すぐに使える研修資料・マニュアル・事例などがほしい
資料作成を急いでいる、でもちゃんと伝わる内容にしたい
現場の職員が興味持ってくれるテーマって何?
去年と同じ内容じゃまずいよな…
研修担当じゃないけど、あの人に教えてあげたいな
筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
デイサービスの入浴介助は、利用者さんの安全を守りつつ、かつ快適な入浴を、そして身体の清潔を提供する大切な業務です。
しかし浴室は特に事故が起こりやすい場所であり、ご高齢である利用者さんは転倒だけでなく溺水や体調悪化のリスクも抱えています。
本研修では、「椅子に座った瞬間が一番危ない」という視点から、移乗と入浴介助中の見落としがちな死角と、その防止策について学びます。
実際の事故例やヒヤリハット事例を交え、リスクを予測して事故を未然に防ぐポイントを確認しましょう。
この記事を読むメリット
- 「事故が起こりやすい死角」に気づける
- 実践的な防止策が身につく
- 事故ゼロを目指す意識が高まる
では早速みていきましょう。
入浴介助中によく起きる事故とヒヤリ・ハット
デイサービスでは利用者さんの転倒・転落事故が特に多く、全事故の約8割以上を占めます。
入浴中も例外ではなく、浴室内は床が濡れて滑りやすいことなどから転倒・骨折事故や、最悪の場合溺水事故が発生することがあります。
以下に、入浴介助中によくある事故・ヒヤリハット事例を示します。
浴室での転倒事故:
濡れた床や石けん残りで滑って転倒し、骨折など重大な怪我につながる事故が多発しています。特に入浴後は利用者さんが血圧低下などでふらつき「ぐったり、ぼんやり」した状態になりやすく、脱衣所や浴室でつまづくケースもあります。
移乗時の転落事故:
浴槽やシャワーチェアへの移乗の際、支えを外した瞬間にバランスを崩して椅子ごと転倒しそうになるケースがあります。例えば「椅子に座らせた瞬間」に勢いがつきすぎて後方へひっくり返りかけたというヒヤリハットがあります。介助者が「もう座れた」と油断した隙に起こる事故です。
入浴介助中の溺水事故:
職員が一瞬浴室を離れた間に、利用者さんが浴槽で溺れそうになる事例も起きています。幸い発見が早ければ大事に至らない場合もありますが、目を離した隙の事故は重大な結果につながりかねません。溺水予防には「決して利用者さんから目を離さない」ことが第一とされています。
その他のヒヤリハット:
シャワーキャリー(浴室用車いす)で段差を越えようとして転落しかける、浴槽縁に腰掛けていて滑り落ちそうになる、浴槽リフトの操作ミスで利用者さんが宙づりになる等、介助用具の誤操作・不具合に起因するヒヤリハットもよくあります。こうした用具使用時の不測の事態にも備える必要があります。
上記のような事故は、入浴介助中のどの場面でも起こり得ることを念頭に置きましょう。
その中でも本研修では特に「椅子に座った瞬間」に潜む危険に焦点を当て、詳しく見ていきます。
「椅子に座った瞬間が一番危ない」理由
利用者さんを椅子やシャワーチェアに「座らせる瞬間」は事故リスクが高まります。
介助者としては「座面にお尻がついたからひと安心」と思いがちですが、実はその直後こそ要注意です。
具体的にどんな危険が潜んでいるのか、いくつかの例で確認しましょう。
座面への「ドスン座り」による後方転倒:
介助中、利用者さんが車いすやシャワーチェアに勢いよく座ってしまい、椅子ごと後ろに倒れかけるケースがあります。たとえブレーキをかけていても、急激に腰を下ろすと後方に転倒する危険があります。特に酸素ボンベ等を装着した車いすでは重心が後ろ寄りになりがちで、なおさら注意が必要です。椅子に深く腰かける前の一瞬は、利用者さんの体がまだ安定せず、支えを離すと後方にのけ反ってしまう恐れがあります。
支えがなくなることで起こるバランス喪失:
介助中に利用者さんが頼りにしていた支えが急になくなると転倒につながります。実際の事故例では、背もたれのないシャワーチェアに座った利用者さんの太腿を洗おうとした際、介助者が「少し太ももを上げてください」と声をかけました。利用者さんは自分の手で介助者の体を支えにして座位を保っていましたが、足を持ち上げた瞬間にその支えがなくなり、後方へ転倒。結果、大腿骨頸部骨折という重大事故につながっています。この例は「大丈夫そうに見える座位姿勢」にも死角があり、介助者の動きひとつで利用者さんのバランスが崩れることを物語っています。
浅く座っている・姿勢がずれている:
移乗直後、利用者さんのお尻が椅子の手前に浅く座った状態だったり、背もたれに寄りかかれていないと非常に不安定です。その状態で介助者が手を放したり別の作業(フットレストの調整等)に気を取られると、利用者さんが前方や側方へ滑り落ちたり、後方へひっくり返る危険があります。座らせた直後こそ、深く腰掛け直すサポートが必要です。
「見守りの死角」とチーム連携の重要性
入浴介助中の見守りの途切れは大きな死角です。
少しの油断が転倒・溺水など取り返しのつかない事態につながります。
事故の多くは「目を離した隙」や「他の利用者さんを介助中」に起きています。
特にデイサービスでは入浴介助に複数の利用者さんが絡むこともあり、「○○さんを洗っている間、△△さんは大丈夫だろう」と思ってしまいがちです。
しかし、過去の裁判例でも、不安定な椅子に座らせた利用者さんから一時的に目を離し、他の利用者さんの介助をしていた職員の行為が注意義務違反と判断されたケースがあります。
このようにチーム内の声掛け・引き継ぎ不足は事故リスクを高めます。
自分がその場を離れるときは代わりに見守る人を必ず頼む、浴室では常に誰かが利用者さん全員を把握する、といった連携体制が欠かせません。
また、「声掛け」が不十分なことも見守り上の死角を生みます。
利用者さんにとって介助者の声は安心と合図の源です。
例えば、黙ってシャワーのお湯をかけられると驚いて体をよじり、滑ってしまうことがあります。
逆に「今から腰を支えますよ」「足元滑りやすいので気をつけてくださいね」など一声かけるだけで、利用者さんは心構えができ安全度が増します。
声掛けが無い状態は、利用者さんにとって先の読めない不安な状態であり、事故のきっかけになりうると心得ましょう。
安全な入浴介助のためのポイントと対策
上記の事故リスクを踏まえ、デイサービスの入浴介助で特に注意すべきポイントと具体的な対策をまとめます。
現場の全職員で共有し、常にリスクを先読みした行動を取れるようにしましょう。
事前準備と環境整備でリスク低減
事前準備と環境整備は、次の3つを意識します。
- 必要物品の準備
- 浴室内の安全確認
- 福祉用具の点検・選定
それぞれ具体的にみていきます。
①必要物品の準備
入浴に必要な物品(タオル、着替え、石けん、シャンプー、防水エプロン等)を事前にチェックリストで確認し、不足を無くします。物品忘れで介助中に席を外すことのないようにしましょう。特に溺水防止のため、入浴介助中は絶対に利用者さんから目を離さなくて済む環境を整えることが大切です。万一物を取りに行く必要が生じても、他の職員に見守りを依頼する習慣づけをします。
②浴室内の安全確認
利用者さんが滑りやすい要因を排除します。浴室や脱衣所の床に水滴や石けんカスが残っていないか、滑り止めマットを敷いているか確認します。排水溝の詰まりがないよう清掃もしっかり行いましょう(石けんの泡が溜まると非常に滑りやすくなります)。また、浴室の温度にも配慮し、特に冬場は脱衣所・浴室を事前に暖めてヒートショックを予防します。
③福祉用具の点検・選定
シャワーチェアや浴槽台、手すり、リフトなどの介護用具は事前に点検し、ネジの緩みや不具合がないか確認します。シャワーチェアは安定性の高いものを選び、可能な限り背もたれ付きを使用しましょう。必要に応じて滑り止め付きの浴槽ボードや入浴用ベルト(転落防止の簡易ベルト)なども活用し、安全度を高めます。車いすで移動する場合はブレーキや転倒防止バーの状態もチェックします。
正しい移乗技術と姿勢保持のコツ
「正しい移乗技術と姿勢保持のコツ」については、次の4つのポイントを意識します。
- 「お辞儀しながらゆっくり座る」動作
- 重心移動と立位・座位の安定
- 二人介助の連携
- 利用者様にも参加してもらう
それぞれ具体的にみていきます。
①「お辞儀しながらゆっくり座る」動作
移乗時には利用者さんに声掛けをして、前傾姿勢(軽くお辞儀)でゆっくり腰を下ろしてもらうよう促します。勢いよくドスンと座らず、そっと深く座れるようにすることで、車いすが後ろに傾くのを防ぎます。介助者も利用者さんの膝や骨盤あたりに手を添え、最後まで支え続けてゆっくり座らせます。完全に深く腰掛け、姿勢が安定したのを確認してから支えを離しましょう。
②重心移動と立位・座位の安定
移乗・立ち座り時は利用者さんの重心が大きく動く瞬間です。大きな関節や骨(骨盤・肩甲骨など)を支点に、広い面で支えるようにすると安定します。例えば椅子から立ち上がる際は、利用者さんの膝や背中に軽く手を当てて支えることでバランスを取りやすくします。座る際も、背もたれに確実に寄りかかれるようお尻を引いて深く座らせ、「深く腰かけられましたか?」と確認します。必要なら「深く座り直しましょう」と一度体勢を整える介助を行います。浅く腰掛けたままにしないことがポイントです。
③二人介助の連携
利用者さんの状態によっては職員二名での移乗介助が望ましい場合もあります。その際はお互いの動きを声に出して確認し、「せーの」でタイミングを合わせます。一人が上半身を支え、もう一人が下半身(お尻や太もも)を支えるなど役割を決め、同時にゆっくりと持ち上げ・下ろしを行います。特に浴槽出入り時などは、介助者同士のアイコンタクトと掛け声で安全性を高めましょう。
④利用者様にも参加してもらう
可能な範囲で利用者さん自身にも動作に参加してもらいます。手すりを掴んで体重を預けてもらう、声掛けに合わせて立ち上がってもらうなど、「一緒に動く」意識作りも大切です。全介助の場合でも、利用者さんに「今から移りますね」と伝え体勢を整えてもらうことで、安全かつ尊厳を保った介助につながります。
声掛け・コミュニケーションと見守り
「声掛け・コミュニケーション・見守り」については、次の4つのポイントを意識します。
- 逐一の声掛けで安心感を与える
- 利用者さんの表情・体調の観察
- 複数利用者を同時介助しない
- 緊急時対応の共有
それぞれ具体的にみていきます。
①逐一の声掛けで安心感を与える
入浴介助では動作のたびに声掛けを行いましょう。「では立ちますよ、3つ数えます」「今度はシャワーで流しますね、大丈夫ですか?」と優しく伝えることで、利用者さんは安心して身を任せられます。逆に声をかけず急に動作を行うと、利用者さんが驚いて暴れたり体を強張らせてしまい、思わぬ事故につながります。「次に何をするか」を常に言葉で共有することが、安全確保と信頼関係構築の基本です。
②利用者さんの表情・体調の観察
声掛けとともに、利用者様の顔色や呼吸状態を見守ります。入浴中は血圧や心拍の変動が起きやすく、ふと表情が虚ろになることもあります。「苦しくないですか?」「大丈夫ですか?」と適宜問いかけ、少しでも異変を感じたらすぐに休憩・中止を判断しましょう。特に湯船に浸かっている間は、姿勢が滑り込んでいかないよう注意しつつ、絶えず目配りを続けます。
③複数利用者を同時介助しない
デイサービスでは時間の制約もあり複数の方を交互に入浴させる場面もあります。しかし一人の介助中は他の方から絶対に目を離さないよう、チームで段取りを工夫しましょう。例えば「Aさん洗身中はBさんは湯船には入れず待機してもらい、職員Cが見守り担当につく」等、安全優先の体制を整えます。一人ひとり順番に済ませるのが基本ですが、やむを得ず同時進行する場合も常に誰かが各利用者の側につくようにし、“ながら介助”は厳禁です。
④緊急時対応の共有
万一事故が起きた場合の対応(呼びかけに反応しなければ直ちに119番通報、管理者への報告、家族への連絡など)も事前に訓練しておきます。ヒヤリとした経験はすぐ情報共有し、ヒヤリハット報告書を通じてチーム全員で再発防止策を検討します。起きかけた事故を他山の石とし、次に備える姿勢も安全な介助体制の一環です。
常に「危険予測」の意識を持つ
「危険予測」は、次の3つのポイントを意識します。
- 「次に何が起こりうるか」を考える習慣
- 環境や状態の些細な変化に気づく
- 常に最悪のケースを頭に入れる
それぞれ具体的にみていきます。
①「次に何が起こりうるか」を考える習慣
熟練の介護職ほど、利用者さんの動きや環境を見て瞬時にリスクを予測しています。「今この人は足元がおぼつかないから、立たせたら滑るかも」「今日は少し眠そうだから浴槽でうとうとして沈むかも」等、先回りした想像力を働かせましょう。これは日々のヒヤリハットの共有や、ケース検討によって鍛えられます。危険箇所に先に手を当てておく・声をかけておくといった一手間が事故を防ぎます。
②環境や状態の些細な変化に気づく
毎回同じ手順でも、利用者さんの体調・気分や環境(温度・湿度、水位など)は微妙に異なります。その小さな変化が事故の引き金になることもあります。例えば「今日はいつもより浴槽のまたぎ板が不安定に感じる」「車いすの位置が少し遠く腰掛けにくそう」「床に昨日はなかった滑りやすい箇所がある」等、違和感を見逃さない目を養いましょう。そして違和感を覚えたら手順を見直したり同僚に声をかけ合うようにします。「なんとなく嫌な予感」は大抵正しく、早めの対処が肝心です。
③常に最悪のケースを頭に入れる
入浴介助中の事故は骨折などの外傷だけでなく、命に関わるケース(溺水、ヒートショックによる意識消失)も起こり得ます。だからこそ「ここで手を離したら転ぶかもしれない」「今目を離したら溺れるかもしれない」という危機感を常に持ってください。怖がりすぎる必要はありませんが、「絶対に事故を起こさない」という強い意識が注意深い介助動作につながります。プロの介護職として、安全配慮義務を徹底する姿勢で利用者さんに向き合いましょう。
リスクに気づき、リスクに備える入浴介助を
いかがだったでしょうか。
ポイントを以下にまとめます。
「座れた後」にこそ注意する:
移乗直後や洗身中など、一見安定しているようで実は不安定な瞬間を見逃さない。常に手を添え、声を添えて、安全を見届けてから次の動作に移る。
環境・用具・姿勢を整える:
滑りやすい床には滑り止め、背もたれのない椅子には工夫を、浅く座っていれば深く座り直す介助をする。事故の芽は事前準備とひと手間の配慮で摘み取る。
チームで支え、チームで見守る:
入浴介助は一人で完結せず、チーム全員で安全を管理する意識を持つ。他の職員と声を掛け合い、利用者さん全員に常に目が行き届く体制を。
声掛けとコミュニケーション:
利用者さんの不安を取り除き協力を得るために、丁寧な声掛けを欠かさない。何気ない一声がヒヤリハットを防ぎ、安心感を与える。
リスク予知・再発防止:
日々の業務で「ハッ」とした経験は持ち帰って共有し、明日の対策へ活かす。事故は起きてからでは遅いと肝に銘じ、常に最悪の事態を想定した行動を心がける。
事故ゼロを目指すためには、「まさかこんな時に?」という場面にこそ注意を払い続けることが肝心です。
我々介護職一同、今回学んだ教訓を活かし、利用者さんに安心・安全な入浴時間を過ごしていただけるよう努めましょう。
スタッフ全員の高い意識とチームワークで、事故の“死角”のない万全の入浴介助を実践してください。
それではこれで終わります。
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