筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
あなたの働く現場でも、年に1度は利用者さんの転倒事故があるはずです。
もしあなたが利用者さんの転倒事故の発見者で、あなたが対応しなければならないとしたら、適切な対応ができますか?
この研修記事では、具体的な対応方法を根拠に基づいてお伝えしていきます。
この記事を読む価値
- 簡単にまとめているので、施設に貼っておき何度も見直すことのできる資料です。
- できる限り難しい表現は省いています。
- そのままマニュアルとして活用することもできます。
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それでは早速、見ていきましょう。
転倒事故の直後の対応
転倒等の事故が発生した場合は、まずは慌てず、落ち着いて状態を確認し、どのような対応をすれば良いかを判断しましょう。
1、意識の有無
2、呼吸状態
3、怪我や痛みの有無
4、頭を打ったかどうか
それぞれ、具体的に見ていきます。
1、意識の有無
意識がない場合は、すぐ救急車を呼びます。
意識レベルが低下しているかもと感じたときは、初めにその程度を判定する必要があります。
意識障害の評価方法はたくさんありますが、代表的なものにジャパン・コーマ・スケール(Japan Coma Scale:JCS)があります。
JCSは0から300の間で表現されます。0が正常な状態で、数字が大きくなるほど、重度の意識障害であることを意味します。
JCSは覚醒度合いによって3段階(1桁、2桁、3桁)に分けられます。
さらにその中でも3段階に細分化されることから、「3-3-9度方式」とも呼ばれます。
次の表はJCSです。
I.覚醒している(1桁の点数で表現) | |
---|---|
0 | 意識清明 |
I-1 | 見当識は保たれているが意識清明ではない(1) |
I-2 | 見当識障害がある(2) |
I-3 | 自分の名前・生年月日が言えない(3) |
II.刺激に応じて一時的に覚醒する(2桁の点数で表現) | |
---|---|
II-1 | 普通の呼びかけで開眼する(10) |
II-2 | 大声で呼びかけたり、強く揺するなどで開眼する(20) |
II-3 | 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを続けるとかろうじて開眼する(30) |
III.刺激しても覚醒しない(3桁の点数で表現) | |
---|---|
III-1 | 痛みに対して払いのけるなどの動作をする(100) |
III-2 | 痛み刺激で手足を動かしたり、顔をしかめたりする(200) |
III-3 | 痛み刺激に対して全く反応しない(300) |
JCSⅠでは、他の症状がなければ必ずしも救急搬送が必要とは限りません。
何らかの異常を感じる場合は、医療機関への相談が望ましいです。
JCSⅡの場合は、
- 意識レベルの急激な変化
- けいれんや発作の有無
- 呼吸苦の有無
なども確認し、必要であれば速やかに救急車を呼ぶべきです。
JCSⅢの場合は、非常に危険でありすぐに救急車を呼びましょう。
2、呼吸状態
意識状態の確認と同時に、呼吸状態が普通かどうかを見極めます。
呼吸を観察する時は、必ず1分間通して観察して測定します。
正常な安静時の呼吸数は1分間に12~16回です。
呼吸のリズムは、吸気1、呼気1.5、休止1です。正常な場合は規則的です。
異常とされる「徐呼吸」は1分間に10回以下の呼吸、「頻呼吸」は1分間に24回以上の呼吸と言われます。
「徐呼吸」も「頻呼吸」も、危険な状態です。
もしそのような症状がみられたら、すぐに救急車を呼びましょう。
呼吸の異常と合わせて出現しやすい所見として、チアノーゼという皮膚・粘膜が青紫色に変化する症状があります。
チアノーゼでは毛細血管内血液の還元ヘモグロビン濃度が5 g/dl以上になるいわゆる低酸素血症の時に出現しやすいです。
呼吸状態と合わせて確認しましょう。
3、怪我や痛みの有無
本人から痛みの訴えがない場合でも、骨折を見過ごしてしまう場合があります。
次の項目を意識し、転倒で打った箇所を確認しましょう。
- 腫れ
- 内即からの突出
- 変形
- 発赤
- 圧痛(押してみて痛いかどうか)
- 力が入らない
このような症状があれば捻挫の場合もあるため、必ず医療機関を受診するようにしましょう。
怪我の箇所へは、次のような応急手当を行います。
1、止血する
骨が突き出しているなどの状態出なければ、圧迫止血が可能です。
画像引用:北上地区消防組合
2、患部を固定する
患部に板(なければ雑誌などで代用)を当て、動かないよう固定します。
画像引用:歌志内市HP
もし骨が突き出していても元に戻さず、そのまま動かさないように固定します。
大腿部や骨盤の骨折が疑われるときは、仰向けに寝かせ、そのまま動かさず救急車を待ちましょう。
4、頭を打ったかどうか
頭を打った場合、外傷はなくても脳へのダメージがある可能性があります。
転倒直後には症状が出ていなくとも、時間の経過とともに変化することがあるため、数週間の経過観察が大切です。
もし次のような症状が見られた場合は、すぐに救急車を呼びましょう。
- 頭痛
- 嘔吐
- けいれん
- 手足の麻痺
- しびれ
- 意識障害
- 言語障害など
頭部を打った場合の応急処置は次のようになります。
1、止血する
出血や表皮に剥離があれば、清潔なガーゼなどをあてて圧迫止血します。
2、患部を冷やす
氷嚢などを使い、腫れているところを冷やして炎症を防ぎます。
意識がない場合の対応
利用者さんに意識がなく、救急車を要請している間、医療・介護職は次の2つの対応を実施します。
具体的な方法を解説します。
気道確保
意識がなくなると、舌根部や喉頭蓋が咽頭部に落ち込んだり(舌根沈下)、嘔吐物などで気道が塞がってしまうことがあるため、のどの奥を広げて空気を肺に通すための気道確保が重要です。
そして気道の確保には、頭部後屈あご先挙上法を使用します。
画像引用:柏木市HP
頭部後屈あご先挙上法の手順は次のとおりです。
1、片手を額に、もう片方の手の人差し指と中指の2本をあご先(骨のある硬い部分)にあてる
2、頭を後ろに傾け、あご先を上げる
注意点は、
- 頭部を後ろに傾けすぎないようにする
- あごの柔らかい部分を押さない
- 頸椎損傷の疑いがある場合は行わない
以上です。
胸部圧迫
呼吸が止まってしまっている場合、救急車の到着までに処置をしなければ命は助かりません。
脳や心臓に血液を送り続けることは、心拍再開後、脳に後遺症を残さないためにも重要です。
胸部圧迫法の手順は次のとおりです。
1、胸の中央に手の付け根を置き、もう片方の手を重ねて両手の指を組む
2、肘を伸ばし、早いテンポで絶え間なく、垂直に圧迫する
注意点は、
- 1分間に100~120回の早いテンポで連続して絶え間なく圧迫する
- 強く、胸が少なくとも5㎝沈むように
- 床や畳など硬い面の上で行う(ベッドなどから移動できない場合は背中に板などを差し込む)
- AEDがある場合は、組み合わせて行う
以上です。
AEDの使用
利用者さんの意識障害を確認したら、まずは他のスタッフにAEDを持ってきてもらうよう頼みます。
AEDは、心臓が痙攣し血液を流すポンプ機能を失った状態に対して、電気ショックを与えることで正常なリズムに戻すために使用します。
電気ショックの必要性の有無は、ADEが判断します。
とにかく我々は「意識消失 ⇨ AEDの使用」というふうに覚えておきましょう。
AEDが到着したら電源を入れて(ふたを開けると電源が入る機種もあります)、電極パッドを装着し、音声ガイドに従って使用します。
除細動ボタンを押す際は、「みんな離れて」と声を身振りで指示を出し、周囲への感電を避けます。
そして電気ショック後、ただちに胸骨圧迫を再開します。
2004年7月から医療従事者でない方でも使用が可能となりました。
AEDの電極パッドは使用期限があり、1回使い捨てです。
いざというときの為、定期点検を怠らないようにしましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
利用者さんの転倒を対応する場面は、滅多にないかもしれません。
だからこそこのような研修を定期的にしておくことで、いざという時に適切に対応することができます。
この研修資料が、御社の運営にお役立ていただければ幸いです。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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