筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
「事故後の対応を適切にできる」と自信を持っていえますか?
ご家族に「対応が真摯ではない」と判断されたら、「こんな事業所やめさせてもらう!」「出るところにでる!」とこじれてしまう可能性もあります。
事前に研修を実施したりマニュアルを整備しておき、「事故が起きたときの対応方法」を準備しておきましょう。
この記事を読む価値
- 簡単にまとめているので、施設に保管しておき何度も見直すことのできる資料です。
- できる限り難しい表現は省いています。
- そのままマニュアルとして活用することもできます。
早速、見ていきましょう。
転倒事故後のご家族への対応
介護施設内での転倒等の事故は、その後の対応次第でご家族とのトラブルに発展します。
その要因の一つとしてよくあるのが、ご家族への対応が不十分なために感情的にこじれるケースです。
もし骨折が原因で入院となれば、治療費や生活用品、ご家族のタクシー代などの金銭の負担は増します。
それだけではなく「これが原因となり介護負担が増すのではないか」と考え、大きな不安を抱きます。
それにも関わらず、事業所の説明が不十分であったり、対応が親身ではないと感じられれば、ご家族は感情的になるのは当然かもしれません。
よって介護施設内での転倒事故後は、どのような家族対応をすべきかをきちんと決めておき、万全の体制で臨みましょう。
事業所の対応の流れは、次のようになります。
1、ご家族への緊急連絡
2、事故調査
3、事故内容についてご家族へ説明
4、再発防止策の策定
5、法的責任(賠償責任)の有無を確認
6、事故対応の整理
それぞれ具体的に解説していきます。
1、ご家族への緊急連絡
利用者さんの怪我の状況を確認し、ご家族へできる限り詳細を伝えます。
「お席を立とうとされた際ふらつき転倒されました。そしてその時、頭を強く打ちました。意識はありますが、血圧が高く出血もあります。」といった感じです。
救急搬送が必要か、そのまま受診すべきかの判断も伝えます。
例えば「〇〇さんの状態を考えると、早急に受診した方がよいかと考えます」というふうに伝えます。
あきらかにスタッフのミスや事業所側の過失が明白な場合は、まず謝罪の言葉から伝えるようにします。
最後にこの電話は緊急連絡であり、後ほど事故の調査をして、事故内容の詳細をお伝えする旨を言っておきます。
2、事故調査
転倒現場で事故を直接見たスタッフ、もしくは関わったスタッフから事故の詳細を聴き取ります。
事故の内容は「5W1H」を意識して聞き取りましょう。
【5W1H】とは:
- When:いつ(時間)
- Where:どこで(場所)
- Who::誰が(当事者)
- What::何をしたか(行動)
- Why::なぜ起きたのか(原因)
- How::どのように対ができたか(対策)
もし可能なら事故現場へ行き、実践しながら詳細を聴き取りましょう。
聴き取った内容は文章として保管します。
ご家族へは、その文章を元に伝えるようにします。
その文章はそのまま記録として残しておきます。
後日、どのようなことを伝えたか、どのような対応をしたかが問われることもあります。
3、事故内容についてご家族へ説明
事故内容を伝える際は、管理者を含む2人で行い、できる限り対面で行うようにしましょう。
1人では、後々「言った、言っていない」というもめ事に発展してしまうこともあります。
電話ではなく、対面で2人で出向くことで誠意を伝えることができます。
もちろんご自宅へ伺う際は、事前のアポイントメントを忘れないようにしましょう。
そして作成した事故調査書に基づき、事故状況の詳細と事業所の対応について説明します。
また、管理者から再発防止策や事業所の過失の有無等は、後日いつ行うかも報告します。
4、再発防止策の策定
再発防止策を考えるには、原因究明から始めます。
原因となるもの:
- うっかりミス
- スタッフの業務量が多い
- スタッフの配置が悪い
- 見守り意識レベルが低い
- 環境設定が悪い
など
その原因をもとに、「未然防止策」「直前防止策」「損害軽減策」の3種類に分けて再発防止策を考えます。
再発防止策が「今後、介護を注意深く行う」というような、抽象的な表現は好ましくありません。
具体的に「お父様の移乗介助は、今後必ず二人のスタッフでおこなうこととしました」など、今までとは方法を変えるという改善内容が必要です。
事故状況が不明な場合は、利用者さんの生活状況や動作状況から推測し、その推測をもとに事故の原因究明や再発防止策の検討を行います。
原因究明の努力をどの程度したのかは重要です。
「事故状況が不明なので、原因も再発防止策もなし」という報告ではいけません。
ご家族は正確な事故状況の説明よりも、真摯な対応や、介護のプロとしてどのような再発防止に取り組むのかを望んでいます。
5、法的責任(賠償責任)の有無を確認
事故内容の詳細に基づき、事業所の過失について検討します。
責任判断が難しい場合は、弁護士などの専門家のアドバイスを仰ぎます。
法的責任かどうかの判断の仕方は、後述の通りです。
事業所の法的責任についての説明は、ご家族への説明に欠かせません。
6、今後の利用者さんへの事業所の対応
事業所としてできることを考えます。
ご家族の一番の心配は「利用者さんの将来」です。
事業所としてどのような協力ができるか、今後もできる限りのことをさせてもらうと言う姿勢、を具体的に示します。
ご家族が感じている、利用者さんの将来への不安を聞き出し、それに対して何ができるかをよく考え提案します。
7、事故対応の整理
「4、再発防止策の策定」から「6、今後の利用者さんへの事業所の対応」は、事故後の2日~3日以内にご家族へ伝えに行きます。
そして、その時のご家族の反応やそれに対する事業所にの対応も全て記録しておきましょう。
もし損害保険等を使う場合は、このような記録が全て重要になります。
法的な責任について
法的責任の有無は、「結果の予見可能性」と「結果の回避義務」を基に判断されます。
「結果の予見可能性」とは、介護サービス中にあらかじめ予想できるリスクの有無や程度等を評価していたか、が問われます。
「結果の回避義務」とは、「結果の予見可能性」をもとに事故予防措置を講じていたかが問われます。
もし事故の発生が予想される場合に、危険回避のための行動をとらなければ、施設管理者はその管理責任をとわれることになります。
予測不可能な事態が生じた際には、労働安全衛生法第24条および指定介護老人福祉施設の人員、設備および運営に関する基準に基づいて、施設の対応の適切さや責任の有無を判断されます。
この考えをもとに、事故状況や原因から専門家を交えて事業所の法的責任について話し合い、書類を作成しましょう。
弁護士などのアドバイスを得た場合には、弁護士名も明記します。
この書類をもとにわかりやすくご家族に説明し、理解を求めます。
事業所の法的責任の判断に納得いただけない場合は、「〇〇様の方でも、専門家にご相談されてはいかがでしょうか」と提案しましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
事故後の対応は大変です。
もしご家族に、対応姿勢がいいかげんだと判断されたなら、最悪のケースが起こってしまう可能性もあります。
だからこそこのようなマニュアルを準備しておくことで、いざという時に適切に対応することができます。
この記事が、御社の運営にお役立ていただければ幸いです。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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