介護現場での口腔ケア(こうくうケア)は、単なる清潔保持に留まらず、高齢者の健康維持に直結する重要なケアです。
特に誤嚥(ごえん)予防の観点から、正しい方法で安全に行うことが求められます。
本記事では、口腔ケアがなぜ大切か、その基本手順と道具、誤嚥リスクのある方への配慮ポイント、ケア中に起こりやすいトラブルへの対処、記録・報告時の観察ポイント、そして施設内研修や新人教育への活用ポイントについて、見出し立てでわかりやすく解説します。
口腔ケアがなぜ重要か
口の中を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎や感染症の予防に直結します。
誤嚥性肺炎は介護施設入所者における感染症の中で2番目に多く、30~69.6%という高い有病率が報告されています。
口腔内が不潔だと、唾液や食物残渣に繁殖した細菌が誤って気道に入り、その際、肺炎を引き起こしやすくなります。
虫歯の本数や歯磨き頻度の低さ、他者に依存した口腔ケアなどが高齢者の肺炎発症と有意に関連することも明らかになっています。
実際に、適切な口腔ケアの実践によって高齢者の誤嚥性肺炎の発症率が低下することが指摘されており、舌や口蓋を含めた徹底した清掃が重要だとされています。
さらに生活の質(QOL)の向上の面でも口腔ケアは欠かせません。
口は食べること・呼吸するといった生命維持の役割だけでなく、会話によるコミュニケーションや笑う・表情を作るといった人間らしい活動にも関わります。
もし口腔内が汚れて口臭がある状態では、人前で思い切り話したり笑ったりできず、食事をおいしく感じることも難しいでしょう。
清潔な口腔環境を保つことで食事を楽しめたり会話に自信が持てるようになり、高齢者の心理面・社会面でのQOL向上にもつながります。
経口摂取をしていない方(経管栄養の方)でも口腔ケアは必要です。
食事を口から取らない場合でも、就寝中などに唾液や鼻水、胃液が気管に入って誤嚥性肺炎を起こすことがあり、口腔内の細菌が多いとそのリスクが高まります。
実際に口腔ケアは誤嚥性肺炎予防に有効であり、食べかすや歯垢、舌苔、痰など口の中の「汚れ」を除去することが大切だとされています。
口腔ケアの基本手順と使用する道具
まずは準備物の確認です。
準備物は次のようになります。
- コップ
- 歯ブラシ(またはスポンジブラシ)
- 口腔用ウェットティッシュやガーゼ
- 洗面器
- 防水シート
- 保湿剤
そして口腔ケアは、安全かつ効果的に行うため一定の手順に沿って実施します。
基本的な流れは、次のようになります。
- 姿勢を整える
- 事前の口腔内チェック・湿潤
- 歯のブラッシング
- 粘膜・舌の清拭
- うがい・吸引と仕上げ
- 後片付けと記録
それぞれ、具体的にみていきましょう。
姿勢を整える
口腔ケア中は唾液の分泌が促進されるため、まず誤嚥しにくい体位を確保します。
可能であれば椅子やベッド上で座位(軽く顎を引いた姿勢)になってもらうのが基本です。
自力で座位が難しい場合も、ベッドを30~60度程度ギャッジアップし、枕やクッションで安定した上体を保持しましょう。

特に首の角度が重要で、顎が上がる姿勢だと誤嚥の危険が高まるため、可能な限り顎を引いた状態を保ち、頸部の後屈が起こらないよう注意します。
ベッド上では頭を横に向け、唾液が口角から流れ出やすいよう下側の頬に溜まる姿勢にするなど工夫すると良いでしょう。
事前の口腔内チェック・湿潤
ケア開始前に口腔内を観察し、粘膜や歯肉に傷や腫れ、出血がないか、歯が欠けていないか、義歯で当たっている傷はないか確認します。
不調があれば本人が痛みで嫌がる原因になるため、無理せず対応や中止も検討します。
準備ができたらケア前に口腔をしっかり湿らせることが重要です。
口腔内が乾燥したままブラッシングすると粘膜を傷つけ出血や痛みを招きかねません。
本人がうがい(含嗽)できる場合は少量の水でブクブクうがいをして汚れをすすいでもらいます。
うがいが難しい場合は、水または生理食塩水をスプレーで口全体に吹きかけるか、スポンジブラシに含ませて口腔粘膜を軽くタッピングし、隅々まで湿らせます。
口唇が乾燥している場合はワセリンや保湿ジェルを塗り、開口の際に唇が切れるのを防ぎます。
乾燥した痰や舌苔がこびり付いている場合には、保湿ジェルを塗って数分置いて汚れをふやかし、その後で拭い取ると効果的です。
歯のブラッシング
本人が自分で歯磨きできる場合は見守りつつ仕上げを手伝い、難しい場合は介助者が歯ブラシで歯を一本一本丁寧に磨きます。
ブラッシングの基本は「小さく細かく」動かし、歯と歯茎の境目(歯肉溝)や歯間のプラークをかき出すことです。
強く大きくゴシゴシ磨く必要はなく、毛先を45度の角度で当てて小刻みに振動させるバス法や、歯面に直角に当てて細かく磨くスクラビング法などを組み合わせて磨き残しを防ぎます。
歯ブラシは前歯2本分程度の幅のヘッドで、硬さは普通~やや軟らかめを選ぶと良いでしょう。
乾燥や汚れがひどい場合は、ブラッシング前に口腔ケア用ジェル(人工唾液や保湿剤)を歯や舌に塗布しておくと汚れが浮きやすくなります。
ブラッシング中に唾液や汚れが出てきたら、適宜ティッシュやガーゼで拭き取るか、嚥下が難しい場合は吸引器で吸引します。
粘膜・舌の清拭
口腔粘膜のケアも忘れず行います。
特に食事を経口摂取していない方では食べ物と粘膜の摩擦がないため粘膜が汚れやすく、粘膜清掃が欠かせません。
スポンジブラシや口腔ケア用綿棒、柔らかいガーゼを指に巻いたものなどを用い、頬の内側や歯茎、口蓋(上あご)など口腔内の粘膜を優しく拭います。

舌苔(舌の汚れ)も舌ブラシやガーゼで奥から手前にかき出すように除去します。
舌はデリケートなので強く擦りすぎないよう注意しましょう。
口腔ケア用スポンジブラシは、水に濡らして軽く絞ったものを使い、くるくると回すように当てると食べかすや粘ついた痰などを絡め取れます。
口腔ケア用のスポンジブラシや綿棒には使い捨てタイプもあり衛生的です。
嚥下障害が重い方には、吸引器に接続できる吸引ブラシ・吸引スポンジを使う方法も有効です。
これなら片手で清掃と吸引を同時に行えるため、安全で簡便にケアでき、誤嚥リスクが高い方のケアに最適です。
うがい・吸引と仕上げ
歯磨き・粘膜清掃が終わったら、口腔内の汚れを回収します。
本人に少量の水でしっかりうがいをしてもらい、吐き出せる場合は洗面器やエプロンで受けます。
自分で吐き出せない場合は、スポンジブラシや吸引器で口腔内の水分や汚れを丁寧に除去しましょう。
特にブラッシング直後の口腔内は、剥がれたバイオフィルムから細菌が飛散し一時的に細菌数が増加した状態になっています。
この細菌や汚れを残さず除去することで、新たなバイオフィルム形成の悪循環を防げます。
仕上げにもう一度粘膜全体をスポンジで清拭し、必要に応じて保湿ジェルを口腔内と唇に塗って終了です。
義歯(入れ歯)を使用している場合は、ケアの前に外して別途義歯の洗浄を行います。
義歯用ブラシで義歯についた食渣や歯垢を落とし、洗浄液に浸けた後、再装着前に口腔内の粘膜側もブラシやガーゼで軽く清掃します。
後片付けと記録
使用した歯ブラシやスポンジ類はよく洗って乾燥させ、衛生的に保管します(歯ブラシは乾燥しやすい立て置きが基本ですが、他人のものと触れないように分けて保管します)。
使い捨てスポンジは再利用せず廃棄します。
最後にケア時に気づいた口腔内の変化(汚れの程度、出血の有無など)を所定の記録用紙に記録しましょう。
以上が基本的な流れです。
個々の利用者さんの状態に合わせて、手順や道具を調整してください。
例えば、歯がほとんど無い方でも歯茎や舌の清掃・保湿は必要ですし、自力での含嗽が難しい方にはスポンジブラシと吸引で代替するなど工夫します。
「正しいやり方」を踏まえつつも、安全第一で柔軟に対応しましょう。
誤嚥リスクがある方への配慮ポイント
嚥下機能が低下している高齢者や、認知症などで指示が通りにくい方への口腔ケアは誤嚥事故を防ぐための配慮が一層重要です。
以下の点に留意しましょう。
姿勢・体位の徹底
前項でも述べたように、必ず頭部を起こして顎を引いた姿勢で行い、仰向けに寝かせたまま行わないことが鉄則です。
介助者は利用者さんより低い位置(側面やや下方)に位置取りし、利用者さんが顔を上げてこちらを見上げなくても済むようにします。
可能であれば車いすや椅子に深く腰掛けてもらい、背もたれやクッションで体幹と頸部を安定させます。
ベッド上では30度以上上体を起こし、横向き加減にするなど工夫します。
いずれの場合も首が後ろに反り返らないよう十分注意することが誤嚥予防のポイントです。
水分や清掃方法の工夫
嚥下障害がある方には、一度に使う水の量を最小限にとどめます。
歯磨き粉も泡立ちが少ないもの(ジェルタイプなど)を使用し、泡でむせるのを防ぎます。
コップ一杯の水でうがいはさせず、代わりにスポンジブラシでの清拭と吸引で口腔を清潔にします。
必要に応じてとろみ剤を入れた水や洗口液を使うこともありますが、基本は「ぬれたスポンジで拭き取る」ケアが安全です。
ブラッシング中もこまめに唾液や泡を吸引・除去し、口の中にたまった状態にしないようにします。
近年は吸引器に接続できる口腔ケアブラシ(吸引スポンジブラシ)が市販されており、吸引と清掃を片手で同時に行えるため誤嚥リスクの高い方に有用です。
声かけと嚥下の確認
ケア中は適宜「唾を飲み込んでください」「今から上の歯を磨きますね」など声かけを行い、利用者さんが状況を把握できるようにします。
嚥下反射が鈍い方には、「ごっくんしてみましょう」などとタイミングを促し、飲み込む時間を十分確保してあげます。
一連の清掃が終わった後も、口腔内に水分や汚れが残っていないか確認し、「もう一度ごっくんしてくださいね」と飲み込みを促します。
必要であれば最後に唾液や水分を軽く吸引して、口腔内がきれいで乾燥しすぎず、かつ余計な水分が残っていない状態で終えるようにします。
観察と異常時の対応
ケア中に激しい咳込みやむせが起きた場合は、一旦中止して利用者さんの状態を観察します。
強いむせが続く時は体を起こしたまま落ち着かせ、口腔内の異物を確認・除去します。
それでも呼吸が苦しそうな場合は看護師や医療職に連絡してください。
多少のむせで落ち着いた場合でも、以降はより慎重に進め、可能なら二人介助(片方が体位保持・吸引、もう一人が清掃)に切り替えると安心です。
また、嚥下障害のある方ではケア後に声が濁る(湿声)ことがあります。
これは微量誤嚥のサインの可能性もあるため、ケア後の声色の変化や発熱・肺雑音の有無にも注意を払い、必要に応じて医療者に報告します。
口腔ケア中によくあるトラブルと対処法
口腔ケアの際には、高齢の利用者さん特有のトラブルが起こることがあります。
ここでは代表的なケースとその対処法をまとめます。
利用者さんが嫌がって拒否する
口に他人の手や器具を入れられることへの不快感や恐怖心、あるいは口腔ケアの必要性を理解していないことから、歯磨き自体を嫌がる高齢者も少なくありません。
無理に押さえつけて磨こうとすると暴れたり咬まれたりするリスクもあり、双方にとって良い結果になりません。
対策としてはタイミングと言葉がけの工夫が有効です。
利用者さんの機嫌が良くリラックスしている時間帯を見計らって声をかける、食後すぐは避けて少し時間をおく、好きな音楽をかけながら行う等、その人に合わせたアプローチを探りましょう。
どうしても拒否が強い日は無理せず、体調の悪い時は翌日に延期する決断も必要です。
「今日は上手にできましたね、また明日やりましょう」とポジティブな声かけで終えるなど、嫌な記憶を残さない工夫も大切です。
口が開かない・閉じてしまう
認知症の方などで「口を開けてください」と言っても強く噛み締めてしまうケースがあります。
無理にこじ開けようとすると唇や歯肉を傷つける恐れがあるため、慎重に対応します。
まずは唇や頬を優しくマッサージしてリラックスを促し、「上唇をめくってみますね」など刺激を与えてみます。
それでも難しい場合は、市販の開口器やバイトブロック(マウスピース状の器具)を使用して少しずつ開口を保持する方法もあります。
介助者の指は決して利用者さんの奥歯の間に入れないよう注意してください(誤って咬まれると大怪我につながります)。
開口器を使用する際も決して乱暴に扱わず、痛みや顎関節への負担に留意します。
嘔吐反射(オエッとなる)
歯ブラシや舌ブラシを入れた時に「オエッ」となってしまう嘔吐反射が強い方もいます。
これも無理強いせず、一旦器具を口から出して落ち着かせます。
ブラシを奥まで入れすぎないようにし、舌の清掃は舌先から中程までで様子を見るなど刺激を弱めにします。
舌苔が厚い場合でも一度に無理に全部取ろうとせず、少しずつ毎日のケアで改善を図ります。
また、嘔吐反射が強い方は上体をより起こし気味にし、必要なら少し前屈位(顔を下向き)にしてもらうと吐き気が軽減することがあります。
どうしても難しい場合は、一旦ケアを切り上げて休息を取り、時間をおいてから再挑戦するのも手です。
ブラッシング時の出血
歯肉からの軽い出血は、高齢者では歯周病などで歯茎が弱っているためによく起こります。
少量であれば慌てずに、その部位を清潔なガーゼで押さえて止血しつつ、他の部位の清掃を続けます。
出血が続くようならその部分のブラッシングはいったん中止し、後で看護師や歯科に相談します。
日頃から乾燥による粘膜ダメージを防ぎ、優しいブラッシングを心がけることで出血予防につながります。
特に口唇小帯(上唇と歯茎をつなぐ筋)など敏感な部分をブラシで擦ると強い痛みや出血の原因となるため注意が必要です。
義歯に関するトラブル
入れ歯を使っている方では、義歯を外すのを嫌がったり、義歯が合っておらず口腔内に傷を作っているケースがあります。
外して磨かせてもらえない場合は、無理に外そうとせず「今日はそのまま歯茎の周りだけ拭きましょうね」と粘膜清掃だけでも行います。
毎食後に義歯も清潔にする必要があることを、日々根気強く伝えていきます。
また、義歯装着者の口腔粘膜は圧迫で傷ができやすいので、頬や歯茎に赤い腫れ・傷がないかチェックし、発見したら看護師や歯科医へ報告します。
義歯そのものにひび割れや欠けがないかも確認し、異常があれば早めに歯科受診を検討します。
このように、口腔ケア時には様々なハプニングが起こりえますが、利用者さんの立場に立った冷静な対応が大切です。
強い拒否や暴力的な抵抗がある時に力ずくで行えば、大きなトラブルやその後の拒否感の増大に繋がります。
トラブルが起きたら一旦深呼吸し、「どうすれば安全に快適にできるか」を考えて対処しましょう。
場合によっては他の職員に応援を頼んだり、看護師・歯科衛生士に相談してみるのも有効です。
記録・報告における観察ポイント
口腔ケアは実施して終わりではなく、ケア中・ケア後に観察した口腔内の状態を適切に記録・報告することも重要です。
観察すべきポイントをいくつか挙げます。
口腔内の清潔度:
歯垢や舌苔、食べかすの付着状況を確認します。
ケア前に比べてどの程度除去できたか、取り切れない汚れがある場合はその場所と性状を記録します。
例えば「上顎の粘膜に白い汚れ付着あり、スポンジで除去困難」といった具体的な記述が望ましいです。
これにより、次回ケア時の重点箇所や専門受診の要否を判断できます。
口腔の乾燥具合:
口の渇きは誤嚥性肺炎のリスク要因にもなるため、常にチェックします。
舌や口腔粘膜がカラカラに乾いていないか、唾液の量・粘度はどうかを観察し、必要に応じて「口腔乾燥あり、保湿ジェル塗布」「唾液少なく極度に乾燥」などと記録します。
乾燥が強い場合はケア頻度や保湿ケアの見直しにつなげます。
出血の有無:
歯肉からの出血や粘膜の傷がないか確認します。
少量の出血で止まった場合もその部位を記録し、繰り返すようなら歯科受診を検討します。
「右下歯肉に出血点、圧迫止血し治まる」「上顎粘膜に義歯によると思われる潰瘍あり」等、原因や処置も含めて記録すると後続のケアへの引き継ぎがスムーズです。
口腔内の異常所見:
口内炎や舌の白苔(カンジダ症の疑い)、腫れや痛みの訴えなど、普段と違う所見は見逃さず記録します。
例えば、「舌背に厚い白苔付着、嫌がりあり清掃困難」「義歯床下に発赤と潰瘍を認める」などです。
異常所見があれば看護師や歯科に報告し、必要な処置につなげます。
口臭:
ケア前後の口臭の変化も重要です。
口臭が強い場合、口腔内に腐敗した食物残渣や歯垢が存在するサインであり、それ自体が誤嚥性肺炎のリスクになります。
ケア後も口臭が著明に残る場合は、原因となる虫歯や歯周病、舌苔の有無を再評価し、医療者へ報告します。
嚥下や咳の様子:
ケア中および直後の利用者さんの嚥下状況や咳込みも観察します。
むせ込んだ場合はその程度や回数、ケアを中断したか否かも記録します。
「歯磨き中に軽度のむせ×2回あり。休息し再開」「終了後湿性嗄声あり、嚥下訓練実施」など、誤嚥徴候も含めて共有することでチームでの対策(嚥下リハビリの検討等)に役立ちます。
このように客観的な観察記録を蓄積することで、口腔内の微妙な変化やケア方法の効果をチームで共有できます。
記録のフォーマットとして、例えば「OHAT(オーラルヘルスアセスメントツール)」「OAG(口腔状態チェックリスト)」といった評価スケールを用いる方法もあります。
評価項目ごとに数値化することで主観の差を減らし、適切なケア介入や歯科受診の判断材料にすることができます。
正しい口腔ケアを継続すればスコアは改善していくはずで、もし丁寧にケアしているのに改善が見られない場合はケア方法の誤りや潜在する問題(感染症や全身状態の悪化など)が考えられます。
そうした気づきにもつながるため、日々の記録・報告をおろそかにしないようにしましょう。
施設内研修や新人教育に活かせるポイント
口腔ケアは見落とされがちなケア項目ですが、前述の通り生命にも関わる重要ケアです。
新人職員にもその重要性と正しい技術をしっかり理解してもらう必要があります。
研修や指導の際に押さえたいポイントをまとめます。
エビデンスを示して重要性を伝える
単に「きちんと歯磨きしてあげてね」ではなく、「口腔ケアが不十分だと肺炎で亡くなるリスクが上がる」ことを具体的な数字や事例で伝えると効果的です。
「高齢者施設では誤嚥性肺炎が非常に多く、口腔ケアの徹底でその一部は予防できる」といったデータや、実際に口腔ケアを怠ったことで肺炎を招いたケースなどを紹介すると新人の意識も高まります。
また、口腔ケアによって利用者さんが笑顔になったり食事量が増えたといったポジティブなエピソードも共有し、ケアの意義を感じてもらうようにしましょう。
基本手順の標準化とチェックリスト
施設ごとに口腔ケアの標準手順をマニュアル化し、新人にも配布して周知します。
例えば本記事で示したような【姿勢→湿潤→ブラッシング→粘膜清掃→吸引・仕上げ】といった流れをイラスト付きで示した手順書や、ケア前後のチェック項目をまとめたチェックリストを用意すると良いでしょう。
チェックリストには「体位は30°以上挙上・顎軽度屈曲か」「歯と舌苔の汚れは除去できたか」「出血や傷の有無確認」「保湿剤塗布」などを網羅し、誰がやっても一定水準のケアが行えるようにします。
新人職員には最初はチェックリストを見ながら実施してもらい、慣れてきたら自然に身についている、という形を目指します。
実技研修と先輩のOJT
文章や動画で学んでも、口腔ケアは実際にやってみることが大切です。
施設内研修で先輩職員がモデルを使って実演したり、新人同士で模擬歯磨きをし合うなどの実習を取り入れます。
特に誤嚥のリスク管理(体位保持や吸引操作)は経験がものを言う部分なので、最初は先輩が付き添ってOJT形式で指導します。
新人が利用者さんにケアする際、先輩が横で姿勢やブラシの当て方をチェックし適宜アドバイスします。
「もう少し顎を引いてもらおう」「スポンジはこう回すとよく取れるよ」など具体的なコツを伝え、できたことはしっかり褒めて自信に繋げます。
慣れていないうちは時間がかかっても焦らず、質を重視するよう指導します。
ケア用品の正しい使い方を周知
新人には歯ブラシ・スポンジ・吸引器などケア道具の扱いも教えます。
例えば「スポンジブラシは水を含ませすぎない」「使い捨て用品は再利用しない」「吸引圧は弱めで舌や粘膜に直接当てすぎない」などの注意点です。
また、歯ブラシの保管方法(使用後はよく洗い立てて乾燥保管する。毛先が開いたら交換する)や、義歯洗浄剤の使い方なども含め指導します。
道具の管理がおろそかだと感染リスクが上がるため、「口腔ケア関連グッズを正しく使用・管理することも介護技術の一部」という認識を持ってもらいます。
利用者さんの「嫌がる理由」を理解する
新人には、利用者さんが口腔ケアを嫌がる背景には様々な理由があることも説明します。
「単にわがままなのではなく、不快な経験があったのかも」「認知症で理解できず怖いのかも」といった視点を持たせ、寄り添うケアの大切さを教えます。
嫌がる利用者さんへの対応策(先述の声かけや短時間で済ませる工夫など)も具体的にアドバイスし、新人が「どうせやっても嫌がられる…」と落胆しないよう支えます。
ケアを嫌がる利用者ほど口腔内が不衛生になり肺炎リスクが高まるため、あきらめず少しずつアプローチを続けるよう促します。
歯科や他職種との連携
口腔内に関する問題は、介護職だけでなく歯科医師・歯科衛生士や看護師と言った他職種と連携して取り組むことも教えておきます。
新人にも「口腔ケアで気になることがあれば遠慮なく看護師や歯科スタッフに相談して良い」旨を伝えます。
例えば舌の白苔が取れない場合、それが実は真菌性の舌炎で抗真菌薬が必要なケースもあります。
歯がぐらついているのを放置すると誤嚥の原因にもなりかねません。
新人のうちは判断がつかないことも多いですが、「おかしいと思ったらすぐ報告・相談」という姿勢を徹底させることで重大な見落としを防げます。
また可能なら、定期的に歯科衛生士による口腔ケア指導や実践研修を受ける機会を作り、最新の知識や技術をアップデートしていくことも大切です。
以上のようなポイントを押さえて教育することで、施設全体で口腔ケアの水準を底上げできます。
新人のみならずベテラン職員も含めて定期的に口腔ケアの勉強会を開き、情報共有やスキルアップを図ると良いでしょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
口腔ケアは「利用者さんの口を清潔にするだけ」の行為ではなく、高齢者の命と生活を守る重要なケアです。
誤嚥性肺炎などの重篤な疾患を防ぎ、食事や会話を楽しむためにも欠かせない基本ケアと言えます。
ぜひ今回解説した正しいやり方と注意点を現場で実践し、チーム全体で口腔ケアの質を高めてください。
適切なケアを続ければ、利用者さんの健康状態や笑顔にもきっと良い変化が現れるはずです。
日々の積み重ねを大切に、安全で効果的な口腔ケアに取り組んでいきましょう。
それではこれで終わります。
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