認知症とは
認知症とは、脳の病気や障害によって認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態です。
加齢に伴うもの忘れとは異なり、体験そのものを忘れてしまう点が特徴です。
認知症にはいくつかの種類があり、それぞれ症状や進行の仕方が異なります。
【主な認知症の種類】
アルツハイマー型認知症:脳全体の萎縮が特徴で、記憶障害や人格変化が現れます。
脳血管性認知症:脳血管障害が原因で、症状の変動が大きく、まだら認知と呼ばれる現象がみられます。
レビー小体型認知症:幻視やパーキンソン症状が特徴です。
前頭側頭型認知症:社会性の欠如や常同行動、感情コントロールの困難などがみられます。
認知症の症状
認知症の症状は、中核症状と周辺症状(行動・心理症状:BPSD)に分けられます。
中核症状は認知機能※の障害であり、周辺症状は心理状態や環境などが影響して現れる精神症状や行動障害です。
※認知機能:見る・聴く・触る・嗅ぐ・味わうの5つの感覚(五感)から得た情報をもとに、周りの状況を理解して行動する能力のこと。
具体的な症状は、次のようになります。
【中核症状】
記憶障害: 直近の出来事を忘れやすく、同じ質問を繰り返す
見当識障害: 時間、場所、人物などが分からなくなる
失語: 言葉が出にくくなったり、相手の言葉が理解しにくくなる
失行: 習慣的な動作が分からなくなる
失認: 見えているものや音が認識できなくなる
実行機能障害: 計画を立てたり、複数のことを同時に行うのが難しくなる
【周辺症状(BPSD)】
- 暴言・暴力
- 徘徊
- 妄想
- 幻覚
- 過食
- 不眠
- 無気力・無関心
- せん妄
- うつ状態
- 収集癖
認知症ケアの基本
認知症の方をケアする上で【パーソン・センタード・ケア(PCC)※】を元に、次の8つの基本原則を押さえましょう。
※パーソン・センタード・ケア(PCC)について詳しく書かれた記事はコチラです:THERABBY
① 自尊心の尊重
認知症の方を一人の人間として尊重し、尊厳を傷つける言動は避けましょう。
② 4つの基本的ケア
水分、食事、排便、運動の4つの基本ケアを意識しましょう。これらは、高齢者ケア全般の基本です。
③ 観察と健康管理
認知症の方は自分の不調を訴えられない場合が多いため、日々の観察と健康管理が重要です。
④ 共に過ごす
認知症の方は不安を抱えやすいため、孤独にさせない関わりが大切です。
⑤ 役割づくり
何か役割を持つことで、生きる活力を得られます。興味・関心を探り、役割を見つけてあげましょう。
⑥ 利用者さんのペースに合わせる
認知症の方は以前のようなペースで生活を送れません。急かさず、ゆっくりと待ち、本人のペースに合わせましょう。
⑦ 問題行動の原因を探る
問題行動には必ず原因があります。時間、場所、状況などを観察し、原因を探りましょう。
⑧ 生活環境の整備
認知症の方が安全で安心して過ごせるよう、生活環境を整えましょう。
訪問介護現場に役立つコミュニケーションスキル
訪問介護の現場では、上記の基本原則を踏まえ、個々の状況に応じたケアを提供することが求められます。
その際、役に立つのがコミュニケーションスキルです。
ここでは、訪問介護の現場に役立つコミュニケーションスキルを紹介します。
非言語的コミュニケーションを積極的に活用する
認知症の方は、言葉で伝えることが難しい場合でも、表情や視線、身振り手振りなどから感情を読み取ることができます。
表情、視線、ジェスチャーなども用いてコミュニケーションをとりましょう。
名前を呼んで話しかける
自分の名前を呼ばれることで、安心感を得られます。
アイコンタクト
目を合わせ、相手の存在を認めていることを示す。
笑顔
安心感を与える。
タッチング
優しく手を握ったり、肩に触れたりすることで、安心感や親近感を伝える。
肯定的な言葉を使う
否定的な言葉は、不安や反発を生む可能性があります。
「~しましょう」「~できますよ」など、肯定的な言葉を使うように心がけましょう。
分かりやすい言葉でゆっくりと話しかける
複雑な言葉や早口は理解しにくいため、分かりやすい言葉でゆっくりと話しかけましょう。
穏やかな声
高い声や早口は、不安や緊張感を与えてしまいます。 落ち着いたトーンでゆっくりと話しかけましょう。
プライバシーに配慮する
排泄や入浴の介助など、プライバシーに配慮した声かけや対応を心がけましょう。
【具体的な会話例】
「今日は何月何日ですか?」: このような質問は、認知症の方を混乱させてしまう可能性があります。
代わりに「今日はいいお天気ですね」や「今日は、○○さんの好きなハンバーグですよ」のように、具体的な話題を提供しましょう。
「さっきも言ったでしょう!」:同じ質問を繰り返されても、イライラせず、落ち着いて丁寧に答えるようにしましょう。
代わりに「そうですね、○○でしたね」と、一度共感してから答えることで、安心感を与えることができます。
「そんなこと、ありませんよ!」:妄想や幻覚を否定してしまうと、不安や不信感を抱かせてしまいます。
代わりに「それは大変でしたね」や「怖い思いをされましたね」と、相手の気持ちに寄り添う言葉をかけてあげましょう。
訪問介護の現場で活かせる!認知症ケア実践講座
この講座では、訪問介護の現場ですぐに役立つ認知症ケアの知識と技術を、実践的な視点から学びます。
認知症の方の行動の背景にある心理を理解し、適切なコミュニケーション方法を習得することで、より質の高いケアを提供できるようになりましょう。
認知症の方の行動理解
認知症の方は、記憶障害や判断力の低下などにより、周囲の状況を理解することが難しく、その結果、私たちには理解できない行動をとってしまうことがあります。
しかし、その行動には必ず何らかの理由があります。
【行動を引き起こす要因】
身体的な要因:痛みや不快感、体調不良、薬の副作用など
心理的な要因:不安、恐怖、寂しさ、ストレス、過去のトラウマなど
環境的な要因:騒音、照明、温度、家具の配置、周囲の人間関係など
コミュニケーションの要因:相手の言葉が理解できない、自分の気持ちを伝えられないなど
問題行動への対応
問題行動に遭遇したときは、まず落ち着いて、その行動の背景にある要因を探ることから始めましょう。
例えば、食事を拒否する場合は、以下のような点が考えられます。
- 食欲不振や体調不良
- 食べ物の好みが変わっている
- 食事介助の方法が不適切
- 食事の環境が落ち着かない
- 過去の食事に関するトラウマ
これらの要因を特定し、適切な対応をすることで、問題行動を改善できる可能性があります。
具体的な対応事例
【事例1:帰宅願望】
状況:自宅にいるにもかかわらず、「家に帰りたい」と言って、外に出ようとする。
対応:否定せず、気持ちを受け止める。「帰りたいんですね」と声をかける。
一緒に散歩に出かけるなど、気分転換を促す。
昔のアルバムを見せるなど、懐かしい話題を提供する。
帰宅願望の背景には、不安や寂しさ、環境の変化への戸惑いなどが考えられます。
「家に帰りたい」という気持ちを受け止め、安心感を与えることが重要です。
【事例2:物盗られ妄想】
状況:財布やアクセサリーなど、自分の持ち物がなくなったと言い張り、「あなたが盗んだ」と疑ってくる。
対応:否定せず、一緒に探す。「それは困りましたね、一緒に探しましょう」と声をかける。
見つかった場合は、本人が見つけたように仕向ける。
他の話題にすり替える。
記憶障害のために、物をどこに置いたか分からなくなっていることが原因です。
否定すると、さらに興奮してしまう可能性があります。
【事例3:入浴拒否】
状況:お風呂に入ることを拒否する。
対応:無理強いせず、入浴したい気持ちになるように誘導する。「気持ちいいですよ」「お風呂に入るとさっぱりしますよ」
入浴時間や曜日を固定するなど、習慣化を促す。
拒否が強い場合は、清拭で対応する。
羞恥心や恐怖心から入浴を拒否している場合があります。
【事例4:拒食】
状況:食事を全く食べようとしない。
「お腹が空いていない」「美味しくない」などと言い、食事を拒否し続ける。
無理強いすると、怒り出して、食べ物を投げつけてしまうこともある。
対応:体調不良、味覚の変化、環境の変化、薬の副作用、過去のトラウマなど、まずはその原因を探る。
無理に食べさせようとすると、食事への拒否感が強くなってしまう可能性がある。
落ち着いて食事ができるように、静かな環境を整える。
好きな食べ物や、食べやすいものを提供してみる。
食べやすいように、一口サイズにカットしたり、スプーンで食べさせてあげるなどの介助を試みる。
食事が取れない場合は、脱水症状にならないよう、こまめな水分補給を心がけましょう。
栄養状態の悪化が懸念される場合は、医師や栄養士などの専門家に相談しましょう。
【事例5:暴力・暴言】
状況:急に怒り出し、暴言を吐いたり、手を出したりする。
対応:まずは、自分自身の安全を確保することが最優先。危険を感じたら、一度その場を離れる。
興奮状態が収まるまで、落ち着いて待つ。
反論したり、感情的に言い返したりすることは逆効果。「つらいんですね」「怖い思いをされましたね」など、共感の言葉を伝える。
暴力・暴言の原因を探り、予防策を考える。
例えば、特定の時間に起こりやすい場合は、その時間帯のケア内容を見直したり、環境調整を行うなどの工夫が必要。
暴力・暴言があった場合は、日時、状況、対応などを記録しておきましょう。
一人で抱え込まず、上司や同僚、専門機関などに相談しましょう。
昔を懐かしむ「回想法」
認知症の方は、最近の出来事は忘れがちですが、昔の記憶は比較的鮮明に残っていることが多いです。
そこで、「回想法」を活用してみましょう。
昔のアルバムや写真
懐かしい写真やアルバムを一緒に見て、当時の思い出話に花を咲かせましょう。
好きな音楽
青春時代によく聴いていた音楽をかけることで、当時の記憶や感情が蘇ってくることがあります。
故郷の話
生まれ故郷の話や、若い頃の仕事の話など、昔の記憶を刺激する話題を提供しましょう。
回想法は、認知症の方の心を穏やかにし、自尊心を高める効果も期待できます。
認知症タイプ別の症状と対応
認知症は、一括りにされることが多いですが、実際には様々なタイプが存在し、それぞれに特徴的な症状や進行の経過があります。
ここでは、主要な認知症のタイプ別に、具体的な症状と、訪問介護の現場でできる対応策を詳しく解説していきます。
アルツハイマー型認知症
最も多いタイプであり、脳全体に萎縮が広がる特徴があります。
記憶障害が目立ちやすく、初期にはもの忘れや置き忘れが多くなり、進行とともに最近の出来事を全く覚えられなくなったり、家族の顔や名前も分からなくなることがあります。
同じことを何度も質問したり、言ったりする場合は、根気強く、優しく対応しましょう。
メモやカレンダーなどを活用し、記憶を補う支援をすることも有効です。
時間や場所が分からなくなっている場合は、時計やカレンダーを見やすく設置したり、分かりやすい目印を置くなどの環境調整が役立ちます。
不安やイライラを感じている様子が見られたら、落ち着けるような声かけや、好きな音楽を流す、アロマを焚くなど、五感を活用した対応を試してみましょう。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血など、脳血管障害によって起こります。
症状は、障害を受けた脳の部位によって異なり、まだら認知と呼ばれる、得意な分野と苦手な分野が混在する状態が見られることもあります。
麻痺やしびれ、歩行障害などが見られる場合は、転倒予防に注意し、安全な移動を支援しましょう。
リハビリテーションの専門家と連携し、機能回復を促すことも重要です。
感情のコントロールが難しくなる場合もあるため、急に怒り出したり、落ち込んだりするなど、感情の起伏が激しい場合は、落ち着いて、安心できるような声かけを心がけましょう。
着替えや食事、トイレなど、日常生活動作が困難な場合は、本人のペースに合わせて、ゆっくりと丁寧に介助を行いましょう。
レビー小体型認知症
幻視が特徴的な症状であり、実際には存在しないものが見えることがあります。
パーキンソン病のような症状(パーキンソン症状)も現れ、体の動きが遅くなったり、筋肉が硬くなったり、震えが出たりすることがあります。
幻視の内容を否定せず、「それは怖いですね」「大変でしたね」と、相手の気持ちに寄り添う言葉かけをしましょう。
幻視の原因となるような、照明の調整や、部屋の片付けなども有効です。
前頭側頭型認知症
比較的若い世代に発症することが多く、人格の変化や、反社会的な行動が目立つ特徴があります。
同じ行動を繰り返す常同行動や、言葉が出にくくなる失語なども見られます。
急に性格が変わったり、暴言や攻撃的な行動が見られる場合は、まずは安全を確保し、落ち着けるように対応しましょう。
周囲の理解と協力が不可欠であり、家族や他の専門職と連携し、適切な対応を検討していく必要があります。
常同行動がでる場合は、無理にやめさせようとせず、安全な範囲で受け止めましょう。
その行動に何らかの意味がある可能性もあるため、注意深く観察し、原因を探ることが重要です。
チームで支える認知症ケア:連携と情報共有の重要性
認知症ケアは、決して一人だけで抱え込むものではありません。
利用者さん本人、ご家族、そして様々な専門職が連携し、情報を共有することで、より質の高い、そして、あたたかいケアを提供することができます。
“チーム” で支えるケアこそが、認知症の方が、その人らしく、安心して生活していくための大きな力となります。
なぜ、チームケアが重要なのか
認知症の方は、記憶障害、見当識障害、行動・心理症状(BPSD)など、症状は多岐にわたり、一人ひとりの状況も大きく異なります。
それぞれの専門知識を持つ多職種が連携することで、利用者本人のニーズに合わせた、きめ細やかなケアを提供することができます。
また問題行動等が生じた際は、それをチーム全体で情報を共有し、原因を探り、適切な対応策を検討することで、問題行動の発生を予防したり、軽減したりすることができます。
具体的な連携と情報共有の方法
ケアカンファレンスによって、医師、看護師、ケアマネジャー、介護職員、リハビリテーション専門職などが集まり、利用者さんの状況やケアプランについて話し合います。
それぞれの専門分野からの意見を交換し、情報を共有することで、より多角的な視点からのケアが可能になります。
そして、よく使うのが「情報共有ノート」です。
これは利用者さんの日々の様子や変化、提供したケア内容などを記録し、関係者間で共有します。
小さな変化も見逃さず、早期に対応することで、問題の悪化を防ぐことができます。
そしてご家族とのコミュニケーションも重要です。
ご家族は、利用者さんの最も身近な存在であり、貴重な情報源です。
日頃から密なコミュニケーションを図り、困っていることや、気づいたことなどを共有することで、より質の高いケアを提供することができます。
また地域包括支援センターや、認知症カフェなどの地域資源と連携することで、ご家族の孤立を防ぎ、社会的なサポート体制を構築することができます。
介護者のスキルアップ:認知症介護基礎研修について
認知症ケアは、 専門的な知識とスキル が求められます。
介護者の皆さんが、 自信を持って、そして、より質の高いケアを提供できる よう、認知症介護基礎研修の重要性について考えていきましょう。
認知症介護基礎研修で学ぶこと
認知症介護基礎研修では、次のようなことを学びます。
認知症の基礎知識
認知症とは何か、その原因や症状、種類、進行 stages、治療法など、基本的な知識を学びます。
認知症の方の心理
認知症によって、どのような心理的変化が起こるのか、どのように感じているのかを理解します。
コミュニケーション方法
認知症の方と、どのようにコミュニケーションをとれば良いのか、具体的な方法を学びます。
言葉だけでなく、表情、視線、触れ方など、 非言語コミュニケーション の重要性も学びます。
ケアの基本
日常生活の援助(食事、入浴、排泄など)において、認知症の方にどのように接し、支援すれば良いのかを学びます。
問題行動への対応
徘徊、暴力、暴言、拒食、異食など、問題行動への適切な対応方法を学びます。
問題行動の背景にある “気持ち” を理解し、 その人らしい対応 を考えることが重要です。
倫理
認知症の方の人権を尊重し、倫理的なケアを提供するための知識を学びます。
介護負担の軽減
介護者の心身の負担を軽減するための方法を学びます。
チームケア
多職種との連携や情報共有の重要性、具体的な方法を学びます。
地域資源の活用
認知症の方や家族を支援する地域のサービスや制度について学びます。
認知症介護基礎研修を受けるメリット
知識やスキルを身につけることで、自信を持って、より質の高いケアを提供できるようになります。
また、問題行動への適切な対応方法を学ぶことで、落ち着いて対応できるようになります。
その結果、自分自身のストレスや不安を軽減し、より穏やかに介護に取り組めるようになります。
認知症の方の気持ちを理解し、その人らしいケアを提供することで、利用者さんの生活の質向上に貢献できます。
認知症介護基礎研修はeラーニングで受講できます。
もし興味があれば、こちらのサイトをご覧下さい。
おわりに
いかがだったでしょうか。
認知症の方へのケアは、多くの挑戦を伴う一方で、深い学びとやりがいも与えてくれます。
本記事で紹介した基本的なケアの原則やコミュニケーションの方法が、皆様の日々の介護に役立つことを願っています。
大切なのは、相手の立場に立ち、温かく忍耐強い姿勢で向き合うことです。
小さな積み重ねが安心と信頼につながり、より豊かな暮らしを支える力となります。
認知症ケアを通じて、温かな人間関係を築き、共に歩むその時間を大切にしていきましょう。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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