よくある事故の種類とリスク
介護施設では様々な事故リスクが潜んでいます。
まずは代表的な事故の種類と特徴を押さえておきましょう。
転倒・転落事故
転倒事故は介護施設で最も頻繁に起こり得る事故です。
あなたがお勤めの施設でも、年に1度は利用者さんの転倒が発生しているのではないでしょうか。
転倒は骨折や頭部外傷につながり、場合によっては命に関わる重大事故となります。
特に頭を打った場合、外見上は異常がなくても脳出血などの危険があります。
また高齢者は骨が脆く、一度の転倒で寝たきりになるリスクもあります。
「転ばせない」ための工夫と、「もし転んでも大怪我しない」環境づくりの両面から対策が必要です。
不適切な介助方法で転倒リスクを高めてしまっているケースもあり、転倒・転落は死亡リスクもはらむ事故であると全職員が理解する必要があります。
入浴中の事故
入浴介助中は利用者さんの命に直結する事故が起こりかねません。
例えば次のようなリスクがあります。
- 転倒・転落:浴室内で滑って転ぶ、浴槽から出る際によろけて倒れる等
- 溺水(できすい):目を離した隙に浴槽でおぼれる事故
- ヒートショック:急激な温度変化で血圧が乱高下し、心臓発作などを起こすこと
- 湯中り(湯あたり):長湯や高温の湯で気分が悪くなる、のぼせてしまうこと
- 皮膚トラブル:高齢者の皮膚は弱いため、内出血や表皮剥離(皮膚が擦れてむける)など
- やけど:熱すぎる湯による低温やけど等
- 脱水症状:入浴前後の水分不足による脱水や熱中症
高齢者は身体機能が衰え、平衡感覚や皮膚の感覚も鈍くなっています。
そのため些細なことが引き金で事故が生じます。
入浴介助中の事故の多くは、ヒューマンエラー(人為的ミス)が原因です。
「スタッフが利用者さんから目を離した隙に溺水しかけた」「床にシャンプーの残りがしっかりと流されておらず、利用者さんが滑って転倒した」などの事例が代表的です。
入浴中は常に緊張感を持ち、決して目を離さないこと、そして入浴前の入念な準備(浴室環境の安全確認やバイタルチェック)が肝心です。
火災事故
高齢者は火の扱いにもリスクを抱えています。
特に自宅で暮らす利用者さんの場合、住宅火災への注意喚起も重要です。
毎年全国で約1,000件もの火災や死亡事故がコンセントやストーブ、家電製品のトラブルによって発生しています。
高齢者宅の火災が多い背景には、本人の反応の遅れや暖房器具の誤操作、老朽化した家電の使用などが原因としてあります。
視覚・聴覚の衰えも火災の発見を遅らせる要因です。
施設内でも調理室の火や電気機器のショートによる火災リスクはゼロではありません。
火災を防ぐには日常的な設備点検と正しい使用法の徹底が不可欠です。
例えばコンセントの使い方ひとつで火災のリスクを大きく減らせます。
次の点を定期的にチェックしましょう。
たこ足配線になっていないか?
一つのコンセントに電源タップで多数の機器を繋いでいないか確認します。過度な負荷は発熱・発火の原因です。
プラグにほこりが溜まっていないか?
ホコリの蓄積はトラッキング現象による出火につながります。掃除の際にコンセント周りも拭き取りましょう。
また電気ストーブや電子レンジ、エアコン等の家電も長年使用していると劣化します。
異臭や異音がしないか、正常に動作するかを点検し、古いものは早めに買い替えるなど対策を取ります。
万一に備え、消火器や火災報知機の設置・点検も怠らないようにします。
送迎中の交通事故
デイサービス等は送迎も日常業務の一部です。
毎日運転する中で、どれだけ注意を払っていても交通事故は発生し得ます。
送迎中の事故は利用者さんだけでなく、歩行者や他車両も巻き込む可能性があり責任は重大です。
事故が起きた際は誰しも慌ててしまいますが、できる限り冷静かつ適切な対応が求められます。
例えば運転中に歩行者に接触してしまった場合、運転者の判断で「軽傷だから」と現場を離れるのは絶対に避けましょう。
それはたとえ軽微な怪我でも「ひき逃げ」と見なされる可能性があります。
必ず車を安全な場所に停止させ、負傷者の救護と119番・110番通報を行います。
送迎時はシートベルトの装着確認や車椅子固定の徹底など事前の安全確認も重要ですが、それでも万一事故が起きた時のために緊急連絡先一覧や対応マニュアルを用意しておくと安心です。
その他の事故リスク(誤嚥・誤薬・行方不明 など)
上記以外にも介護現場には多様なリスクがあります。
誤嚥(ごえん)事故とは食事や飲み物が誤って気道に入り込む事故で、高齢者では嚥下機能低下により窒息や肺炎につながる重大リスクです。
食形態の工夫や見守りで予防しますが、それでも起こり得るため、万一喉に詰まらせた場合の異物除去方法(※背部叩打法やハイムリック法)の習得も必要です。
※背部叩打法やハイムリック法について詳しく知りたい方は、コチラの記事をご参照ください。
誤薬事故(ごやく)は薬の取り違え・飲み間違い事故です。
服薬介助時に名前のダブルチェックを徹底する、一包化するなどの対策で防ぎますが、確認ミスをゼロにする意識が重要です。
行方不明事故(失踪事故)は認知症利用者さんの徘徊により施設外へ出て迷子になるケースで、戸締まりの徹底や徘徊センサーの設置など環境整備が求められます。
異食事故とは食べ物でない物を誤って口にしてしまう事故で、認知症の利用者さんがティッシュや異物を食べてしまうケースなどが典型です。
窒息や中毒の恐れがあるため、普段から誤食しそうな物は手の届く範囲に置かないようにします。
このように介護現場には転倒、誤嚥、行方不明、異食事故など様々なリスクが存在します。
職員一人ひとりが日常的に「何が危ないか」を意識するとともに、チーム全体で声を掛け合いながら安全確認することが重要です。
「もしかすると危ないかも」と気づいた小さな違和感を見逃さず、早めに対処する姿勢が重大事故の発生を防ぎます。
事故直後の対応
事故が発生してしまったら、被害を最小限に留めるため迅速かつ適切な対応が求められます。
ここでは現場で事故に直面した職員の対応と、管理職による対応に分けて解説します。
現場職員が行うべき緊急対応
事故直後、現場の介護職員はまず深呼吸して落ち着き、利用者さんの状態を的確に把握することが重要です。
具体的には次の ① ⇨ ④ の手順で利用者さんの様子をチェックします。
①意識の有無を確認
大声で名前を呼ぶなどして反応を確認します。
呼びかけに応答がない場合はただちに119番通報します。
意識がある場合も、ぼんやりしていないか(意識レベル低下の有無)観察します。
必要に応じて※JCS(ジャパン・コーマ・スケール)などで意識レベルを評価し、救急隊や医師に伝えられるようにします。
※JCSについて詳しく知りたい方は、コチラの記事をご参照ください。
②呼吸状態の確認
胸の動きや鼻息の有無を見て、普段どおり呼吸できているか確認します。
呼吸が浅い・不規則など明らかな異常がある場合もただちに119番通報します。
呼吸停止している場合は直ちに※心肺蘇生を開始しましょう。
※心肺蘇生について詳しく知りたい方は、コチラの記事をご参照ください。
https://kaigoshi-tomoblog.com/response-immediately-after-an-accident/
③怪我や痛みの有無を確認
全身を観察し、「痛いところはないですか?」と尋ねて怪我の有無を調べます。
本人から痛みの訴えがなくても、骨折などを見落とす場合があります。
手足の変形や腫れがないか、冷汗をかいていないか等をチェックします。
出血している場合は清潔なタオルやガーゼで止血します。
④頭部を打ったか確認
転倒・転落事故なら頭部の負傷も確認します。
頭にこぶがないか、出血はないか見ます。
頭を打っていれば、外傷がなくても脳へのダメージの可能性があるため注意が必要です。
嘔吐や意識変化がないか厳重に観察し、救急隊にも「頭部打撲の疑いあり」と伝えます。
意識がなく呼吸停止している場合は一刻も早く心肺蘇生を開始し、同時にAEDを手配・装着します。
現場に他の職員がいれば協力を仰ぎ、役割分担しましょう。
一人が胸骨圧迫を行っている間に、別の人が119番通報して救急車を呼び(「○○施設で利用者が転倒し意識と呼吸がありません」等)、さらに別の職員が上司や看護師に連絡するといった具合です。
119番通報の際は「事故の種類(例:転倒)」「利用者の年齢・性別」「現在の状態(意識・呼吸の有無、出血の有無など)」「施設の所在地(目印となる建物)」を落ち着いて伝えます。
呼吸や心拍が止まっている場合は「AEDを使用中です」なども伝えるとよいでしょう。
幸い大事に至らず利用者さんが落ち着いている場合でも、念のため看護職員や医師の指示を仰ぎ経過観察を行います。
その後は事故状況と対応を上司に報告し、事故報告書を作成します(後述)。
管理職・リーダーの対応
現場での緊急対応と並行して、施設長やフロアリーダーなど管理職も迅速に動きます。
管理職の役割は主に関係各所への連絡と事後対応の指揮です。
具体的には、次の8つの対応を行います。
①家族への緊急連絡
利用者さんの負傷状況や現在の容態を確認し、速やかにご家族へ連絡します。
電話で「○時頃に○○さんが転倒し、左膝を強打しました。意識ははっきりしていますが念のため病院へ搬送中です」等、できる限り詳細かつ正確な情報を伝えます。
連絡が遅れたり情報が曖昧だとご家族は不安になるため、落ち着いて事実を報告しましょう。
②事故の状況確認と記録
管理者は事故現場にいた職員や目撃者から事故発生時の詳しい状況を聴取します。
「いつ・どこで・誰が・何をしていて・どうなったか(5W1H)」を確認し、事故の原因を推測します。
その上で事故報告書に必要事項を記入し、場合によっては現場写真も残します。
③利用者本人のケア対応
利用者さんが救急搬送された場合は付き添い職員を決め、医療機関との連絡を引き継ぎます。
施設内に留まる場合でも看護師等と連携しバイタルチェックや必要な処置を講じます。
利用者さん本人には不安を和らげる声掛けを行い、安心してもらうよう努めます。
④家族への説明と謝罪
ご家族が来所または病院に駆け付けたら、管理者を含む複数名(最低2名)で事故の経緯を説明します。
可能な限り対面で行い、誠意を持って謝罪します。
「なぜ事故が起きてしまったのか」「当時どのような対応をしたのか」「現在の利用者さんの状態はどうか」を正直に伝えましょう。
ご家族から質問やお叱りの言葉があるかもしれませんが、遮らず傾聴し、「二度と起こさないための対策を講じます」と真摯な姿勢でお伝えすることが大切です。
⑤再発防止策の検討
事故原因の分析結果をもとに、チームで再発防止策を検討します。
例えば「夜間の見守りが手薄で転倒が起きた」のであれば人員配置の見直しやセンサー設置、「靴が合っていなかった」のであれば靴の変更やPT(理学療法士)指導による歩行訓練、といった具体策を立案します。
原因究明なくして効果的な策は立てられないため、職員間で率直に意見を出し合いましょう。
⑥法的責任の確認
事故内容によっては施設側の過失が問われ、賠償責任(損害賠償)が発生する可能性もあります。
管理者は事故状況に基づき施設の法的責任の有無を検討します。
明らかな過失(設備不良や重大なケアミスなど)があれば速やかに上位団体や保険会社に報告し、賠償手続きの準備をします。
判断が難しい場合も顧問弁護士等に相談し、適切に対応します。
⑦行政への報告
事故の程度によっては、所轄官庁(自治体等)への報告が義務付けられています。
介護サービスの種別に応じたルールに従い、事故報告書を行政へ提出します(重大事故等)。
⑧対応内容の共有
上記の再発防止策や対応方針をまとめ、事故後2~3日以内に改めてご家族へ説明します。
「原因を分析し、このような対策を実施しました。今後○○様には〇〇に注意してケアして参ります」と具体策を示せば、ご家族も多少安心されます。
管理職は以上のような対応を統括し、必要に応じてスタッフへの追加指示や関係機関との調整を行います。
初動対応が適切であれば、ご家族との信頼関係悪化やトラブル(二次被害)への発展も防ぐことができます。
「迅速・誠実・丁寧」な対応を心がけましょう。
再発防止策:事故を繰り返さないために
一度起きてしまった事故を二度と起こさないようにすること、それが再発防止です。
事故防止策は「注意しましょう」「気を付けます」だけでは不十分で、組織としての仕組みづくりと現場での実践、両面から取り組む必要があります。
ここでは介護施設で取り組むべき主な再発防止策を紹介します。
ヒヤリハットの活用と情報共有
ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの「ヒヤリとした」「ハッとした」出来事(ヒヤリ事故)のことです。
例えば「利用者さんが急に立ち上がろうとして転けそうになった」「誤って違う利用者さんに薬を渡しそうになった」「認知症の利用者さんが机上のティッシュを口に入れかけた」といった冷や汗ものの場面はすべてヒヤリハットに該当します。
一見大事に至らなかった小さなヒヤリでも、放置すれば重大事故につながる恐れがあります(ハインリッヒの法則)。
だからこそヒヤリハットが起きた段階で再発防止策を講じ、重大事故の芽を摘むことが重要です。
ヒヤリハットが発生した際は、必ずヒヤリハット報告書を作成しましょう。
報告書※には日時・場所・状況・要因・対策案などを記入し、上司やチームで共有します。
※ヒヤリハット報告書のひな形を見たい方は、コチラの記事をご参照ください。
ヒヤリハット報告書を通して他の職員とともに事例を分析・共有することで、同じようなヒヤリが二度と起こらないよう適切な対策を取ることができます。
報告書は遭遇した当事者が「反省文」のように書くのではなく、その場に居合わせた人(発見者や第三者)が記載するのがポイントです。
客観的な視点で状況を把握でき、事故防止につながる有益な情報となります。
ヒヤリハット報告を職場に定着させるには、報告しやすい雰囲気づくりも大切です。
報告が根付かない理由として「この程度報告するほどではない」と独断してしまう、「報告すると自分のミスが責められそうで不安」といった心理が挙げられます。
管理職は報告内容を頭ごなしに叱責せず、ミスを共有して皆で防ぐためのものという姿勢を示しましょう。
ヒヤリハットは重大事故を防ぐための貴重な情報源です。
一人では気づけないリスクもチームで情報共有すれば防げます。
小さな「ヒヤリ」も見逃さず拾い上げ、皆で知恵を出し合って対策する文化を職場に根付かせましょう。
また、日々の情報共有も事故防止に直結します。
定期カンファレンスや申し送りで利用者さんの状態変化やヒヤリハット事例を職員全員で共有し、施設全体でリスクに備えます。
「最近○○さんは起立時によろけが見られる」「△△さんは食事中むせ込みが増えている」など情報共有することで、スタッフ皆が注意を払いやすくなります。
事故防止は組織戦です。
一人ひとりが気づいたことを持ち寄り、チーム全体で安全意識を高めましょう。
事故防止マニュアルの整備とPDCA
事故対応や予防策を属人的にせず、組織として体系化することも再発防止には欠かせません。
まず、事故発生時の対応マニュアルを整備しましょう。
今回紹介したような事故直後の対応手順(意識確認・応急処置・連絡フローなど)を簡潔にまとめ、職員がいつでも参照できるようにしておきます。
できれば定期的にシミュレーション訓練を行い、全職員がマニュアル通りに動けるよう訓練しておくと安心です。
次に、事故やヒヤリハットの情報を集約して分析する仕組みを作ります。
蓄積された事故報告書・ヒヤリハット報告書を定期的にレビューし、共通する原因や傾向がないかチェックしましょう。
必要に応じて安全対策委員会を設置し、データに基づく対策検討を行うのも有効です。
発見された課題に対しては、計画を立てて組織的に改善策を実行します。
いわゆるPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Act)を回すイメージです。
例えば「夜間の転倒事故が多い」という課題が見えたら、Plan: 夜間巡回の強化計画を立案 → Do: 人員配置を見直して実行 → Check: 転倒件数の推移を検証 → Act: 効果が不十分なら別策を講じる、という流れで継続的に改善します。
このように組織的な取り組みにより、小さなミスの段階で手を打ち、大きな事故を未然に防ぐことが可能になります。
また、マニュアル類の見直し・更新も定期的に行いましょう。
一度作ったマニュアルも現場の状況変化に合わせて改訂が必要です。
新人職員の増減や利用者層の変化、新しい介護機器の導入などに応じて、随時手順書を書き換えます。
こうした見直し作業を怠らずPDCAを回し続けることで、安全対策の精度が高まり、職員全員に共通した対応を浸透させることができます。
職員教育・研修の強化
介護事故を防ぐには職員一人ひとりのスキル向上と職場全体の安全意識向上、そしてチームワークの強化が大事だとされています。
そのために、次の5つのポイントを念頭に置き、職員教育や研修を継続的に実施しましょう。
①定期研修の実施
年に1回以上は全職員対象の事故防止研修を開催します。
ヒヤリハット事例の共有や事故対応手順の再確認、介護技術の見直し等を行い、職員に最新の知見をアップデートしてもらいます。
新人には配属前に安全管理研修を必ず受講させ、安全なケアの基本を習得させます。
②緊急時対応スキル習得
万が一の事態に備え、心肺蘇生法(CPR)やAEDの使用方法、異物除去法などを全員が習得しておくことが望ましいです。
定期的に救命講習を開催し、実際に人形を使って胸骨圧迫やAED操作を練習します。
知識として知っているだけでなく、身体で覚えておくことで、いざという時に慌てず対応できます。
③ケア技術の見直し
日々の介助方法を時折見直すことも必要です。
例えば移乗介助時の立ち位置・手の添え方は適切か、利用者さんの履物は安全か(スリッパは不適切)等、職員同士でチェックし合い改善します。
近年は「ノーリフティングケア」(抱え上げない介助)も推奨されており、腰痛予防だけでなく利用者さんの転落防止にもつながります。
最新の介護技術を研修で学び、現場に取り入れましょう。
④スタッフの意識向上
研修や日々のミーティング等を通じて、「自分たちの職場は自分たちで安全にする」という意識を醸成します。
事故防止には職員全員の協力が不可欠です。
一人ひとりが安全に責任を持ち、互いに声を掛け合える風通しの良いチームを築きましょう。
忙しいときほど基本に立ち返って確認し合う――そんな文化を育てることが理想です。
⑤職員の健康管理
意外に思われるかもしれませんが、職員自身の健康やメンタル管理も事故防止に重要です。
職員が疲弊していては注意力が散漫になりミスが増えますし、心に余裕がなければ丁寧なケアが難しくなります。
施設として職員の労働環境やメンタルヘルスにも配慮し、安心して働ける職場づくりを心がけましょう。
職員が健康で元気に働けることが、利用者さんの安全にも直結するのです。
環境・設備の安全対策
物的環境の整備も事故防止の基本です。
次の7つの項目を意識し、施設内の設備や環境を見直し、危険を取り除きましょう。
①転倒しにくい環境づくり
居室や廊下、トイレ・浴室などあらゆる場所で「転ばない工夫」をします。
敷居や段差があればスロープを設置し、滑りやすい床には滑り止め加工を施します。
手すりを必要な箇所に増設し、夜間は足元灯で照明を確保します。
また、万一転倒してしまった場合に備え、衝撃吸収マットを床に敷くことや、希望者にはヒッププロテクター(転倒時に臀部を守る保護具)を使用してもらうことも効果的です。
②入浴設備・動線の点検
浴室や脱衣室では床の滑りやすさや室温を事前に確認します。
床に石鹸やシャンプーの泡が残っていれば洗い流し、必要に応じて滑り止めマットを使用するなど事故を未然に防ぐ環境を整えます。
浴室・脱衣所の室温は入浴前に暖房して約25℃に保ち、寒暖差によるヒートショックを予防します。
お湯の温度も職員が手で確認し、利用者さんにも熱すぎないか尋ねてから入浴していただきます。
入浴前後には水分補給を促し、湯船に浸かる時間は10分程度に留めるなど、溺水・ヒートショック・脱水への対策を徹底します。
これらをチェックリストにして二重チェックする仕組みを作れば、ヒューマンエラー防止に役立ちます。
③福祉用具・機器の管理
車椅子やベッド、歩行器、リフトなどの福祉用具が適切に整備・管理されているか定期点検します。
ブレーキやストッパーの利きが甘くなっていないか、部品の破損や緩みはないか確認し、不具合があればただちに修理・交換します。
利用者さん一人ひとりに合った用具を選定することも大切です。
サイズが合わない歩行器や靴は事故の元なので、必要に応じて専門職(PT等)と相談しながら見直します。
④火災予防対策
火災については先述のとおり、電気設備の安全管理が肝要です。
施設内でもたこ足配線は極力避け、配線が必要な場合も許容量を超えないようにします。
職員にも「コンセント周りのホコリは定期的に清掃する」「ストーブの近くに燃えやすい物を置かない」など基本的な注意事項を再教育します。
調理担当者にはガスコンロ使用時の火の始末を徹底し、消火器の位置と使い方も全員が把握しておきます。
年1回は防災訓練を実施し、火災報知機の点検や避難経路の確認、初期消火・避難誘導の手順を練習しましょう。
⑤送迎業務の安全管理
送迎車両については運行管理責任者を決め、定期整備を実施します。
オイル漏れやタイヤの空気圧チェックなどを行い、車両の安全を保ちます。
乗降時には車椅子リフトの操作手順を複数名で確認し合い、シートベルト装着・車椅子固定を二重チェックします。
送迎時の事故対応マニュアルも整備しておき、乗務員に周知徹底します。
送迎は「事故が起こりうる」という前提で普段から準備・確認しておくことが大切です。
⑥新しい技術の活用
転倒検知センサーや見守りカメラなど、安全を見守るテクノロジーも活用しましょう。
例えばベッドからの離床を感知して職員PHSに通知するシステムを導入すれば、素早く駆け付けて転倒を未然に防ぐことができます。
職員の負担軽減にもつながるため、予算が許す範囲で導入を検討します。
⑦ご家族との連携
利用者さんの事故防止にはご家族の協力も大きな力になります。
施設での安全対策を説明し、自宅での注意点(暖房器具の扱い、誤飲誤食防止など)についても助言しましょう。
例えば「11月は製品安全点検月間なので、この機会にご自宅のコンセントやストーブの安全点検をお願いします」と呼びかけるのも有効です。
日頃からご家族と利用者さんの状態やリスク情報を共有し合い、協力体制を築くことで施設・家庭双方で事故予防に取り組めます。
ケーススタディ・反省から学ぶ事故防止
事故防止策を考える際には具体的な事例検討が有効です。
今回は、ある介護施設で検討された転倒事故のケーススタディを紹介し、その中から学べるポイントを整理します。
事例:認知症利用者Hさんの転倒事故防止策
背景: Hさん(要介護中等度)は認知症があり、立ち上がって歩き回ろうとする行動が頻繁です。
過去に立ち上がり直後によろけて転倒しそうになったヒヤリハットが何度かありました。
施設では次の3種類の対策を組み合わせて実施しました。
①未然防止策(予防策)
事故の根本原因を取り除き、発生自体を防ぐ方法です。
Hさんの場合、転倒リスク要因である履物と衣服を見直しました。
滑りやすいスリッパをやめ、かかとまでホールドできる面ファスナー付きシューズに変更。
また裾を踏みやすいダボっとした上着は避け、身体に合った動きやすい服に揃えました。
さらに居室内の不要な敷物を撤去し、つまずきの原因を排除しています。
②直前防止策(予兆対応策)
事故が起きそうな瞬間に察知して職員が介入し、阻止する方法です。
Hさんは認知症による判断力低下があるため、職員による見守り強化を行いました。
特に立ち上がり動作にリスクが高いと判断し、日中はHさんの近くで常に職員が様子を見守りました。
立ち上がろうとしたらすぐに声をかけ、必要に応じて付き添って歩行を補助します。
夜間もベッド離床を感知するセンサーを設置し、立ち上がりを察知したら職員が駆け付ける体制を整えました。
③損害軽減策(被害軽減策)
事故が起きてしまった場合でも被害を最小限に抑える対策です。
Hさんには転倒時の衝撃を和らげるため、歩行時にヒッププロテクター付きパンツを着用してもらいました。
また居室や廊下の床にクッション性のあるマットを敷き、仮に転倒しても骨折など重傷にならないよう環境面でも備えました。
これら「未然防止策」「直前防止策」「損害軽減策」を組み合わせたことで、Hさんの転倒事故は大きく減少しました。
ヒヤリとする場面自体がほとんど見られなくなり、仮に尻もちをついた際もプロテクターとマットのおかげで怪我なく過ごせています。
他のケースへの応用
このように、複数の視点から対策を講じることで、効果的な事故予防が期待できることが分かります。
この事例は転倒事故の対策でしたが、介護現場では転倒以外にも誤嚥、行方不明、異食事故など様々な事故が起こり得ます。
どのケースでも、根本原因への対処(未然防止)、危険兆候への素早い介入(直前防止)、被害を最小に抑える備え(損害軽減)という3段階で対策を考えると整理しやすくなります。
一方で人的見守り策ばかりに頼ると限界があるため、環境設備や用具の工夫と組み合わせることが重要です。
記録と振り返りの意義
事故やヒヤリハットを経験した後、記録を残し振り返ることは再発防止に欠かせないプロセスです。
人は時間が経つと教訓を忘れがちですが、記録に残しておけば組織の財産となり、後から見直して活かすことができます。
事故・ヒヤリハットの記録(報告書作成)
事故が発生した際は所定の様式で事故報告書を作成し、発生日時・場所、利用者の状況、事故の概要、考えられる原因、対応内容、再発防止策などを記録します。
前述しましたが、ヒヤリハットの場合も同様にヒヤリハット報告書を記入します。
これら報告書は書くだけでなく、管理者や委員会で分析して対策を講じる資料となります。
記録を書くことで状況を客観視でき、曖昧だった点も整理されます。
報告書は多少手間ですが、その蓄積が事故防止の貴重なデータベースとなります。
研修後の振り返り(感想レポート等)
施設内研修を実施した際には、感想レポートの提出や研修内容に関する意見交換の場を設けることが多いです。
これは研修の学びを定着させる効果的な方法です。
研修を受けただけでは時間とともに内容を忘れてしまいがちですが、レポートという形で自分の言葉で書き起こすことで記憶に残りやすくなるからです。
感想レポートには「研修で学んだこと」「業務にどう活かすか」「今後改善したい点」などを書いてもらいます。
実際の例でも、「日々のリスクチェックを徹底したい」「利用者の靴や介助方法を再確認する」「誤嚥予防のため食事介助を見直す」「緊急時対応力を高めるためCPR講習を受ける」といった具体的な決意が綴られていました。
このように書き出すことで課題が明確になり、行動につながりやすくなります。
感想レポートは法令上の必須ではありませんが、多くの施設で取り入れられています。
ただし業務が忙しい中で長文を書かせるのは職員の負担になるため、簡潔なフォーマットを用意すると良いでしょう。
「学んだこと3点」「今後実践したいこと2点」など項目を絞り、箇条書きで書ける様式にすれば負担が軽減します。
レポートは職員の自己成長だけでなく、研修実施のエビデンス(証拠)にもなります。
蓄積したレポートは組織のナレッジとして、後輩指導やマニュアル改訂に活用することも可能です。
日常業務での振り返り習慣
事故や研修時だけでなく、普段のケアでも小さな振り返りを積み重ねましょう。
「今日ヒヤッとした場面はなかったか」「あの場面、もっと安全なやり方があったのではないか」といった振り返りをスタッフ同士で声掛けし合う文化を作ります。
例えば終礼で「本日○○さんが立ち上がりかけてヒヤッとしました。原因はベッド柵を外し忘れたことです。同じことがないよう皆さんも注意してください」と共有すれば、他のスタッフも明日から気を付けるでしょう。
このように振り返り→共有→次の対策まで行って初めて効果があります。
忙しいと振り返りは後回しになりがちですが、短時間でもよいので定期的に実施していきましょう。
振り返りによって得られた教訓は必ず次のケアに活かし、こうした地道なPDCAの積み重ねが安全文化を築きます。
おわりに
事故防止は利用者さんの生命と健康を守るだけでなく、ご家族や職員の安心にもつながる重要な取り組みです。
高齢者をお預かりする以上、リスクをゼロにするのが理想ですが現実には予期せぬ事態が起こり得ます。
しかし私たち職員一人ひとりの意識と工夫次第で、事故の可能性を大きく減らすことができます。
日々の業務で「ヒヤリ」とする場面があっても、そこで得た気づきをチームで共有し、「次は起こさない」ための対策を積み重ねていくことが大切です。
事故が起きてしまった時には適切に対応し、きちんと振り返って改善策を講じる―そうしたサイクルを回し続けることで、必ずや安全で安心な施設づくりにつながります。
一人ひとりの心がけと行動が、利用者さんの笑顔と命を守る大きな力になります。
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