介護施設や訪問・通所介護の現場では、感染症が発生したときの初動対応が非常に重要です。
感染症は早期に発見し適切に対処できれば拡大を防ぎやすくなりますが、見逃してしまうとクラスター(集団感染)に発展しかねません。
利用者さん(高齢者や障害者)は免疫力が低い場合も多く、重症化のリスクも高いため、現場の職員全員で「観察→記録→伝達(申し送り)」の流れを徹底し、連携して対応することが欠かせません。
本稿では研修資料として、感染症初期対応のポイントをやさしく解説します。
感染症の兆候を見逃さない観察ポイント
感染症の早期発見には、利用者さんの日々の健康状態を注意深く観察することが基本です。
熱やせき、下痢や嘔吐などの有無に加え、高齢者では典型的でない微妙な変化も重要です。
厚生労働省の手引きでは、呼吸数の増加や意識レベルの低下、発汗、嘔吐・下痢、咳・喀痰増加などの症状が挙げられており、これらを認めたらすぐに医療者に報告して記録するよう指導されています。
また、高齢者では発熱が明確でない場合もあるため、「今日は表情が暗い」「元気がない」「普段と様子が違う」など日常との変化に注意し、早めに気づくことが大切です。
まとめると以下のような観察項目が参考になります。
全身状態の変化:いつもより元気がない、疲れやすい、食欲不振など。気分や表情が暗い、ぼんやりしているなど普段と違う様子。
バイタルサイン:体温、脈拍、呼吸数、血圧など。38℃以上の発熱、脈拍や呼吸数の増加などは感染の可能性。ただし高齢者では微熱程度の発熱や呼吸苦だけでも注意が必要です。
呼吸器症状:せき、痰の増加、鼻水・鼻づまり、のどの痛み、息切れなど。インフルエンザやCOVID-19、RSウイルスなどでは呼吸器症状が現れます。
消化器症状:嘔吐、下痢、腹痛など。ノロウイルスなどは嘔吐や下痢が主症状です。特に嘔吐物や便に血が混じる場合は腸管出血性大腸菌(O157など)の疑いもあります。
皮膚・粘膜の変化:発疹、発赤、かゆみ、腫れ、湿疹など。帯状疱疹や薬疹、疥癬(カイセン)など、感染症以外の皮膚病変にも注意します。
その他の症状:食欲低下、吐き気、めまい、頭痛、関節痛など。インフルエンザでは急な発熱や関節・筋肉痛が出やすく、RSウイルス感染では発熱・せき・鼻汁の上気道症状が続いた後に喘鳴や呼吸困難に至ることもあります。
これらの兆候を把握するには、日常的なケア(トイレ介助や入浴、食事介助など)のたびに利用者さんの様子を観察し、小さな変化も逃さないようにします。
例えば、「いつもと違って暑がっている」「さっきまで起きていたのに寝てしまった」「顔色が青白い」など、普段と異なるサインを見落とさないことが大事です。
発熱の程度だけに頼らず、唇の色や手足の冷え、意識状態なども併せて確認しましょう。
感染症状の観察例と記録の書き方
感染症に気づいたら、観察した内容を正確に記録し、できるだけ詳細に伝える必要があります。
記録を書く際には「5W1H」(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を意識しましょう。
情報を5W1Hに沿って整理すれば、受け手が状況を具体的にイメージでき、誤解なく伝えられます。
- いつ(日時):4月1日 8:00など、具体的な日時を書く。
- どこで:利用者さんの居室、デイルーム、通所先など症状が現れた場所。
- 誰が:利用者Aさん、介護職Bなど、利用者氏名や担当職員。
- 何が:症状(高熱、せき、嘔吐など)や観察事項。
- どのように:症状の程度(体温37.8℃、痰が黄色、食事拒否など)、発症した様子。
- なぜ(推察):必要に応じて「風邪症状の可能性」なども記載。
また、記録は客観的な事実を簡潔にまとめ、主観的な表現や推測は控えます。
具体的には「高熱が続いた」「重症な状況だった」といった主観ではなく、「8:00に38.5℃の発熱、本人は寒気訴える」といった事実を書きます。
ご家族や他職員にも読まれる場合を想定し、専門用語や略語も避け、わかりやすい日本語で記入しましょう。
記録例としては以下のような形式が考えられます。
「4月1日 8:00 利用者A:体温37.8℃(平熱36.5℃)と高め。顔色はやや蒼白、食欲低下を訴える。せき込みあり。対応:直ちにナースコールで看護師へ報告し、経過観察継続。」「9:00 再度検温→38.2℃に上昇。鼻水・くしゃみあり。医師へ連絡の上、解熱剤投与指示を受けた。」
このように「いつ・誰が・何を・どのように」の各要素を盛り込み、症状の前後経過や対応内容も記載します。
介護記録には通所・施設などサービス形態ごとに様式が定められることが多いですが、厚労省が決める共通フォーマットはないため各事業所で工夫します。
例えば、通所介護の記録例では「送迎時刻・バイタルサイン(血圧・体温・脈拍)・排泄状況・食事摂取量・活動状況・備考」のように項目が分かれています。
備考欄には「通常と違う症状やトラブル」を書く欄もあり、ここに症状の変化を記入すると良いでしょう。
「いつ・何が・どのように」を踏まえた申し送りのコツ
介護現場では24時間体制でケアを行うため、シフト交代時などに必ず「申し送り(申し送り)」を行い、情報を引き継ぎます。
申し送りは情報を確実に伝えることで事故防止につながる重要な業務です。
基本は、伝えるべき内容を簡潔・正確にまとめること。
5W1Hを意識し、事実と意見を分けて、短い文で伝えます。
申し送りの際は、次の3つのポイントを意識すると効果的です。
- 話の順序を組み立て、聞き手が理解しやすいように話す
- 要点を伝え残さないようにメモやチェックリストを活用する
- 重要度(高いものは先に)や誰に行動を求めるかを明確にする
事前に「伝えるべきこと」をメモにまとめておくと、忙しい現場でもポイントを漏れなく説明できます。
また、5W1Hに加え「報告・指示した日時と担当者」「症状の前後経過」なども含めると、聞く側が状況を正しく把握しやすくなります。
申し送りは口頭だけでなく、記録として残すことも大事です。
他の職員があとで見返せるよう共有ノートや電子カルテに記載したり、次の勤務者へ書面を渡すようにしましょう。
特に感染疑いの場合は看護師や施設長、医師など他職種とも情報を共有し、「誰が誰に何を伝えたか」までクリアにしておくと安心です。
チームでの情報共有と連携方法
感染症対応はチーム戦です。
所属部署だけでなく、看護師・ケアマネ・栄養士・リハ職など他職種とも積極的に情報を共有しましょう。
日々の連絡手段としては口頭確認に加え、ホワイトボードや情報共有システム(ICTツール)を活用しましょう。
最近はケア管理ソフトやチャットツール、共有クラウドなどを使い、忙しい中でも情報を簡単に見える化する施設も増えています。
また、施設内だけでなく地域や他の事業所との情報連携も大切です。
近隣のケアマネ事業所や病院、他の介護施設でクラスターが発生していないか定期的に情報交換しておくと、自施設での警戒にもつながります。
例えば「近隣のデイサービスでインフルエンザが流行中」という情報を共有すれば、自施設でも検温や手洗い・消毒の徹底、マスク着用など対策を強化できます。
厚労省は「他の介護施設・事業所で感染症が発生している情報を日頃から共有できるよう、情報連携体制を整えておく」ことを推奨しています。
加えて、定期的な職員ミーティングや勉強会を行い、感染対策の意識を高めるのも有効です。
小さな変化の情報や「気になる事例」を参加者で共有することでチーム内の連携が深まり、より柔軟な対応が可能になります。
施設内に感染対策マニュアルを整備し、誰がどの役割を担うか決めておくことも重要です。
マニュアルにはゾーニング(感染エリアの区分け)の方法、PPE(個人防護具)の使い方、導線・動線管理などを明記し、日頃から訓練しておくと初動時に混乱しません。
初動対応の良し悪しがわかる現場事例
実際の事例から学ぶことも大切です。
以下、3つのケースをご紹介します。
ケース①【好例】
愛媛県松山市の高齢者向け住宅では、2020年3月に入所者3名・職員5名が新型コロナ陽性となりましたが、迅速な対策で大事に至りませんでした。
5日目に直ちに併設デイサービスを休業とし、濃厚接触の全職員を自宅待機としました。
法人内外の応援職員と交替しながら、約1か月で隔離措置を緩和、2か月でデイ再開にこぎつけています。
事前のマニュアル遵守と職員教育により、発生直後から全職員が感染対策を徹底した結果、利用者さん・職員とも死者なしという結果になりました。
ケース②【失敗例】
群馬県の住宅型有料老人ホーム(2020年4月)では、当初軽微な発熱を見逃したため大規模クラスターに発展しました。
4月2日に2名の利用者さんが発熱しましたが、いずれも1時間で平熱に戻ったため様子見とし、報告・検査を行いませんでした。
その後、4月5日には5名に発熱が広がり、保健所への報告と個室隔離が始まりましたが、既にウイルスは蔓延しており、最終的に入居者43名・職員19名が感染、16名が死亡する甚大なクラスターになりました。
検温のタイミングや経過観察だけで安心せず、発熱者が出た時点で早期にPCR検査・通院措置を取っていれば、被害は小さくできた可能性があります。
ケース③【連携不足の例】
同じ新型コロナ事例集(厚労省)には、ある施設で利用者Aさんが通所サービスで微熱になった後回復し、通所を続けましたが、後日再検査で陽性が判明したケースが報告されています。
施設内でAさんの情報が共有されず、有症状の職員も勤務を続けたため、利用者さんや職員に感染が拡大し大規模クラスターとなりました。
この事例からは「軽微な症状でも利用継続を控える勇気」「検査結果や隔離の目的は全職員と共有する」「職員の勤務制限を緩めない」ことの重要性が指摘されています。
これらの例から学べることは、感染症初動では次のポイントが重要だと覚えておきます。
- 異常を見つけたらすぐに報告・検査
- 「普段と違う」は警戒サイン
- 情報共有を密にして全員で対応、
- BCPに基づく訓練と準備
職員同士の申し送りや緊急時連絡網を日頃から整備し、連携プレーで感染拡大を防ぎましょう。
記録・報告の質を高める職員教育・訓練
質の高い記録や報告は、教育と訓練によって育まれます。
まず基礎として、感染対策研修やBCP訓練を定期的に実施しましょう。
厚労省や各自治体では感染症BCP(業務継続計画)の策定が義務付けられており、研修も施設(入所系は年2回以上、通所系・訪問系は年1回以上)で行う必要があります。
研修では、防護服の着脱実習やゾーニング計画のシミュレーション、ケーススタディの検討などを取り入れ、実際の場面を想定した演習を重ねます。
また、新人・異動者には入職時研修を行い、記録・申し送りのルールやフォーマットを周知することも大切です。
実践練習としては、発熱者対応やノロ吐物処理などの模擬訓練を行い、手順を体で覚えさせます。
例えば嘔吐物処理では「次亜塩素酸ナトリウム0.1%」を10分間吹き付け消毒するやり方を繰り返し練習します。
また、記録演習として「この利用者が38℃の熱を出したらどう書くか」など具体例を出して書かせ、講師がフィードバックする方法があります。
カルテや申し送りノートの誤りや曖昧な表現を改善するポイント研修も有効です。
記録の書き方では「5W1Hを使って事実を簡潔に」「客観的な表現で具体性を出す」などのチェックポイントを共有し、定期的に事例検討会を行うと記録の質が向上します。
さらに、メンター制度や指導者を設けて、経験豊富な介護職員や看護師が新人の記録や申し送りを見て指導する体制を作るとよいでしょう。
職員同士でお互いの記録を読み合い、良い例・悪い例を比較する勉強会を開いても効果的です。
記録の重要性を職員自身が認識し、責任感を持てるよう職場全体で働きかけることが、長期的に記録の質向上につながります。
感染症の種類ごとの申し送りポイント
感染症の種類によって重視するポイントや対応方法は異なります。
以下に代表的な感染症別の留意点をまとめます。
ノロウイルス(感染性胃腸炎):
嘔吐や下痢の症状が急激に出るため、症状開始の「日時・回数・便性状(血液混入の有無)」を詳細に記録します。
ノロはわずかなウイルス量でも感染し、空気中にも漂うため、嘔吐物処理は特に慎重に。次亜塩素酸ナトリウムによる消毒手順は明確に伝えます。
また嘔吐物処理者・患者対応者の個人防護具(防護服・マスク等)の着用・脱衣方法を記録・報告し、他職員に共有します。
発症者が複数いる場合や同時に複数階で発症するときは、すぐ保健所に連絡し集団感染対応を行います。
インフルエンザ:
症状の伝播が早く、急な高熱が特徴的です。
数日間の発熱・咳は既往症の悪化に繋がるため要注意。申し送りでは「発症日時・接触歴(外来など)・発熱経過・抗インフル薬投与の有無」を共有します。
インフルエンザは薬で治療できるので、受診指示や服薬管理の実施状況も記録し、他のスタッフが継続ケアできるようにします。
施設内集団発生基準(例:1週間に2名以上重症者、10名以上の発生など)を満たした場合は保健所報告を行います。
新型コロナウイルス感染症:
初期症状は通常の風邪と区別がつかず、発症2~3日前から感染性があります。
申し送りでは「受診日・PCR結果(または抗原検査)・陽性者と濃厚接触の可能性」を詳しく伝えます。
COVID-19では無症状者からも感染するので、発症者の外部接触歴・検査経緯・隔離状況を共有し、保健所や行政との連携を密にします。
感染対策では空気感染(エアロゾル感染)の可能性も想定し、適切なマスク・換気・消毒を指示します。
RSウイルス感染症:
高齢者では重症化リスクが高く、初期は「発熱、咳、鼻水など上気道炎」の症状が4~5日続きます。
RSVは飛沫・接触感染で広がるため、せき・鼻水がある利用者にはマスク着用と手洗いを徹底させます。
申し送りでは「喘鳴や呼吸困難の有無、基礎疾患(呼吸器・心疾患)の有無」を必ず共有し、酸素飽和度(SpO₂)も併せて記録します。
悪化した場合には即時に医療受診を促し、病状の変化をチームで見守ります。
各感染症で共通するのは、「いつ・どこで・誰が・何を・どうした(5W1H)」の観点で整理し、その特徴を踏まえた情報を集約することです。
例えば、「いつから」症状があり「何の症状」(例:3日前から咳、今朝から38度発熱)、「どのように」状態が変化してきたか、「現在どのような対応をしているか」を記録・伝えると、次の職員が状況をすぐ理解できます。
おわりに
いかがだったでしょうか。
感染症の初動対応では、「見つけて記録して伝える」三つのプロセスが鍵になります。
日常の観察でわずかな変化にも気づき(観察)、事実を5W1Hで具体的に記録し(記録)、分かりやすく申し送りや報告を行う(伝達)ことで、感染拡大を未然に防ぐことができます。
各職員がこれらの技術を習得し、チーム全体で連携を強めることが、施設・事業所における感染症対策の要です。
丁寧な記録と申し送りは安全な介護の基盤であり、相互信頼とケアの質を高める原動力ともなります。
ぜひ研修や訓練を通じて知識・技能を定着させ、感染症初動対応に万全を期しましょう。
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