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身体拘束

「スピーチロック」とは?言葉で自由を奪う象徴的拘束を読み解く

とも
とも
こんにちは、とも(@tomoaki_0324)です。【身体拘束の排除の為の取り組みに関する研修】を「スピーチロック」にしぼった内容で、徹底的に解説します。
この記事はこんな方におすすめ
  • すぐに使える研修資料・マニュアル・事例などがほしい
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  • 現場の職員が興味持ってくれるテーマって何?
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筆者(とも)

記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。

日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。

はじめに

スピーチロック(speech lock)とは、介護現場で使われる言葉や態度によって、利用者さんの身体的・精神的な行動を制限してしまうことをいいます。

例えば、何気なく「〇〇しないで」「ちょっと待ってて」といった指示・命令調の声かけは、言葉だけで利用者さんの「自立して動こう」という意思をロック(固定)してしまう恐れがあります。

用語としては「speech(言葉)+lock(固定)」で「言葉で固定する=言葉の拘束」を意味し、ここ15年ほどで介護用語として広まりました。

身体拘束のように明確な基準はありませんが、受け手が不快になったり、行動を抑え込まれる命令的な声かけはスピーチロックと考えられます。

スタッフは常に「今の声かけは利用者さんの自由を奪っていないか」を意識してコミュニケーションを取る必要があります。

介護現場における「3つのロック」

介護職が高齢者を叩こうとしている

介護では、身体拘束は大きくフィジカルロック(身体的拘束)、ドラッグロック(薬物拘束)、スピーチロック(言葉による拘束)の3種類(3ロック)に分類されます。

フィジカルロックはベッド柵やベルト、ミトンなどで物理的に行動を拘束する行為、ドラッグロックは睡眠薬・向精神薬の過剰投与などで行動を抑制する行為です。

一方、スピーチロックは言葉で相手を制止したり萎縮させるもので、「動かないで」「じっとしてて」「勝手に立たないで」のような声かけが該当します。

言葉による拘束は目には見えないため気づきにくい特徴がありますが、いずれも「身体の自由を奪い尊厳を傷つける」行為です。

厚生労働省のガイドラインも、スピーチロックを身体拘束と同様の問題と位置付け、施設・事業所では「ちょっと待ってね」などの言い換えに取り組むよう事例紹介しています。

具体的な事例(代表的な声かけ例)

典型的なスピーチロックの例としては、以下のような声かけが挙げられます。

  • 「動かないで」「じっとしてて」
  • 「勝手に立たないで」
  • 「早くして」「急いで」「もう終わらせますよ」
  • 「ちょっと待って」「座っててください」「どこに行くんですか」
  • 「ダメです!」「やめてください!」

これらは安全確保や効率のために無意識に使いがちですが、利用者さんの「自分で判断して動く権利」を奪いかねません。

たとえ叱責や暴言ほど露骨でなくとも、「〇〇しないで」といった命令口調だけで、利用者さんは心理的に萎縮し、不安感が強まってしまいます。

特に認知症の方には言葉の意味が正しく伝わらず、混乱や拒否を引き起こすこともあります。

利用者への影響:自立支援・尊厳との関係

スピーチロックは利用者さんの自立支援や尊厳に直接悪影響を及ぼします。

言葉で行動を抑制されると、「自分で動く」「自分で決める」といった機会が奪われ、自主性や行動意欲の低下につながります。

例えば「全部食べてください」と言われて食事を急がされると、本人は「拒否すれば叱られる」と思い込んでしまい、食欲が落ちたり摂取量が減少してしまうことがあります。

また、「立たないで」と指示され続けると、歩行や移動の機会が減り、ADL(日常生活動作)の低下にもつながりかねません。

心理面では、命令的な声かけは利用者さんに強いプレッシャーを与え、ストレスや不安を増幅させます。

特に認知症の方は状況を理解できずパニックを起こしやすく、症状の悪化要因にもなると指摘されています。

さらに、一度職員同士で「普通の対応」として慣れてしまうと言葉の暴力が常態化しやすく、施設全体のケアの質低下や虐待リスクにもつながります。

以上のように、スピーチロックは身体拘束に並ぶ心理的拘束であり、利用者さんの人権・尊厳を侵しかねない重要課題です。

介護現場では日頃から、利用者さん本位で丁寧な言葉遣いを徹底し、自由や主体性を尊重する声かけを心がけることが自立支援につながります。

身体拘束・薬物拘束との関連と「3ロック」の視点

身体拘束ゼロの流れの中で、厚労省や各施設はスピーチロックを身体拘束の一種とみなし、取り組みを強化しています。

例えば施設では、言葉遣いの研修やグループワークを通じて「言い換え」や代替手段を共有し、フィジカル・ドラッグとともにスピーチロックを廃止・防止する姿勢を徹底しています。

また、フィジカルロックとドラッグロックの防止策として行っている「代替方法の検討」でも、多職種でスピーチロックの対応策を検討します。

介護職員だけで「立つと危ない」と判断しがちなケースでも、リハビリ専門職が歩行訓練や環境調整を提案することで言葉による抑制が不要になる場合があります。

身体拘束の是正では、緊急時であっても医師・看護師・リハ職などを交え代替策を徹底的に検討するよう指導されています。

つまり、3ロックはそれぞれの視点でつながっており、スピーチロック防止も全体的な拘束ゼロの一環として位置づけられています。

スピーチロックを防ぐために施設・職員ができること

スピーチロックを防ぐ施策として、施設・職員ができる取り組みとしては、次の5つがあげられます。

  1. 声かけの言い換え・工夫
  2. 利用者さん本位のコミュニケーション
  3. 研修・意識啓発
  4. 環境調整・計画的ケア
  5. ご家族や他職種との連携

それぞれ具体的にみていきます。

①声かけの言い換え・工夫

スピーチロックを防ぐには、まず命令・否定的な言い方を避け、利用者さんを尊重した表現に言い換えることが基本です。

例えば、「ちょっと待ってて」は「〜しているので、あと〇分で伺いますね」、「危ないから座って」は「一緒にゆっくり座りましょうか」などの言い換えが効果的です。

具体的には以下のような工夫があります。

  • 安全確保時の声かけ:「動かないで」→「今お手伝いしますね。ここで少し待ちましょうか」
  • 移動・移乗時:「早く座って」→「ゆっくり座れば大丈夫ですよ」
  • 食事時:「全部食べて」→「好きなものから召し上がってくださいね」
  • 入浴・排泄時:「早くして」→「ご自分のペースで大丈夫ですよ」「寒くないように進めますね」
  • 拒否・混乱時:「ダメ!やめて!」→「どうしましたか?何かお困りですか?」
  • 徘徊時:「そっちに行くな!」→「何か行きたいところがあるのかな?お話を聞かせてくださいね」などの声かけ


これらは利用者さんの意志やペースを尊重しつつ安全を確保する方法です。

②利用者さん本位のコミュニケーション

常に利用者さんの立場に立って考え、「その言葉は利用者さんの気持ちを考えたものか」「相手を不安にさせていないか」を意識します。

声かけ前に一呼吸置き、優しい口調やアイコンタクトを加えるだけでもスピーチロックを避けやすくなります。

③研修・意識啓発

施設内での研修・研鑽も重要です。

実践事例では、若手職員が講師となって言葉遣い・スピーチロック研修を行ったり、ロールプレイを通じて「言い換え」や「代替行動」を学ぶ取り組みが報告されています。

定期的な勉強会や会議でスピーチロックの理解を深め、職員同士で声かけの問題点を共有することが推奨されます。

④環境調整・計画的ケア

業務過多や事故防止意識のみで声かけを急ぐのではなく、事前の観察や計画的な動きで対応するようにします。

例えば、リハビリ職と連携して安全な歩行訓練プランを立てたり、必要に応じて人員配置を工夫して見守りを強化することで、咄嗟に「待って!」と言わずに済む体制を整えます。

⑤ご家族や他職種との連携

介護職員だけでなく、看護師やリハビリ職、相談員ら多職種が情報を共有し協力することで、利用者さんの全体像に合った最適な対応が可能になります。

例えば、認知症ケアの専門家と連携して不安行動に対処したり、相談員が本人・ご家族の希望を汲み取って言葉かけの指針を作成するなど、各職種の知見を活かすことが効果的です。

以上の対策を組織的に推進するため、介護リーダーは現場の声かけの状況を観察し、改善点を具体的にフィードバックしましょう。

日常的にケアの事例を振り返り、専門家や先輩職員とディスカッションを重ねることで、施設全体の意識改革につながります。

制度的・倫理的な位置づけと研修義務

スピーチロックに相当する言葉の抑制は、高齢者虐待防止法の心理的虐待にも該当し得ます。

厚生労働省の高齢者虐待防止対策により、介護施設では職員に対して「権利擁護・虐待防止」の観点から研修実施が義務づけられました。

令和6年度からは介護保険の運営基準に「定期的な虐待防止研修の実施」が明記され、研修未実施の場合は介護報酬の減算対象となるため、各施設は年1回以上の研修実施が必要です。

この研修では身体拘束ゼロの理念のもと、言葉遣いの適切化や虐待防止の具体策を学ぶことが求められています。

また、高齢者虐待防止法自体も「高齢者の尊厳保持・人格尊重」が介護保険制度の目的としています。

虐待防止においては、職員には虐待発見時の通報義務や早期発見の努力義務が課せられているため、施設側は組織としてスピーチロックも含む虐待防止体制の整備と教育を行わなければなりません。

厚労省資料や事例集でも、スピーチロックを含む声かけ研修の重要性が強調されており、「本人の声を聴く」「声掛けの仕方を学ぶ」といった倫理教育が推奨されています。

これらは利用者さんの人権擁護・QOL向上の観点からも重要視されています。

他職種連携の重要性

スピーチロックを含むケアの課題解決には、介護職員だけでなく多職種連携が不可欠です。

前述のように医師・看護師・リハビリ職らと連携して代替ケアを検討することで、安全確保と自由確保の両立を目指せます。

たとえば、看護師が服薬管理のタイミングを調整したり、作業療法士が転倒予防のスキルを支援することで、介護職員の急な声かけを減らせる場合があります。

また、生活相談員やケアマネジャーは利用者さん・ご家族の意向を吸い上げ、チームで言葉かけのスタイルを共有する役割を担います。

多職種の視点が集まるケア会議やケースカンファレンスでは、「この方にとって最適な声かけとは何か」「スピーチロックを避けるにはどうすればいいか」を議題にすることで、ケアの質向上につながります。

おわりに

いかがだったでしょうか。

介護施設で働く私たちは、日々の声かけを振り返り、「今、この一言がスピーチロックになっていないか」を常に検証する必要があります。

研修や他職種連携を通じて学び合い、尊重あるコミュニケーションを徹底することで、スピーチロックを減らし、安全かつ自立を支援するケアを実現できます。

信頼関係に基づく丁寧な言葉遣いで、利用者さんが安心して生活できる環境を目指しましょう。

それではこれで終わります。

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