こんにちは、とも(@tomoaki_0324)です。介護施設で高齢者虐待防止研修は必須です。「高齢者虐待防止研修の発表者に選ばれた!」という方は是非、この記事を参考にしてみてください。
「高齢者虐待防止法」を紐解く【高齢者虐待防止関連法を含む虐待防止に関する研修】
筆者
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
こちらのグラフから、虐待件数が毎年増加傾向にあることがわかります。
よって国も自治体も虐待防止にかなり力を入れてきています。
前回(令和3年度)の介護保険制度の改正では、虐待防止委員会の設置や指針の整備等も必須になっています。
運営指導では必ず虐待防止研修の定期的な開催もチェックされます。
この記事を参考に、研修を頑張って開催してください!
この記事を読む価値
- 「高齢者虐待防止法」について詳しく理解できます。
- 「高齢者虐待防止」の基本的な考えがわかります。
- そのまま研修に使える内容です。
早速、見ていきましょう。
高齢者虐待防止法
まずは最も大事な「高齢者虐待防止法」を見ていきます。
この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援のための措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする。
正式名称は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」です。
「高齢者虐待防止法」の「目的」をわかりやすくまとめると、以下のようになります。
- 高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置
- 養護者による高齢者虐待の防止に資する支援のための措置
- 高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする
以下、この記事ではこれらをもとに、
権利擁護の重要性
高齢者虐待の未然防止・早期発見の取組み
高齢者虐待対応の基本的考え方と視点
といった項目で、この法律を掘り下げていきたいと思います。
権利擁護の重要性
虐待は、高齢者に対する最も重大な権利侵害です。
高齢者虐待への対応は、高齢者が住み慣れた地域で尊厳ある生活を維持していくために、今起きている虐待を解消させ、安心で安全な環境の下での生活を作り直し、高齢者の権利擁護を実現させることを目的に行います。
しかし、高齢者本人が判断能力の低下により問題を認識できなかったり、おかれている現状に対して助けを求める力が低下していたり、その方法を知らなければ、「声なき声」として気づかれることなく、 権利は無視され侵害されることとなってしまいます。
高齢者虐待対応従事者は、権利侵害の程度により自己決定を尊重できる状態にあるかどうかを見極め、適切なタイミングで虐待対応を行うことが重要です。
高齢者虐待の未然防止・早期発見の取組み
高齢者虐待防止には、虐待を未然に防止することが最も重要です。
そのために、介護施設は高齢者虐待に関して正しい理解をもてるような地域づくりを進め、高齢者への支援に関係する機関や団体との連携・協力関係を構築する取組みが不可欠となります。
虐待を未然に防ぐためのアプローチ
高齢者虐待を未然に防止するためには、認知症等に対する正しい理解や介護知識の周知などのほか、介護保険制度の利用促進などによる養護者の負担軽減策などが有効です。
また、近隣との付き合いがなく孤立している高齢者のいる世帯などに対して、関係者による働きかけを通じて、虐待が発生する要因を低減させるなど、高齢者虐待を未然に防ぐための積極的な取組みが重要となります。
虐待の早期発見・早期対応
高齢者虐待への対応は、問題が深刻化する前に発見し、高齢者や養護者に対する支援を開始することが重要です。
民生委員や自治会・町内会等の地域組織との協力・連携、地域住民への普及啓発、保健・医療・福祉関係機関等との連携体制の構築、相談・対応窓口の周知などによって、虐待を未 然に防ぎ、仮に虐待が起きても早期に発見されることにより相談や通報がなされ、早期に対応できる仕組みを整えることが求められています。
高齢者虐待対応の基本的考え方と視点
ここからは、市町村担当部署や地域包括支援センターの視点についてです。
普段介護施設で働いている介護職員も、虐待が発生した後の対応を知っておくことは、大いに意味のあることです。
実際に高齢者虐待が発生した場合には、市町村担当部署や地域包括支援センターは、以下4つの視点を意識して、虐待に対応していきます。
- 高齢者への支援の視点
- 養護者への支援の視点
- 高齢者虐待対応のプロセスにおける留意点
- 組織的な虐待対応の視点
①高齢者への支援の視点
「高齢者への支援の視点」は以下の3つの項目に分けて考えます。
1) 自己決定への支援
高齢者虐待対応においては、無視され続けたり、暴力を受けたりすることにより、高齢者が本来の生きる力と自信を失い無気力状態となっている心理状況を理解し、本来もっている力を引き出す関わりを行い、本人の自己決定を支援します。
また、認知症がある高齢者に対しても、その表情や家族・関係者とのやりとりの反応を観察したり、 認知症発症前の本人の性格や希望などを周囲から聞き取るなど、本人の意向をできるだけ考慮することが求められています。
2) 本人保護と危機介入
高齢者自身が介入や分離保護を拒否する場合であっても客観的にみて「高齢者の安心・安全の確保」が必要な場合は、「自己決定の尊重」よりも「高齢者の安心・安全の確保」を優先させます。
この専門的判断は、特に高齢者の生命や身体、財産が危機的状況におかれている場合に、市町村の責任により行われます。
3) 高齢者が安心して生活を送るための環境整備
高齢者虐待対応においては、高齢者のおかれている現在の状況に加え「生活全体」や「人生全体」を意識して支える視点が重要です。
虐待が解消した後、高齢者が主体的に生きられるような生活や人間関係の再構築を目指した支援を考える必要があります。
②養護者への支援の視点
市町村は、高齢者および養護者に対して、相談、指導および助言を行うとともに、養護者の負担軽減のため、養護者に対して必要な措置を講ずることが規定されています(第6条、第14 条)。
「養護者への支援の視点」は以下の3つの項目です。
1) 高齢者と養護者の利害対立への配慮
対応従事者が、高齢者や養護者への支援を行った結果、それぞれの利益が対立して根本的な問題の解決ができなくなることを避けることが重要です。
そのために、 高齢者への支援と養護者への支援は、それぞれ別の対応従事者(チーム)によってなされる必要があります。
2) 虐待の発生要因と関連する課題への支援
家庭内における高齢者虐待は、さまざまな要因によって引き起こされます。
養護者が障害や疾患、介護負担や生活上の課題を抱えており、それが虐待の要因になっているにもかかわらず必要な支援に結びついていないような場合には、虐待を解消させるために養護者支援に取り組むことになります。
3) 養護者支援機関へのつなぎ
養護者が虐待発生の要因と直接関係しない疾患や障害、生活上の課題を抱えている場合や、虐待が解消した後に養護者が引き続きこれらの課題を抱えている場合は、適切な機関につなぎ、支援が開始されるよう働きかけを行うことが重要です。
③高齢者虐待対応のプロセスにおける留意点
「高齢者虐待対応のプロセスにおける留意点」は以下の6つの項目です。
1) 相談・通報・届出を受け付けた際には、複数の目で確認する
虐待に関する情報が市町村担当部署や地域包括支援センターに届けられるかどうかは、情報提供者の虐待に関する知識や主観に大きく左右されることがあります。
さまざまな相談が寄せられるなかから、一見虐待の疑いが感じられない事例についても、相談・通報・届出を受け付けた組織の複数の職員の目で確認や協議をして、虐待の疑いを見逃さないことが重要です。
2) 目標や対応方針の設定、計画立案の根拠となる情報収集
各段階で明らかになった課題について解消していく必要があります。
そのために、虐待発生要因に結びつく課題の有無を明らかにしていくために客観的事実として情報収集していくことが重要です。
3) 虐待の解消と高齢者が安心して生活を送るための環境整備を意識した虐待発生の要因分析と課題の抽出
高齢者虐待と認定した事例については、虐待の解消と高齢者が安心して生活を送るための環境整備を意識した、虐待発生の要因分析と課題の抽出が不可欠です。
そのために、目的を明確にした情報収集を行い、集めた情報から虐待発生の要因を分析し、虐待対応計画に反映させるという一連の流れが重要となります。
4) 虐待対応計画の作成
虐待の解消と高齢者が安心して生活を送るために必要な対応を、多くの関係機関が関与しながらチームでアプローチすることが重要です。
関係機関が目標や課題を共有化したうえで適切な対応を行うことが求められるため、虐待対応計画では、いつまでに、誰が、何をするのか、期限を区切って役割分担を明確にすることが求められます。
5) 虐待対応計画の評価の実施
虐待対応が終結しないということは、高齢者に対する権利侵害が継続していることを意味します。
そのため、常に終結を意識して虐待対応を行うことが重要です。
市町村が行った各種の判断や対応が適切であったか、課題の解決につながったかについて検証し、適切な進行管理を行うために、期限を区切って虐待対応計画を評価することが重要です。
6) 終結
虐待対応計画の目標が達成され、虐待の解消と高齢者が安心して生活を送るための環境が整えられたと確認できたら虐待対応を終結させ、その後のフォローや支援は地域包括支援センターの権利擁護対応(虐待対応を除く)や包括的・継続的ケアマネジメント支援への移行、地域の他の社会資源につなぐようにします。
④組織的な虐待対応の視点
「組織的な虐待対応の視点」は以下の4つの項目です。
1)チームアプローチ
高齢者虐待が発生する背景には、複数の複雑な要因があることが少なくありません。
また、高齢者虐待対応においては、虐待が起こっている現在の対応だけでなぐ虐待が解消した後の高齢者の生活の再構築までを視野に入れた支援が不可欠です。
そのため、行政が虐待対応に必要だと選定した機関や組織等が虐待対応チームとして各段階で関与することとなります。
2) 常に迅速な対応を意識する
高齢者虐待は、発生から時間が経過するに従って深刻化したり、高齢者の生命や身体が危機的状況におかれていくことも予想されるため、相談や通報がなされた場合には、迅速な対応が必要です。
受理後は、緊急性の判断、虐待の有無が速やかに確認できるよう事実確認の期限を明確にする必要があります。
3) 必ず組織的に対応する
高齢者虐待対応では、担当者一人で判断することを避け、組織的な対応を行うことが基本となります。
相談・通報・届出を受け付けたら組織内で協議し、虐待対応の可能性がある場合、受け付けた相談や通報内容を市町村担当部署と地域包括支援センター間で共有します。
そのうえで、緊急性の判断や市町村の権限行使などの判断や決定にあたっては、役割分担等の打合せを行う必要があります。
また、高齢者の安全や事実確認のための調査では、担当者一人に過度の負担や責任が及ばないようにするとともに、客観性を確保する観点から必ず複数の職員で対応するようにします。
4) 適切に権限を行使する
生命や身体、財産の侵害から高齢者を保護し、安全で安心な生活を 再構築するために、特に立入調査、やむを得ない事由による措置など、市町村のみが有する権限の行使が重要な意味をもっています。
そのため、必要な場合には、適切に市町村権限を行使することが求められます。
おわりに
いかがだったでしょうか。
この記事を読むことで「高齢者虐待防止法」の知識や、高齢者虐待防止についての基本的な知識が身についたかと思います。
是非、研修等で全スタッフへ周知・啓発していただき、御社の運営に役立てていただければと思います。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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