介護施設(特別養護老人ホーム、グループホーム、有料老人ホーム、デイサービス事業所など)では、地震や台風、大雨、火災、停電など様々な災害への備えが欠かせません。
特に2024年度の介護報酬改定からは、事業継続計画(BCP)の策定と定期的な研修・訓練(シミュレーション)の実施が義務付けられました。
災害はいつ起こるか分からず、いざというとき職員一人ひとりが適切に判断・対応できるよう、平時からの訓練が求められています。
実際に、令和6年(2024年)1月の能登半島地震(M7.6)では約60の高齢者施設が停電や断水に見舞われ、ケア継続が困難になり他地域へ利用者さんを避難搬送する事態も発生しました。
このように災害時に利用者さんの生命を守り生活を維持するためには、日頃のシミュレーション訓練が不可欠です。
本記事では、新人職員から中堅職員まで幅広く役立つように、ケーススタディで災害対応のシミュレーション例をご紹介します。
各ケースで「対応(職員の取るべき行動)」→「解説・ポイント」の流れで解説しますので、ぜひ自分が現場にいるつもりでシミュレーションしてみてください。
特に発生頻度の高い地震を中心に、火災や停電、台風・豪雨などその他の災害も網羅的に取り上げ、各災害について現実的な複数のシチュエーションを用意しました。
それでは各ケースを見ていきましょう。
ケース1:夜勤中に大地震が発生(特養・夜間)
午前4時過ぎ、入所定員100名の特別養護老人ホーム「〇〇〇苑」では、利用者の皆さんは就寝中です。
夜勤の介護職員は2名のみで巡回や見守りを行っていました。
そのとき突然、グラグラと強い揺れが発生しました。
体感では震度6強程度の激しい地震です。
館内は大きな音とともに停電し、非常灯以外の明かりが消えました。
食堂の食器が床に落ちて割れる音や、利用者さんの悲鳴が聞こえ、施設内は一時パニック状態です。
揺れは数十秒ほど続き、職員たちは必死に壁や手すりにつかまって耐えました。
やがて揺れが収まると、辺りには倒れた家具や散乱した物品が目に入ります。
夜勤リーダーのAさんは咄嗟に相方のBさんに呼びかけました。
「大丈夫!?みんなの無事を確認しましょう!」
未曾有の事態に、二人の夜勤職員による対応が始まりました。
対応:少人数でも落ち着いて初動対応
AさんとBさんはまず自分たちと身近な利用者さんの安全を確保しました。
揺れている間、転倒しそうな家具から離れ、近くのテーブルの下に頭を守りながら避難します。
利用者さんにも「大丈夫です、頭を守ってください!」と大声で呼びかけ、ベッドから起き上がって動こうとする方には慌てないよう声掛けしました。
揺れが止まるとすぐ、非常口の扉を開けて避難経路を確保し、懐中電灯で周囲を照らします。
停電で真っ暗な中、幸い各職員はポケットライトを携帯しており、すぐ明かりを確保できました。
二人は手分けしてフロアを巡回し、利用者さんのケガや体調不良がないか安否確認を行います。
ある居室では利用者さんがベッドから転落しそうになっていたため、Bさんが駆けつけて体を支えました。
エレベーターが停止している可能性を考え、Aさんはエレベーター内に閉じ込められた人がいないか急いで確認。
幸い夜間で利用者さんが移動中ではなかったため、閉じ込め事故はありませんでした。
次に非常扉や玄関ドアを点検します。
停電の影響で自動ドアが解錠状態になっていないか確認し、施錠を補強して利用者さんが勝手に出歩かないようにしました。
館内放送設備は使えませんが、二人で声を掛け合いながら落ち着いて避難誘導を開始します。
幸い建物被害は軽微で倒壊の危険はなかったため、利用者さん全員を安全な食堂ホールへ集め、毛布を配って保温しつつ様子を見守りました。
外部との連絡手段として非常用の携帯無線機を起動し、近隣施設や本部との連絡を試みます。
数分後、巡回中だった施設長から非常無線で応答があり、安否と状況を報告しました。
施設長からは「夜が明けたら応援の職員が徒歩で向かう」と指示を受け、二人は利用者さんに声を掛け続けながら夜明けを待ちました。
解説・ポイント:地震直後の初動対応と備え
地震発生時は「自分の身の安全確保」と「利用者の安全確保」が最優先です。
揺れている最中は無理に歩き回らず、頭部を守り倒れそうな家具から離れてください。
職員は利用者さんにも落ち着いて身を伏せるよう声掛けを行いましょう。
揺れが収まったら、すぐ避難経路を確保します。
地震で建物が歪むと扉が開かなくなる恐れがあるため、余震に備えて非常口や出入口を開けておくことが重要です。
停電していれば懐中電灯で照明を確保しますが、非常用照明(懐中電灯、ランタン等)の備蓄は日頃から点検し、夜勤者でもすぐ使える場所に保管しておきましょう。
夜間は職員が少ないため、一人で複数名を対応せざるを得ない場面も想定されます。
エレベーター停止時の対策(閉じ込めの有無確認)や、自動ドアの解錠対策(非常時に自動ドアが開放され利用者が徘徊・行方不明にならないよう施錠を工夫)も重要なポイントです。
また、呼吸器や酸素等医療的ケアが必要な利用者がいる場合、非常電源で機器を動かす手順や酸素ボンベ・手動吸引器などの準備状況も確認が必要です。
館内放送や電話が使えなくても、代替連絡手段(携帯電話の非常用充電池、無線機、スマートフォンの災害伝言サービス等)を準備しておくと安心です。
さらに、職員の応援体制もBCP上の重要事項です。
災害時に誰が出勤可能か、徒歩で来られる職員は誰か、連絡網は機能するかなど、非常時の出勤ルールを事前に決め周知しておきましょう。
今回のケースでは夜勤者2名で対応しましたが、明け方以降に追加職員が駆けつける想定でした。
実際の地震訓練でも、例えば「明け方4時に震度6の地震。直後に停電・ガス停止、6時間後に断水、交通網麻痺」といった被害想定を立てておき(本ケースと同様の想定例)、少人数体制でどこまで対応できるか訓練しておくと効果的です。
その際チェックしておくべき項目は多岐にわたりますが、停電下での照明確保手段、非常扉やエレベーター対応、医療機器のバックアップ、職員応援要請手順、非常通信手段、非常電源(発電機や蓄電池)の有無などが代表例です。
地震直後は余震や二次災害の危険もあります。
利用者さんを急いで屋外避難させるとかえって危険な場合(夜間で足元が暗い、寒さや瓦礫の危険がある等)は、無理に建物外に出ず屋内の安全な場所に待機する判断も重要です。
ケース1では建物被害が軽微な想定で屋内待機としましたが、建物損壊や火災の恐れがある場合は速やかに屋外避難を行いましょう。
いずれにせよ、平時から細かい部分までシミュレーション訓練を重ねておくことで、非常時に必要な行動がとれるようになります。
新人職員の方も、「自分ならどう動くか」を日頃から考え、経験者と一緒に訓練に参加して対応力を養ってください。
ケース2:早朝に発生した施設火災(グループホーム・夜明け前)
明け方5時頃、認知症高齢者グループホーム「△△△荘」では、夜勤の職員Cさん(1名)がラウンドを行っていました。
9名の入居者さんはそれぞれ居室で就眠中です。
静まり返った館内で、突然「ジリリリリ…!」という火災報知機の非常ベルが鳴り響きました。
Cさんが驚いて臭いを嗅ぐと、焦げたような異臭が漂っています。
「火事?」と胸騒ぎを覚え、急いで非常ベルの鳴る居室へ駆けつけました。
2階の一室から煙が漏れ、ドアノブが熱くなっています。
「○○さんの部屋から出火だ!」Cさんは咄嗟に119番通報しようとポケットの携帯に手を伸ばします。
しかし同時に「入居者さんを避難させなきゃ!」とも思い、通報より先に館内を走ってしまいそうになる気持ちを必死で抑えました。
Cさんは深呼吸し冷静さを取り戻します。
そしてまず119番で消防に通報、「2階居室から火災発生」と住所氏名を伝えました。
続いて、施設長にも非常連絡網で火災発生を知らせます。
その後、Cさんは隣室の入居者さんを起こして避難を促し始めました。
幸い出火元の○○さんは不在の部屋で、室内の寝具が燃えて煙を出している様子です。
煙はまだ少なく、火も小規模でした。
Cさんは近くの消火器を手に取り、扉を開けて短時間で初期消火を試みます。
「シュッー!」と消火器の噴射が炎に直撃し、燃え始めたベッドマットに粉末が行き渡りました。
その間に入居者さんの何人かが驚いて部屋から出て来られたので、「大丈夫ですからね、こちらへ避難しましょう」と声を掛け、順次安全な食堂へ誘導しました。
約5分後、近隣棟から駆けつけた同僚や施設長も加勢し、消防車到着前に入居者さん全員を避難完了。
炎もほぼ鎮火し、幸い負傷者は出ませんでした。
対応:通報・初期消火・避難誘導を適切に実施
火災警報が作動した際、Cさんは落ち着いて状況を確認しました。
焦げ臭さと煙で火災を確信したため、ただちに119番通報を行いました。
通報時には「グループホームで火災発生、住所○○、建物2階から出火」と必要情報を正確に伝達しています。
続けて管理者への連絡も行い、応援を要請しました。
その後、Cさんは初期消火を試みています。
グループホームは小規模で初期消火が可能と判断し、近くの消火器を使ってすぐに消火活動に移れたのは適切な対応です。
ただし人命が最優先であり、火の勢いが強い場合は無理に消火せず速やかに避難に専念します。
今回は火元の入居者さんが不在で周囲に人命の危機がなかったため、落ち着いて消火に当たることができました。
並行して、他の入居者さんへの避難誘導も開始しています。
非常ベルが鳴ったら原則全員避難との心得で、迷わず非常口から安全な場所(今回は1階食堂から屋外庭先)へ皆さんを誘導しました。
歩行が難しい入居者には後から到着した同僚と協力し車椅子で搬送し、寝たきりの方は避難シートを使って担架のように運び出しています。
避難の際、「急ぎましょう!」と声掛けしつつもパニックを抑えるよう冷静な語調で伝え、入居者さん同士が混乱しないよう配慮しました。
おおむね5分程度で全員の避難を完了でき、早朝だったため近隣住民への延焼被害も防ぐことができました。
解説・ポイント:火災時の通報・避難の基本
火災が発生したら初期段階で素早く対応することが肝心です。
まず「火事だ!」と発見した人が大声で周囲に知らせることも重要ですが、施設では自動火災報知機が設置されているため非常ベルで一斉に警報が伝わります。
【※ポイント①】通報(119番)と初期消火・避難誘導は同時進行が原則です。
消防への通報は最優先事項ですが、現場が一人きりの場合は悩ましいところです。
本ケースのCさんのように冷静さを取り戻し、まず119番通報をしましょう。
通報しながら「初期消火開始します」などと伝えると、オペレーターが状況を把握しやすくなります。
その後、可能なら初期消火に挑みます。
備え付けの消火器は訓練で使い方を習熟しておき、ためらわずに使えるようにしましょう。
炎が天井まで達していたり煙が充満している場合は既に初期段階を超えていますので、消火器より人命優先で避難です。
【※ポイント②】避難誘導は「煙と熱からの避難」が基本です。
煙は上昇するので姿勢を低く保ち、ハンカチやタオルで口鼻を覆って誘導します。
特に夜間・早朝は入居者も混乱しやすいため、職員の的確な声掛けと誘導が欠かせません。
「大丈夫です、ゆっくり行きましょう」など安心させる声掛けでパニックを防ぎつつ、迅速に非常口へと導きます。
自力避難が難しい高齢者には職員が複数人で対応し、車椅子や担架・避難シート等を活用して安全に搬送します。
施設によっては火災時にエレベーターが使用禁止になる(非常用以外停止する)ため、必ず階段やベランダ経由で避難する計画を立てておきましょう。
ワンフロア内で完結する水平避難(火元の部屋から防火扉を越えて別区域へ避難)も有効です。
たとえば防火区画が分かれている施設では、燃えている部屋の扉を閉めて煙と火を遮断し、同じ階の安全な区画に一時避難して消防の到着を待つ方法もあります。
特に夜間は職員数が限られるため、避難訓練は夜間想定でも実施してみてください。
夜勤者1人で何人誘導できるか、どの順番で救出するか、他の入居者さんはどこへ一時待避させるかなどシミュレーションし、不備があれば平時に改善策を講じます。
避難後は避難先でのケアも大切です。
点呼を行い、人員と健康状態を確認しましょう。
興奮した入居者さんがいれば落ち着かせ、水分補給や毛布の準備も必要です。
以上のように火災対応の基本は「通報・初期消火・避難誘導」の徹底です。
新人職員の方も消火器の使い方や避難経路を日頃から確認し、いざというとき迷わず行動できるよう訓練を重ねてください。
ケース3:デイ送迎中に台風直撃(デイサービス・移動時)
ある秋の午後、デイサービスセンター「▼▼▼」の職員Dさんと運転手のEさんは、利用者さんのご自宅への送迎業務の真っ最中でした。
朝から台風16号が接近中との予報が出ており、昼過ぎには暴風警報も発令されています。
本来であればデイサービスは休業判断となる状況でしたが、発令が遅れたためこの日は午後まで営業していました。
15時過ぎ、7名の利用者を乗せたワゴン車が施設を出発します。
空は真っ黒な雨雲に覆われ、激しい風雨でワイパーを最大にしても前が見えづらい状態です。
道沿いの側溝は茶色い水が溢れ出し、小さな川の水位も明らかに上昇していました。
「これは危ないな…」運転のEさんが顔を曇らせ、Dさんに「引き返した方がいいでしょうか?」と相談します。
しかし既に利用者さん宅方面へ半分以上進んだところです。
そのとき、「特別警報(大雨)」の緊急速報がスマートフォンから鳴り響きました。
近隣の河川で決壊が起きたとの報も入り、地域一帯に避難指示が出ました。
Eさんは冠水しかけた道路脇に車を停め、「皆さん落ち着いてください、すぐ安全な場所に避難します」と乗客に告げました。
Dさんと協力して乗っていた利用者を順番に車から降ろし、高台にある近くの公民館まで誘導することにしました。
幸い公民館は自主避難所として開放されており、中には地域の方々が数名避難していました。
職員Dさんは公民館の責任者に事情を説明し、一時的に利用者さんを受け入れさせてもらえることになりました。
車から全員を降ろして10分ほど歩く途中、Dさんは利用者さん全員の手を取り「大丈夫ですよ、もう少しで建物に着きますからね」と声を掛け続けました。
風雨に晒され濡れて震える利用者もいましたが、何とか無事に公民館へ到着。
すぐ施設と各利用者さんのご家族へ連絡を取り、全員の安全を確認しました。
その後、雨が小降りになるまで数時間、公民館で待機し、職員らは毛布や温かいお茶を用意して高齢の利用者さんをケアしました。
対応:臨機応変に運行を中止し安全確保
DさんとEさんは、台風の危険性が高まったと判断した時点で送迎業務の途中中止を決断しました。
本来、暴風雨や浸水の恐れがある場合はデイサービスの営業自体を取りやめるか早めに切り上げるのが原則です。
今回警報発令が送迎中となってしまいましたが、職員は落ち着いて利用者の安全確保を最優先しました。
具体的には、危険な道路での走行を避け、安全な場所に一時避難しています。
車は既に冠水し始めており、このまま運行を続ければエンストや立ち往生のおそれがありました。
道路が冠水してきたら車での移動は非常に危険です。
短時間で水位が上がり車両が水没するケースもあります。
おおよそ水深30cmを超えると車はエンジン停止、50cmを超えると浮いて制御不能になると言われます。
わずか数十センチの水位でも車は動けなくなり、深い水に突入すれば流されてしまいます。
したがって、冠水が始まったら無理に車で移動せず、早めに車を捨てて高所へ避難するのが鉄則です。
今回Eさんは適切な判断で車を停止させ、Dさんと共に徒歩で近くの公民館に避難しました。
徒歩での避難も、水位が50cmを超える流れでは人は歩けなくなるため注意が必要ですが、幸い高台の避難所が近く短時間の移動で済みました。
避難誘導では、Dさんが利用者さん一人ひとりに付き添い、転倒やはぐれを防ぐため手をつないで歩行しました。
風雨の中では声が聞こえにくいため、大きな声でゆっくりハッキリと「ここにいますから安心してください」と声掛けし、不安を和らげるよう努めています。
避難所に到着後は家族や施設へ速やかに連絡を入れ、状況を共有しました。
その後の待機中も毛布で体を温めたり水分補給するなど、避難先での体調ケアにも気を配っています。
解説・ポイント:台風・豪雨時の送迎と避難判断
台風や記録的豪雨の際、デイサービス事業所では送迎時の安全確保が最重要課題です。
基本的に台風接近が予想される場合、事前に運営を休止する判断基準を設けておきましょう。
自治体から避難指示や気象庁の警報・特別警報が出るレベルであれば、利用者さんの安全を最優先し営業中止もしくは短縮を決断します。
利用者さんやご家族、ケアマネジャーへの連絡手段(電話連絡網等)も予め整備しておき、早めに「本日は台風のためお休みします」と伝達できるようにします。
どうしても営業中に急変した場合は、本ケースのように送迎を切り上げて緊急避難も選択肢に入ります。
送迎車には常に避難用の簡易毛布や雨具、非常食、水などを備蓄し、万一の待機や避難に備えましょう。
冠水時の車移動の危険性は前述の通りで、「車は諦めて人命第一」が鉄則です。
ハザードマップで浸水想定地域に事業所や送迎ルートが含まれる場合は、代替ルートや一時避難先(高台の公共施設など)を事前に確認しておきます。
実際、2016年の台風10号では岩手県の認知症グループホームが河川氾濫で浸水し、早めに避難できず入所者9名が犠牲になる痛ましい事故が発生しました。
この教訓から、「逃げ遅れないこと」の大切さが再認識されています。
避難情報や気象情報はテレビ・ラジオはもちろん、自治体の防災メールや気象庁の情報サイト等から入手し、警報が出た段階で速やかに判断・行動を起こすことが重要です。
特別警報や避難指示レベルの情報を誰がチェックし、どう判断するか、マニュアルで明確に決めて周知しておきましょう。
避難時には利用者の体調・足元にも十分注意します。
高齢者は視力や足腰が弱くなっているため、職員が付き添ってゆっくり安全に誘導してください。
車椅子利用者の場合、無理に歩かせず車椅子ごと避難所へ移動できるよう、避難経路に段差がないか日頃から確認が必要です。
避難所では受付で介護が必要な方がいることを伝え、可能であれば福祉避難所への移送も検討します。
近年は各地で風水害が毎年のように起きていますので、デイサービスだけでなく訪問介護等でも「利用者宅訪問中に災害発生」のケースを想定し、平時から心構えと連絡体制を整えておきましょう。
ケース4:地域停電による生活への影響(有料老人ホーム・夕方)
初冬の夕方、有料老人ホーム「□□□館」(定員80名)では、日勤帯から夜勤への引き継ぎが行われようとしていました。
時刻は17時半、日もとっぷり暮れて暗くなり始めた頃です。
突然「バツン!」という音とともに建物全体の電気が一斉に消えました。
大規模な停電が発生したのです。
館内非常灯が点灯し、非常ベルが「ピーッ」と鳴っています。
居室や廊下はほぼ真っ暗になり、一部の利用者さんは不安そうに「どうしたの?」と部屋から出てこようとしています。
職員Fさん(中堅職員)はとっさに「皆さん大丈夫です、安心してください」と声を張り上げました。
各スタッフも持っていた懐中電灯をすぐ点け、手分けして利用者の居室へ向かいます。
エレベーターは止まっており、2階フロアの車椅子利用者は自室に閉じこめられた形です。
Fさんはまずエレベーター内に閉じ込められた人がいないかインターホンで呼びかけ確認しました(幸い乗っていた人はいませんでした)。
次に、フロアごとに分かれ全利用者さんの安否確認を実施します。
とくに自力で動けない方は部屋で不安がられているため、職員が近くに待機し「すぐ電気は戻りますからね」と落ち着かせました。
しばらくすると館内放送で支配人から「現在、地域一帯で停電中です。非常用発電機を起動しますので待機してください」とアナウンスが流れました。
10分後、非常用電源により各階の照明や暖房が一部復旧し、エレベーターも動き始めました。
Fさんは念のため自動ドアの施錠状態を確認します。
停電により正面玄関ドアが解錠され開いたままになっていたため、利用者さんが勝手に出ないように職員総出で見守り、手動でドアを閉めて鍵を掛け直しました。
食堂ではちょうど夕食準備中でしたが、調理スタッフがカセットコンロで汁物を温め直し、停電中でも提供できる常温のおかずとともに配膳を済ませました。
利用者さんからは「真っ暗で怖かったわね」など声が上がりましたが、職員が笑顔で対応し大きな混乱はありませんでした。
結局、停電は2時間ほどで解消し、その夜は大事に至ることなく過ごせました。
対応:停電時は照明・安全確保と臨機応変なケア
停電発生時、Fさんたちは迅速に照明を確保し、利用者さんの安全を守る行動を取りました。
非常灯だけでは暗い箇所も多いため、懐中電灯やランタンをすぐ使用できるよう各自携行していたのは良い備えです。
非常用照明器具の電池切れがないよう日頃から点検しておくべきなのは言うまでもありません。
また、エレベーター停止への対応も重要な初動です。
今回は閉じ込めがなかったものの、万一中に人がいる場合はインターホンで声掛けしつつ速やかに救出手配を行います。
館内の要介護度が高い利用者は停電でナースコールが使えない可能性もあるため、職員が直接訪室して安否確認することが求められます。
Fさんたちは大声で安否を呼びかけ、不安そうな利用者さんに寄り添って心理的ケアを行えた点も適切です。
停電になると、自動ドアが開放状態になる施設もあります。
徘徊のおそれがある利用者さんが勝手に出て行かないよう、出入口の安全管理を徹底しましょう。
今回も手動でドアを閉め直し、職員が見張りを付けています。
もし真夏や真冬で空調が止まった場合は、室温上昇・低下にも注意が必要です。
冬場なら毛布を配って保温し、夏場なら扇子やうちわで扇ぐ、水分補給させる等の対策を取ります。
停電の復旧見込みが立たない場合に備え、施設ではポータブル電源や発電機を備蓄しておくと安心です。
たとえば携帯電話の充電や簡易照明程度であればポータブルバッテリーで賄えますし、発電機があれば一部の医療機器や冷蔵庫を稼働させられます。
医療依存度の高い利用者については、停電時に酸素濃縮器や吸引器が止まった際の代替手段(ボンベや手動器具)があるか確認しておきます。
解説・ポイント:停電が長期化した場合の対応策
給食調理中に停電した場合、非常用の調理器具(カセットコンロ等)でどこまで調理提供できるか、代替メニューは何かを決めておきます。
冷蔵庫が止まれば食材が傷むため、非常食の活用も視野に入ります。
今回のケースでは調理スタッフが即座にカセットコンロで対応しましたが、調理スタッフが不在の時間帯(夜間など)に停電したら介護職員が代行しなければなりません。
非常食(レトルトや乾パン等)の場所や使い方は全職員が把握しておきましょう。
また、通信障害にも備えて安否確認の伝達方法を複数用意しておくことも大切です。
停電で電話・ネットが不通の場合、職員が自ら近隣の避難所や役所に赴き情報収集する手段も考えておきます。
停電そのものは命に直結しないように思えますが、その影響で暖房停止・通信遮断・医療機器停止など二次的なリスクが生じます。
過去の地震では停電・断水が長期化し、施設生活が成り立たなくなった例もありました。
こうした事態に備え、非常電源や備蓄、生活物資の確保計画を予め訓練で確認しておきましょう。
新人の方も非常持出品のリストや停電対応マニュアルに目を通し、「もし今停電したら自分は何をするか」をシミュレーションしてみてください。
おわりに
以上、地震・火災・台風・停電といった災害シナリオ別に、介護施設職員が知っておきたいBCP演習例をケーススタディ形式で紹介しました。
新人職員でも理解しやすいよう具体的な場面を追いながら対応策を示しましたが、いざ本番では想定外の出来事も起こりえます。
大切なのは、平時から様々なケースを想定してシミュレーション訓練を積んでおくことです。
訓練では机上シナリオだけでなく、実際に体を動かす避難訓練や物品の使い方訓練も取り入れましょう。
形式的に行うのではなく「本当に起きたらどうする?」と細かい部分まで確認することで、非常時にも落ち着いて対応できる自信につながります。
災害対応はチームで行うものです。
新人だからといって指示待ちになるのではなく、自分の役割を理解し主体的に動くことが求められます。
中堅職員の方は今回の演習例を新人指導や訓練計画に役立て、知識の再確認をしていただければ幸いです。
災害は忘れた頃にやってきます。
日頃から「備えあれば憂いなし」の精神で、利用者と自分たち職員の安全を守る準備をしておきましょう。
万が一のとき、本記事のシミュレーション経験が皆さんのお役に立つことを願っています。
それではこれで終わります。
「他にも【非常災害時の対応に関する研修】の資料をみてみたい!」という方は、コチラの記事をご覧下さい。【介護施設】非常災害時の対応に関する研修【研修資料一覧】
【介護事業所の必須研修資料一覧(2025年度版)】
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