高齢者虐待の防止には、特別な道具や方法よりも、日々の「声かけ」が大きな力を持っています。
ちょっとした言葉ひとつで、利用者さんの安心や笑顔が生まれるだけでなく、虐待の芽を早く見つけるきっかけにもなります。
この記事では、虐待のサインに気づくための「声かけ」の例や、実際の現場で役立つやり取り、チェックシートの活用方法などを紹介しています。
普段のケアの中で「あれ?」と感じたとき、どう対応するかのヒントになれば幸いです。
声かけの力で、一緒により良い現場づくりを目指しましょう。
この記事を読む価値
- ベテラン職員から新人職員まで学べる内容です。
- 読み進めるだけで研修にできます。ワークを入れると1時間程度の研修にできます。
- 極力、難しい表現は避けてあります。
早速、見ていきましょう。
声かけがもたらす効果
声かけは高齢者ケアの基本です。
適切に声をかけることで、高齢者は安心感を得られ、介護職との信頼関係が深まります。
食事や入浴の介助中に「ゆっくり進めましょうか?」「何か気になることはありませんか?」と声をかけることで、利用者さんの意思やペースを尊重したケアが可能になります。
特に認知症の方には、不穏な言動にも根気よく丁寧に声をかけ続けることが大切です。
安心感を与えることで行動の抑制や不安軽減につながり、その過程でいつもと違う返答や声のトーン、表情の変化を察知し、体調不良や心の揺れをいち早く確認できます。
小さなサインを見逃さず、迅速に対応することで、大きなトラブルを未然に防ぐことができます。
声かけは虐待の予防にも欠かせません。
日々意識的に丁寧な言葉がけを実践することで、無意識に行われがちな不適切な介助を防ぎ、利用者さん一人ひとりのニーズに合った個別ケアへとつながります。
加えて、声かけで得た情報を職員同士で共有することで、チーム全体の連携が強化され、利用者本位のケアがさらに推進されます。
声かけには、孤独感を和らげ社会とのつながりを感じさせる効果もあります。
さらに、日常的に良い声かけを意識することで、介護職員自身の倫理観やケアスキルも向上します。
声かけは高齢者の尊厳を守り、安心した生活を支える大切な手段です。
事例別ポイント解説
高齢者虐待に気づいたら、まず声かけで安心感を与え、状況把握と適切な支援につなげることが重要です。
5つの虐待類型ごとに見逃せないサインと、現場ですぐ使える声かけ例を紹介します。
【身体的虐待】
あざや火傷跡、不自然な打撲、拘束痕などが見られたら要注意です。
説明のつかない傷や突然の恐怖発言がある場合、「どこか痛いところはありませんか?」「最近、なにか辛かったことなどはありませんか?」と穏やかに尋ね、ご本人が自分の言葉で話しやすい雰囲気を作りましょう。
無理に追及せず、「いつでも話を聞かせてくださいね」と安全を保証することが大切です。
【心理的虐待】
怯えや無気力、暴言後の沈黙、自傷行為などは心理的虐待のサインです。
落ち着いた口調で目線を合わせ、「何かお辛いことがありますか?」「私はあなたの味方ですよ、何かあったらいつでも相談してくださいね」と繰り返し声をかけ、安心感を提供しましょう。
過度な言葉かけを避け、孤立感を和らげる支援を心がけてください。
【ネグレクト】
身の回りの不清潔、栄養失調や脱水、必要な医療・福祉サービス未利用が続く場合は介護放棄の可能性があります。
「今日はお食事はいかがですか?」「お風呂に入る準備をお手伝いしましょうか」と具体的に提案し、日常生活支援へつなげます。
拒否された際は、「理由をお聞かせいただけますか?」とご本人の意向を尊重し、疎外感を軽減しましょう。
【経済的虐待】
預貯金の不審な減少や「お金が足りない」と頻繁に訴える場合は注意が必要です。
「お金のことでご心配なことがありますか?」「専門の相談窓口をご案内できます」と寄り添い、選択肢を示して自尊心を保ちましょう。
詮索を避け、安心して相談できる環境を整えることがポイントです。
【性的虐待】
不自然な歩行や座り方、性器の痛み訴え、過剰な羞恥心は警戒サインです。
プライバシーを配慮した場所で、「無理に話さなくて構いません。何かあればいつでも教えてください」と伝え、安心できる関係づくりを優先します。
訴えがあったら速やかに専門機関と連携し、被害者の安全を最優先で守ってください。
声かけは虐待発見の第一歩。
憶測で判断せず、チームで情報を共有しながら対応しましょう。
本人の尊厳を守る声かけを日常的に実践し、安心できるケア環境を築いていきましょう。
ケーススタディ:実際のやり取り例
では次に4つのケーススタディをご紹介します。
自施設に置き換えてみた感想などを出しあい、共有する機会にしましょう。
【休憩室でのやり取りと詳しい解説】
日勤を終えた介護福祉士Aさん(経験2年)と、夜勤に入る介護職員Bさん(経験5年)が休憩室で申し送りをしています。
ここでは、実際に起こり得る二つの事例について、やり取りをもとにポイントを解説します。
① 身体的虐待にあたる可能性のある無理な介助
Aさん:
「〇〇さん(88歳、要介護4、認知症)の着替えで、嫌がっているのに急いでいたので、手を強く引いてしまいました。『痛い』と言われて反省しています。」
Bさん:
「強い引っ張りは、暴行だけでなく身体拘束に近い行為です。ご本人の抵抗には必ず理由があります。次からは『何か嫌なことがありますか?』とまず声をかけ、理由を聞いてから補助の方法を考えましょう。好きな服を選んでもらうのも有効ですよ。」
解説:
無理やり体を動かすと、打撲や痛みを引き起こし、身体的虐待とみなされる恐れがあります。
認知症の方は不安や混乱から抵抗を示しやすく、強引な行為は恐怖心を強めます。
声かけで「どうして嫌なのか」を確認し、その人に合った声のトーンやペース、選択肢を示すことで、安心して協力してもらいやすくなります。
服の色や素材など、本人の好みを介助に取り入れることも小さな工夫です。
② 介護放棄(ネグレクト)につながるナースコール放置
Aさん:
「△△さん(92歳、要介護5、寝たきり)のナースコールにすぐ駆けつけられず、寂しそうにされてしまいました。」
Bさん:
「ナースコールを放置すると、必要な世話を怠るネグレクトになります。人手が足りないときは、遠慮せず他の職員に手伝いを依頼し、必ず誰かが対応できる体制を整えましょう。」
解説:
寝たきりの方にとってナースコールは、体調不良や不安を訴える唯一の手段です。
ナースコールの放置や設置場所の不備は、身体的・精神的健康を損なう恐れがあります。
仮に業務が立て込んでいても、チームで役割を分担し、「今すぐ助けが必要かどうか」をお互いに共有することが大切です。
申し送り時に「急ぎ度」「対応優先度」を伝え合い、緊急時には速やかに連絡を取り合える関係を築きましょう。
③ ストレスと研修の重要性
Aさん:
「最近、人手不足で余裕がなくイライラしてしまい、つい強引な対応になってしまいました。」
Bさん:
「ストレスの蓄積は虐待の要因の一つです。会社として適正な人員配置や、相談できる仕組みを整える必要があります。上層部にかけあってみますね。」
解説
どんなに経験を積んでも、ストレスや疲労がたまると注意力が散漫になり、虐待リスクが高まります。管理職層は、現場がストレスの溜まりにくい環境を設定しておく必要があります。
④ 通報義務と安心して相談できる環境づくり
Bさん:
「虐待の疑いがある場合、市町村窓口や地域包括支援センターへの通報が法律で義務づけられています。通報したことで不利益を受けることはありませんから、安心して相談してください」
Aさん:
「わかりました。自分の経験不足を補うためにも、気になることがあればすぐ相談します。」
解説:
通報は高齢者を守る最後の砦です。
どんな小さなサインでも見逃さず、チームや外部機関と連携して対応することで、重大な事故や虐待を未然に防げます。
職員一人ひとりが「いつでも相談できる」「報告しても叱責されない」という風土を作ることが、安心・安全な介護環境の基盤になります。
声かけの注意点とコツ
まず、相手のペースに合わせてゆっくり、はっきり話しましょう。
一度に多くを伝えず「何かお手伝いできることはありますか?」と短い言葉で区切りながら話すと理解しやすくなります。
認知症の方には同じ説明を繰り返したり、指差しや絵を示したりすると効果的です。
言葉だけでなく、表情や目線、姿勢といった非言語サインにも注意を払います。
不安そうな顔や落ち着かない動きが見えたら、そっと近づき「大丈夫ですか?」と声をかけ、寄り添う姿勢を示しましょう。
目線を合わせるだけでも安心感が生まれます。
一方で、つい使いがちな命令口調や子ども扱いする言葉は避けてください。
「~しなさい!」「~ちゃん」といった言い回しは自尊心を傷つけ、心理的虐待につながることがあります。
また、「忙しいから待って」など、ぞんざいな対応も禁物です。
こうした不適切な言葉は、業務中心の流れ作業的ケアや職員のストレスが背景にある場合が多いため、管理者は日頃から職員の様子にも目を向けましょう。
日常の小さな声かけの積み重ねが、高齢者虐待を未然に防ぐ第一歩です。
常に「これは適切な声かけか」「相手の気持ちを尊重できているか」を自問し、より丁寧で思いやりある言葉選びを心がけましょう。
【不適切なケア】について詳しく知りたい方は、コチラの記事をご参照ください。
チームで共有するフォーマット
日常に根付かせるために
良い声かけを習慣化するには、まずチームで「いつ」「何回」「どのように」声をかけるか具体的な目標を共有しましょう。
たとえば「毎朝居室に入るときに一言かける」「食事配膳前に必ず名前を呼ぶ」といったシンプルなルールを設定し、定期的に振り返ります。
次に、声かけのトリガーを明確にすることも有効です。
居室への出入り、食事や入浴の前後、移動のタイミングなど、日常のケア動作に合わせて「こんにちは」「お疲れさまです」といった声かけを組み込むだけで習慣化しやすくなります。
普段から肯定的な言葉選びを意識することもポイントです。
「今日の髪型素敵ですね」「ゆっくりで大丈夫ですよ」と相手を尊重する言葉を使うことで、心地よいコミュニケーションが生まれます。
記録と共有による振り返りも忘れてはいけません。
申し送りノートや専用チェックシートに、声かけの内容と利用者さんの反応を簡潔に書き留め、定例ミーティングで効果的だった事例・改善点を話し合います。
非言語サイン(表情・視線・姿勢)の変化にも注意を払い、「声かけが適切だったか」をチームで多角的に検証することが質向上につながります。
最後に、自分の声かけが「不適切なケア」に結びついていないか常に自問しましょう。
子ども扱いの言葉遣いや否定的な表現を無意識に使っていないか、相手の気持ちを尊重できているかを振り返ることで、思いやりに満ちたコミュニケーションが深まり、高齢者虐待の予防にもつながります。
日々の小さな声かけを大切に、安心と尊厳あふれるケアを目指しましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
介護の仕事は、忙しさの中で「つい言葉が雑になる」「丁寧に接する余裕がない」と感じることもあるかもしれません。
でも、利用者さんにとっては一つひとつの声かけが安心のもとであり、私たち介護職の信頼の証でもあります。
虐待を防ぐために必要なのは、特別なスキルよりも「相手を思いやる気持ち」と「気づいたらすぐ声をかける行動力」です。
今日からできる小さな一言が、利用者さんの尊厳を守り、チームの絆を深める大きな力になります。
あなたの優しい声かけが、現場を明るく、安心できる場所に変えていきますように。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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