- すぐに使える研修資料・マニュアル・事例などがほしい
- 資料作成を急いでいる、でもちゃんと伝わる内容にしたい
- 現場の職員が興味持ってくれるテーマって何?
- 去年と同じ内容じゃまずいよな…
- 研修担当じゃないけど、あの人に教えてあげたいな
筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
「転倒させたくない」「ご家族にも安心してほしい」その『安全第一』が、気づかぬうちにご本人の自由を奪っていないでしょうか。
現場では人手や時間の制約の中、ベッド柵や強い声かけで“止める”判断に揺れます。
この記事では、関連法令と倫理の要点を整理しつつ、身体・薬・言葉の「拘束」を減らす実践(入所時アセスメント、環境整備、代替策の検証、スピーチロックの言い換え、多職種・家族連携)を具体例で解説します。
結論は明快です。「事故ゼロのために縛る」のではなく、「尊厳を守りながら安全を高める」ケアへ。
今日の声かけと導線づくりから、自由と安心の両立に踏み出しましょう。
この記事を読むメリット
- 法律と制度の理解が深まる
- 実践的な代替策を学べる
- 利用者の尊厳を守る視点が身につく
それでは早速みていきましょう。
関連法令・規範
日本の介護法制では、利用者さんの尊厳保持や自立支援が強く打ち出されています。
介護保険法の運営基準(省令第37条第2項)では、
「入所者(利用者)の生命又は身体を保護するため、緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他の行動制限行為を行ってはならない」
と明記されています。
同条第2項に違反する身体拘束は原則禁止とされ、適切な手続きを経ていない場合には高齢者虐待とみなされ、市町村などへの通報義務が生じます。
さらに、近年では介護保険法や社会福祉法の目的規定に「尊厳の保持」が盛り込まれ、高齢者虐待防止法にも身体拘束が重大な虐待行為として位置付けられています。
すなわち、「尊厳を守るケア」を行うことは法律上の責務であり、利用者さんの自由を不当に制限する拘束行為は法令に反します。
安全配慮と利用者の自由尊重の倫理課題
介護の現場では「転倒や事故防止=安全確保」と「行動の自由=人権」という二つの価値観が常にせめぎ合っています。
スタッフは事故防止を優先したい一方で、利用者さんには自ら動く自由や意志を持つ権利があります。
身体拘束は、利用者さんの自尊心や主体性・意欲が失われる危険があります(「本人の意思を無視した抑制は、本人のプライドだけでなく意欲も奪ってしまう」という指摘もあります)。
安全対策は重要ですが、必要最小限に留めること、身体拘束以外の代替策を徹底検討することが求められます。
転倒の危険がある場面でも、できる限りコミュニケーションを強化して見守る方法や、環境整備でリスクを下げる工夫をしていきましょう。
利用者さん・ご家族の意思を尊重しながら、安全確保の両立を図る視点が不可欠です。
身体拘束を減らす日常ケアの実践
身体拘束廃止には、組織的な取り組みと日常ケアの工夫が必要です。
例えば 「身体拘束をしない委員会」(施設長、看護師、介護士、リハビリ職、相談員など多職種構成)を設置し、月1回の定例会で拘束事例の検討や対策を議論して成果を共有します。
また入所時のアセスメントを重視し、利用者さん・ご家族から日常生活の習慣・好みを詳しく聞き取り、転倒リスク評価を行います。
入所説明では「安全第一」ではなく「利用者さんが快適に暮らせるケア」を第一に考えていることを強調し、不必要な拘束ゼロの姿勢を示すことも有効です。
具体的には次のような取り組みが挙げられます。
①アセスメントと計画立案
入所時に歩行能力や認知機能、既往歴を評価し、転倒・徘徊等のリスクを予測。個別ケアプランで先手対策を立てる。
②職員教育・情報共有
身体拘束廃止の施設方針や拘束の弊害を研修や会議で周知し、スタッフ全員の意識を醸成する。他部署の取組みを「身体拘束廃止検討委員会」で発表・共有し、成功事例やノウハウを横展開します。
③環境整備と見守り
各階に浴室を設置し週数回の入浴機会を設ける、手すりやマットを配置する、夜間巡回や見守りセンサーの活用で転倒リスクを低減するなど、物理的環境を工夫して安心・安全を確保します。
④行動・健康の支援
日中の活動プログラムを充実させ、歩行訓練やレクリエーションで身体・認知機能を維持促進します。場合によってはリハビリ職が歩行評価や環境調整、声かけ方法をアドバイスし、介護職が安心してケアできる体制を整えています。
⑤代替策の検証
拘束を要請されそうな状況では、代わりの対策を複数検討します。例えば徘徊欲求が強い場合は家族面会や居室内での安全散歩ルートを設定する、座位保持が不安定な場合は姿勢補助クッションや介助者による見守りを試すなど、試行錯誤を行います。
これらの実践例から、身体拘束をしない介護では、全職員が一丸となって安全配慮と自由尊重の両立をめざす姿勢が大事です。
施設内外を問わず、問題場面があればすぐにカンファレンスを行い、事例を共有・検討してケア改善に結びつける仕組みをつくっていきましょう。
言葉の拘束:スピーチロックの見直し
身体拘束の概念は言葉の使い方にも及びます。
介護者の何気ない声かけが、利用者さんの動きを制限し精神的に抑え込む「スピーチロック」につながることがあります。
たとえば、転倒しそうな利用者さんに対して「立たないで!」と強い命令口調で言ってしまうと、利用者さんは「なぜ立ってはいけないのか」と不安や不満を抱く場合があります。
こうした言葉は無意識でも相手の行動を縛り、自由を奪う行為と受け取られかねません。
これを防ぐため、言い回しを工夫することが大切です。
例えば「ちょっと待ってください」ではなく「少しお時間をいただけますか?」とお願い調にする、あるいは代替行動(座る、手を引くなど)を具体的に示して選択肢を与えることで、利用者さんの主体性を損なわずに安全確保を図れます。
実際、身体拘束ゼロを実践する施設では「『少し待ってね』などの言い方を改め、別のフレーズに言い換える」などの対策を講じています。
日頃の声かけ一つを見直すだけでも、利用者さんが自分で行動を選ぶ機会を増やすきっかけになります。
スピーチロックに関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
家族・多職種との連携による取り組み
身体拘束の排除は、施設内だけでなくご家族や他専門職との連携でこそ実現できます。
拘束が必要になりかねない行動(徘徊や興奮など)には必ず理由があり、介護職・看護職がそれを探り、ご家族とも共有することが重要です。
たとえば「家族に会いたい」という気持ちから徘徊する利用者さんには、外出許可や家族面会を積極的に設定することで不安を和らげる、といった対策が考えられます。
また、いざという緊急事態に備え、医師や保健師、理学・作業療法士、ケアマネジャー、相談員など多職種での協議を定期的に行っておくことが有効です。
各職種が専門的視点からアイデアを出し合い、代替策を徹底的に洗い出すことで、現場の不安を解消できます。
家族への働きかけも欠かせません。
家族会や面談を通じて、身体拘束を行わないケアの基本的考え方や事故防止策を十分に説明し、理解と協力を得ることが求められます。
たとえば居室外への退出制限を減らす方針を示す際には、「転倒のリスクがあるためベッド柵を付けましょう」ではなく、「ご本人の暮らしや人権を重視し、安全に過ごせるよう見守りを強めましょう」と説明し、家族にも安心してもらえるよう配慮します。
居宅介護の場合でも、ケアマネや地域包括支援センターなど関連機関と連携して、複数法人・事業所で協議する体制を整えておくと安心です。
いずれの場合も、「本人・家族・事業所が共通の理解を持ってケアに当たる」ことが鍵です。
身体拘束を必要としない生活を支えるために、常に代替手段を検討し、課題は関係者全員で共有してチームケアを実現していきましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
身体拘束は「最終手段・最小限・一時的」であり、安易な常態化は許されません。
私たちがまず取り組むべきは、危険を“止める”前に原因を“ほどく”こと。評価を深め、環境を整え、関わり方(言葉・誘導・活動)を変えることです。
委員会での検討と記録、ご家族への丁寧な説明、スピーチロックの言い換えなど小さな実践の積み重ねが、拘束ゼロ文化を育てます。
次の入浴、次の移乗、次の声かけから行動を変えましょう。
「安心・安全」の名の下に失われがちな“選ぶ自由”を返し、尊厳ある暮らしをチームで支え続けること。それが私たちの責務です。
それではこれで終わります。
この研修記事が御社の運営に少しでもいかしていただければ幸いです。
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