- すぐに使える研修資料・マニュアル・事例などがほしい
- 資料作成を急いでいる、でもちゃんと伝わる内容にしたい
- 現場の職員が興味持ってくれるテーマって何?
- 去年と同じ内容じゃまずいよな…
- 研修担当じゃないけど、あの人に教えてあげたいな
筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
「利用者さんの安全を守るため」という善意の名のもとに、知らず知らずのうちに自由や尊厳を奪ってしまうことがあります。
その典型が「3つのロック」と呼ばれるフィジカルロック(身体拘束)、ドラッグロック(薬物的拘束)、スピーチロック(言葉の拘束)です。
ベルトや柵で動きを制限する、薬で無理に落ち着かせる、言葉で行動を止める。
いずれも身体拘束の一種であり、厚生労働省が掲げる「身体拘束ゼロ」の理念に反する可能性があります。
しかし一方で、転倒や誤嚥といったリスクを防ぐためには、現場職員が葛藤を抱く場面も少なくありません。
本研修では、この「3つのロック」の定義と具体例を学びながら、倫理的ジレンマを理解し、拘束に頼らないケアの工夫を探っていきます。
この記事を読むメリット
- 「3つのロック」の正体を理解できる
- 倫理的ジレンマに気づける
- 実践的な防止策が学べる
では早速みていきましょう。
3(フィジカル・ドラッグ・スピーチ)ロックとは

- フィジカルロック(身体的拘束)
- ドラッグロック(薬物的拘束)
- スピーチロック(言葉の拘束)
フィジカルロックとは、利用者さんの身体を物理的に固定して動けないようにすること(例:車椅子やベッドにベルトで縛る、ベッドに柵を付ける、手袋(ミトン)で手を拘束するなど)です。
ドラッグロックとは、睡眠導入剤や向精神薬など薬剤の過剰投与や不適切投与で利用者さんの行動を抑制すること(例:転倒を防ぐ目的で鎮静剤を多量に使うなど)です。
スピーチロックとは、言葉や叱責によって利用者さんの身体的・精神的な行動を抑制することで、「ちょっと待ってください」「危ないから座っていてください」などの一見何気ない声かけでも利用者さんを萎縮させ、動きを止めてしまう場合があります。
これら3つのロックはいずれも利用者さんの自由を制限する行為であり、介護現場で発生する身体拘束の一種とされています。
介護現場での具体例
介護現場では次のような具体的場面が挙げられます。
①フィジカルロックの例
転倒・転落予防のために車椅子にベルトをかけたり、ベッド周囲に手すり(柵)を設置して降りられないようにする。認知症の方が洋服を抜き取ってしまう場合に、つなぎ服や拘束衣を着せる例もあります。
②ドラッグロックの例
徘徊や騒動を鎮める目的で、常に鎮静剤や睡眠薬を強い量で服用させることです。また入浴や食事介助時に動いたり怒ったりしてしまう方に対し、薬でおとなしくさせようとする行為はドラッグロックに当たります。
③スピーチロックの例
「危ないから座っていてください」「もう動かないで」などの否定的・指示的な声かけがスピーチロックにあたります。たとえば、車椅子で部屋に戻りたいと言う利用者さんに「少し待っててね」と言い残して他の業務に行ってしまうと、利用者さんは指示に従ってじっと座り続けるしかなくなります。言葉での制限は目に見えないため、つい何気なく行ってしまいがちです。
三つのロックと身体拘束の関係
フィジカルロック・ドラッグロック・スピーチロックはいずれも身体拘束の範疇とされています。
つまり身体拘束を禁止・制限する法令・指針のもとでは、これら三つの行為すべてに注意が必要です。
例えば厚労省の「身体拘束廃止・防止の手引き」でも、組織としてスピーチロックも身体拘束に含め、日常的な言葉遣いの工夫を求めています。
いずれのロックも自由を奪い尊厳を損ないかねないため、安易な実施は原則として許されません。
介護現場全体で「身体拘束ゼロ」の理念を共有し、ご家族も含めて本人の意思と尊厳を尊重するケアのあり方を考えることが重要です。
安全と自律のはざま【倫理的ジレンマ】
身体拘束をめぐっては。安全確保と利用者さんの自律尊重(尊厳)の間でジレンマが生じます。
例えば認知症の方が徘徊すると、転倒事故やチューブ抜去の危険から職員は「安全」の観点で拘束を考えるかもしれません。
しかし一方で、身体を拘束すれば本人の自由意志や人権を侵害するおそれがあります。
まさに「利用者や他者の安全」と「利用者の尊厳・行動自由」の両立は難題であり、介護職員には重大な倫理判断が求められます。
このため日本医師会も、身体拘束に関して「緊急やむを得ない場合」(①生命・身体が切迫して危険、②他に代替手段がない、③一時的かつ最小限である)の3要件をすべて満たす場合にのみ許容されるとしています。
これらの条件を満たさないまま拘束を行えば、倫理的にも法的にも問題になり得ます。
介護職員はこのジレンマを認識し、拘束に依らないケアや環境調整を常に模索する姿勢が求められます。
「緊急やむを得ず」身体拘束を実施する場合の「手続き」については、こちらの記事をご参照ください。
不適切な拘束の認識と防止
拘束のしすぎや不適切な拘束の実施を防ぐためには、常に代替手段の検討と職場全体での共有・反省が必要です。
まず身体拘束の判断には前述の3要件を確認し、必要な場合でも最短・最少に留めることが鉄則です。
例えば転倒リスクの高い利用者さんには、ベッドサイドにセンサーマットやアラームを設置して離床を知らせるなど、身体拘束に頼らない対策が有効です。
人員不足が理由の場合は増員が難しくとも、環境面(つまずき防止や居室配置の工夫)、介助方法の見直しなどで代替手段を講じます。
また、薬の管理では必要最小限の投与に留め、安易な鎮静を避けるべきです。
スピーチロックについては職員教育で意識化し、言い換えの工夫を行います。
例えば依頼口調の「~していただけますか」を使い、肯定的で丁寧な声かけを心がけることで、言葉による拘束を防げます。
「スピーチロック」に関して詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧下さい。
拘束のしすぎや不適切な拘束の具体的な防止策をまとめると、次の5つの取組が挙げられます。
①自立支援の工夫
利用者さん自身が動ける範囲を拡大し、日常生活動作(ADL)を支援する。歩行訓練や転倒防止教育、環境の危険箇所除去などで事故予防に努める。
②代替手段の活用
センサーマットや介護者コール、見守りシステムなど拘束以外の手段を検討する。可能な範囲でベッド柵ではなく低床ベッドへの変更やマット使用も選択肢となります。
③多職種カンファレンス
拘束が必要か疑問なケースはチームで協議し、ご家族や専門職(医師・薬剤師・理学療法士等)と連携して判断する。
④教育・研修の実施
新任研修や定期研修で身体拘束の法律・倫理を学び、スピーチロックを含めた事例研修で意識向上を図る。
⑤モニタリングと記録
身体拘束を行った場合は厳しく記録し、定期的に解除・観察を行う。拘束理由と代替措置の検討過程を残すことで、客観的なチェックが可能になります。
おわりに
いかがだったでしょうか。
「3つのロック」は、利用者さんの安全を守ろうとする中で介護者が陥りやすい落とし穴でもあります。
身体を縛る、薬で抑える、言葉で止める。これらは一時的に安心を得られるように見えても、利用者さんの自律や尊厳を損なう重大な行為です。
私たちが問われているのは「安全か尊厳か」ではなく、「安全と尊厳をどう両立させるか」です。
そのためには、代替手段の検討、日常的な声かけの見直し、多職種やご家族を交えた協議、そして職員自身の意識改革が欠かせません。
本記事の学びをきっかけに、現場で「これはロックになっていないか?」と互いに問い直し、利用者の自由を尊重しながらも安全を守るケアを実践していきましょう。
それではこれで終わります。
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