筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
本ブログは、このまま読むと15分程度の研修となり、最後のワークを入れると1時間の研修にすることができます。
「研修資料を作成する時間が無い」という方に向けての内容です。
内容は簡単で、難しい表現は省いています。
是非、御施設の運営にお役立てください!
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高齢者虐待とは
高齢者虐待には、次の5つの種類があります。
①身体的虐待
高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
②介護・世話の 放棄放任
高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
③心理的虐待
高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
④性的虐待
高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者にわいせつな行為をさせること。
⑤経済的虐待
高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
※参照:厚労省【高齢者虐待防止の基本】
この5項目に該当する行為は、【高齢者虐待防止法】により禁止されています。
また、虐待の発生や再発の防止措置を行わなかった場合、【高齢者虐待防止措置未実施減算】の対象となります。
再発の防止措置には、委員会の整備が必須です。
委員会によって「虐待が起こってしまった原因は何か」、「再発防止にはどのような取り組みが可能か」等を決める必要があります。
高齢者虐待の事例
介護施設の職員による高齢者への虐待件数は、年々増加傾向にあります。
厚生労働省によると、令和4年度の介護施設職員による虐待は856件、相談・通報は2,795件ありました。
近年では、虐待として以下のようなケースが報道されています。
【事例1】
デイサービスの利用者さんに、不適切な拘束などを行い処分。ご家族の相談により発覚。
デイサービスの利用者さんの両足を、夕オルや手拭いなどで車イスに縛り付ける不適切な拘束を行ったとして、身体的虐待が認められた。
また、車イスからの転落を繰り返していたほかの利用者さんに対しても、安全対策の実施を怠り、顔などにけがを負わせた。
ご家族から複数の相談が寄せられ、県は事実確認の上、事業所を半年間の新規利用者の受 け入れ停止処分とした。
【事例2】
老人ホームの職員らが入所者8名を虐待。要トイレ介助の入所者に『お金を出せ、高いぜ』などの発言。
特別養護老人ホームの職員4名が、入所者8名に対 して、身体的・心理的虐待や介護放棄をしていたことが分かった。
眠っている入所者が乗った車イスを、声かけをせずに、通常より速いスピードで押して段差でつまずき、転落させ、けがを負わせた。
また、トイレ介助が必要な入所者へ「自分で行けるでしょう」「お金を出せ、高いぜ」と言ったり、ガーゼ交換が必要な入所者の処置を1週間怠り、患部を悪化させた。
通報を受けた市が調査を行い、事業所を半年間の新規利用者の受け入れ停止処分とするとともに、改善勧告を行い、再発防止を求めた。
※参照:令和4年度【高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律】に基づく対応状況等に関する調査結果(報告)
高齢者虐待を防ぐには
虐待は、未然に防止することが最も重要です。
以下3つのことを事業所で実施し、職員全員が虐待防止に対する強い意識を持ちましょう。
- 定期的な研修の実施
- 職場環境の改善
- 報告・相談窓口の設置
それぞれ、具体的にみていきます。
①定期的な研修の実施
研修内容としては、次のような内容で実施します。
- 虐待の具体例や防止策について知る
- 実際に介護をしていて虐待が起きそうになったと感じた場面の報告
- 虐待によって生じる、利用者、加害職員、事業所などへ与える影響を理解する
- その防止策を検討する
- 認知症について、正しく理解する
一例として、虐待による影響を知ることは重要です。
利用者さんはもちろんですが、会社や自分自身にも影響が生じます。
会社は民事上の損害賠償責任が発生し、個人には「刑法」の対象になります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。このまま使える!【介護施設】高齢者虐待の防止に資する研修
そして研修の頻度は、サービスごとに異なります。
年に1回以上:通所介護、通所リハビリテーション、訪問介護、訪問看護、ショートステイ、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護
年に2回以上:グループホーム、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療員、特定施設入居者生活介護
介護サービスの必須研修や研修頻度等については、こちらの記事をご覧ください。介護事業所の必須研修資料一覧【2024年度から減算に注意!】
②職場環境の改善
日頃から気になることがあれば、ささいなことでも、上司に報告・相談しやすい関係を形成しておきましょう。
ちょっとした不適切なケアや発言が、 虐待の早期発見につながることがあります。
そして、職員がストレスをためにくい環境をつくるのも重要です(サービス残業の解消、 人手不足の解消など)。
余裕のない職場環境はストレスがたまり、それが積もると感情のコントロールができなくなって、虐待に発展したケースもあります。
③報告・相談窓口の設置
窓口の担当者を決め、連絡先(電話番号・メールアドレスなど)を周知しましょう。
会社内部の窓口と、外部の窓口を周知しておくのがベストです。
「虐待かも?」と思ったら
介護従事者は、ご家族による虐待で利用者さんに重大な危険が生じている場合、または同僚による虐待の可能性がある場合は、通報する義務があります。
通報先は、市町村です。
しかし、まずは上司やケアマネジャー、地域包括支援センターなどの関係機関に相談・報告しましょう。
虐待防止に関するチェックリスト
虐待は、不適切なケアや不適切な発言から発展します。
日頃、自分が行っているケアや利用者さんへの接し方などを振り返り、もし当てはまってしまう項目があれば、チェックを入れましょう。
利用者さんに対し、威圧的な態度・言葉遣い・命令口調で接している
利用者さんをあだ名や「〇〇ちゃん」などと呼んでいる(職員間の会話も含む)
利用者さんに対し、「〇〇しないで」「だめ」「待って」など、行動を制止する言葉を使っている
排せつや入浴介助の際、大きな声で誘導したり、扉を開けたままケアをしている
食事介助の際、利用者さんのロの中にまだ食べ物が残っているのに、次の一口を食べさせようとせかしたり、職員のペースで介助している
利用者さんに対し、「〇〇しようね」など、小さな子どもに接するような口調で話している
ることがある 利用者さんからの呼びかけに対し、聞こえていないふりをす
職員間で、利用者さんの言動を笑ったり、文句を言ったりしている
職員間で、利用者さんの個人情報を話題にしたり、うわさ話をしている
利用者さんに声かけをせず、車イスを動かしている
利用者さんの好みや意思を確認せず、プログラムなどへの参加を促している
利用者さんの衣服・部屋・トイレ・寝具などを、汚れたままにしている
利用者さん本人やご家族の許可を得ず、勝手に利用者さんの私物を触っている
利用者さんに対し、(日常生活で必要な)お金を使わせないようにしている
やむを得ず身体拘束を行う場合、利用者さんやご家族から理解が得られるまで十分な説明をしていない
チェックがついた項目は虐待につながる行為であると自覚し、すぐに改善に努めましよう。
やむを得ず身体拘束をする場合は、必要な手順をふむ必要があります。
身体拘束については、こちらの記事をご覧ください。【介護施設】身体拘束の排除の為の取り組みに関する研修
グループワーク
この記事を研修の資料とするなら、次の2つの題でグループワークをしてみてはいかがでしょうか。
- 先ほど取り上げた介護現場での虐待例は、どのようにすれば防げると思いますか?
- チェックリストを参考に、自分の働く職場では、どのようなときに、どのような虐待が起きやすいと思いますか?
まずは個人で10分程度考え、次にグループごとに意見を出し合い、最後に発表することで、30~40分のワークにすることができます。
補足
令和6年度の介護報酬改定により、高齢者虐待防止に関して、事業所には5つの実施が義務付けられています。
- 虐待の発生又はその再発を防止するための委員会の開催(定期的に開催)
- 高齢者虐待防止に関する指針の整備
- 高齢者虐待防止に関する研修の実施
- 虐待防止に関する担当者の選任
- 運営規程に「虐待防止のための措置に関する事項」の追記
全て計画や実施がされているか、確認しましょう。
【高齢者虐待防止に関する指針】のひな形を記事にしています。まだ整備されていない方は、こちらを参考にしてみてください。【介護施設】虐待の防止のための指針【ひな型】
おわりに
いかがだったでしょうか。
高齢者虐待の基本的な内容を取り上げた資料となっています。
是非、研修の資料として使っていただければ幸いです。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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