法令遵守とは
法令遵守とは、介護保険法、老人福祉法、社会福祉法、高齢者虐待防止法、個人情報保護法、労働基準法など、介護サービス事業に関連する様々な法律や規則に従って運営することを意味します。
介護施設の業務は、法律で定められた枠組みの中で行われています。
法令遵守を怠ると、違法行為とみなされ、行政処分や事業所の信用失墜につながる可能性があります。
最悪の場合、指定の取り消しもありえます。
法律の種類等について詳しく知りたい場合は、こちらの記事を参考にしてください。
介護現場における倫理
社会を生きる上で一人一人が正しい行いをするための考え方、規範を倫理と呼びます。
介護現場で必要な倫理観とは、利用者さんの尊厳を守り、思いやりと責任感を持って接することです。
しかし、介護現場は常に時間に追われ、肉体的にも精神的にも負担が大きい環境です。
倫理観を意識していても、感情の揺れ動きやストレスによって、倫理的に問題のある行動をとってしまう可能性があります。
倫理が乱れるとき
介護現場では、倫理が乱れる要因がいくつか存在し、倫理観の乱れは言葉遣いにも現れます。
倫理が乱れる要因や、倫理の乱れがもたらすものについて、学んでいきましょう。
【倫理が乱れる要因】
介護現場の忙しさ:人手不足、認知症ケア、不規則な勤務、業務に追われるなど、常に平常心を保つことが難しい環境である。
感情の揺れ:イライラしている、疲労が困憊しているなど、心身の状態が不安定なとき、倫理的な判断が難しくなる。
倫理意識の低下:倫理観を大事にしない雰囲気があれば、個々で強い意識を継続することは難しい。定期的な確認や振り返りが必要である。
【倫理の乱れがもたらすもの】
自分勝手な行動:他人のことを考えず、自分さえ良ければ良いという考え方が蔓延する。
責任感の欠如:嫌なことや面倒なことは人に押し付け、責任ある行動を取らない。
ルールの軽視:見つからなければ何をしても良い、ルールを守らなくても誰にも迷惑をかけていないという考え方が生まれる。
人間関係の悪化:嫌いな人や同僚、上司の悪口や愚痴を言いふらし、職場環境が悪化する。
法令違反:問題ないという理由で法律を守らない。
倫理観が欠如すると、その影響は言葉遣いに現れます。
例えば、利用者さんに対して「早くして!」「なんで出来ないの?」「動かないでって言ったよね」「さっきもトイレ行ったじゃん!」といった乱暴な表現を使うことがあります。
このような言葉は、利用者さんの尊厳を傷つけるだけでなく、信頼関係を損なう原因にもなります。
また、職場のチームワークを乱す言葉遣いも問題です。
「前にも教えたよね!」「あいつのせいで…」「せっかくやってあげたのに」「なんで私ばっかり…」といった言い回しは、職場の雰囲気を悪化させ、協力体制を崩す要因となります。
倫理観の乱れは、利用者さんへの不適切な対応やサービスの質の低下を招き、ひいては職場環境の悪化や法令違反といった深刻な問題に発展します。
だからこそ、介護職員には日常の業務において常に倫理を意識し、適切な言葉遣いや行動を心がけることが求められます。
利用者さんと同僚への敬意を忘れないことが、質の高い介護と職場全体の信頼を築く第一歩です。
介護福祉士の倫理綱領
公益社団法人日本介護福祉士会では、「倫理綱領及び行動規範」を定めています。
これは、介護福祉士が高い倫理観を持って職務に当たるための指針となるものです。
主な内容は次の通りです。
【日本介護福祉士会が掲げる職業倫理】
1、利用者本位・自立支援
介護福祉士は、すべての人々の基本的人権を擁護し、一人ひとりの住民が心豊かな暮らしと老後が送れるよう利用者本位の立場から自己決定を最大限尊重し、自立に向けた介護福祉サービスを提供していきます。
2、プライバシーの保護
介護福祉士は、プライバシーを保護するため、職務上知り得た個人の情報を守ります。
3、利用者ニーズの代弁
介護福祉士は、暮らしを支える視点から利用者の真のニーズを受けとめ、それを代弁していくことも重要な役割であると確認したうえで、考え、行動します。
4、後継者の育成
介護福祉士は、すべての人々が将来にわたり安心して質の高い介護を受ける権利を享受できるよう、介護福祉士に関する教育水準の向上と後継者の育成に力を注ぎます。
5、専門的サービスの提供
介護福祉士は、常に専門的知識・技術の研鑽に励むとともに、豊かな感性と的確な判断力を培い、深い洞察力をもって専門的サービスの提供に努めます。
また、介護福祉士は、介護福祉サービスの質的向上に努め、自己の実施した介護福祉サービスについては、常に専門職としての責任を負います。
6、総合的サービスの提供と積極的な連携、協力
介護福祉士は、利用者に最適なサービスを総合的に提供していくため、福祉、医療、保健その他関連する業務に従事する者と積極的な連携を図り、協力して行動します。
7、地域福祉の推進
介護福祉士は、地域において生じる介護問題を解決していくために、専門職として常に積極的な態度で住民と接し、介護問題に対する深い理解が得られるよう努めるとともに、その介護力の強化に協力していきます。
引用:日本介護福祉士会倫理綱領
法令遵守と倫理向上の重要性
介護業界において、法令遵守と倫理向上は、利用者さんの安全と尊厳を守る上で極めて重要です。
これは単に罰則を避けるためだけでなく、質の高いサービス提供、利用者さんの権利の保護、事業所としての信頼を維持するためにも不可欠です。
法令遵守の重要性
介護保険制度は、介護保険法に基づき運営され、サービス内容、業務、記録、報酬体系、施設基準などはすべて法令で定められています。
介護報酬は、利用者負担と国民全体の負担で成り立っており、不正請求は国民全体への詐欺行為となります。
法令違反は、事業所のイメージダウン、事業停止、職員への罰則など、重大な結果をもたらす可能性あります。
介護サービスは、制度に沿って行われ、介護報酬という収入を得ているため、法令を遵守した運営が必須となります。
倫理向上の重要性
訪問介護は、利用者さんの私生活の場に介入するため、法令遵守に加え、高い倫理観が求められます。
倫理観とは、「人としてあるべき姿」の判断基準であり、個々で異なる曖昧なものです。
ホームヘルパーは、サービス内容や利用者さんとの関係において、常に倫理的な判断が求められます。
倫理観の欠如は、法令違反や不適切なケア、事業所全体の信用問題に発展する可能性があります。
職業倫理の基準として、日本ホームヘルパー協会の「ヘルパー憲章」などを参考にできます。
ここでは、次のようなことが記載されています。
- ホームヘルプサービスの目的
- 自己研鑽、社会的評価の向上
- プライバシーの保護
- 説明責任
- サービスの評価
- サービス内容の改善
- 事故防止、安全の配慮
- 関連サービスとの連携
- 地域福祉の推進
- 後継者の育成
詳しくは、コチラを参考にしてください。全国ホームヘルパー協議会倫理綱領
信頼と安心を築くために
利用者さんとその家族から信頼され、安心して利用してもらうためには、法令遵守と倫理向上への継続的な取り組みが必要です。
具体的には、次のような取り組みをしてみましょう。
コンプライアンス体制の構築:コンプライアンス・マニュアルの作成、定期的な研修の実施、内部通報制度の整備など、組織全体で法令遵守に取り組む体制を構築しましょう。
倫理教育の実施:介護の倫理に関する研修やケーススタディを通して、職員の倫理観を高め、倫理的な問題に対する意識を高めましょう。
コミュニケーションの促進:職員間のコミュニケーションを促進し、問題点や課題を共有することで、倫理的な問題行動を未然に防ぎましょう。
外部機関との連携:弁護士やコンサルタントなど、外部機関の専門知識を活用することで、より確実な法令遵守体制を構築することができます。
自己点検:自治体が提供する「自己点検シート」などを活用し、定期的に自施設の運営状況をチェックしましょう。
ワーク
では、ワークをしていきます。
ワーク①:グループディスカッション
題:
「ある利用者さんに対し、職員が『またトイレですか?さっき行きましたよね』と言葉を投げかけました。この場面でどのような倫理的問題があるかを考え、より適切な対応を提案してください」
ポイント:
- 利用者の尊厳と感情への配慮
- 適切な言葉遣いの工夫
ワーク②:個人ワーク
題:
自分の業務で法令違反や倫理問題につながる可能性がある点をチェックしてみましょう。
書き出した後、改善点を各自で書き出し、ペアで共有しましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
法令を守り、高い倫理観を持つことは、利用者さんの安心と信頼を得るために欠かせません。
日々の小さな意識の積み重ねが、より良い介護サービスと職場環境につながります。
一人ひとりが自分の行動を見直し、法令遵守と倫理的な対応を心がけることで、みんなが安心して働ける、信頼される介護施設を一緒に築いていきましょう。
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