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身体拘束

介護職必読!厚生労働省ガイドラインに学ぶ身体拘束排除の取り組み

とも
とも
こんにちは、とも(@tomoaki_0324)です。介護施設で必須の【身体拘束の排除の為の取り組みに関する研修】をタイトルのような内容でブログ記事にしました。
こんな方におすすめ
  • すぐに使える研修資料・マニュアル・事例などがほしい
  • 資料作成を急いでいる、でもちゃんと伝わる内容にしたい
  • 現場の職員が興味持ってくれるテーマって何?
  • 去年と同じ内容じゃまずいよな…
  • 研修担当じゃないけど、あの人に教えてあげたいな

筆者(とも)

記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。

日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。

はじめに

身体拘束とは、介護現場で利用者さんの行動の自由を他者が制限する行為を指します。

例えば「ベッドから転落しないように身体を縛る」「車椅子から立ち上がれないようベルトで固定する」といった対応です。

こうした行為は一見安全を守るための措置に思えますが、実は利用者さんの尊厳や人権を深く傷つける重大な問題行為なのです。

厚生労働省も介護施設での身体拘束ゼロを強く推進しており、2020年以降にはガイドラインの改訂や法制度の強化が行われました。

本記事では、その最新ガイドラインに沿って「なぜ身体拘束が問題なのか」「私たちの働く施設ではどんな課題があるのか」「身体拘束ゼロに向けて現場で何をすれば良いのか」を、やさしい語り口で解説します。

専門用語は噛み砕き、現場の事例やチェックリストも交えながら説明します。

参考資料:介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き(令和7年3月厚生労働省老健局)

身体拘束の基本 ~定義と法的位置づけ~

手にミトンをつけられて悲しそうなおじいさん

まず、「身体拘束」とは具体的に何かを押さえておきましょう。

厚生労働省の定義によれば、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為を指し、緊急やむを得ない場合を除き禁止されています。

平たく言えば、「利用者さん本人の意思で動いたりやめたりできないように周囲が身体を押さえたり縛ったりすること」が身体拘束です。

では「よくある身体拘束の具体例」を5つご紹介します。

【よくある身体拘束の具体例】

①ベッドや車椅子に縛り付ける。腰ベルトやY字型ベルトで固定したり、車椅子用テーブルを装着して立てなくする。

ベッド周囲を柵(サイドレール)で囲んで本人が自分で降りられないようにする行為も含まれます。

②手足の自由を奪う。暴れないよう身体を押さえつけたり、点滴やチューブを抜かないようミトン型手袋を付ける。

自分の意思で脱衣できないように介護用つなぎ服を着せることも該当します。

③隔離や閉じ込め。徘徊防止のため居室や建物の出入口を鍵でロックし、本人が自由に出られないようにする。

トイレや浴室等に長時間閉じ込めるのも身体拘束です。

④薬物による鎮静。行動を落ち着かせる目的だけで向精神薬や睡眠薬を過剰に投与し、意図的に動けない状態にする。

いわゆる「ケミカル・レストレイント(薬物による拘束)」と呼ばれるものです。

⑤その他の巧妙な拘束。

車椅子のブレーキを本人が外せないようにして動けなくする、歩行器や義歯・眼鏡など本人の移動や行動に必要なものを取り上げて使わせない、「静かにしないとベッドに縛りますよ」といった威圧的な言葉かけも、広い意味で行動の自由を奪う行為として問題視されます。

いかがでしょうか。

新人の皆さんは「え、こんなことまで身体拘束になるの?」と驚いたかもしれません。

要は、本人の自由な意思や動きを制限する行為はすべて身体拘束の可能性があるのです。

たとえ善意や安全配慮のつもりでも、本人が自分でやめられないような関与はNGと考えましょう。

身体拘束をしてはいけない理由

では、なぜ身体拘束はそこまで禁止されるのでしょうか?

最大の理由は、身体拘束が利用者本人にも周囲にも多くの弊害をもたらすからです。

厚労省ガイドラインでも、「身体拘束は高齢者の尊厳を害し、その自立を阻害する等の多くの弊害をもたらす」ことを全ての関係者が認識する第一歩の重要性が強調されています。

具体的な弊害として、以下のような影響が指摘されています。

①身体への影響(身体的弊害)

関節が固まって動かなくなる関節拘縮、筋力低下や廃用症候群による生活機能の衰え、体を縛った部分の褥瘡(床ずれ)。

食欲低下や心肺機能・免疫力の低下など健康面への悪影響も報告されています。

さらに、拘束から逃れようともがく中で転倒・転落や最悪の場合は窒息といった重大事故につながる危険性もあります。

②心への影響(精神的弊害)

本人はなぜ自分が縛られるのか理解できず、強い不安・怒り・屈辱感や絶望感を味わいます。

認知症の進行が早まったり、せん妄(突然の混乱状態)を頻発させる原因にもなります。

人間として大切にされていないという思いは、生活意欲の低下につながりQOL(生活の質)は著しく損なわれます。

③周囲への影響(社会的弊害)

拘束された姿を見せられるご家族もショックを受け、精神的苦痛や「縛らせてしまった」罪悪感に苛まれます。

介護に当たるスタッフも「こんな方法しか取れないのか…」とモチベーションが下がり、専門職としての誇りも傷つきます。

施設や事業所への社会的信頼も低下し、「あの施設は虐待まがいのことをしている」と偏見を持たれる恐れがあります。

さらに拘束による心身機能の低下で余計な医療措置が増え、経済的負担も増加するという悪影響も指摘されています。

こうして見てみると、身体拘束は誰も幸せにしないどころか、関わる全ての人にデメリットをもたらすことが分かりますね。

特に強調したいのは、「身体拘束は悪循環を生む」という点です。

「たとえ転倒を防げたように見えても、実際は転倒すらできない状態に追い込んでいるに過ぎない」のです。

縛られ身動きできない利用者さんは筋力が衰え、認知機能も低下し、余計に転倒や問題行動のリスクが増します。

すると施設側はさらに拘束を強めてしまい、利用者さんの状態はますます悪化する…まさに負のスパイラルです。

反対に、拘束を無くす取り組みはこの悪循環を断ち切り、高齢者の自立を促す「良い循環」を生み出します。

利用者さんの尊厳ある暮らしを守るためにも、早めにこの悪循環から抜け出すことが肝心なのです。

法律上も原則禁止

身体拘束の弊害が大きいことから、日本では介護保険法に基づく各種施設・事業所の運営基準で身体拘束は禁止されています。

例えば認知症高齢者グループホーム(認知症対応型共同生活介護)の運営基準にも、以下の文章が明記されています。

利用者の生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為を行ってはならない

つまり「緊急やむを得ない場合」以外、どんな理由があっても身体拘束はダメなんですね。

では「緊急やむを得ない場合」とはどんなケースでしょうか?

厚労省のガイドライン等では、以下の3つの要件をすべて満たす場合のみ例外的に身体拘束が許容されるとしています。

①切迫性

本人または他の利用者の生命や身体に危険が及ぶ緊急切迫した状況であること(今まさに重大な事故や生命の危機が差し迫っている状態)。

②非代替性

その危険を避ける手段が他になく、身体拘束以外に方法がないこと(あらゆる代替策を試しても効果がなく、他に手立てが残されていない状態)。

③一時性

身体拘束が一時的な措置であり、危険回避のため最小限の時間・範囲にとどめられること(ずっとではなく短時間だけ、状況が落ち着いたらすぐ解除するという前提)。

例えば、とある利用者さんが経管栄養のチューブを自分で何度も抜いてしまい命に関わるおそれがあるケースでは、委員会で話し合い「切迫性:チューブ自己抜去で栄養が取れず生命の危険が高い」「非代替性:栄養を確保する他の手段がない」「一時性:退院直後の不安定な期間だけに限定する」ことを確認し、やむを得ず一時的な上肢の抑制を行った例があります。

このように本当に緊急で他に方法がない場合に限り、期間と範囲を最小限に限定した身体拘束が例外的に許されるのです。

しかし注意してほしいのは、この「例外」はあくまで最後の手段だということ。

しかも、たとえこの3要件を満たす場合でも、施設内で事前に定めた手続きを経て慎重に判断する必要があります。

現場の独断で「危ないから」と安易に拘束してしまえば、それは原則違反であり高齢者虐待として扱われかねません。

厚労省も「緊急やむを得ない場合の適正な手続きを経ていない身体的拘束は、高齢者虐待に該当する行為とされ、自治体への相談・通報が必要」と明言しています。

「緊急やむを得ない場合の手続き」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。

スピーチロック
【介護施設】身体拘束の排除の為の取り組みに関する研修 筆者(とも) 記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホ...

厚労省ガイドラインを読み解く

ここからは「身体拘束ゼロ」を目指す上で指針となる、厚生労働省のガイドラインの内容をやさしく解説します。

厚労省は平成13年(2001年)に「身体拘束ゼロ作戦」を開始しガイドラインを策定、その後も見直しを重ねてきました。

近年では令和7年(2025年)3月に最新の手引きが公表され、認知症基本法の施行や在宅領域での拘束問題にも対応して内容が更新されています。

グループホームなど地域密着型施設も含め、すべての介護現場で役立つ実践的な指針となっています。

「尊厳の保持」と「自立支援」がキーワード

ガイドラインの根底にある理念は一貫して「高齢者の尊厳の保持」と「自立支援」です。

介護保険制度でも平成17年に「尊厳の保持」が基本理念に追加されて以来、この考え方が重要視されています。

認知症基本法(2023年成立)でも「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすこと」が目的に掲げられ、たとえ認知症で意思表示が難しくなってもその人らしい生活を続けられるよう支えることが求められています。

身体拘束はそうした尊厳ある暮らしに真っ向から反する行為です。

ガイドラインでは「身体拘束は本人の行動の自由を制限し、尊厳を損なう行為である」と明記され、まず現場のすべての人(職員だけでなく管理者や家族も含めて)が“身体拘束はダメだ”という共通認識を持つことが出発点だと強調されています。

新人の皆さんも、是非「利用者さんは人として尊重されるべき存在。どんな状況でも縛り付けていい理由なんてないんだ」という基本を改めて胸に刻んでくださいね。

身体拘束ゼロを実現するための組織的取り組み

ガイドラインには、身体拘束廃止に向けて施設や事業所が取り組むべき具体策も示されています。

ポイントを整理すると以下のようになります。

  1. 施設内の委員会設置と指針の整備
  2. 定期研修の実施
  3. 適切なケアの検討と共有
  4. 緊急時対応のルール化
  5. 家族への説明と参加

それぞれ、具体的に説明します。

①施設内の委員会設置と指針の整備

全職員が参加する「身体的拘束適正化委員会」(あるいは虐待防止委員会)を組織し、定期的に会議で検討を行うこと。

また、事業所ごとに「身体拘束等の適正化のための指針(ポリシー)」を文書で定めておき、職員や利用者ご家族にも周知します。

グループホームなど小規模事業所では近隣の他事業所と合同で委員会を開催し、事例検討や情報交換を行うのも有効です。

実際、とあるグループホームでは法人内外のGH計4事業所で合同の身体拘束廃止委員会を立ち上げ、定期的に事例検討や研修計画を共有したところ、職員の意識が高まりケアの質向上につながったそうです。

②定期研修の実施

職員に対し年2回程度、身体拘束の禁止や高齢者虐待防止に関する研修を継続して行います。

新人研修でも必ず取り上げ、非常勤職員や夜勤専門スタッフにも漏れなく周知しましょう。

研修では身体拘束の弊害や代替ケアの方法など具体的な知識を学び、スタッフ全員で「しないケア」のスキルアップを図ります。

③適切なケアの検討と共有

利用者さん一人ひとりについて「どうすれば身体拘束しないで安全を確保できるか」をチームで話し合いケアプランに反映します。

例えば転倒リスクの高い方には居室の環境調整(ベッドや手すりの工夫、転倒センサーの活用など)を行ったり、徘徊癖のある方には職員や地域住民が見守りネットワークを作る等、環境整備や人的サポートによる代替策を検討します。

検討内容やケアの工夫は全職員に共有し、チームで統一した対応ができるようにします。

④緊急時対応のルール化

万一どうしても一時的に身体拘束せざるを得ないケースが発生したら、前述の3要件を委員会で慎重に検討し、ご家族への説明と同意を得た上で最小限の措置を取ります。

誰か一人の独断で行わないよう、組織として手順を決めておくことが大切です。

実施した場合は必ず記録を残し(日時・理由・経過など)、後日委員会で検証して再発防止策を検討します。

⑤家族への説明と参加

ご家族が無理解だと「転倒するくらいなら縛ってでも安全に」と拘束を望むケースもあり得ます。

しかしご本人の権利擁護の観点からは、ご家族であっても安易に拘束を求めることはできません。

ガイドラインでも家族への支援・教育の重要性が触れられており、ご家族にも身体拘束の弊害や代替手段を丁寧に説明して協力を得ることが大事です。

「多少のリスクはあってもできるだけ自由に、その人らしく過ごしてもらいましょう」という施設のケア方針を共有し、安心して預けてもらえる信頼関係を築きましょう。

以上のような組織的取り組みを地道に積み重ねることで、「身体拘束ゼロ」の実現に近づいていきます。

厚労省も2024年度の介護報酬改定でこれらの取り組みを強力に後押ししています。

具体的には、虐待防止委員会の未開催や職員研修・指針整備の未実施に対し、施設系サービスでは10%もの報酬減算(身体拘束廃止未実施減算)が適用される仕組みが導入されました。

たとえ「うちは拘束なんてしていないよ」という施設でも、委員会開催・指針整備・研修実施の全部を怠れば減算対象になるのです。

このように制度面からも「やるべきことはやってくださいね」という強いメッセージが出ています。

グループホームにおける身体拘束排除の課題

さて、ここからはグループホーム(認知症対応型共同生活介護)に焦点を当ててお話しします。

グループホームは少人数で家庭的な環境の中、認知症高齢者がその人らしく生活できることを目指す施設です。

他の介護施設に比べ自由で穏やかな暮らしが特徴ですが、それでも身体拘束にまつわる課題が全く無いわけではありません。

グループホームならではの状況は、次の4つがあげられます。

  1. 徘徊や外出願望への対応
  2. 転倒リスクと安全確保
  3. 周辺症状(BPSD)への対処
  4. スタッフの意識・知識不足

それぞれ具体的に解説していきます。

①徘徊や外出願望への対応

認知症の方が「家に帰りたい」「外に出たい」と訴えてホームの外に出ようとする場面は、GHでも日常茶飯事です。

少人数ケアとはいえ、夜間帯は職員1人で数人の入居者を見守るケースも多く、全員に目を配るのは容易ではありません。

「勝手に出歩かれたら危ないし見きれない…」という不安から、玄関ドアに鍵をかけたりセンサーを設置したりするGHもあるでしょう。

しかし鍵をかけて入居者さんを閉じ込めることは原則身体拘束に当たります。

実際に外出を完全に禁止したりドアを施錠する対応は、本人の行動の自由を奪う行為そのものだからです。

対応策としては、玄関に職員を配置して声かけで落ち着いてもらう、地域の見守りネットワークと連携して安全に外出できる仕組みを作る、庭や敷地内で散歩できる環境整備をする、といった工夫が考えられます。

「どうすれば閉じ込めなくても安全に過ごせるか」をチームで知恵を出し合いましょう。

②転倒リスクと安全確保

認知症の入居者さんでも比較的身のこなしがしっかりしている方は多く、ベッドから起き上がったり歩き回ろうとします。

転倒による骨折やケガは避けたいところですが、だからといってベッドに柵をつけて降りられなくするのは拘束です。

車椅子や椅子に座ってもらっても、安全帯や腰ベルトで縛り付けてはなりません。

「立ち上がると危ないから…」とテーブルで囲い込んでしまうのも典型的な拘束行為です。

GHでは家庭的な家具配置ゆえに転倒リスクを完全になくすのは難しいですが、環境面の配慮でリスクを下げることができます。

例えば居室や共有スペースの床にクッション性のマットを敷く、段差や障害物をなくす、夜間は照明を足元に点けておくなどです。

介護記録で転倒ヒヤリハットがあった場所を分析し、配置を変えるだけでも事故は減らせます。

また転倒センサー付きマットや見守りカメラを活用し、縛らずに見守るテクノロジーも積極的に導入したいですね。

③周辺症状(BPSD)への対処

認知症の入居者さんは、幻覚や妄想、不穏行動など様々な周辺症状が出る場合があります。

特に夜間に大声を出したり興奮して暴れてしまうケースでは、他の入居者さんの安眠を守るためについ身体を押さえつけたくなるかもしれません。

しかし、たとえ一時的でも押さえつけは身体拘束です。

GHでは職員も専門職とはいえ看護職員は常駐していない場合が多く、薬物で即座に鎮静…という医療的対応も簡単ではありません。

むしろ薬に頼りすぎること自体がケミカルな拘束になり得ます。

BPSD対応の基本は「その方がなぜそんな行動をするのか背景を探る」ことです。

痛みや体調不良が隠れていないか、トイレなど何か必要なことを訴えていないか、環境にストレス要因はないか。原因をアセスメントし、取り除いてあげれば行動が治まることも多々あります。

実際に前述したチューブ抜去の男性の例でも、不快の原因(チューブが当たってかゆい)を取り除いたら自分で抜かなくなり、拘束を解除できました。

GHでも、怒り出す人には安心する音楽やアロマを試す、不眠の人には日中の活動量を増やす等、薬以外のケアで落ち着かせる工夫ができます。

ポイントは「問題行動と思わず、何か理由があるはずと考える」ことです。

④スタッフの意識・知識不足

GHは他の施設に比べれば拘束禁止の理念が浸透している方ですが、それでも新人職員には明確に教育しないと誤解が生じることがあります。

例えば新人さんが夜勤中に「入居者さんがベッドから起き出そうとして危ないから」と独断でベッド柵を上げてしまったケースなどがあります。

「だって落ちたら大変でしょ?」という善意からですが、これは明確に拘束です。

こうしたミスを防ぐには日頃からの研修と情報共有が大切です。

GHは職員の人数も少ない分、風通しよく「◯◯さん昨日こんな様子だったけど、どう対応する?」と話し合える環境を作りましょう。

困ったときは一人で抱えず先輩や管理者に相談し、「絶対に縛らない」という前提で一緒に解決策を考えることが新人さんには必要です。

以上、グループホームにおける代表的な課題を挙げました。

大事なのはどんな状況でも安易に身体拘束に頼らない姿勢です。

GHは少人数ゆえに職員同士や地域との連携もしやすいはずです。

ぜひその強みを生かして、「縛らないケア」をチームみんなで追求してください。

身体拘束排除のためのステップと工夫

では具体的に、グループホームで身体拘束ゼロを実現するためのステップや工夫を確認しましょう。

新人の方も明日から実践できるよう、順を追って説明します。

現状の振り返りと気づき

まず最初にやるべきは、自施設の現状を客観的に振り返ることです。

いきなり「ゼロにするぞ!」と意気込む前に、今どんな拘束的ケアが紛れ込んでいないかチェックしましょう。

チェックリスト:施設の身体拘束リスクを自己点検!

  • 契約時に入居者・家族へ「身体拘束等の禁止」について十分説明しているか?
  • 入居者の行動を制限するルール(消灯時間に部屋から出てはいけない等)を設けていないか?
  • 夜間や緊急時に備えた対応マニュアルはあるか?(暴力行為時の対処法、徘徊時の発見体制など)
  • ベッド柵や車椅子ベルトを使用していないか?使用している場合、それは本当に本人の安全確保に必要で、かつ本人が自力で外せるものか?
  • 徘徊防止のためのドアロックやセンサー設置はどうなっているか?(ロックしている場合は即解除を検討。センサーは鳴動時に駆け付け対応できる仕組みか確認)
  • 認知症による不穏や睡眠障害への薬物依存度は?できるだけ非薬物ケアで対応できているか?
  • スタッフは「これって拘束かな?」と疑問を持った時に気軽に相談できているか?そうした声を上げる風土があるか?
  • 身体拘束が一時的な措置であり、危険回避のため最小限の時間・範囲にとどめられること(ずっとではなく短時間だけ、状況が落ち着いたらすぐ解除するという前提)。

いかがでしょう?!

一つでも「ドキッ」としたら、そこが見直しポイントです。

GHでは意外と暗黙の了解で行われている“小さな拘束”が潜んでいることがあります。

「夜中徘徊されると困るから居室に鍵を…」なんて措置は絶対ダメですが、例えば「夜間に出歩かないよう声かけして部屋に留まってもらう」一見穏やかな対応でも、毎晩強制的であれば心理的拘束と言えるかもしれません。

まずは現状を職員みんなで共有し、問題意識を持つことがスタートです。

チームで目標を共有する

次に、スタッフ間で「身体拘束ゼロを目指そう」という共通目標をしっかり共有しましょう。

介護主任や管理者から新人さんまで、全員が同じ方向を向くことが大切です。

前述の通り、身体拘束廃止はトップ(管理者)のコミットメントが不可欠です。

管理者は「絶対に身体拘束はしない」と明言し、現場のバックアップを約束してください。

新人さんも「この施設はそういう方針なんだな」と最初に腹をくくることで、日々のケア判断にブレがなくなります。

チーム共有の手段としては、ミーティングや委員会での宣言が有効です。

例えば月例ミーティングで「今年度の目標:身体拘束ゼロ維持!」と掲げ、昨年度の実績(拘束ゼロ達成できたか、ヒヤリハットは何件あったか等)を振り返るのも良いでしょう。

委員会でガイドラインを皆で読み合わせ、「拘束は尊厳を損なう行為と厚労省も言っています、一緒に頑張りましょう」と声掛けするのも効果的です。

新人さんもぜひ委員会やミーティングで発言してみてください。

「夜勤で怖い思いをしたけど、どう対応すれば良いですか?」といった率直な問いかけは、他の職員にも気づきを与えます。

現場全員で課題意識を共有し、“しない介護”へのモチベーションを高めることが、ゼロへの原動力となります。

個別ケアの見直し(アセスメントとケアプラン改善)

チームの意識が固まったら、具体的な個別ケアの見直しに入りましょう。

入居者さんお一人おひとりについて「どんな場面で拘束的対応をしがちか」「それを避けるには何ができるか」を検討します。

ポイントは根本原因のアセスメントです。

たとえば夜間に歩き回るAさんについて、「どうして歩き回るのか?」を掘り下げます。

昼間の運動不足で眠れないのかもしれませんし、トイレに行きたいのかもしれません。

BPSDとして現れている行動には必ず理由があります。

ガイドラインでも「身体拘束を必要とした要因を取り除くことにより拘束を解除できた実践事例」が紹介されていますが、まさに原因を探って対応策を講じたことで拘束が不要になった好例です。

GHでも各入居者さんの行動や発言をよく観察し、その人のニーズ(何を求めているのか)や不快の原因を探りましょう。

原因が見えたら、それを取り除くケアプランの改善です。

上記のAさんなら「日中のレクリエーションを増やし体を動かす」「夕方に足湯や音楽鑑賞でリラックスしてもらい夜間の不安を軽減する」等の対応をプランに組み込みます。

トイレで起きる人には夜間オムツに頼らず適時トイレ誘導するケアを計画します(オムツへの過度な依存も尊厳侵害につながります)。

また、福祉用具の活用も検討しましょう。

ベッドから起き上がる方には離床センサー付きマットを敷いておき、起き上がりを検知したら駆け付けるとか、杖歩行の方には転倒予防の歩行器や靴を用意するなどです。

「身体拘束しなくても大丈夫な環境・用具はないか」とアイデアを出してみてください。

大事なのは、一度プランを立てたら終わりではなく、効果をモニタリングして柔軟に修正することです。

ケア内容が日々変わる可能性もあるので、職員間の申し送りや記録で変化を共有し、常に最善策をアップデートしていきましょう。

新人さんも「昨日はこれでうまくいった」「今日はダメだった」など遠慮なく報告してください。

それが次のケア改善につながります。

家族と地域の協力を得る

身体拘束ゼロを維持するには、ご家族や地域住民の協力も欠かせません。

特に認知症の方の生活は、施設内だけで完結しないことがあります。

外出支援や見守りなど、地域と一体になった取り組みが力を発揮します。

ご家族や地域の協力を得るには、以下の2つのポイントを意識しましょう。

①家族への説明と同意

前述したように、ご家族には施設の方針とケア内容をしっかり説明し理解してもらいましょう。

たとえば「お母様は夜間起きて歩かれますが、私たちは極力拘束せず見守りで対応します。転倒リスクはゼロではありませんが、万一の際は誠心誠意対応します。それでもよろしいですか?」といった具合に、リスクと代替策を具体的に伝えます。

大抵のご家族はお話しすれば理解し協力してくださいますし、むしろ「自由にさせてあげてください」と言われるケースも多いです。

②地域資源の活用

GHは地域密着型サービスですので、その地域の見守りネットワークや専門機関をぜひ活用してください。

例えば民生委員さんやご近所の方と連携し、認知症の入居者さんが地域で迷っていたら声をかけてGHに連絡してもらう仕組みを作ることもできます。

実際、ある在宅介護の事例ではGPS端末を持たせ、行方不明時に地域で捜索協力してもらう体制を整えたケースもあります。

GHにおいても「地域ぐるみで見守る」発想はとても有効です。

また、緊急時に駆け付けてくれる機械的な通報システム(徘徊感知機やナースコール的なもの)を導入する手もあります。

ただし、機械に任せきりではなく最終的には人の目と手が必要なので、あくまで補助として活用してください。

継続した学びと振り返り

最後に、継続的な学習と振り返りの姿勢を持ちましょう。

身体拘束ゼロへの道は一朝一夕にはいかないかもしれません。

だからこそ、定期的に研修で新しい知識を得たり、スタッフ間で事例検討を行って振り返ることが重要です。

例えば半年に一度は「身体拘束ゼロ研修」を開催し、ガイドラインの再確認や事例共有をします。

自施設で起きたヒヤリハット(「ヒヤッとした」「ハッとした」事故未遂事例)をテーマに、「あの時どう対応すれば拘束せずに済んだか?」をみんなで考えるのも良いでしょう。

新人さんも感じたことを発言してくださいね。

「夜中に奇声を発した利用者さんがいて怖かった」といった率直な感想は、対策を練る貴重なヒントになります。

また、介護業界全体の動きにも目を向けましょう。

例えば介護雑誌やネットで他施設の取り組み事例を読むと、「こんな方法があったのか!」と参考になります。

研修テキストやガイドラインも最新版をチェックしてください。

2025年版の厚労省手引きにはグループホームの具体的事例も豊富に掲載されています。

日々アップデートされる知見を学び、現場に取り入れていく姿勢が大切です。

最後に数字で進捗を把握することも継続には有効です。

たとえば「身体拘束ゼロ〇日継続中!」とホワイトボードに書いてみたり、毎月の委員会で「拘束に当たるケアが〇件(ゼロ件)でした」と報告することで、スタッフの意識も高まります。

ゲーム感覚で「更新し続けよう!」という雰囲気を作るのも一つの工夫ですね。

現場事例:グループホームでの身体拘束ゼロへの挑戦

ここで、実際のグループホームで身体拘束を排除した事例を一つご紹介します。

〈事例:夫を探して帰宅願望が強かったKさんの場合〉

とある認知症対応型グループホームに、80代女性のKさんが入居していました。

Kさんは自宅で一人暮らしをしていましたが認知症が進行し、遠方に住む家族の勧めでグループホームでの生活を始めた方です。

Kさんにはある困った行動がありました。

亡くなった夫を探して「家に帰る!」と言ってホームから出ようとするのです。

実はKさんの夫は2年前に他界していますが、Kさんはその事実をうまく認識できず「早く帰って食事の支度をしなくちゃ。主人が待っているから」と訴え続けていました。

入居当初、スタッフはKさんに現実を分かってもらおうと「ご主人はもう亡くなられていますよ」と説明しましたが、Kさんは納得できません。

日増しに「家に帰る」と玄関まで歩いて行こうとする頻度が増え、対応に苦慮しました。

夜間にもこっそり玄関を開けようとするため、スタッフは気が気ではありません。

ここで安易に鍵をかけて閉じ込めてしまえば簡単ですが、それはKさんの尊厳を踏みにじる拘束です。

GHのスタッフは話し合い、「Kさんの気持ちに寄り添おう」と決めました。

具体的には、毎日決まった時間にスタッフが付き添い、Kさんと一緒に自宅まで“帰る”ことにしたのです。

Kさんの元の家はホームから1.5kmほど離れた場所にありました。

天気の良い日は徒歩で、悪い日は車で向かい、自宅の前まで訪ねました。

そしてKさん自身に家の中を確認してもらいました。

「今日は誰もいないね。また明日来てみましょう」と声をかけ、再びホームに戻ります。

これを毎日欠かさず繰り返したのです。

最初は「早く帰らなきゃ」と焦っていたKさんですが、3年半もの間、スタッフが根気強くお付き合いした結果、少しずつ変化が現れました。

「グループホームは自分を押さえつける場所ではない」とKさんが感じられるようになったのです。

表情もどこか追い詰められたような険しさが消え、穏やかになっていきました。

やがて「今日は帰らなくてもいいかな…」と落ち着いてホームで過ごせる日が増えていきました。

この事例は、本人の訴えに真正面から寄り添い、身体拘束に頼らず問題を解決した成功例です。

毎日の付き添いはスタッフにも負担でしたが、法人全体で協力し交代で対応しました。

その甲斐あってKさんは最後まで拘束されることなく、その人らしい生活を送れました。

スタッフの誰もが「拘束しなくて本当に良かったね」と安堵したそうです。

この事例から何を感じたでしょうか?「とても真似できない…」と思うかもしれません。

しかし大切なのは規模ではなく姿勢です。

入居者さんの行動の裏にある思いに寄り添えば、必ず別の道が見えてきます。

身体拘束はそれを考える努力を放棄してしまう行為とも言えます。

ぜひ先輩職員と一緒に「あの人にはどんなケアが必要かな?」と知恵を絞ってみてください。

小さな工夫の積み重ねが、きっと大きな成果につながります。

まとめ

長文の記事を最後までお読みいただきありがとうございます。

それだけ身体拘束廃止の取り組みは奥が深く、語るべきことが多いテーマです。

まとめとして、押さえておいてほしいポイントを5つに整理します。

①身体拘束は利用者の尊厳を傷つけ、心身に多大な悪影響を及ぼす行為です。

原則法律で禁止されており、緊急時の3要件(切迫性・非代替性・一時性)を全て満たす場合にのみ例外的に許されます。

安易な拘束は虐待と見なされ、決して行ってはなりません。

②厚生労働省のガイドラインでは「高齢者の尊厳の保持」と「自立支援」をキーワードに、身体拘束ゼロへの具体策が示されています。

施設内で委員会を設置し指針を整備すること、職員研修を定期的に実施すること、代替ケアの工夫を組織的に検討することなど、現場で取り組むべきことが明確にされています。

③グループホームにおいても身体拘束ゼロは大原則です。

少人数で目が行き届く利点を活かしつつ、徘徊や転倒といった課題に対しても拘束以外の方法で対応しましょう。

環境整備や見守り強化、テクノロジーの活用、地域との連携など様々な手段があります。

大切なのは「拘束しないと安全を保てない」という固定観念を捨てることです。

④取り組みのステップとして、まず現状の自己点検から始め、チームで目標を共有し、個別ケアを見直し、家族や地域とも協力しながら進めることをお伝えしました。

新人さんは何かと不安もあるでしょうが、チームの一員として積極的にアイデアを出してください。皆で知恵を出し合えば、必ず解決策は見つかります。

⑤研修教材としての活用

本記事は研修テキストとしても使えるよう配慮しました。

適宜チェックリストを活用したり、事例をグループディスカッションの材料にしたりして、職場内研修にお役立てください。

全職員が立場を超えて話し合うことで、組織全体の拘束ゼロへの機運が高まるでしょう。

最後に一言。介護の現場で「安全」と「尊厳」の両立は簡単なようで難しい課題です。

転倒や事故を恐れるあまり、人を縛ってしまうのは一見安全策に思えます。

でも本当にそれで良いのでしょうか?

この記事を通じて、改めて「その人らしく生きることを支える」のが私たち介護職の使命だと感じていただけたなら幸いです。

身体拘束のない明るいグループホームを目指して、皆さん一緒に頑張りましょう。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

お知らせ①【介護事業所の必須研修資料一覧(2025年度版)】

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