介護の現場でよく耳にする「コンプライアンス違反」という言葉。
法律を破ることだけでなく、職場内のルールや介護職としての倫理に反する行為も含まれます。
たとえ悪気がなくても、知らなかったでは済まされないのが介護現場です。
本記事では、介護業界におけるコンプライアンス違反の基本的な定義と、具体的な例を交えながら「何が違反になるのか」「どう防ぐべきか」をわかりやすく解説していきます。
現場での気づきや対策に、ぜひお役立てください。
この記事を読む価値
- ベテラン職員から新人職員まで学べる内容です。
- 読み進めるだけで研修にできます。ワークを入れると1時間程度の研修にできます。
- 極力、難しい表現は避けてあります。
早速、見ていきましょう。
コンプライアンス違反とは?介護業界での基本的な定義
介護の現場でよく耳にする「コンプライアンス違反」。
これは単に法律を破ることだけを指すのではありません。
事業所内のルールやマニュアルに従わなかったり、介護職として守るべき倫理観に反する行動も含まれます。
つまり、「法律違反じゃないから大丈夫」では済まされないのが、介護業界のコンプライアンスです。
では、介護業界のコンプライアンス違反を具体的にお伝えします。
まず、法令違反はその代表例です。
介護保険法や高齢者虐待防止法、個人情報保護法、労働基準法など、介護に関わる多くの法律があり、それぞれが利用者さんの安全や職員の労働環境を守る目的で定められています。
介護サービスの内容、報酬の請求方法、人員配置なども細かくルール化されていますので、知らなかったでは済まされません。
次に、運営基準違反です。
これは各自治体や都道府県が定める施設運営のルールを守っていない場合に当てはまります。
たとえば、施設の設備が基準を満たしていない、人員配置が規定以下になっているといったケースが該当します。
基準を満たしていなければ、たとえ一生懸命サービスを提供していても、法的には“違反”になってしまいます。
さらに、社内規定違反も見逃せません。
これは、就業規則やマニュアル、服務規程など、施設内で決められているルールに反する行動です。
たとえば、「報告・連絡・相談を怠った」「決められた記録を残さなかった」など、一見小さなことでも、積み重なると大きなリスクになりかねません。
そして、大切なのが倫理違反です。
これは法的に罰せられるものではなくても、「人としてしてはいけないこと」「してはいけない言動」を指します。
利用者さんのプライバシーを尊重しない、勝手に情報を話す、言葉遣いや態度が雑になるなど、利用者さんの尊厳を傷つける行動は、すべて倫理違反に当たります。
たとえ明確なルールがなくても、「これはどうなんだろう?」と感じたら、それは見直すべき行動かもしれません。
介護福祉士としては、日本介護福祉士会の定めた倫理綱領を日々の業務に活かすことが求められます。
これは介護職がどうあるべきか、どんな姿勢で仕事に向き合うべきかを示した指針です。
現場で迷った時、判断に迷う時こそ、この倫理綱領を思い出してほしいと思います。
コンプライアンスを守ることは、罰則を避けるためだけではありません。
利用者さんの安全と信頼を守り、介護職員自身や事業所全体を守る大切な取り組みです。
違反が続けば、信頼を失い、経済的損失、介護報酬の返還、さらには事業停止・指定取り消しという重大なリスクにつながることもあります。
だからこそ、日ごろから一人ひとりが「これは大丈夫かな?」と意識しながら業務に向き合い、法令・ルール・倫理を理解し、守る姿勢を持つことが大切です。
そのためには、定期的な研修や勉強会を通じて、知識のアップデートを行い、職員同士でも意識を共有し合うことが必要です。
介護現場で実際にあったコンプライアンス違反事例
介護の現場では、ちょっとした油断や認識不足が重大なコンプライアンス違反につながってしまうことがあります。
ここでは、実際に起きた4つのケースをもとに、何が問題だったのか、どうすれば防げたのかを解説します。
利用者さんのプライバシーを侵害したケース
介護の仕事は、利用者さんの生活に深く関わるため、個人情報を多く扱います。
そのため、情報の取り扱いには最大限の注意が必要です。
記録の置き忘れや紛失:
訪問介護中に利用者さんのサービス記録を車内に放置してしまい、第三者に見られたという事例がありました。
記録には住所や健康状態などが含まれており、情報漏洩のリスクは非常に高いです。
SNS投稿:
職員が何気なく投稿した写真に、利用者さんやその自宅の様子が映り込んでいたことで、プライバシー侵害と見なされたケースもあります。
不要な会話での情報共有:
別の利用者さんとの話題にしようと、ある利用者さんの出身地や家族構成を話した職員が注意を受けた事例も。
本人の許可なく情報を話すのは避けるべきです。
プライバシーや個人情報保護について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
身体拘束のルール違反
身体拘束は、やむを得ない場合を除き原則禁止されています。
にもかかわらず、現場では安易に行われてしまうことも。
たとえば、認知症の利用者さんが夜間徘徊を繰り返すため、「転倒防止」としてベッドに縛ったり、車椅子のベルトを常用したりしていた施設が、身体的虐待と認定され、行政処分を受けた事例があります。
緊急時には一時的に拘束が認められる場合もありますが、「やむを得ない理由」「代替手段の検討」「記録の作成」などの条件が必要です。
本人の尊厳と安全を守るためにも、ルールを正しく理解し、対応を工夫することが重要です。
身体拘束について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
記録の改ざん・不正請求のケース
介護報酬は、提供したサービス内容に基づいて支払われます。
そのため、記録の改ざんや不正請求は重大な法令違反となります。
記録を後からまとめて記入した:
訪問介護の記録を数日分まとめて書き、日付をさかのぼって提出していた事例では、実際のサービス内容と記録が食い違っていたため、報酬の返還を求められました。
していないサービスをしたことにした:
大阪府の事業所では、サービスを提供していないにもかかわらず報酬請求を行っていたことが発覚し、指定取り消しと数百万円の返還を命じられています。
これらは一職員の判断だけで起こることではなく、施設全体の管理体制の問題でもあります。
日々の記録と確認、内部チェックが非常に重要です。
パワハラ・職員間のトラブル
介護現場はチームワークが命。
その中で起こるパワハラや職場内の人間関係のトラブルも、実はコンプライアンス違反に発展するリスクがあります。
職員の言動によるハラスメント:
ある施設では、ベテラン職員が新人に対して「仕事が遅い」「やる気あるのか?」と日常的に高圧的な態度をとっていたことで、精神的苦痛を訴えられる事態に発展。
違法な労働環境:
長時間労働やサービス残業を黙認する職場では、労働基準法違反となる可能性があります。
職員が安心して働けない環境では、利用者へのケアの質も下がります。
ハラスメント防止の研修や、意見を言いやすい雰囲気づくりが求められます。
ハラスメント防止について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
これらの事例からもわかる通り、コンプライアンス違反は利用者さんの安全や尊厳を脅かすだけでなく、事業所にとっても大きなリスクとなります。
「知らなかった」では済まされないからこそ、職員一人ひとりが常に意識し、職場全体で予防策を講じていく必要があります。
介護職が現場でできるコンプライアンス対策
前述のように介護の現場では、法律を守ることだけでなく、利用者さんの尊厳や人権を大切にする姿勢が求められます。
ここでは、介護職が現場でできる具体的なコンプライアンス対策について、いくつかのポイントに分けてご紹介します。
「やっていいこと・ダメなこと」の線引きを知る
まず大切なのは、「何がOKで、何がダメか」をしっかり理解することです。
たとえば、介護保険法や高齢者虐待防止法、個人情報保護法など、介護に関わる法令はたくさんあります。
これらの基本を知っておくことで、うっかり違反してしまうリスクを減らせます。
「どんな法律があるか、具体的に知りたい」という方は、こちらの記事をご参照ください。
また、ケアプランに記載されていないサービスを独自に提供してしまうのもNG。
利用者さんの希望であっても、計画にないサービスは原則行えないことになっています。
医療行為についても注意が必要です。
介護職員ができる医療行為は限られており、たとえばインスリン注射や褥瘡の処置などは原則としてできません。
知らなかったでは済まされないこともあるため、業務範囲をきちんと把握しておくことが大切です。
記録の正確性と個人情報の取り扱い
介護の仕事では、日々の記録がとても大切です。
サービス提供記録は、利用者さんに何をしたのかを示すだけでなく、介護報酬を受け取る根拠にもなります。
記録は、訪問やサービスのたびに正確に記入し、誰が見ても内容が分かるように書く必要があります。
また、利用者さんの個人情報は絶対に守らなければなりません。
書類の紛失や置き忘れ、またSNSなどへの不用意な投稿は、重大な情報漏洩につながります。
個人情報の取り扱いについては、法律だけでなく、私たちの常識やモラルにも関わる大切な部分です。
利用者本位のケアを意識する
コンプライアンスというと堅苦しく感じるかもしれませんが、実は「利用者さんを大切にすること」そのものです。
利用者本位のケアとは、利用者さんの気持ちや考え方を尊重し、その人らしい生活を支えること。
たとえば、できることはできるだけ自分でやってもらい、できないことだけを手伝うのが自立支援の基本です。
介護する側の都合でなんでもやってしまうと、利用者さんの機能が低下することもあります。
また、言葉遣いも重要です。
「もう何回も言ったでしょ」「早くして」などの言葉は、たとえ急いでいても避けたい表現。常に丁寧で、相手の立場に立った接し方が求められます。
小さな違和感やモヤモヤを見逃さない
現場でのコンプライアンス違反は、最初から大きな問題として現れるわけではありません。
多くの場合、「ちょっとおかしいな」「これっていいのかな?」という小さな違和感が積み重なって、やがて重大な問題になるのです。
「この対応って大丈夫かな?」と思ったら、まずは一人で抱え込まず、上司やサービス提供責任者に相談しましょう。
また、同僚の言動に違和感を覚えた場合も、チームで共有して改善していくことが大切です。
ハラスメントや働き方のルール違反なども、見逃さずに声をあげられる風通しの良い職場づくりが、コンプライアンスの維持には欠かせません。
介護職が現場でできるコンプライアンス対策は、決して特別なことではありません。
「利用者さんのために」「自分たちの職場を守るために」という気持ちで、日々の業務を丁寧に行うことが一番の対策です。
法令やルール、倫理観をしっかり理解し、チームで支え合いながら、「安心」「安全」「信頼」のある介護を目指していきましょう。
チーム全体で取り組むための環境づくり
コンプライアンスが守られる職場、というのは、一人の努力で成り立つものではなく、チーム全体で取り組む環境づくりが不可欠です。
まず重要なのは、「相談しやすい職場の雰囲気」をつくることです。
倫理や法令違反に気づいたとき、迷ったときに、職員が気軽に上司や同僚に相談できる空気があれば、問題が大きくなる前に対応できます。
「報告・連絡・相談」を徹底し、違和感があればためらわずに声を上げることができる文化を育てることが、職場のリスクを大きく減らします。
その土台となるのが、管理者やリーダーの姿勢です。
職場の風土は、上に立つ人の言動によって大きく左右されます。
リーダーが高い倫理観を持ち、法令を遵守した行動を示すことは、チーム全体の模範となります。
「倫理的に正しいことをするのが当たり前」という空気が根づけば、個人レベルでも判断に迷うことが減っていきます。
倫理の乱れはサービスの質の低下や職場内の人間関係悪化にも直結するため、管理者は日常の行動を通じて職員に「背中」で示すことが求められます。
また、職場でのコンプライアンス意識を継続的に高めるためには、定期的な振り返りと研修の実施が不可欠です。
業務が忙しい中ではつい忘れがちになる倫理や法令への意識を、研修を通じて再確認し、常に高いレベルで保つことが大切です。
特に「なぜコンプライアンスが必要なのか」「なぜ法令を知っておくべきか」という根本的なテーマを取り上げることで、職員の自発的な意識改革にもつながります。
研修は、法改正への対応や新たな制度の理解を深めるためにも重要です。
さらに、実際の現場での悩みや疑問に基づいた内容にすることで、実践的な理解が進みます。
新入職員に対しては、入職初期に組織の規定や基本的な考え方をしっかり伝えることで、早い段階からコンプライアンス意識を根付かせることができます。
このように、相談しやすい環境、リーダーの姿勢、そして定期的な研修という3つの柱を組み合わせて、職場全体でコンプライアンスへの意識を共有し続けることが、介護現場における信頼と安全を守る最大の鍵になります。
おわりに
いかがだったでしょうか。
介護業界におけるコンプライアンス違反は、利用者さんの安全や信頼を損なうだけでなく、事業所や職員自身にも大きなリスクをもたらします。
大切なのは、法律やルール、そして倫理観をしっかり理解し、日々の業務の中で「これで本当に大丈夫か?」と立ち止まって考えること。
誰かの指示を待つのではなく、一人ひとりが「守る側」である意識を持つことが、信頼される介護の第一歩です。
日々の実践とチームでの連携を大切にしながら、安心・安全な現場づくりを目指していきましょう。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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