筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
介護施設において、事故の防止は利用者さんの安全を守るだけでなく、家族や職員の安心にもつながる重要な取り組みです。
本記事では、事故防止に効果的な3つの対策、「未然防止策」「直前防止策」「損害軽減策」について、その特徴や実践例を詳しくご紹介します。
これらの対策をバランスよく活用することで、利用者さんの安全を確保し、介護現場全体のリスク軽減につなげることができます。
また、転倒事故だけでなく、誤嚥や行方不明、異食事故など、介護現場で起こりうるさまざまなリスクへの対応についても触れ、より安全な介護環境の実現に向けたヒントを提供します。
本記事が、現場の事故防止策のヒントとなり、利用者さん一人ひとりに合った安全なケアの提供につながれば幸いです。
この記事を読む価値
- 事例を使って説明しているので、わかりやすい内容になっています。
- できる限り難しい表現は省いています。
- 最後に「意見」や「感想」をシェアすると、立派な研修になります。
早速、見ていきましょう。
3種類の事故防止対策
事故防止には「職員の見守り強化」だけでなく、さまざまな手法が存在します。
特に転倒事故の場合、3つの防止策を組み合わせて活用することで、効果的な予防が期待できます。
この3種類とは、「① 未然防止策」「② 直前防止策」「③ 損害軽減策」のことです。
それぞれの特徴と役割をお伝えしていきます。
① 未然防止策
未然防止策とは、事故の根本的な原因を探り、それを取り除くことで事故の発生を防ぐ方法です。
原因を完全に取り除けるため、最も優先的に考慮すべき防止策とされています。
具体的な対策としては、歩行に不安定さを感じる利用者さんの場合、適切な履物や服装を選ぶことで転倒のリスクを低減させることができます。
また、利用者さんの体調や認知機能を考慮した上で、必要に応じて杖や歩行器などの福祉用具を見直し、安全な歩行をサポートすることも重要です。
② 直前防止策
直前防止策は、事故が起きる瞬間を察知して職員が介入し、事故の発生を阻止する方法です。
例えば、利用者さんが立ち上がりそうなときに職員が近くで付き添い、転倒のリスクを防ぐといった行動が該当します。
しかし、直前防止策は職員の負担が増すため、限界もある点を考慮し、他の防止策と組み合わせて使用することが大切です。
③ 損害軽減策
損害軽減策は、事故が発生してしまった場合の損害を抑えるための対策です。
例えば、転倒時の衝撃を吸収するマットを床に敷いたり、転倒時に骨折を防ぐためにヒッププロテクター付きのパンツを着用してもらうことで、転倒による骨折リスクを低減させます。
損害軽減策は、職員の負担軽減にもつながり、安全な環境づくりに有効です。
事例紹介
では、事例を使って考えていきましょう。
〇〇デイサービスの利用者Hさんは、自宅で転倒して大腿骨を骨折し、約3か月間入院とリハビリ生活を余儀なくされました。
この期間、娘さんはHさんのサポートに追われ、大変な負担を感じていたため、「今後は絶対に転倒させないでほしい」という強い要望をデイサービスに伝えてきました。
Hさんには軽度の認知症もあり、職員が「立ち上がるときには呼んでください」と伝えても、つい自分で立ち上がり、転倒の危険性が高まってしまいます。
このため、デイサービスの主任は「Hさんの転倒防止策を考えよう」とカンファレンスを開くことを決めましたが、「職員が交代で見守る」以外の有効なアイデアが出ず、会議の雰囲気も重くなっていきました。
この事例における「① 未然防止策」「② 直前防止策」「③ 損害軽減策」を考えてみましょう。
① 未然防止策
Hさんの場合、転倒のリスクを減らすためには、まず履物や服装を見直し、安全で動きやすいものを選ばます。
また、福祉用具をHさんに合ったものに変更することで、バランスが取りやすくなり、ふらつきを防ぐことができます。
さらに、服薬内容の見直しも医師と相談の上で行うことで、ふらつきやめまいのリスクを軽減させることが可能です。
② 直前防止策
認知症による症状があるため、職員がHさんの近くで見守り、必要に応じて付き添うことが求められます。
たとえば、「立ち上がりそうなタイミングで職員が声をかける」「利用者さんにとって危険な場所を事前に確認する」など、転倒リスクを未然に防ぐ行動を職員間で共有します。
③ 損害軽減策
転倒による骨折を防ぐために、施設の床に衝撃吸収マットを敷いたり、Hさんにヒッププロテクター付きのパンツを着用してもらうことも効果的です。
これにより、仮に転倒しても骨折などの重傷を避けることができます。
いろいろな事故防止策を考える
紹介した事例は「転倒事故」でしたが、介護現場では転倒事故以外にも、いろいろな事故が生じます。
ここでは、よくある事故(誤嚥事故、行方不明事故、異食事故)の対策について取り上げていきます。
誤嚥事故における対策
① 未然防止策
誤嚥を防ぐためには、嚥下機能に合わせた食事形態に変更することが大切です。さらに、適切な前かがみ姿勢で食事を取るようにすることで、誤嚥のリスクを減らします。
② 直前防止策
嚥下機能が低下している利用者さんの場合、食事の進行状況を細かくチェックすることが必要です。
③ 損害軽減策
万が一誤嚥が発生した場合に備えて、迅速に救命処置を行えるよう、職員の応急処置のスキルを向上させておきます。また、救急搬送の手配も事前に準備し、万全の対応を整えることが重要です。
行方不明事故における対策
① 未然防止策
行方不明を防ぐためには、利用者さんが外出しようとする原因を探し、改善することが大切です。例えば、施設内で快適に過ごせる環境を整えることで、不安感や不穏な行動を和らげることができます。
② 直前防止策
不穏な行動が見られる時間帯に見守りを強化し、職員が利用者さんの行動を見守ることが必要です。
③ 損害軽減策
GPS機能が搭載された見守り機器を利用するなど、速やかに所在確認ができる体制を整えることで、利用者を迅速に保護することが可能です。
異食事故への対策とその重要性
① 未然防止策
利用者さんが異食行動をとる原因を探り、原因に応じて対応策を講じることが重要です。たとえば、栄養不足や空腹感が原因で異食が発生することもあるので、食事の提供方法や内容を見直し、満足感を得られるような食事形態を整えることが効果的です。また、施設内の危険物を厳重に管理し、誤って口に入れてしまうことがないように整理しておきます。
② 直前防止策
異食行動が疑われる方には、利用者さんが食事や飲み物以外の物を口に入れないよう、見守りを強化します。また、利用者さんが口元に手をやっている場合や口を動かしている場合には、すぐに職員が口腔内を確認することで異食を未然に防ぐことが可能です。
③ 損害軽減策
異食事故が発生した場合、利用者さんの健康を損なう物品が飲み込まれていないか確認し、速やかに応急処置を行います。また、異物が誤って口に入った場合に備え、速やかに医療機関へ受診できる体制を整えておくことも重要です。
施設全体でのリスクマネジメント意識の向上
転倒や誤嚥、行方不明などのリスクに対して、施設全体でのリスクマネジメント意識を高めていきましょう。
各種リスクに対する共通の認識を持つことで、施設全体が一体となって利用者さんの安全を守る体制が整います。
具体的には、次のような3つ取り組みが効果的です。
① 情報共有の促進
定期的なカンファレンスやミーティングを通じて、各利用者さんの状態やリスクに関する情報を全職員で共有します。
特に、認知症の症状が進行している利用者さんや、最近転倒が続いている利用者さんについては、日々の状態変化に注意を払いながら共有することが重要です。
② 施設内の環境整備
施設のレイアウトや設備を見直し、転倒しやすい段差や滑りやすい床を改善することで、環境面でのリスクを減らします。
また、歩行時の支えとして利用者さんが簡単に掴める手すりの設置や、転倒時の衝撃を吸収するマットの配置など、環境設備による事故防止も効果的です。
③ 職員の健康管理
職員自身が健康でなければ、利用者さんのケアに集中することができません。
施設内での感染対策や職員のメンタルヘルスケアにも配慮し、職員が常に健康で安心して働ける環境を整えることも、利用者さんの安全に直結します。
転倒防止対策をさらに強化するために
介護施設における転倒防止対策をさらに強化するためには、いくつかの課題に取り組む必要があります。
まずは、新しい技術導入です。
センサーやモニタリングシステムなどの技術の進歩を取り入れることで、職員の負担を軽減しつつ事故のリスクを抑えることが可能です。
例えば、転倒リスクの高い利用者さんが立ち上がる際に、自動で通知が届くシステムを導入すれば、迅速に対応することができ、転倒予防に大きく寄与します。
また、家族との連携強化も重要な取り組みの一つです。
利用者さんのご家族と積極的に情報を共有し、ご家族が利用者さんの状況を理解した上で施設と協力する体制を築くことが大事になってきます。
ご家族が施設での対応を理解し、共通の目標に向かって協力することで、事故防止への意識が高まり、利用者さんにとっても安心できる環境が整うでしょう。
さらに、リスクマネジメント教育の充実も欠かせません。
職員全員が事故防止に関する基本的な知識を持つだけでなく、継続的なリスクマネジメント教育を受けることで、予期しない事故に対する対応力を向上させる必要があります。
万が一事故が発生した場合には、事後検証を徹底し、次に活かせる教訓を全職員で共有することも重要です。
おわりに
いかがだったでしょうか。
転倒防止策には「未然防止策」「直前防止策」「損害軽減策」の3つの方法があり、これらをバランスよく組み合わせて実施することが、より効果的な予防策となります。
介護施設では転倒だけでなく、誤嚥や行方不明など、さまざまなリスクが伴いますが、施設全体で情報を共有し、適切な対策を選択することで、利用者さんの安全を確保し、安心して過ごせる環境を提供することが可能です。
また、職員と利用者さんの家族との連携や、技術の導入、職員の教育など、今後の改善に向けた課題にも積極的に取り組んでいきましょう。
利用者さん一人ひとりに最適な安全対策を実施し、事故のリスクを可能な限り低減させるために、今後も継続的な対策の見直しと改善を続けていく姿勢が重要です。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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