デイサービスは、多くの高齢利用者さんが日帰りで利用します。
大地震や台風、豪雨などの自然災害だけでなく、停電や火災、感染症の流行も想定しておかなければなりません。
それぞれの災害には特徴と対応のポイントがあります。
本記事では、地震・風水害・停電・火災・感染症など各種災害の特徴と注意点、災害発生時の基本的な行動フロー、そして事業継続計画(BCP)の目的や構成、日頃の備え、チェックリスト例、よくある課題と対策例について、初心者にも分かりやすく丁寧に解説します。
災害の種類と特徴

ここでは5つの災害に分けて、その特徴をお伝えします。
- 地震
- 台風・大雨・洪水
- 停電
- 火災
- 感染症
それぞれ具合的に見ていきましょう。
地震
地震発生時は、まず利用者さんと職員の安全確保が最優先です。
揺れている間は家具や物の落下に備え、テーブルの下に身を隠して頭部を守ります。
揺れが収まったら出口や非常扉を開けて避難経路を確保し、慌てず冷静に行動します。
屋内避難が必要な場合は頑丈な建物内に留まり、余震や二次災害に注意しながら避難を進めます。
利用者さんに対しては「落ち着いて頭を守る」など安全行動を声掛けし、その後は状態を確認して速やかに避難させます。
台風・大雨・洪水
台風や大雨では、暴風雨や大規模浸水の恐れがあります。
気象情報や自治体からの避難指示を注視し、被害が予想される場合は早めにサービスを休止する基準を事前に決めておきます。
デイサービス提供中でも重大被害が予想されるときはケアマネジャーやご家族と共有し、利用者さんへの説明と同意を得たうえで送迎を中止したり、サービス自体を前倒し・短縮したりすることを検討します。
また、大雨で洪水や土砂災害の危険が高まる場合は、地域の避難所情報を活用し、高台や指定避難所へ移動できる体制を整えておきます。
停電
災害による停電では、照明や医療機器が使えなくなり、瞬間的に状況が見えなくなる危険があります。
そのため普段から非常用照明(懐中電灯、ランタン、化学ライト、ヘッドライトなど)を備蓄し、電池切れがないか点検しておきます。
ポータブル電源や発電機も準備しておくと、携帯電話の充電や照明確保に役立ちます。
停電でエレベーターが止まった場合は、中に人が閉じ込められていないかを必ず確認します。
また、停電で自動ドアが開放される事例もあるため、出入口は鍵やロープで固定し、利用者さんが外に出ないよう安全対策を行います。
火災
火災が発生したら火や煙が広がる前に避難を始めます。
火災報知器や非常ベルが作動した場合は直ちに避難誘導し、迷わず非常口から非難します。
移動が難しい利用者さんは職員2人以上で支え、車椅子や寝台で安全に運び出します。
可能なら消火器で初期消火を試みますが、火勢が強い場合は人命優先で素早く避難し、119番通報と責任者への連絡を行います。
避難場所では利用者さん同士がパニックにならないよう落ち着かせ、利用者さんの健康状態を逐次観察します。
感染症
インフルエンザ、新型コロナウイルス、ノロウイルスなど感染力の高い病原体には特に注意が必要です。
通所介護事業所では法律で「感染症予防指針・マニュアル」の整備が義務付けられており、職員はマニュアルに従って手洗いや消毒、マスク着用、換気の徹底などを日常的に行います。
感染者が発生した場合は、まず感染状況を把握して該当利用者さんを隔離し、保健所へ届け出ます。
次に感染拡大を防ぐ行動(利用者同士の接触制限、共用部分の消毒強化、職員の体調管理強化など)を迅速に実施します。
必要に応じて、保健所や医療機関、家族との連絡・協力体制をとりながら情報共有を行い、終息後にも所定の報告様式で行政に報告します。
感染症対応では、発生時だけでなく平常時からBCPに基づく研修・訓練を行い、万全の態勢で備えておくことが求められます。
災害時の基本行動フロー
災害時の現場では、職員全員が以下の流れを念頭に置いて行動します。
①情報収集・伝達
地震・台風・豪雨などの発生を確認したら、まず正確な情報を集めます。
ラジオや自治体の防災無線、テレビ・SNSなどで災害状況や避難指示を確認し、事業所内に迅速に周知します。
停電時は携帯ラジオで情報を得るなどし、地域の指示に従って行動します。
②安否確認
利用者さんと職員の安全を最優先にします。
全員の居場所と状態を確認し、けがや体調変化がないか見守ります。
通所中に災害が発生した場合は、利用者さんを落ち着かせたうえで安全な場所へ誘導し、安否確認が取れたら、事前に登録した緊急連絡先を使ってご家族に状況を連絡します。
救護が必要な方には応急処置を施しながら、全員の無事を確保します。
③判断・指示決定
災害の規模や被害の有無、外部状況を踏まえ、事業所の対応方針を判断します。
気象警報やライフライン状況によりサービス継続が難しい場合は、事前に定めた基準に従い、ケアマネジャーや家族と連携のうえサービス休止や送迎中止を決定します。
継続できる場合でも急な帰宅が必要なときは、余裕を持って利用者さんを退所させ、安全に帰宅支援します。
また、停電・断水などが長引く場合は、他の事業所へのサービス変更も検討します。
④報告・連絡
上長や事業所長へ状況報告し、連絡体制を整えます。
外部への報告が必要な場合(大規模災害、感染症発生など)には速やかに保健所や行政、消防署へ連絡し指示を仰ぎます。
併せて家族や関係機関にも連絡・情報共有を行い、支援要請を含めた協力体制を構築します。
⑤支援・避難措置
すぐに帰宅できない利用者さんがいる場合は、家族や関係機関と協力しつつ、事業所内で可能な範囲での避難生活(宿泊対応)を検討します。
必要なら近隣の指定避難所へ送迎するなど、地域と連携して安全確保に努めます。
利用者さんを無理に移動させる前に、余震や二次災害のリスクを評価して判断しましょう。
BCP(事業継続計画)について
BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)とは、自然災害や感染症の大規模流行など緊急事態に備え、事業を継続・早期復旧するために具体的な行動指針をまとめた計画です。
通所介護においては、利用者さんの安全確保とサービス提供の継続、そして職員の安全維持が基本的な方針となります。
BCPには通常、次のような内容を盛り込みます。
- 基本方針・推進体制
- 優先業務の選定
- リスク把握
- 平常時の備え
- 緊急時の対応
たとえば、平常時には施設の耐震・防災点検や非常用品の備蓄、職員への研修・訓練を計画し、緊急時には具体的な発災基準(マグニチュードや警報の発令など)とともに行動フローを定めます。
また、他施設や行政・医療機関との連携体制もBCPに含めることで、被災時の協力・支援ルートを明確にしておきます。
BCP策定義務と実践
2021年度の介護報酬改定で、すべての介護事業所にBCPの策定と訓練実施が義務付けられました。
デイサービスも例外ではなく、2024年4月以降は未策定の場合に介護報酬の1%減算措置が適用されます。
これは、災害発生時でも介護サービスを安定的に提供する体制を整備するための規定です。
実務上は、事業所長が主導して推進体制を整え(災害対策委員会など)、職員全員がBCP内容を共有・理解することが大切です。
BCPの文書化に加え、定期的な研修・避難訓練(シミュレーション)を行い、内容の検証・見直しを継続的に実施します。
例えば、年1回は地震想定の避難訓練を行い、手順書通りに誘導できるか確認することが推奨されます。
また感染症対策についても、衛生管理マニュアルや防疫訓練を実施し、万が一の患者発生時に備えます。
日頃の備え(訓練・連絡網・備蓄・役割分担)
災害に強い事業所をつくるには、普段からの備えが欠かせません。
次のような項目を意識しましょう。
連絡網と情報共有:
職員間で緊急連絡網(固定電話、自宅・携帯電話、メールなど)を整備し、複数の連絡手段を確保します。
ケアマネジャーやご家族とも連携し、災害時の安否確認方法をあらかじめ整理しておきます。
また、日頃から地域の避難方法や避難所、行政機関の連絡先を確認し、自治会や消防署とも良好な関係を築いておくと、必要時に素早く協力を得られます。
備蓄品の準備:
災害時は食料・飲料水・衛生用品・毛布などが必要になります。
施設内で最低でも72時間分の備蓄を目安に、定期的に使用期限を点検しておきます。
停電に備え非常用ライトやヘッドランプを常備し、ポータブル電源や発電機が使える状態であるか点検しておきましょう。
食事提供用の備蓄食や、インシュリン・酸素ボンベなど重要な医療資材も揃えておくと安心です。
訓練・研修の実施:
平時から地震・火災・感染症発生などシナリオを想定した訓練を行い、職員の対応力を高めます。
訓練内容は災害の種類ごとに計画し、避難誘導や安否確認、情報伝達手順などを確認します。
定期的にBCPに基づくシミュレーションを繰り返し、課題を発見・改善するサイクルを回すことが重要です。
役割分担:
災害時に誰が何をするか、職員間で役割を明確に決めておきます。
例えば、速報担当(情報収集係)、避難誘導担当、安否連絡担当、応急手当担当などを決めておくと混乱を防げます。
感染症対応では、感染者対応チームや消毒担当者を予め設定しておくとスムーズです。
さらに、職員の健康管理・交代要員も確保体制を検討します。
チェックリスト
災害対応時に役立つチェックリスト例を挙げます。
施設の実情に合わせて作成・応用しましょう。
☑ 職員の安否・出勤確認
災害直後は職員全員の無事を確認し、出勤状況を把握。
災害用連絡網で速やかに相互連絡を取れる体制を整える。
☑ 利用者一覧・安否優先順位表
利用者さんの住所・連絡先と災害時の安否確認優先度を記入した「災害時利用者一覧表」を準備し、緊急時に優先的に安否確認する対象を明確にする。
持病や要介護度、居住環境なども記録し、医療機関への連絡要否や移動手段の検討に役立てる。
☑ 緊急連絡網
職員・ケアマネジャー・ご家族・地域機関等の連絡先一覧を最新化して保存。
停電時に備え、紙版の連絡網や電池式ラジオを確保する。
☑ 避難支援対象者リスト
移動が難しい利用者さん(車椅子・要介護度の高い方など)をリストアップし、引率や介助を担当する職員を割り振る。
☑ 備蓄品チェック表
食料・水・医療物資・衛生用品・電池・飲料水・簡易トイレ等の備蓄数を定期点検し、不足がないか確認する。ローリングストックとして交換の計画を立てておく。
災害時の課題と対策例
災害対応では様々な課題が生じますが、事前の対策で多くが軽減できます。
よくある課題とその対策例を挙げます。
利用者さんの自力避難困難:
高齢者は自力で速やかに避難できない場合があります。
対策として、日頃から身体状況を把握し、手すりや階段補助具を整備します。
災害時は複数の職員で協力して移動をサポートし、車椅子や担架で迅速に避難します。
避難所生活への不適応:
認知症の方や寝たきりの方は避難所生活に適応しにくいリスクがあります。
平常時から避難場所での注意点を共有し、ストレス軽減の準備(常用薬の持参、馴染みのある物品の携帯)をします。
避難所が開設されたら、職員が付き添って環境の変化に対応できるよう支援します。
医療機器・物資の不足:
災害で電気や水道が止まると、酸素・吸引器・ポンプ等の医療機器が使用できなくなる恐れがあります。
日頃から予備のバッテリーや予備充電器、携帯型酸素ボンベなどを確保します。
また停電時に備え、携帯用発電機やポータブル電源を準備し、必要な医療機器に給電できる体制を整えます。
非常時用食・水も最低3日分以上を備蓄します。
職員の不足・疲労:
災害時には職員自身が被災したり、交通寸断で出勤できなくなることがあります。
対応策としては、家族同伴出勤や宿直体制を検討し、近隣の協力機関から応援要員を招く計画を作っておきます。
また、交代制で十分な休息を確保し、長時間勤務による疲労を防ぎます。
訓練不足による混乱:
平時に訓練やマニュアルの周知が不十分だと、いざという時に行動がばらつく恐れがあります。
定期的なシミュレーション訓練を行い、課題を洗い出してマニュアルを改善します。
マニュアルはシンプルに要点をまとめ、全員が見やすい場所に掲示しておくとよいでしょう。
情報伝達の遅れ・混乱:
災害時は災害対応に伴う情報が殺到するため、誤報・情報不足が起こりやすいです。
予め「災害時連絡フロー」を整備し、重要連絡先(行政・消防・医療機関等)を共有しておきます。
また、重要な連絡はメモや記録に残し、上長への報告・相談を必ず行うようにします。
複数の連絡手段(固定電話、携帯、無線、FAX等)を確保し、通信手段が一部断たれても連絡できるよう備えましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
通所介護事業所における災害対応とBCPの基本的な考え方・行動例をまとめました。
いざというときに利用者さんや自分自身の安全を守り、事業所のサービスを継続・早期復旧できるよう、日頃から計画策定と訓練を欠かさず行いましょう。
ご参考までに、厚生労働省のガイドラインや各種手引きにも詳しい事例が示されていますので、実際の策定・見直しに活用してください。
それではこれで終わります。
「他にも【非常災害時の対応に関する研修】の資料をみてみたい!」という方は、コチラの記事をご覧下さい。【介護施設】非常災害時の対応に関する研修【研修資料一覧】
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