介護の現場で「安心・安全」を守るために、つい身体拘束に頼りたくなる場面は少なくありません。
しかし身体拘束は、利用者さんの尊厳を奪い、自立を妨げる行為です。
本記事では、「身体拘束をなくすためのチェックリスト」をもとに、現場ですぐに実践できるポイントや工夫、実際の事例を紹介します。
小さな気づきと工夫を積み重ね、利用者さんが安心して暮らせるケアを一緒に目指していきましょう。
この記事を読む価値
- 簡潔にまとめられています。
- 職員各々がチェック項目を確認し、それについて議論することで、1時間程度の研修にすることができます。
- 極力、難しい表現は避けてあります。
では早速、見ていきましょう。
身体拘束はなぜダメなのか
身体拘束とは、「本人の行動の自由を制限すること」を指します。
介護保険法に基づく施設の運営基準では、「利用者本人や他の利用者の生命・身体を保護するために、緊急やむを得ない場合を除き、原則禁止」とされています。
これは本人以外の意思で行動を制限する行為であり、基本的にはしてはならないことです。
仮に緊急でやむを得ない状況であっても、本人の尊厳を守るために慎重な判断と手続きが求められます。
「緊急やむを得ず」身体拘束を実施する場合の「手続き」について詳しく知りたい方は、コチラの記事をご参照ください。
身体拘束にあたる具体的な行為には、ベッドや車椅子へのひもによる固定、ミトン型の手袋装着、居室への隔離、向精神薬の過剰使用(ドラッグロック)などがあります。
最近では、言葉による制限(スピーチロック)も含め、「スリーロック(物理的・薬理的・言語的拘束)」として捉えられるようになっています。
なぜ身体拘束を減らすことが大切なのでしょうか。
それは、利用者さんの「尊厳」と「自立」を守るためです。
身体拘束は一時的に安全を確保する手段と見なされがちですが、かえって転倒や混乱、筋力低下、認知症の悪化を招くリスクもあります。
「転倒予防」や「人手不足」を理由に安易に拘束することは、本来の目的とは異なり、利用者さんのQOL(生活の質)を損ねる結果となりかねません。
利用者さんにとっては、自由を奪われることで精神的ストレスが増し、自分の居場所を「安心できない空間」と感じるようになることもあります。
一方、職員側も「これで良いのか」と迷いながらの対応が続けば、仕事へのやりがいや倫理観を失い、結果として虐待へつながる可能性も否定できません。
今日からできる!身体拘束ゼロに向けたチェックリスト
身体拘束をなくすための取り組みは、特別なことではなく、日々のケアの中での「ちょっとした気づき」や「声かけ」から始まります。
ここでは、利用者さんの尊厳を守り、より良いケアを目指すために、現場で今日から実践できる10のポイントをチェックリスト形式でご紹介します。
「これならできそう」と思えることから、ぜひ一歩踏み出してみましょう。
【身体拘束ゼロに向けたチェックリスト】
☑ 利用者さんの声や“声なき声”に耳を傾ける
表情やしぐさ、雰囲気の変化などから、不安や困りごとを読み取る姿勢を大切に。
☑ 行動の背景や理由を理解しようとする
「なぜその行動をしているのか?」という視点で、原因の除去や代替案を考えます。
☑ 日々の様子を注意深く観察する
体調や行動パターンの変化を見逃さず、より適切な対応につなげましょう。
☑ 丁寧で優しい言葉でコミュニケーションをとる
安心できる声かけは、信頼関係を築く大きな一歩になります。
☑ 基本的なケア(食事・排泄・清潔)の見直しをする
基本がしっかりしていると、利用者さんの不快感も減り、落ち着いた生活につながります。
☑ 環境整備でリスクを減らす
動線の確保や転倒予防など、簡単な工夫で事故を防ぎます。
☑ 車いすやベッドが合っているか確認する
体に合った用具を使うことで、不穏や不快感の軽減につながります。
☑ 職員間での情報共有を徹底する
対応の統一や成功事例の共有が、安心できるケア体制をつくります。
☑ 常に代替策を考える習慣を持つ
「拘束するしかない」と考える前に、「他にできることは?」と柔軟に考えましょう。
☑ 身体拘束は原則禁止であることを常に意識する
行動の自由を奪う重大な行為であることを忘れず、慎重な判断を。
ひとつひとつの積み重ねが、身体拘束のないケアにつながっていきます。
焦らず、チームで支え合いながら、できることから始めていきましょう。
現場の声:「こうやって身体拘束せずにできた」
身体拘束ゼロを目指す取り組みは、利用者さんの尊厳を守り、より良いケアを実現するために欠かせません。
ここでは、実際の現場での「身体拘束せずにできた」具体的な工夫事例をご紹介します。
行動の理由に寄り添う:声なき声をくみ取るケア
利用者さんの「問題行動」の背景には、必ず理由があります。
たとえば、陰部に物を詰める行為を「不適切」と決めつけず、恥ずかしさや尿意を訴える手段と理解したケースでは、排泄パターンを見直すことで、つなぎ服の使用をなくせました。
表情や身ぶりを観察し、丁寧なコミュニケーションで不安を取り除くことが、落ち着いた日常につながります。
環境を整える:事故を防ぎ、安心できる空間づくり
転倒や転落を防ぐには、環境面の工夫も有効です。
ベッド周りにクッションを置く、手すりを設置する、足元に物を置かない、ベッドの高さを下げるなどの対策が効果的です。
また、深めの椅子や滑り止め、車いすの調整により、安定した座位を確保でき、不必要な動きも減少します。
基本的なケア(食事・排泄・清潔)を丁寧に行うことで、不快感の軽減にもつながります。
活動や刺激の工夫:その人らしい時間をつくる
個々の生活歴に合わせた活動(アクティビティ)を取り入れることも、身体拘束の予防に役立ちます。
音楽、園芸、簡単な家事や体操、テレビ鑑賞などを組み合わせ、小グループでのティータイムやおしゃべりの場を設けることで、自由な時間を提供することができます。
過去の職業や趣味に関連する話題を投げかけることで、心が穏やかになる方もいます。
チームで連携:情報共有が安心ケアのカギ
身体拘束をしないケアを実現するには、職員一人の努力だけでは不十分です。
チーム全体で情報を共有し、一貫した対応をすることが重要です。
介護職だけでなく、医師・看護師・相談員など多職種で話し合い、代替案を検討する体制が効果を発揮します。
また、ご家族や地域包括支援センターとの連携も、本人とご家族を支える大きな力になります。
不快感の除去:行動の原因にアプローチする工夫
経鼻経管栄養チューブを抜いてしまう方に対しては、単に制止するのではなく、チューブが視界に入らないように位置を変える、肌への刺激を減らすためにガーゼの素材を工夫するなど、細やかな配慮が功を奏した事例もあります。
行動の背景にある「不快」を取り除くことが、自然な落ち着きにつながります。
よくある場面と、代わりの対応アイデア
身体拘束ゼロを目指すうえで、「こんなときどうする?」といった具体的な場面での対応は、現場で働く方々にとってヒントになります。
ここでは、よくある身体拘束の場面と、それに代わるケアの工夫をご紹介します。
身体拘束が検討されがちな場面には、たとえば一人歩きや立ち上がりを防ぐための縛り、ベッドからの転落を防ぐための拘束や囲い、点滴やチューブを抜かないように手足を縛る、椅子から立ち上がれないような仕掛けを使うなどがあります。
また、脱衣やおむつ外しを防ぐために介護衣を着せたり、迷惑行動を理由にベッドへ縛ったり、落ち着かせるために薬を多く使ったりすることも、いずれも身体拘束にあたります。
このような場面ではまず、「なぜその行動をしているのか?」を考えることが大切です。
夜間の徘徊は、トイレに行きたい、家に帰りたい、仕事に行かないといけないと思っているなど、本人なりの理由があることが多くあります。
おむつをいじる行動も、失禁による不快感や恥ずかしさ、不安が背景にあるかもしれません。
行動の背景に目を向け、理由を取り除いたり、他の方法でその思いを満たしたりする工夫が求められます。
また、食事・排泄・清潔といった基本的なケアを丁寧に行うことや、環境を整えることも大切です。
排泄のタイミングを把握してトイレ誘導を行ったり、おむつを適切に交換したりすることで不快感を軽減できます。
ベッドの高さ調整やクッションの設置、足元の整理、手すりの活用なども転倒・転落の予防に役立ちます。
日中にその方に合ったアクティビティを取り入れることも効果的です。
音楽、園芸、体操、会話などで生活に刺激や変化を持たせることで、夜間の不穏や徘徊の軽減につながります。
施設内でのティータイムや、小さな集まりを設けるのもよい工夫です。
利用者さんへの声かけも重要です。
「動かないで」ではなく「どうされましたか?」「一緒に行きましょうか?」など、寄り添う姿勢を伝える言葉を使うことで安心感が生まれます。
不安そうなときは、そばでゆっくり話しかけたり、好きな音楽を流したりすることで落ち着くケースもあります。
夜間の徘徊には、無理に止めずにそっと寄り添いながら声をかけることで、自然に戻っていただけることもあります。
身体拘束ゼロは、職員一人だけの努力では成り立ちません。
職場全体で日々の様子や成功事例を共有し、対応を統一していくことが大切です。
多職種でのカンファレンスや日々の申し送りなどで情報交換を重ね、代替策を話し合う場を設けましょう。
チームで取り組むために大切なこと
身体拘束に頼らないケアを実現するためには、施設や事業所で働く一人の職員の努力だけではなく、チーム全体、利用者さんとそのご家族、さらに地域との連携も欠かせません。
とくに夜間の徘徊やベッドからの転落といった場面では、現場全体で協力して取り組む姿勢が大切です。
そのためにはまず、施設長や管理者など、組織のトップが「身体拘束をしない」という明確な方針を示すことが重要です。
職員が安心して取り組めるよう、トップが責任を持ち、現場を支える姿勢を取ることで、施設全体の意識が変わっていきます。
一部の職員だけが努力しても長続きはしません。
全職員で共通の意識を持つことが必要です。
取り組みとしては、多職種による会議や委員会を定期的に開催し、身体拘束に関する意識の確認や検討を行います。
身体的拘束等適正化検討委員会がきちんと機能することも大切です。
また、日々のケアの振り返りや、利用者さんの生活そのものを見直す中で、身体拘束を必要としないケアの形を模索します。
認知症への理解を深めたり、身体拘束廃止マニュアルを整備したりすることも有効です。
現場では、職員同士が情報を共有しながら、一人で抱え込まない風土を育てましょう。
利用者さんの行動の背景を一緒に考えたり、行動パターンを把握して先回りのケアができるよう情報を共有したりすることが大切です。
申し送りや会議を活用し、「この対応でいいのかな?」と思ったときには遠慮せず相談することで、安心して働ける環境がつくられます。
また、ご家族との話し合いも重要なポイントです。
利用開始時に「身体拘束は原則行わない」という方針を伝え、転倒などのリスクについても理解を得ておくことが大切です。
日頃から気軽に相談できる関係性を築いておくことで、ご家族も安心して話ができるようになります。
もしご家族が「安全のためには拘束が必要」と考えている場合でも、まずはその思いに寄り添いながら話を聞きましょう。
その上で、身体拘束が尊厳を損ない、逆に混乱や問題行動を引き起こすこともあること、代替方法があることを丁寧に説明します。
そして必要があれば、関係者が集まり話し合う機会を設けましょう。
ご家族自身の気持ちに配慮しつつ、実践的な代替案も提示できると信頼関係が深まります。
また、日々の様子や取り組みの成果をこまめにご家族と共有することで、信頼はさらに高まります。
事故などが起きた際も、日頃からの丁寧な情報共有があれば大きな問題になりにくいこともあります。
地域とのつながりも大切です。
地域包括支援センターや家族会、認知症カフェなど、ピアサポートの場を紹介することで、ご家族の不安が和らぐこともあります。
こうした取り組みを、職員一人ひとりではなく、チーム全体で継続して行うことで、身体拘束に頼らなくても利用者さんの尊厳を守り、その人らしい生活を支えることが可能になります。
焦らず、できることから少しずつ、協力して進めていきましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
身体拘束をなくすためには、特別なことをするのではなく、日々の小さな気づきや工夫、そしてチーム全体で支え合う意識が大切です。
今回ご紹介したチェックリストや実践例を参考に、「できることから一歩ずつ」取り組んでいきましょう。
利用者さんの自由と尊厳を守るケアは、私たち介護職にとっての誇りでもあります。
焦らず、チームで支え合いながら、身体拘束ゼロを目指す歩みを続けていきましょう。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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