルエンザウイルス感染症)
【解説】
Aさんは冬季に突然の高熱と全身倦怠感、筋肉痛・関節痛を呈しています。
これらはまさにインフルエンザの典型症状です。
インフルエンザでは通常、38℃以上の発熱が急速に現れ、強いだるさ、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状を伴います。
鼻水や咳など風邪に似た症状も出ますが、全身症状の強さが普通の風邪との違いです。
特に高齢者では重症化しやすく、肺炎を併発することもあります。
一方、新型コロナやRSウイルス感染症も発熱や咳を起こしますが、嗅覚・味覚障害(新型コロナ)や喘鳴を伴う呼吸困難(RSウイルス)といった特徴は見られません。
また、インフルエンザは毎年冬に流行しやすく、同じ施設内で複数人が同時期に発症している点もインフルエンザを強く示唆します。
インフルエンザと判明した場合、速やかな隔離と感染予防策が必要です。
他の利用者さんと接触を避け、マスクや手袋を着用して看護・介護を行いましょう。
また、抗インフルエンザ薬の早期投与により症状の進行を抑えられます。
高齢者や基礎疾患のある方は重症化しやすいため、日頃からワクチン接種や手洗い・うがいの励行で予防に努めることが重要です。
インフルエンザは適切に対応すれば多くが1週間程度で回復しますが、高熱が続く場合や呼吸が苦しそうな場合は肺炎の併発も疑い、医師の指示を仰いでください。
【現場のヒント】
インフルエンザ流行期には、毎朝の検温や体調チェックを徹底し、発熱や倦怠感がある職員・利用者さんは無理せず休ませることが大切です。
インフルエンザと診断された利用者さんは個室などで隔離し、介護・看護する際はサージカルマスクやアイシールド、手袋・ガウンを着用して飛沫・接触感染を防ぎます。
毎年流行前(10~11月頃)にインフルエンザ予防接種を受けておくと重症化予防に有効です。
介護職員自身もワクチン接種し、職場内への持ち込みを防ぎましょう。
第2問
【症状】
デイサービスで昼食後、複数の利用者さんが突然の激しい嘔吐を訴え始めました。同時に水様性の下痢も起こし、「お腹が痛い」と苦しんでいます。発熱は軽度(37℃台)ですが、数人が次々と嘔吐して体力が低下しています。季節は12月で、昼食には生ガキを使った料理も出ていました。他の利用者さんや職員にも吐き気を訴える人がいます。これらの症状から最も疑われる感染症はどれでしょうか?
【選択肢】
- ノロウイルス感染症(感染性胃腸炎)
- サルモネラ食中毒(細菌性胃腸炎)
- ロタウイルス感染症
【正解】
① ノロウイルス感染症(感染性胃腸炎)
【解説】
ノロウイルス感染症では、激しい嘔吐と下痢が主症状として現れます。
問題のケースでは食後数時間~半日以内に複数人が嘔吐・下痢を起こしており、爆発的な集団発生である点がノロウイルスの特徴に合致します。
ノロウイルスは冬季(11~2月)に流行しやすく、感染力が非常に強いウイルスです。
生牡蠣など加熱不十分な二枚貝から感染することも多く、問題文にも生ガキの提供があったことから原因食品として疑われます。
サルモネラなど細菌性食中毒でも下痢・嘔吐は起こりますが、通常は発熱(38℃前後)や腹痛が顕著で、潜伏期間も半日~数日とやや長めです。
ロタウイルスは乳幼児に多い胃腸炎で、成人や高齢者では免疫があるため発症はまれです。
以上から、この集団嘔吐の原因はノロウイルスが最も可能性高いでしょう。
ノロウイルス感染症が疑われる場合、迅速な感染対策が欠かせません。
吐物や下痢便には大量のウイルスが含まれるため、処理する際は使い捨て手袋・マスク・エプロンを着用し、使い捨てペーパーで拭き取ります。
その後、床やトイレなど汚染箇所に次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)0.1%の消毒液を十分にかけて消毒します。
アルコール消毒はノロウイルスには効果が不十分なので注意してください。
汚物処理後は手洗いを徹底し、嘔吐物で汚れた衣服やリネン類は適切に密封して廃棄または高温洗濯します。
【現場のヒント】
ノロウイルスは少量のウイルスでも感染し、飛沫した微粒子を吸い込むだけでもうつることがあります。
吐瀉物を処理するときは必ずマスクを着用し、処理後は部屋の換気を十分行いましょう。
塩素系漂白剤を用いた0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液(1000ppm)は、ノロウイルスの消毒に有効です。
また、汚物が付着した床やトイレ周辺はしっかり拭き取りましょう。
ノロウイルスは症状が治まった後も1~2週間は便中に排泄されます。
症状が軽快しても、しばらくは食品を扱う調理業務から外す、人前での食事を控えるなどの配慮が必要です。
第3問
【症状】
入所者Bさん(85歳男性)は、微熱(37.2℃程度)の状態が3週間以上続いており、ここ2~3週間で痰が絡む咳が悪化しています。当初は風邪かなと思われましたが、なかなか治りません。特に夜間に寝汗をかくことが多く、体重もここ1ヶ月で数kg減少しました。食欲も低下気味です。最近、痰に血が混じることもあったため心配しています。この症状から最も疑われる感染症はどれでしょうか?
【選択肢】
- 肺炎球菌による肺炎
- 結核(肺結核)
- マイコプラズマ肺炎
【正解】
② 結核(肺結核)
【解説】
結核を疑う所見は、長引く咳と微熱、寝汗、体重減少などの慢性症状です。
Bさんは3週間以上にわたり軽い発熱と咳が続き、さらに夜間の盗汗(寝汗)や体重減少もみられます。
これは典型的な肺結核の経過と言えます。
結核菌に感染すると、咳・痰・微熱・倦怠感など風邪に似た症状がゆっくり出現し、放置すると悪化していきます。
高齢者では、若い頃に感染し体内に潜んでいた結核菌が免疫低下により再活性化して発病するケースが多いことも知られています。
痰に血が混じる血痰は、結核が進行して肺組織が損傷されている可能性を示唆します。
一方、肺炎球菌肺炎であれば通常高熱や胸の痛みを伴い急激に症状が悪化しますし(高齢者では発熱が目立たない場合もありますが)、3週間もだらだら症状が続くのは肺炎の典型ではありません。
マイコプラズマ肺炎もせき込みが長引くことがありますが、微熱はあっても寝汗や体重減少といった慢性的消耗症状は通常ありません。
またマイコプラズマ肺炎は主に若年者に多く、高齢のBさんのケースには当てはまりにくいでしょう。
結核が疑われる場合は、直ちに医療機関での受診と検査が必要です。
胸部X線検査や痰の結核菌検査(塗抹・培養検査など)を行い診断します。
結核と診断された場合、法定感染症のため保健所への届け出がなされ、患者は感染拡大を防ぐため原則入院隔離で治療を開始します。
治療は半年以上にわたる抗結核薬の内服が基本です。
罹患者の咳やくしゃみから空気中に飛び出した結核菌を吸い込むことで感染するため、施設内で結核患者が発生した場合、濃厚接触者に対して保健所が必要に応じ検診(胸部X線や結核感染検査)を指示します。
施設の判断で全員をすぐ検査に連れて行く必要はなく、まずは保健所の調査・指示を仰ぐようにしましょう。
【現場のヒント】
高齢者の長引く咳や微熱は結核を見逃しやすいので注意が必要です。
「風邪が治らない」と思ったら、2週間以上症状が続いていないか確認しましょう。
2週間を超える咳は結核を疑う目安です。
結核予防には日頃からの体調管理と換気が大切です。
特に冬場は窓を閉めがちですが、定期的な換気で空気中の菌濃度を下げることができます。
また、過去に結核治療歴のある利用者さんが体調不良を訴えた場合、再燃の可能性も考えます。
結核既往者や長期間咳をしている人と接する際は、念のため職員もマスクを着用するなど、飛沫核(空気)感染対策を意識しましょう。
第4問
【症状】
特養の新人職員Cさん(22歳女性)は、2週間ほど前から乾いた咳が続いています。発熱は微熱(37.5℃前後)が断続的に出る程度で、本人は「そこまでつらくないので仕事に来ていた」そうです。しかし咳が長引くため受診したところ、胸部レントゲンで肺炎像が確認されました。痰は少なく、のどの痛みは軽度です。同じフロアの職員数名も、最近「せきが出る」「のどが痛い」と言っています。Cさんの肺炎の原因として最も疑われる病原体はどれでしょうか?
【選択肢】
- 肺炎球菌(典型的肺炎)
- マイコプラズマ肺炎菌(非定型肺炎)
- 結核菌
【正解】
② マイコプラズマ肺炎菌(マイコプラズマ肺炎)
【解説】
Cさんのように若年者で、比較的軽症にもかかわらず長引く乾性咳嗽と微熱がみられ、胸のレントゲンで肺炎が確認される、この場合マイコプラズマ肺炎が強く疑われます。
マイコプラズマ肺炎は「非定型肺炎」の代表で、典型的な細菌性肺炎(肺炎球菌など)に比べて症状が軽くゆっくり経過します。
発熱や倦怠感は軽度で、むしろ治りにくい咳が特徴です。
Cさんも仕事に行ける程度の症状で咳だけが続いており、このパターンは典型的です。
肺炎球菌などによる典型的肺炎なら通常高熱や膿性痰、胸痛が伴い、若い人ならかなり具合が悪くなるはずです(※高齢者だと症状がはっきりしないこともありますが)。
結核菌による肺炎(肺結核)は、先の問題の通り慢性的な経過を取り、2週間以上の咳や微熱が続きますが、Cさんの場合は発症後まだ日が浅く、症状経過もそれほど長くありません。
また結核ならば同僚に短期間で次々感染することは考えにくいです。
同僚にも咳や喉の痛みを訴える人がいる点から、職場内で流行している可能性があり、集団発生しやすいマイコプラズマ肺炎の性質に合致します。
マイコプラズマ肺炎は飛沫感染で広がるため、学校や職場など人が集まる環境で流行することがあります。
5年おき程度の周期で流行が報告されており、流行時には小児から若年成人を中心に患者が増えます。
治療にはマクロライド系抗生物質(例:アジスロマイシン)を用いることで多くの場合改善します。
Cさんも病院で抗菌薬を処方され、自宅療養となったことでしょう。
現場では、他の職員や利用者さんへの感染を防ぐために、咳エチケットを徹底し、症状のある職員には早めに受診と休養を促すことが大切です。
対策としてインフルエンザ同様の飛沫感染予防策(マスク着用や手洗い励行)や適切な室内換気が有効です。
長引く咳を侮らず、周囲で同様の症状が複数見られたら集団発生を疑って早めに対応しましょう。
【現場のヒント】
「肺炎=高齢者がなるもの」と思いがちですが、若い職員でもマイコプラズマなどによる肺炎になることがあります。
若年層の肺炎ではマイコプラズマを念頭に置きましょう。
マイコプラズマ肺炎はPCR検査や咽頭ぬぐい液の迅速キットで診断できる場合があります。
現場で職員の間に咳風邪が流行していると感じたら、早めに医療機関を受診してもらい、原因を確認することも大切です。
慢性的な咳を呈する利用者や職員に接するときは、結核や非定型肺炎などの可能性も踏まえて、マスクの着用を検討してください。
感染症の早期発見と拡大防止には「おかしいと思ったらまず疑う」姿勢が重要です。
第5問
【症状】
ショートステイを利用中のDさん(78歳女性)の身体に、赤い発疹が現れました。発疹は手のひらや足の裏にもぽつぽつと見られ、体全体に広がっています。本人は「痒みも痛みもない」と言います。数か月前に陰部に痛みのないできものができましたが自然に治ったとも話してくれました。現在、発疹以外には発熱が37℃台とリンパ節の腫れが少し見られる程度です。この症状から最も疑われる感染症はどれでしょうか?
【選択肢】
- 梅毒
- 手足口病(エンテロウイルス感染症)
- 帯状疱疹(ヘルペスウイルス感染症)
【正解】
① 梅毒
【解説】
梅毒では、感染後数週間で現れるしこり(硬性下疳)に引き続き、数か月後に全身の発疹(梅毒疹)が出現する経過をたどります。
特に手のひらや足の裏にまで発疹が及ぶことは梅毒(二期梅毒)に特徴的です。
Dさんは陰部のできもの(痛みのない潰瘍)が自然消退した後に、手足の裏を含む全身に無痛性・無痒性の発疹が出ています。
この経過は梅毒に典型的であり、他の選択肢と比べても梅毒が最も当てはまります。
手足口病はコクサッキーウイルスなどによる小児に多い夏風邪で、手足のひらや口腔内に発疹や水疱ができますが、大人が発症するのはまれですし、高齢のDさんがなるのは考えにくいです。
帯状疱疹は体の左右どちらか片側に神経に沿って水ぶくれのある痛みを伴う発疹が出ます。
Dさんの発疹は全身に散在し痛みもないので帯状疱疹とも異なります。
以上のことから、Dさんの症状は梅毒(二期)を強く示唆します。
梅毒は梅毒トレポネーマという細菌による性感染症で、近年日本でも患者数が増加傾向にあります。
高齢者では頻度は高くありませんが、可能性がゼロではありません。
梅毒は適切な抗生物質(ペニシリン系薬)による治療で完治が可能です。
疑わしい症状がある場合は早めに皮膚科や泌尿器科などで血液検査(梅毒血清反応検査)を受けましょう。
Dさんの場合も、まず梅毒の検査を行い、陽性であれば入院せずとも外来通院で数週間~数か月間の内服治療を受けることになります。
発疹は治療により数週間で消失していきます。介護現場では梅毒患者に出会う機会は多くありませんが、手のひら・足裏の発疹というキーワードは覚えておきましょう(他に同様の発疹を呈する疾患は非常に限られます)。
また梅毒疹は痒みがなく湿疹に似ているため見逃されやすいです。
利用者さんの皮膚に広範な発疹を見つけた際は、原因不明の湿疹として済まさず、梅毒など感染症の可能性も念頭に入れることが大切です。
【現場のヒント】
梅毒かもしれない発疹を見つけたときは、同性異性を問わずデリケートな問題ですのでプライバシーに配慮しましょう。
まず信頼関係のある職員や看護師から本人に体調変化を聞き取り、必要に応じて医師の診察につなげます。
梅毒は主に性的接触で感染します。
高齢者施設では頻度は高くありませんが、近年は中高年の感染報告もあります。
パートナーとの関係性などデリケートな背景がある場合も多いため、対応にあたっては本人の尊厳を尊重しつつ適切な医療につなげることが求められます。
介護職員も梅毒を含めた性感染症の基礎知識を持ち、万一利用者さんから打ち明けられた際にも動揺せず対応できるようにしましょう。
梅毒は早期に治療すれば完治する病気ですので、偏見を持たず冷静にサポートする姿勢が大切です。
第6問
【症状】
特養の利用者Eさん(90歳・女性)は、全身の激しいかゆみに悩まされています。特に夜間にかゆみがひどく、眠れないほど掻きむしってしまいます。指の間や手首、脇の下、ウエスト周りなどに小さな赤いブツブツが多数見られ、引っ掻いた跡があります。皮膚科で検査したところ、Eさんの皮膚からダニが検出されました。さらに、同じフロアでEさんに近づいてお世話をしていた職員2名も「最近なんだか体がむずがゆい」と言い始めました。Eさんの症状の原因として最も考えられるのはどの感染症でしょうか?
【選択肢】
- 疥癬(かいせん)
- アトピー性皮膚炎
- 白癬(水虫)
【正解】
① 疥癬(かいせん)
【解説】
疥癬はヒトの皮膚に疥癬虫(ヒゼンダニ)が寄生して起こる皮膚感染症です。
特徴は強いかゆみで、特にダニが活動する夜間に増悪する点です。
Eさんは夜眠れないほどのかゆみを訴えており、手の指の間や手首、腹部などに赤い発疹がありますが、まさに疥癬の好発部位と一致します。
検査でダニ(ヒゼンダニ)が検出されたことから診断は確定です。
アトピー性皮膚炎でも体のかゆみは起こりますが、高齢発症はまれですし、人に伝染したりダニが検出されたりはしません。
白癬(水虫)は皮膚糸状菌というカビの感染で、足の指などに痒みを伴うことがありますが、全身に及ぶ発疹や夜間増悪の強い痒みという点で疥癬の症状とは異なります。
さらにEさんに接していた職員にもかゆみが出ていることから、接触で感染が広がる疥癬である可能性が極めて高いです。
疥癬には、寄生するダニの数が比較的少ない通常疥癬と、数百万匹にも及ぶダニが増殖する角化型疥癬(ノルウェー疥癬)があります。
角化型疥癬は厚い角質のかさぶたが全身の皮膚に生じ、高齢者や免疫力の低下した人に発生しやすく、きわめて感染力が強いのが特徴です。
Eさんの場合、記載からは通常疥癬と思われますが、いずれにせよ集団生活の場では早急な対策が必要です。
まず罹患者をできるだけ個室に隔離し、直接肌に触れるケアは手袋やガウンを着用して行います。
使用した衣類や寝具類はダニが付着している可能性があるため、熱湯消毒や高温乾燥機を用いてしっかりと洗濯・乾燥させます。
ヒゼンダニは人の体から離れると室温で2~3日程度で生存できなくなるため、洗えないものはビニール袋に密封して数日間隔離する方法も有効です。
また、症状のある職員や他の利用者さんも皮膚科受診し、必要に応じて同時に治療を開始します。
治療には、イベルメクチン内服薬や硫黄軟膏・ペルメトリンクリームなどの外用薬を用います。
これらの治療でダニを駆除すればかゆみも徐々に治まります。
ただし疥癬は治療開始からしばらくはかゆみが続くことがあるため、かゆみ止めの内服や保湿ケアも併用すると良いでしょう。
疥癬と分かった時点で、施設内でタオルや衣類の共有を避ける、居室の清掃・掃除機かけを徹底するといった環境整備も大切です。
疥癬は根気強く対応すれば必ず駆逐できますので、利用者さんのQOL向上のためにもチームで協力して取り組みましょう。
【現場のヒント】
介護現場で利用者さんの皮膚に湿疹様のブツブツを見つけたら、「ただの湿疹」と決めつけず経過を観察しましょう。
特に夜間に痒がる湿疹は疥癬を疑います。
診断が遅れると施設内に広がる恐れがあるため、早めに皮膚科受診を手配してください。
疥癬患者をケアする際は素手で触れないことが基本です。
手袋・長袖ガウンを着用し、ケア後は手袋を外してから必ず手洗い・手指消毒をしましょう。
また、角化型疥癬の場合は感染力が非常に強いため、より厳重な対策が必要です。
多数のダニが付着した皮膚のかさぶたは感染源になるので、入浴介助で角質を柔らかくしながら除去を試みたりしますが、この際も防護具を忘れないようにします。
専門医の指示のもと、適切な薬物治療と環境整備を並行して行いましょう。
第7問
【症状】
グループホームの夕食で鶏のたたき(鶏肉の刺身)が提供されました。その翌日から、利用者数名が発熱(38℃前後)と腹痛、下痢の症状を訴え始めました。下痢は1日に10回以上水様便が出る人もおり、中には便に血が混じる利用者もいます。嘔吐はそれほど多くありませんが、吐き気はあります。発症した利用者さんはいずれも前日の鶏のたたきを食べており、食べなかった人は症状がないようです。この症状から原因として最も疑われる感染症(食中毒)はどれでしょうか?
【選択肢】
- サルモネラ食中毒
- カンピロバクター食中毒
- ノロウイルス感染症
【正解】
② カンピロバクター食中毒
【解説】
問題文には鶏肉の刺身(鶏のたたき)を食べた人が翌日から発症、とあります。
鶏肉の生食は日本では珍しくありませんが、カンピロバクターという細菌による食中毒の大半は鶏肉の生食・加熱不足が原因です。
カンピロバクターによる腸炎では、発熱・倦怠感・頭痛などの前駆症状に続いて腹痛・下痢が出現し、ときに血性の下痢になることがあります。
潜伏期間は1~7日(平均2~3日)で、多くは1週間ほどで自然回復します。
このケースでも生の鶏肉摂取から1日後に症状が出ていることや、血の混じった下痢便がみられる点がカンピロバクターの食中毒と一致します。
サルモネラも鶏肉や生卵から感染しますが、潜伏期は6~48時間(平均1日程度)とやや短く、また嘔吐も比較的起こりやすい傾向があります。
今回嘔吐は少ないとのことなので、嘔吐が激しいノロウイルスは考えにくいでしょう。
以上よりカンピロバクター食中毒の疑いが最も高いと判断できます。
カンピロバクター腸炎は多くが軽症~中等症で経過し、特別な治療をしなくても数日~1週間で改善します。
下痢や嘔吐がひどい場合は脱水を防ぐため経口補水や点滴など対症療法を行います。
必要に応じて抗菌薬(マクロライド系やニューキノロン系)を使うこともあります。
まれに ギラン・バレー症候群(手足の麻痺が起こる自己免疫疾患)を発症することがあり、下痢が治まった後も体調変化には注意が必要です。
施設でこのような食中毒が発生した場合、すみやかに保健所に連絡し報告することが重要です。
今回の例でも複数の利用者が同時期に症状を呈しているため、疑わしい食事や食材の提供を中止し、残っている食品や嘔吐物・便の検査を保健所の指示のもと実施する流れになります。
原因食品が確定したら、調理過程の見直しや他の利用者への健康観察も行いましょう。
また再発防止のため、調理担当者への衛生指導も必要です(生肉と野菜のまな板を分ける、生食は避け中心部まで十分加熱するなど)。
幸い多くの場合カンピロバクター食中毒は重篤化しませんが、高齢者では脱水に陥りやすいので、水分補給に気を配りましょう。
【現場のヒント】
施設の食事で生肉や生卵を提供する際はリスクを十分考慮してください。
特に高齢者は抵抗力が弱く重症化しやすいため、できるだけ加熱調理を徹底することが望ましいです。
刺身や寿司など生魚は慣れていても、生肉は避けた方が無難でしょう。
食中毒が疑われる利用者さんが出た場合、同じメニューを食べた他の利用者さんにも症状がないか確認します。
複数人に症状があれば速やかに上長に報告し、医療機関受診や保健所連絡など組織的対応を取りましょう。
また、普段から食品の衛生管理を徹底しましょう。
調理前の手洗いはもちろん、器具の消毒や食材の適切な保存(冷蔵/冷凍)、中心温度の確認など基本を守ることで多くの食中毒は予防できます。
調理担当だけでなく介護職員も衛生知識を持ち、配膳や見守りの際に違和感のある料理(異臭、生焼けなど)に気付いたら声を上げることが大切です。
第8問
【症状】
ショートステイに入所中のFさん(75歳男性)は、数日前から発熱(38.0℃)と強い咳が出現しました。痰が黄色く濃いものが出ており、「胸が痛む」と訴えています。食欲はなく、呼吸が速く苦しそうな様子です。もともと数日前にかぜ症状があり様子を見ていましたが、一旦下がった熱がまた上がってきており、状態が悪化しています。同じフロアでは先週インフルエンザが流行していました。Fさんの症状から最も疑われるのは次のうちどの感染症でしょうか?
【選択肢】
- インフルエンザ肺炎(インフルエンザに伴うウイルス性肺炎)
- 二次性細菌性肺炎(肺炎球菌など)
- RSウイルス感染症による気管支炎
【正解】
②二次性細菌性肺炎(肺炎球菌などによる細菌性肺炎)
【解説】
Fさんはかぜ症状の後にいったん熱が下がりかけてから再び高熱となり、黄色い痰を伴う咳や胸の痛み、呼吸苦がみられます。
これは細菌性肺炎、特にインフルエンザに引き続いて起こる二次性肺炎を示唆します。
インフルエンザそのものでも肺炎(ウイルス性肺炎)を起こすことがありますが、その場合はインフルエンザ発症から数日以内に急速に重症化します。
Fさんは一時改善したように見えた後、再度悪化しているため時期的に二次感染と考えるのが自然です。
二次性肺炎の原因で最も多いのは肺炎球菌や黄色ブドウ球菌などの細菌です。
特にインフルエンザ流行中との記載から、インフルエンザ後の黄色ブドウ球菌性肺炎も疑われますが、肺炎球菌も高齢者の定番の肺炎起炎菌です。
選択肢2の「二次性細菌性肺炎」はこれらを総称したものと捉えてください。
RSウイルス感染症は高齢者でも気管支炎や肺炎を起こしますが、先にインフルエンザ様の流行があったという状況証拠からも、まずはインフルエンザ関連の肺炎を考えるべきでしょう。
細菌性肺炎が疑われる場合、早急に抗菌薬治療を開始する必要があります。
Fさんもおそらく胸部エックス線や血液検査で肺炎の診断がつき、抗生剤の点滴治療が行われるでしょう。
施設ではすぐに医師の診察を受けられる環境にないことも多いですが、バイタルサインの悪化(高熱、頻呼吸、低酸素、血圧低下など)や意識状態の変化が見られたら迷わず救急受診を手配します。
肺炎は高齢者にとって命に関わる重大な疾患です。
今回Fさんはインフルエンザ様症状の後に肺炎を併発したケースですが、実際高齢者インフルエンザの死亡原因の多くは肺炎などの合併症です。
予防策として、インフルエンザワクチンだけでなく肺炎球菌ワクチンの定期接種も推奨されます。
介護現場では、利用者さんに嚥下障害や口腔ケア不足があると誤嚥性肺炎のリスクも高まります。
日頃から食事形態の工夫や口腔ケアの励行で肺炎を予防する視点も持ちましょう。
【現場のヒント】
痰の色は感染症を推測する手がかりになります。
黄色や緑色の膿性痰が増えた場合は細菌感染が疑われます。
透明な痰が急に色づいてきたら要注意です。
高齢者は肺炎を起こしてもはっきりとした発熱が出ないことがあります。
食事が摂れない・元気がないなど普段と違う様子が見られたら、胸の音を聞いたり呼吸回数を測ったりして異常の兆候を見逃さないようにしましょう。
また、インフルエンザ流行期には、罹患した利用者さんの観察を特に丁寧に行います。
解熱後も油断せず、呼吸状態や痰の様子、意識レベルに注意を払いましょう。
解熱後に再び熱が上がった場合は二次性肺炎など合併症を疑い、すぐに医療機関へ連絡してください。
第9問
【症状】
グループホームで暮らすGさん(80歳女性)は、先週末に曾孫(ひまご)たちが面会に来てから数日後に鼻水・鼻づまりと咳の症状が出現しました。熱は最初37℃台でしたが、その後38.5℃まで上昇しています。特に夜間に咳き込みがひどく、呼吸が「ゼーゼー」と苦しそうな音を立てています。痰は少ないものの咳が止まらず、食事もあまり摂れなくなってしまいました。他の利用者さんにも「最近咳が出る」という方が数名います。Gさんの症状から考えられる感染症は次のうちどれでしょうか?
【選択肢】
- RSウイルス感染症
- インフルエンザ
- 誤嚥性肺炎
【正解】
① RSウイルス感染症
【解説】
RSウイルスは乳幼児が感染するイメージが強いですが、高齢者が感染すると重症化しやすいウイルスです。
Gさんは曾孫から風邪をもらった可能性があり、その後発熱・咳・喘鳴(ゼーゼーする呼吸音)が出現しています。
RSウイルス感染症では最初は鼻水や咳など軽い風邪症状ですが、気管支炎や肺炎に進展すると咳込みが強まり、喘鳴や呼吸困難を呈します。
特に基礎疾患のある高齢者では細気管支炎や肺炎に至ることがあるため注意が必要です。
Gさんの症状(発熱、咳、喘鳴)と経過はRSウイルスによる細気管支炎に合致します。
同じ施設で他にも咳風邪の人が出ている点も、RSウイルスが施設内で接触・飛沫感染により広がっていることを示唆します。
インフルエンザなら筋肉痛や全身倦怠感が強く出るはずですが、記載にはなく、また曾孫さんの来訪(小児からの感染)という点からもRSの方が典型的です。
誤嚥性肺炎は食事の誤嚥で起こる肺炎ですが、Gさんは小児との接触後に症状が出ており、喘鳴を伴う経過は誤嚥よりウイルス感染を考えるべきでしょう。
RSウイルス感染症には特効薬はなく、対症療法が中心です。
高齢者の場合、呼吸状態が悪化したり食事・水分が摂れなくなるようであれば入院が考慮されます。
酸素投与や点滴、場合によっては気管支拡張薬などが使われることもあります。
介護現場では、RSウイルスもインフルエンザと同様の感染対策(手洗い・マスク・消毒)で広がりを抑えることができます。
乳幼児との接触で流行することが多いため、面会に来たお子さんが鼻風邪をひいている場合などは、できればマスク着用をお願いしたり、面会後に居室の換気をしたりするとよいでしょう。
2024年にはRSウイルスのワクチンも海外で実用化され、高齢者への予防接種が検討されています(※日本での承認状況は随時最新情報をご確認ください)。
現時点では手洗いや消毒、室内の換気など基本的な感染予防策が頼りです。
【現場のヒント】
子どもから高齢者への感染に注意しましょう。
例えば、保育園に通うお孫さんと接触後に高齢者が肺炎になる場合、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスなど小児で流行する病原体が原因のことがあります。
面会後1週間以内の体調変化はよく観察してください。
RSウイルス感染症は飛沫感染と接触感染で広がります。
利用者同士で咳やくしゃみが出ている人がいれば、マスクを着用してもらい、共有物(食器やタオル)の使い回しは避けます。
環境の消毒(テーブル手すりのふき取り)も有効です。
また、呼吸状態のチェックを習慣づけましょう。
高齢者は肺炎になっても「苦しい」と訴えにくい場合があります。
日常的に呼吸数やSpO₂(パルスオキシメータで測る血中酸素飽和度)を測定する体制があると、異変に早く気づけます。
喘鳴が聞こえる、呼吸数が普段より多い(20/分超)などは要注意で、早めに医療者へ相談してください。
おわりに
いかがだったでしょうか。
日々の業務で「もしかして感染症かも?」とピンときたら、ぜひ今回の学びを思い出して早めの対応につなげてください。
現場で迅速かつ冷静に対処することで、感染拡大を防ぎ利用者の安全を守ることができます。
普段から正しい知識をアップデートし、チームで協力して感染症に立ち向かいましょう。
それではこれで終わります。
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