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認知症の方が入浴を嫌がる背景(心理的な理由)
認知症では記憶や認識の障害が現れ、「今ここで何をするのか」がわからず、不安や混乱を抱きやすくなります。
特に入浴は衣服を脱いで全裸になる行為なので、本人にはプライバシーが侵されている不安や羞恥心が強く働きます。
同時に、入浴には「湯を張る→脱衣→浴槽に入る→洗う→着替える」と多くの手順があり、認知症の方にはこれらを組み立てて実行するのが大きな負担です。
昔は何の負担もなくできていた動作でも、認知機能低下により「面倒」「わからない」と感じて拒否に繋がることがあります。
また、慣れない環境で知らない人に囲まれている状況は安心感を奪い、余計に不安が高まりやすくなります。
入浴前の「順番待ち」は、こうした不安を増幅させてしまい、拒否に至ります。
「順番待ちのストレス」が入浴拒否を生む理由
「順番待ち」が「入浴拒否」につながる理由は、次の5つのように分類できます。
- 時間の見通しが立たない不安
- 寒さ・環境ストレス
- 羞恥心・プライバシー感覚
- 動作困難感・疲労
- 個人のこだわり・習慣
それぞれ具体的にみていきます。
①時間の見通しが立たない不安
認知症では「時間に対する感覚」が薄れ、今が何時なのか、どれくらい待つのかがわかりにくくなります。その結果、先が見えない待ち時間は「いつ入浴できるのか」「もう忘れられたのでは」「もうみんな入ったの?自分も入れる?」といった強い不安感を生みます。
②寒さ・環境ストレス
脱衣所や浴室が冷えていると、服を脱いだ途端に「寒い!」と感じて入浴意欲が低下します。寒さでイライラすると入浴全体を嫌がることもあり、施設では予め脱衣所や浴室を暖めておくことが大切です。
③羞恥心・プライバシー感覚
全裸になることで羞恥心が刺激され、他者の視線や介助者の手が気になる方が多いです。「誰かに見られている」と思うと拒否反応が強まり、順番待ちで他の利用者と一緒になれば余計に気まずさを感じます。
④動作困難感・疲労
順番を待つあいだに身体が冷えたり疲れたりすると、体力的に入浴がおっくうに感じられます。たとえば、認知症の方の中には「先に湯船につかって身体を温めてから洗いたい」という方もおり、待ち時間で体が冷えると入浴そのものを拒否するケースがあります。
⑤個人のこだわり・習慣
もともとの入浴習慣や好みも影響します。例えば「シャワー派」「髪は後で洗いたい」などその方なりの流儀があり、それが守れない順番待ちに不快を感じることがあります。日頃からの入浴習慣を把握しておくことがストレス軽減につながります。
不安や苛立ちが高じると、「入浴への意欲」が極端に低下しやすくなります。
心理学的には、不安な状態では新しい行動を受け入れにくくなるため、待っている間の小さな不安や焦りが積み重なり、結果として「もういい」「入らない」と拒絶する気持ちに至ります。
順番待ちの場面や具体例
よく見られる「入浴拒否につながる順番待ち」の例には、次のようなものがあります。
①廊下・脱衣所で長時間待っている場合
順番を告げられずただ待たされると、不安になって徘徊したり、「もう自分は入らなくていいのか」と怒り出したりすることがあります。例えば、「まだ誰もいないところで待機していたのに、そのまま放置された」と感じてイライラするケースがあります。
②他の利用者の動きを見てしまう場合
他の人が浴室へ誘導されていくのを見ると、「なぜ自分じゃないのか」と感じる方もいます。特に仲の良い人が先に入ってしまうと焦ったり、「何で順番が後なの!」と怒ったりする場合があります。
③浴室前で音や声が聞こえている場合
浴室の中からシャワー音や声が聞こえると「自分もあそこに行くんだ」と不安を覚え、早く入りたがったり、逆に怖がって「入らない」と拒否したりすることがあります。
④体調の変化と重なる場合
順番待ちの間に体調が優れなくなると、なおさら「もうやめたい」という気持ちになります。体が冷えて震える、トイレに行きたくなった、のぼせて汗だくになってしまった、などの身体的変化があると、順番が来る前に拒否に転じることがあります。
スタッフの具体的対応方法
スタッフは待ち時間を少しでも快適に過ごせるよう、以下のような配慮と工夫を行います。
- 明確な声かけ・案内
- 環境の整備
- 順番の可視化
- 役割分担と連携
- 安心できる関わり方
- 個人への対応強化
それぞれ、具体的にみていきます。
①明確な声かけ・案内
「〇〇さん、あなたの順番はもうすぐですよ」「今、先に●●さんがお風呂に入っています」など、具体的な言葉で説明して安心感を与えます。認知症の方には抽象的な説明よりも簡単・具体的な表現が有効です。声のトーンは明るく落ち着いて、急かすような口調は避けます。例えば、「もう少ししたら一緒に入りましょうね」と待機中に何度か声をかけて不安を和らげます。
②環境の整備
待機する脱衣所や廊下は暖かく明るい雰囲気にします。特に冬場は部屋を暖房し、座れる椅子やクッションを用意しておくことで「寒い・不快」という拒否理由を減らします。必要があれば、ゆったりした音楽を流したりアロマを焚いたりしてリラックス空間を作ります。
③順番の可視化
ホワイトボードや掲示板で「今日の入浴予定」を示し、誰が何時頃入浴するかをわかりやすくします。名前や顔写真、番号などで本人にも「自分の順番」がわかるようにしておくと、漠然とした不安が和らぎます。
④役割分担と連携
誘導担当と浴室介助担当で情報共有を徹底します。誘導職員は待機者に注意を払い、介助職員は浴室内で進捗を随時報告します。相互通信用のインカムや内線を活用し、「あと○○分で終わります」「もうすぐ空きますよ」と知らせ合う事例もあります。こうした連絡体制で待ち時間を短縮したり、不測の遅延も即座に対応できます。
⑤安心できる関わり方
順番待ち中は、たとえ業務があってもこまめに声をかける、軽い世間話をするなど、相手の存在に気を配ります。急がせず、立ったままの指示ではなく座って「もう少しですからね」と声をかけることで、本人が心の準備をする余裕を与えます。
⑥個人への対応強化
普段からよくコミュニケーションをとっているスタッフが声をかけたり誘導したりします。同じスタッフが連続することで信頼感が生まれ、不安が少なくなります。言葉かけは「**さん、今日はどうしますか?(何番目かを提示)」のように選択肢を用いて本人の意志を尊重します。
チームでの改善・工夫事例
施設全体で入浴の流れを見直し、職員間の連携を強化する工夫も効果的です。
例えば、以下のような方法があります。
- 多職種連携
- 業務フローの見直し
- 情報共有の徹底
- ICT・ツール活用
それぞれ具体的にみていきます。
①多職種連携
看護師が入浴の「医療的準備(血圧測定、塗り薬など)」とバッティングしないようスケジュール調整し、介護職がスムーズに誘導できるよう配慮します。理学療法士や生活相談員と連携して、身体機能が低下している方には補助手すりやシャワーチェアーなどを準備します。必要に応じて家族にも協力を仰ぎ、面会時に一緒に入浴促進をお願いすることも有効です。
②業務フローの見直し
浴室のキャパシティや職員数に合わせて、入浴する人を無理なく振り分けます。例えば、介助が必要な方とそうでない方で時間帯を分ける、入浴動線を整理して移動距離を減らすなどしています。また、入浴介助専従チームを設けてその日の進行役を決め、他職員への影響を最小限にする取り組みもあります。
③情報共有の徹底
朝礼や申し送りで「〇〇さんは入浴を嫌がる」「〇〇さんは○分ぐらいで終わる予定」といった情報を共有し、スタッフ間で同じ対応策をとれるようにします。介護記録や引き継ぎノートに入浴時の様子や好みを残しておくと、毎回対応を一定にできます。
④ICT・ツール活用
先述のインカム導入のほか、タブレットで待ち時間をタイマー表示したり、目安時間を記録する方法もあります。順番待ちの時間を見える化することで、「あと何分待てば入浴できるか」が本人にもわかり、安心感につながります。
入浴を快適にするための工夫
入浴ができるようになった後も、その体験を「楽しかった」「気持ちよかった」と感じてもらえるような配慮を行います。
例えば、以下のような方法があります。
- 温度・環境配慮
- 五感への配慮
- 動作のサポート
- 励ましと振り返り
- 楽しい仕掛け
それぞれ具体的にみていきます。
①温度・環境配慮
先に浴槽に入って身体を温め、冷えを緩和してから洗う方法があります。湯加減は人肌より少し温かめが安心できるので必ず本人と確認しながら調節します。脱衣所や浴室にヒーターを入れる、風が当たらない工夫も重要です。
②五感への配慮
好みの香りの入浴剤やアロマを利用したり、脱衣所に好きな写真や絵を飾ったりして「気分が上がる演出」をします。浴室内の照明も暗くしすぎず、眩しすぎない明るさにします。
③動作のサポート
身体を洗う際は座位でゆったり行ったり、シャワーを後頭部から徐々にかけたりして恐怖感を減らします。洗い方や順序は本人の好みに合わせ、例えば「今日はこの石鹸を使ってみましょう」「先に足だけ温まってみては?」など選択肢を示して主体性を尊重します。
④励ましと振り返り
入浴後は必ず声をかけ、「よく頑張っりましたね」「気持ちいいでしょ」と肯定的な言葉や笑顔で迎えます。これにより「次回も頑張ってみよう」という前向きな気持ちが芽生えやすくなります。
⑤楽しい仕掛け
好きな音楽を流したり、入浴剤で好きな色の湯船にする、友人と一緒に入る(許可を得て)など、楽しみながら入浴できる工夫をします。また、入浴後においしいお茶や暖かい服を用意しておく「ご褒美」を予告しておくのも有効です。昔行った温泉地の入浴剤を使って「今日は旅行気分で○○温泉だよ」と話題にする例もあります。
おわりに
いかがだったでしょうか。
入浴は清潔保持だけでなく、心身のリフレッシュや生活の質を高める大切な時間です。
しかし認知症の方にとっては、「順番を待つ」という小さな場面が不安や混乱を引き起こし、入浴拒否につながる大きな要因となり得ます。
だからこそ職員は、待ち時間をどう過ごしてもらうか、環境をどう整えるか、声かけをどう工夫するかを常に意識する必要があります。
一人ひとりの不安に寄り添い、チーム全体で工夫を重ねることで、入浴は「嫌な時間」から「安心できる時間」へと変わっていきます。
小さな改善の積み重ねこそが、認知症ケアの質を高める大きな一歩となるのです。
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