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虐待防止

高齢者を消費者被害や経済的虐待から守るために:介護職員が知っておきたい知識と対策

とも
とも
こんにちは、とも(@tomoaki_0324)です。【介護施設の高齢者虐待防止に資する研修】をタイトルのような内容でお伝えします。

筆者(とも)

記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。

日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。

読者さんへの前おきメッセージ

私たち介護職員は、食事や排泄などの身体介護だけでなく、利用者さんの金銭面の安心・安全にも目を配る役割があります。

もし高齢者を狙った悪質な契約や詐欺、家族による経済的虐待に気づかず放置すれば、生活の安定が大きく損なわれる恐れも。

本記事では、介護現場で役立つ高齢者の消費者被害・経済的虐待への対応方法を、やさしく解説します。

成年後見制度やクーリングオフ制度についても、現場で使える知識として紹介していきます。

この記事を読む価値

  • 「消費者被害」「経済的虐待」への対応について、完全に理解できます。
  • 最後に意見や感想を述べ合うだけで、研修になります。
  • 一般介護職員でも理解しやすいように、極力、難しい表現は避けています。

 

では早速、見ていきましょう。

高齢者を狙う消費者被害と経済的虐待とは?

請求書に慌てている人

まずは用語の確認です。

消費者被害とは、悪質な業者や詐欺グループなど第三者によって商品・サービスの契約を結ばされたり、お金をだまし取られたりする被害のことです。

訪問販売で高額な布団を買わされた、電話でウソの請求を信じてお金を振り込んでしまった、といったケースが典型例です。

本人が知らないうちにクレジット契約(分割払いの契約)を結ばされて借金だけが残るケースや、投資話で大切な貯金をだまし取られるケースも含まれます。

一方、経済的虐待とは、高齢者の身近にいる家族や親族、介護者などが本人の資産や収入を不適切に使い込むことを指します。

例えば、同居する息子が親の年金を取り上げて生活費を渡さない、介護を理由に高齢者の預貯金を勝手に使い込む、認知症の親に無理やり署名・捺印させて財産を移す、こうした行為は高齢者虐待防止法で経済的虐待として定義されています。

経済的虐待は家庭内で起きるケースが多いため外部から見えにくいですが、介護職員が定期的に利用者や家族と接する中で気づくケースが多いです。

消費者被害も経済的虐待も、高齢者の大切なお金や財産を奪い、生活の質を損なう重大な問題です。

被害額が大きければ、生活費や介護サービスの利用継続が難しくなるおそれもあります。

特に認知機能が低下した高齢者は被害に気づきにくく、被害を繰り返すおそれもあります。

それぞれ少し性質は異なりますが、高齢者の「財産を守る」という観点で介護職員が注意すべき点として共通しています。

高齢者に多い消費者被害の例

高齢者を狙った悪質商法や詐欺には、どのようなものがあるのでしょうか。

ここでは現場でよく耳にする典型的な例をいくつか紹介します。

訪問販売による高額商品の押し売り

自宅に突然営業員が訪れ、高額な布団、健康器具、浄水器、着物などを強引に売りつけるケースです。

「今だけ安くする」「健康に良い」と巧みに勧誘され、断りきれず契約してしまう高齢者がいます。

電話勧誘やオレオレ詐欺

知らない番号から電話をかけ、高齢者を言葉巧みにだましてお金を振り込ませる手口です。

典型的なのは息子や孫を装ってお金をたかるオレオレ詐欺ですが、「料金未納がある」と不安を煽ってATMから振り込ませる架空請求詐欺もあります。

電話で言われるがまま手続きをしてしまい、大金を失う被害が後を絶ちません。

架空請求ハガキ・メール

役所や裁判所を装ったハガキやSMSを送りつけ、「訴訟になる」「支払わないと財産を差し押さえる」と脅して指定口座に振り込ませる手口です。

実在しない請求にもかかわらず、高齢者が驚いて記載の連絡先に電話してしまい、巧みに誘導され支払ってしまう例があります。

警察官や銀行員を装う詐欺

警察署や銀行の職員を名乗り、「あなたの口座が悪用されている」などと電話をかけて不安にさせる手口です。

「キャッシュカードを預かって調べる必要がある」などと言われ、自宅に来た偽職員にカードを渡してしまうと、すぐに預金を引き出されてしまいます。

警察や銀行が暗証番号を聞いたりカードを預かったりすることは絶対にありませんので、このような電話が来たら詐欺だと疑いましょう。

点検商法・リフォーム詐欺

自宅の設備点検を装って訪問し、「シロアリがいる」「このままでは危険」と不安を煽って不要な工事契約を結ばせるものです。

屋根工事や外壁塗装などで相場の数倍の代金を請求されたり、粗悪な工事でトラブルになったりします。

訪問購入(押し買い)

自宅に「不用品はありませんか」と業者が訪ねてきて、貴金属や着物などを強引に安値で買い取ってしまうケースです。

「今なら現金が手に入りますよ」と甘い言葉で勧められ、本当は高価な品物を二束三文で手放してしまう高齢者がいます。

不要品だと思っていた骨董品が実は価値ある品だったのに、後から取り返しがつかない…といった被害も起きています。

催眠商法(講習会商法)

会場に人を集めて最初に無料や安価な品物を配り、雰囲気を盛り上げたところで高額な商品を売りつける手法です。

「今買わないと損」と焦らせて判断力を鈍らせ、高齢者が冷静な判断をできないうちに契約させます。

マルチ商法(連鎖販売取引)

知人から「いい儲け話がある」と誘われ、高齢者が会員登録して商品を買わされるケースです。

「あなたも会員を増やせば儲かる」と勧誘され、次々と知人に声をかけてしまい、人間関係が壊れるとともに商品在庫や借金だけが残る結果になることもあります。

金融商品や投資詐欺

高齢者の貯金や退職金を狙い、「必ず儲かる」「今だけの特別な投資話」と言って契約させる詐欺です。

未公開株や社債への投資名目でお金を出させたり、実体のないファンドへの出資を募ったりします。

高齢者は「子や孫に財産を残したい」という気持ちを利用され、大金を失うことがあります。

以上のように、高齢者を狙う手口は実に多彩です。

悪質業者は高齢者世代が真面目で人を疑わない性格につけ込んできます。

また一度被害に遭った方の情報(「カモリスト」と呼ばれます)が出回り、次々と別の業者から勧誘され被害を繰り返す例もあります。

実際、新聞報道では、80代の姉妹が訪問販売で次々に浄水器を契約させられ、20台以上の浄水器が自宅に山積みになっていたというケースもありました。

一度ターゲットにされると連鎖的に被害に遭いやすいことが分かります。

高齢者の消費者被害が多発する背景

なぜこれほど高齢者ばかりが狙われるのでしょうか?

背景には、高齢者特有の心理状態や生活環境があります。

孤独や判断力低下への付け込み

高齢者の中には独居の方や、家族と同居でも日中ひとりになる時間が長い方がいます。

相談できる相手がそばにいないと、不安に感じても一人で抱え込み、結果として言われるまま契約してしまいやすくなります。

また加齢や認知症の影響で判断力が低下すると、相手のセールストークを鵜呑みにしやすくなります。

社会経験の豊富さによる油断

高齢者の多くは人生経験が長く、「自分は大丈夫」「詐欺なんて引っかからない」と思っている方もいます。

しかし近年の詐欺手口は巧妙で、経験豊富な人でもだまされてしまうケースが増えています。

「自分だけは平気」という油断が被害を広げる一因です。

高額な資産・貯蓄の存在

高齢世代は長年にわたり貯金や資産を築いている場合が多く、詐欺グループにとって魅力的なターゲットです。

特に退職金を受け取った直後の高齢者は大金を持っていると見られ、執拗に狙われる傾向があります。

優しさと遠慮

悪質な訪問販売員に強引に勧められたとき、「せっかく来てくれたから…」と断れない高齢者もいます。

昔から人付き合いを大切にしてきた世代ほど、相手を邪険に扱えず、強引なセールスを受け入れてしまうことがあります。

また契約後に家族や周囲に相談すれば止めてもらえたかもしれないのに、「迷惑をかけたくない」と一人で抱え込んでしまい、被害が拡大するケースもあります。

実際、国民生活センターの統計では、高齢者の消費生活相談件数は年々増加傾向にあります。

2001年(平成13年)には70歳以上からの相談が約5.7万件でしたが、2009年(平成21年)には約12.2万件と倍増し、高齢者からの相談が全体の14%を占めました。

その後も高齢者人口の増加とともに相談件数は高止まりしています。

一度に何百万円もの被害に遭うケースも少なくなく、高齢者の消費者被害は深刻な社会課題となっています。

経済的虐待のチェックポイント(家族による金銭トラブル)

高齢者への経済的虐待は決して珍しくなく、厚生労働省の調査では高齢者虐待の相談のうち約1〜2割に経済的虐待が含まれると報告されています。

とはいえ、身体的虐待などに比べ外部からは気づきにくい傾向があります。

施設入所者の場合、金銭管理は家族が行っていることも多く、外からは見えにくいですが、以下のような兆候がないか注意しましょう。

☑ 生活に必要なお金が渡されていない

おむつ代や日用品代など、本来は利用者の年金から支払われるべき費用が滞り、施設に未払いが続いているというケースがあります。

家族に確認しても「お金がない」と言われる場合は、年金や貯金が適切に使われていない可能性があります。

☑ 貴重品や通帳が常に家族預かり

本人が自分の通帳や印鑑、キャッシュカードを全く持っておらず、家族が一切管理している場合、その使途をチェックする必要があります。

本人が「自分の年金額を知らない」「自由に使えるお金が全くない」といった場合は注意です。

☑ 本人が金銭面で不満や不安を口にする

利用者本人が「お金がなくて困っている」「息子がお金を渡してくれない」などと漏らすことがあります。

認知症で事実関係がはっきりしないケースもありますが、一つの重要なサインです。

☑ 頻繁な送金や貸し出し

自宅で生活する高齢者の場合、同居の家族にしょっちゅうお金を渡していたり、多額の仕送りをしている、などの発言がないか気をつけましょう。

「孫の学費のため」「子どもの事業資金のため」と理由をつけて多額のお金を引き出している場合、実際には本人の意に反して引き出させられている可能性もあります。

☑ 必要な介護サービスを拒否

家族が経済的理由をつけて、必要な介護サービスを拒否するケースもあります。

「お金がかかるからデイサービスに行くな」といった発言が聞かれたら、適切な金銭支出がなされていない疑いがあります。

以上のような兆候に気づいた場合、まずは施設内で情報を共有し、上長やケアマネジャーと相談しましょう。

高齢者虐待防止法では、家庭内での経済的虐待を発見した介護職員は市町村への通報義務があります(守秘義務より通報が優先されます)。

なお、万が一勘違いで虐待がなかった場合でも、保護を目的とした善意の通報であれば責任を問われることはありません。

ためらわずに専門機関へ相談しましょう。

すぐに虐待と断定できなくても、地域包括支援センター(自治体の高齢者支援窓口)に相談し、状況を説明してください。

行政が家族に指導や介入を行い、必要に応じて成年後見制度の利用などの措置につなげてくれます。

通報の流れについて詳しく知りたい方は、コチラの記事をご参照ください。

介護職が高齢者を叩こうとしている
【通報の流れ・事例公開】高齢者虐待防止研修で押さえるべき義務と対応手順高齢者虐待防止法では、介護の仕事に携る職員には、虐待を発見した場合の通報義務が課せられています。この記事では、高齢者虐待の定義や具体的な事例、そして現場での初動対応や通報の手順、通報の重要性について、具体例を交えて解説します。研修資料としても活用していただければ幸いです。...

悪質商法による被害のサイン(こんな様子は要注意)

次に、悪質な契約や詐欺被害に遭っている可能性を察知するサインを紹介します。

利用者が以下のような様子を見せたら注意が必要です。

☑ 高額な商品や契約書が突然現れた

利用者の居室や自宅に見慣れない高額そうな商品(健康器具や宝飾品など)が増えていたり、契約書・請求書が届いていたりする場合、何らかの契約を結んだ可能性があります。

内容を尋ねてもはぐらかす場合は、後ろめたい気持ちやトラブルを抱えている恐れがあります。

☑ 誰かとの電話の後に慌てている

電話を切った直後の利用者が動揺していたり、急に銀行やATMに行きたがったりする場合、詐欺の電話を受けた可能性があります。

「今すぐお金を用意しなければ」「今日中に振り込まないと」と焦った様子が見られたら要注意です。

☑ 郵便物やカタログが急増した

聞き覚えのない業者からDM(ダイレクトメール)やカタログが頻繁に届くようになった場合、その方の情報が業者間で出回っている可能性があります。

過去に何らかの契約をしたか、アンケート等で個人情報が漏れた可能性もあります。

☑ 秘密主義になる

普段オープンに会話してくれる利用者が、急にお金の話題を避けたり、「もう大丈夫だから」と詳細を話してくれなくなったら、何かトラブルを抱えているのかもしれません。

悪質業者から「誰にも言わないで」と口止めされているケースもあります。

☑ 家族や周囲に相談していない

被害に遭っていても恥ずかしさや自責の念から家族にも言えず、一人で悩んでいる高齢者は少なくありません。

介護職員との世間話の中で「家族には心配かけたくないから」などの発言が出たときも注意して聞きましょう。

こうしたサインを見逃さないためには、日頃から利用者との信頼関係を築き、小さな変化にも気を配ることが大切です。

週に数回しか訪問しないホームヘルパーや、多くの利用者を担当する施設職員にとっては難しい面もありますが、「いつもと様子が違うな」と感じたら一声かけてみるだけでも予防につながります。

被害に気づいたときの対応策

介護職員として利用者の消費者被害に気づいた場合、まずは落ち着きます。

そして次の6つのポイントを意識し、対応していきます。

1. 詳細を確認する(事実確認)

まずは利用者本人から何が起きたのか丁寧に話を聞きます。

契約してしまった日時、相手業者の名前や連絡先、支払った金額や支払い方法(現金渡し・振込・クレジット払いなど)を確認しましょう。

可能であれば契約書や領収書、商品のパンフレットなどの資料も見せてもらいます。

本人が内容を把握していない場合は、手元の書類から重要な事項を一緒に読み解きます。

この段階では決して本人を責めず、「大変でしたね。まずお話を聞かせてくださいね」という姿勢で臨みましょう。

2. クーリングオフなど速やかな契約解除手続きを検討

被害に気づいたら時間との勝負です。

訪問販売や電話勧誘販売などで契約した場合、契約書を受け取った日を含めて一定期間(通常8日間)はクーリングオフといって無条件で契約解除ができます。

まず契約日を確認し、クーリングオフ期間内であれば速やかに手続きを行いましょう。

具体的には、業者宛に契約解除の旨を記載した書面(ハガキや手紙)を出します。

書き方が分からなければ消費生活センターに連絡すればアドバイスをもらえます。

クーリングオフ期間を過ぎていても諦めないでください。

不実な説明や脅しによる契約であれば、消費者契約法に基づき契約を取り消せる可能性があります。

3. 消費生活センターに相談する

各自治体には消費生活センター(消費者ホットライン「188」に電話すると最寄りの窓口につながります)があり、悪質商法の相談に乗ってくれます。

介護職員であるあなたが代理で相談することも可能ですし、本人が同行を嫌がらなければ一緒にセンターに出向くのも良いでしょう。

消費生活センターでは専門の相談員が事情を聞き取り、必要に応じて業者への連絡・交渉を代行してくれます。

また、悪質な事例は行政処分や警察と連携して対応してくれるため、まずは相談することが解決への第一歩です。

「こんな契約をしてしまったが解約したい」「業者に断りたいが怖い」といった場合、迷わず専門機関を頼ってください。

なお、犯人が不明な特殊詐欺が疑われる場合は、迷わず警察に通報しましょう。

素早い通報により、犯人グループの口座凍結や被害拡大の防止につながるケースもあります。

4. 支払い停止や被害拡大防止策をとる

商品代金をクレジットカード払いやローン払いにしている場合は、クレジット会社に支払い停止の申し出を行いましょう。

割賦販売法により、訪問販売など不適正な取引による購入代金については、カード会社(信販会社)に支払いを止めてもらえる制度があります。

現金で振り込んだ場合は残念ながら取り戻すのは難しいケースも多いですが、振込先が実在する事業者であれば取引銀行に事情を説明して振込の停止や口座凍結ができないか相談します。

また、商品がまだ手元にあるなら返品可能か確認し、着払いで送り返すなどの対応も検討します。

二次被害を防ぐため、相手業者とは直接連絡を取らず、以後の対応は消費生活センターや弁護士等の専門家を介して行うようにしましょう。

5. 関係者への報告と連携

施設利用者であれば上司や生活相談員、ケアマネジャーに速やかに報告し、対応方針を検討します。

必要に応じて利用者のご家族とも情報共有します(ただし家族が加害者の場合は注意が必要です)。

在宅サービスの場合も、サービス提供責任者や地域包括支援センターに相談し、今後の支援方針を検討しましょう。

複合的な問題がある場合には、市町村の虐待対応窓口や警察とも連携しながら、安全確保に努めます。

特に明らかな詐欺被害で緊急性が高い場合には、ためらわず110番に通報しましょう。

警察への迅速な通報により、犯人の口座凍結や被害拡大の防止につながるケースもあります。

6. 専門家への橋渡し

消費生活センターの相談員だけで解決が難しいケースでは、弁護士や司法書士など法律の専門家につなぐ必要があります。

幸い各地の弁護士会や法テラス(日本司法支援センター)では、消費者被害の相談に対応できる専門家を紹介してくれます。

本人や家族が直接相談に行くことに抵抗があるようなら、介護職員が間に立って段取りをサポートすると良いでしょう。

弁護士が代理人として業者と交渉してくれれば、介護職やご本人が直接やり取りする負担も軽減されます。

なお、経済的に余裕がない高齢者の場合、法テラスを利用することで弁護士費用の立替え制度(後払い制度)などを使える場合もあります。

以上が基本的な対応の流れです。

重要なのは、介護職員だけで抱え込まず必ず専門機関や上司に相談することです。

また、慌てず冷静に対処することも心がけましょう。

消費者被害の解決には法律の知識が必要になる場面も多く、我々介護の専門外の部分は無理せず適切な機関につないでいくのが現実的です。

ただ、利用者の様子から「明らかに契約内容を理解できていないのでは」と思われる場合には、成年後見制度の活用を検討する、といった判断につながります。

民法など法律の基本としてこうした規定があることを知っておいてください。

高齢者を守るための法律・制度の基礎知識

高齢者の消費者被害や経済的虐待に対処するうえで、知っておきたい法律や制度がいくつかあります。

ここでは詳細な条文ではなく、現場で役立つポイントに絞ってやさしく解説します。

成年後見制度(せいねんこうけんせいど)

判断能力が不十分な高齢者を法律面で保護するための制度です。

認知症などで判断力が低下すると、本人に不利益な契約を結んでしまっても気づけなかったり、やめさせることが難しくなったりします。

成年後見制度を利用して家庭裁判所から成年後見人(代理で契約や財産管理をする人)を選任してもらえば、本人が理解しないまま結んだ契約を後から取り消したり、代わりに契約をチェックしたりして被害を防ぐことができます。

成年後見には、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3種類があります。

たとえば重度の認知症で契約の意味が全く理解できない場合は「後見」となり、選ばれた成年後見人が原則として本人に代わって財産を管理します。

一方、判断能力がまだある程度残っている場合は「保佐」や「補助」といった形で、本人の判断を尊重しつつ特定の重要な契約(不動産売買など)だけ代理人の同意が必要になる仕組みもあります。

介護職員としては、「この方は明らかに契約内容を理解できないのに高額な契約を結ばされている」と感じたら、家族や地域包括支援センターに成年後見制度の利用を提案することが考えられます。

ただし成年後見人をつけるには手続きに時間がかかるため、緊急の場合は消費者契約法等でまず契約解除し、再発防止策として後見制度を検討すると良いでしょう。

消費者契約法(しょうひしゃけいやくほう)

消費者(個人)と事業者の契約において、消費者を守るためのルールを定めた法律です。

高齢者に限らず全ての消費者が対象ですが、悪質商法から高齢者を守るうえで重要なポイントが含まれています。

消費者契約法では、事業者が契約の勧誘をする際に嘘の説明をしたり(事実と異なることを告げる)、不利な事実を故意に知らせなかったりして消費者を誤認させた場合や、強引な勧誘で消費者を困惑させ正常な判断をできなくさせた場合には、契約を取り消すことができると定めています。

この取り消しはクーリングオフと違い、期間の制限があります(消費者が誤認や困惑に気づいてから1年以内、契約から5年以内など)が、仮にクーリングオフ期間が過ぎてしまっても適用できる可能性があります。

例えば「この壺を買えば病気が治りますよ」と嘘を信じ込ませて契約させた場合や、「契約するまで帰さないぞ」と居座り勧誘された場合などは、後から消費者契約法に基づき契約を無効にできます。

また、消費者契約法では消費者に一方的に不利な契約条項を無効にする規定もあります。

例えば「一度支払った代金はどんな理由があっても返金しない」といった条項は消費者に不利すぎるため無効と判断される可能性があります。

このように、事業者にとって都合が良すぎる取り決めは法的に認められないことも覚えておきましょう。

特定商取引法(とくていしょうとりひきほう)とクーリングオフ

訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引(マルチ商法)、特定継続的役務提供(エステやスクールなどの高額な長期サービス契約)、訪問購入(自宅での物品買い取り)など、トラブルが多い取引形態について定めた法律です。

事業者が守るべきルールと消費者を守る制度が盛り込まれており、その代表的なものがクーリングオフ制度です。

クーリングオフとは、一定期間内であれば消費者が無条件で契約を解除できる仕組みです。

訪問販売や電話勧誘販売では書面を受け取った日から8日間、マルチ商法や内職商法では20日間など、取引の種類ごとに期間が定められています。

重要なのは、事業者が「クーリングオフはできません」などと嘘を言っても無効だということです。

法律で決まった権利なので、たとえ業者が「期間を過ぎているからもう無理ですよ」と言っても、法律上の条件を満たしていればクーリングオフできます。

支払い済みのお金は全額戻ってきますし、商品を開封・使用してしまっていても問題ありません(クーリングオフの行使に理由や条件は問われません)。

特定商取引法では他にも、事業者が守らなければならないルールが細かく決められています。

例えば訪問販売で契約書を渡さないのは違法ですし、勧誘の際に事実と違う説明をすることも禁じられています。

こうしたルールに反する契約は無効になったり、業者に行政処分が下ったりすることがあります。

介護職員として詳細を暗記する必要はありませんが、「訪問販売や電話の勧誘には法律で厳しい規制がある」「おかしいと思ったらクーリングオフなどで契約解除できる」という点は押さえておきましょう。

割賦販売法(かっぷはんばいほう)

あまり聞き馴染みがないかもしれませんが、商品をクレジットカード払いや分割払いで購入した際に消費者を守るための法律です。

高齢者の被害では、「現金はないがカードで支払ってしまった」「リボ払いで高額な支払いが残っている」といったケースも多く、割賦販売法の知識が役立ちます。

割賦販売法で覚えておきたいのは、抗弁権の接続という仕組みです。

難しい言葉ですが、平たく言うと「悪質な契約で商品を買わされた場合、その代金の支払いについてクレジット会社に対しても『支払わない理由(抗弁)』を主張できる」というものです。

例えば訪問販売で50万円の浄水器を買わされ、手持ちがなかったのでクレジット契約(信販会社との分割払い契約)をしたとします。

後日それが詐欺的な契約だと分かった場合、本来は販売業者に契約解除と返金を求めますが、分割払いの支払い先は信販会社です。

しかし割賦販売法により、販売業者との契約が取消・無効となれば、そのことをもって信販会社への支払いも拒めるのです。

「商品はもう手元にないし業者も逃げた。でも借金だけ残って毎月引き落としが続く」ではあまりに理不尽ですから、それを防ぐ仕組みだと思ってください。

介護職員が直接この法律を使って手続きをする場面は少ないかもしれませんが、知っておくと相談業務で役立ちます。

もし利用者が「分割払いで支払い中」と言う場合は、「業者だけでなくカード会社にも事情を話せば止められるかもしれませんよ」とアドバイスできるでしょう。

具体的な手続きは消費生活センターや弁護士に委ねるとしても、そうした制度があると知っているだけで心強いものです。

民法の規定(判断能力の欠如による契約無効 等)

民法(一般の法律)にも、高齢者を守る規定があります。

代表的なものは意思能力と取消権です。

意思能力とは「契約の意味を理解できる能力」のことで、極端な話、意思能力がない状態(重度の認知症など)で結んだ契約は無効になります。

また、詐欺(だまされて契約した)や強迫(脅されて契約した)といった場合は、民法に基づいて契約を取り消すことができます。

もっとも、これら民法の規定を実際に使って契約無効や取消しを主張するには、最終的には裁判など法的手続きが必要になる場合が多いです。

証拠を集めたり法律構成を考えたりするのは専門家の領域ですので、介護職員は「こういう法律もあるんだ」程度に押さえておき、具体的な対応は消費生活センターや弁護士につないでいくのが現実的です。

ただ、利用者の様子から「明らかに契約内容を理解できていないのでは」と思われる場合には、前述の成年後見制度の活用を検討する、といった判断につながります。

民法は法律の基本ですので直接現場で意識する機会は少ないですが、背景にこうした規定があることを知っておいてください。

高齢者虐待防止法(こうれいしゃぎゃくたいぼうしほう)

正式には「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」といいます。

家庭内や施設内での高齢者虐待を防止し、発見したときの通報や行政の対応について定めた法律です。

経済的虐待もこの中で明確に虐待の一種とされています。

高齢者虐待防止法では、虐待を受けた高齢者を保護するため、市町村が必要な調査や立ち入り、加害者への指導を行う権限が規定されています。

介護職員は、家庭内での虐待を発見した場合、市町村への通報義務があります(守秘義務より通報が優先されます)。

逆に、施設職員による虐待の場合は施設が主体となり速やかに改善措置を講じなければなりません。

経済的虐待の場合、行政が間に入って家族に適切な金銭管理を指導したり、必要なら成年後見制度の利用を促したりして、高齢者の権利を守ることになります。

日頃から「経済的虐待かも」と感じることがあれば、一人で悩まずチームや地域の専門機関に相談しましょう。

この法律があることで、「おかしい」と思ったときに動くための後ろ盾が用意されているのです。

介護職員としてできる予防策とサポート

最後に、介護職員の立場で高齢者の消費者被害や経済的虐待を未然に防ぐためにできること、そして被害に遭ってしまった後の心のケアや再発防止策について述べます。

日頃から情報提供と声かけを

介護サービスの場を活用して、高齢者に対し消費者被害への注意喚起を行いましょう。

例えば「最近こういう詐欺が流行っているそうですよ」「何か買うときは一人で悩まず相談してくださいね」といった声かけを、雑談の中でさりげなく伝えます。

また、自治体や国民生活センターが発行する啓発チラシやパンフレットがあれば、施設内に掲示したり利用者や家族に配布したりすると効果的です。

訪問介護でも、利用者宅の目につくところに「振り込め詐欺に注意!」等のチラシを貼らせてもらうだけでも意識が高まります。

家族との連携

利用者本人だけでなく家族にも注意喚起しておくことが大切です。

特に遠方に住んでいる家族は、親が悪質商法のターゲットになっていることに気づきにくいものです。

ケアマネジャー等を通じて家族に情報提供し、「最近高齢者を狙った○○という手口がある」「心配なら留守番電話を活用すると良い」など具体的な対策を助言しましょう。

家族が定期的に通帳記入をして不審な引き落としがないか確認することも有効です。

利用者の金銭管理状況の把握

施設サービスでは、入所時にご利用者の金銭管理を誰が行うか確認しておきましょう。

預り金や財産管理の仕組みがある場合は、定期的に残高や出入りをチェックし、不自然な点がないか注意します。

在宅サービス利用者でも、担当のケアマネジャー等から生活費の管理状況を聞いておくと、何かトラブルが起きた際に素早く対応できます。

地域のネットワークを活用

地域包括支援センターや自治体の消費生活センター、民生委員、警察など、地域には高齢者を支えるネットワークがあります。

介護職員もそうしたネットワークの一員として連携を深めましょう。

地域ケア会議や研修会で消費者被害の話題が出たら耳を傾け、自分の担当する利用者にも当てはまるリスクがないか考えてみましょう。

また、自治体によっては福祉・介護・警察・消費生活センターなどが参加する消費者被害防止のネットワーク会議を設置している場合もあります。

地域全体で情報共有し高齢者を見守る取り組みで、介護現場の気づきが活かされることもあります。

見守りの工夫

独居の高齢者や認知症のある方には、訪問回数を増やしたり、定期的に電話連絡を入れたりして、「何か変わったことはないか」こまめに様子を伺うことも大切です。

自治体によっては高齢者宅に訪問して見守りを行うボランティアや、悪質商法撃退の自動通話録音機(迷惑電話防止機器)を配布しているところもあります。

そうした制度があれば積極的に紹介しましょう。

被害に遭った方への心のケア

万一、利用者が被害に遭ってしまった場合は、心のケアにも配慮してください。

大金を失ったショックや、「自分が情けない」という思いから、うつ状態になる高齢者もいます。

介護職員は傾聴し寄り添いながら、「誰でもだまされる可能性はあります」「悪いのはだました人の方ですよ」と繰り返し伝えましょう。

決して責めたり笑ったりせず、尊厳を傷つけない対応が何より大切です。

また、再び被害に遭わないように、「今度何か買うときはぜひ相談してくださいね。一緒に考えましょう」と伝えておくと、本人も安心できます。

おわりに

いかがだったでしょうか。

高齢者の消費者被害や経済的虐待は、介護現場で見過ごせない大きな問題です。

私たち介護職員は、身体介護や生活支援だけでなく、利用者の権利を守る存在でもあります。

経済的な安心を支える支援は、高齢者の尊厳と自立を守るうえでも欠かせない要素です。

法律や制度の知識、相談窓口の活用法を知っておけば、いざというとき適切な支援につなげることができます。

この記事で紹介したように、まずは日頃から利用者の様子にアンテナを張り、小さな異変にも気づくこと。

そして被害の兆候を察知したら早めに声をかけ、しかるべき機関と連携して解決を図りましょう。

介護職一人でできることには限りがありますが、私たちが窓口となって繋げることで、多くの専門家や制度が高齢者を守るために動いてくれます。

高齢者が安心して暮らせるよう、経済的なトラブルからも利用者を守る。その意識を持って日々のケアにあたることで、介護の質は一段と高まります。

困っている利用者を見かけたら、「もしかして?」と気づける介護職員が一人でも増えることが、悪質な被害の抑止につながります。

優しく温かい目配りで、高齢者の笑顔と暮らしをお金の悩みからも守っていきましょう。

行政や警察による悪質業者への取締りや詐欺グループの摘発も進められていますが、行政・警察・そして私たち介護職員が連携して見守りを強化することで、高齢者が安心して暮らせる社会を築いていきたいです。

お知らせ①【介護事業所の必須研修資料一覧(2025年度版)】

介護サービスごとにわかりやすく、情報公表調査で確認される研修と、義務づけられた研修を分けて記載しています。

また、それに応じた研修資料もあげています。研修資料を探している方は、ぜひ参考にしてください。介護事業所の必須研修資料一覧【2025年度版】

お知らせ②【介護職の方へ!老後とお金の不安を解消する方法!】

介護職の仕事をしていると、低賃金や物価の高騰、そして将来に対する漠然とした不安がついて回ります。

特に独身の方は老後の生活費や年金に対する不安が大きいのではないでしょうか?

下記のブログは、そんな不安を解消するために実践すべき7つの方法です。

少しの工夫と努力で、将来の不安を減らし、安心した未来を作るための第一歩を踏み出してみましょう! 詳しくはこちらの記事をご覧ください。

悩んでいる中年女性
このままじゃヤバい!介護職が抱える老後とお金の問題【不安解消の為の7つの方法】低賃金での生活が続き、物価は上がり続ける一方、将来に対する漠然とした不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。この記事は、そんな悩みを少しでも解消できるように節約・資産運用(iDeCo、NISA)・お金に関するセミナーの受講・ポイ活・中高年の婚活・副業・転職の7つについてお伝えします。...
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介護士の資格取得/スキルUP/転職について記事を書きています。 作業療法士/介護福祉士/ケアマネージャー資格等の保有