筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
認知症という病気は、その人その人で症状や進行度が異なるため、利用者さんの状態に応じた対応が求められます。
よって認知症への理解を深めることで、ケアの質が向上し、利用者さんとの信頼関係を築くことができます。
また、適切なコミュニケーションやケアを通じて、利用者さんは安心し、穏やかに過ごしていただくことができます。
今回は認知症の症状やそのケアの方法について詳しく解説します。
是非一緒に、学んでいきましょう。
この記事を読む価値
- 認知症の症状について詳しく知ることができます。
- 認知症ケアへの理解が深まります。
- このまま研修資料とすることもできます。
早速、見ていきましょう。
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認知症に見られる症状
認知症の症状は大きく「中核症状」と「周辺症状」に分類されます。
中核症状
中核症状とは脳の機能低下により発生する症状のことです。
心理的なものではなく、脳の神経細胞が障害されることで起こるといわれています。
症状としては、記憶力の低下、時間や場所の認識障害、理解力や判断力の衰え、計画や実行の困難、感情のコントロールの変化などがあります。
記憶力の低下:新しい情報を覚えられなくなる、または既に覚えたことを思い出せなくなる。
時間・場所の認識障害:現在の日時や自分がいる場所など、基本的な状況を正しく把握できなくなる。
理解力・判断力の衰え:考える速度が遅くなる、同時に複数のことを処理できなくなる、ちょっとした変化にも混乱しやすくなる。
計画・実行の困難:手順を追って何かを進めることが難しくなる。
感情の変動:急に怒り出したり、泣いたりといった予期しない感情反応を示すことがある。
周辺症状
周辺症状は、中核症状がベースとなり、本人の痛みや不安、性格や生活環境などにより引き起こされるものです。
これらの症状は「行動・心理症状(BPSD)」とも呼ばれます。
具体的な症状は「行動」と「心理症状」に分けて考えます。
【行動に関連する周辺症状】
徘徊:特に夜間に目的なく外を歩き回ることがある。
物取られ妄想:物を盗まれたと感じ、他人に対して不信感を抱く。
暴言・暴力:感情を抑えきれず、攻撃的な言動や行動に出ることがある。
同じ質問を繰り返す:短期記憶の問題から、同じ質問や行動を何度も行う。
物を集める:必要のないものを大量に集め、捨てられなかったり、隠したりする。
【心理的な周辺症状】
幻覚や妄想:実際にはいない人や物が見えたり、聞こえたりする(例:誰かが自分を害しようとしていると信じ込む)。
抑うつ状態:気分が落ち込み、興味や意欲が失われる。
不安や焦燥:根拠のない不安感に悩まされることがある。
睡眠障害:不眠や昼間に過度に眠くなるなど、睡眠リズムの乱れが見られる。
食事の変化:食欲が低下する、または逆に過食に陥ることがある。
認知症ケアの基本的な理念
認知症ケアは、「パーソン・センタード・ケア」のアプローチが広く浸透しています。
「パーソン・センタード・ケア」について詳しく知りたい方は、コチラの記事を参考にしてください。パーソンセンタードケアとは?認知症ケアの考え方と活用例を徹底解説:そよ風
このアプローチは、認知症を抱える人が本来持っている能力を最大限に引き出すことに加えて、その人の視点に立ったケアを実施する、といった考え方です。
この考え方は、単に支援を行うのではなく、認知症の方を一人の尊重すべき存在として捉え、その方の尊厳を守りながらケアを提供することが求められています。
ケアを実践する際には、認知症の方を「かけがえのない個人」として見なし、その人が持つ人格や個性を大切にする姿勢(尊厳を守る姿勢)が非常に重要です。
尊厳を損なわないケアを実現するためには、いくつかの側面に注意を払う必要があります。
まず、身体面では「ケガや病気を防ぐ」「身体機能の低下を避ける」ことが大切です。
精神面においては「痛みや不安、怒りなどのネガティブな感情を抱かせない」「相手を子ども扱いしない」といった配慮が求められます。
また、社会面では「個人の権利を侵害しない」「経済的な負担や損失を防ぐ」といった観点も含め、認知症の方が社会の一員として尊重され続けることが重要です。
このように、身体的・精神的・社会的な側面にバランスよく目を向けながら、認知症の方の尊厳を守り、安心して過ごせる環境を整えることが、質の高い認知症ケアの鍵となります。
中核症状に対するケア
認知症の中核症状に対するケアは、大きく3つに分けられます。「機能の回復を目指すケア」「低下した機能を補完・支援するケア」「機能が低下しても安心できる環境づくり」です。
具体的には、次のような方法があります。
① 機能の回復を目指すケア
- 神経衰弱などのゲームを活用し、記憶力を改善するためのリハビリを行う。
- 多重課題トレーニングなど、注意力向上を目標としたトレーニングを実施する。
- 脳トレプリントを使い、認知機能の強化を目的としたリハビリを行う。
② 低下した機能を補完・支援するケア
- 記憶力をサポートするため、通路に案内表示を取り付ける。
- 注意力の補助として、足元に点滅するライトを設置する。
- 認知力を補うため、道具や機器の使い方を書いたメモを貼っておく。
③ 機能が低下しても安心できる環境づくり
- 室内全体が見渡せるような位置に座ってもらい、何がどこにあるか視覚的に把握できるようにする。
- 注意力の低下による転倒を防ぐため、段差を取り除く。
- 迷子対策として、地域の人々に見かけた際の協力をお願いしておく。
周辺症状に対するケア
周辺症状(BPSD)が見られる利用者さんへのケアは、大きく「対症ケア」と「原因に対応するケア」に分類されます。
具体的には、次のような方法があります。
① 対症ケア
目の前の状況を一時的に和らげたり回避するためのケアで、瞬時の判断や対応力が重要です。
- 「家に帰りたい」と訴える利用者さんには、「今は家に誰もいないので、ここで少しお休みしましょう」と説明する。
- 暴力や暴言が見られる場合は、お茶を提供して気持ちを落ち着かせる。
- 生花を食べてしまう行動がある場合は、生花を飾らないようにする。
- 他の利用者さんのおやつを取ろうとする人には、席を移動してもらう。
- 外出しようとする利用者さんには「一緒に散歩しましょう」と声をかけ、同行する。
- 他の利用者さんの行動に干渉する人には、別の作業を依頼して注意をそらす。
② 原因に対応するケア
BPSDの原因を探り、その要因に対処することで症状を改善させるケアで、徹底したアセスメントが不可欠です。
- 脱水が原因でBPSDが起こっている場合は、適切に水分を補給するように促す。
- 活動不足が原因の場合、利用者さんの興味を探り、それに基づいて活動を提案する。
- テレビの音が不安や興奮の引き金になっている場合は、音量を下げるか、テレビを消す。
認知症の方とのコミュニケーシヨンスキル
認知症の方は、記憶や判断力の低下だけでなく、コミュニケーション能力にも変化が見られます。
そのため、利用者さん一人ひとりの状況に合わせたコミュニケーション方法を取り入れましょう。
まずは、大きくてはっきりした声で話すことが基本です。
認知症の方は、聴力が低下している場合もあるため、明瞭な発音が理解を助けます。
加えて、口の動きを大きくし、視覚的なヒントを与えると、言葉の内容がより伝わりやすくなります。
次に、同じ話を一度で終わらせず、繰り返し伝えることが大切です。
認知症の方は、一度では情報を処理できないことが多いので、ゆっくりと何度か話すことで、内容が定着しやすくなります。
また、目線を合わせ、相手の視線をしっかり捉えることで安心感を与え、相手が集中しやすくなります。
特に、伝わらないと感じた場合は、同じ内容でも別の言葉で表現し直すことで、理解が深まることがあります。
さらに、言葉だけに頼らず、非言語的なコミュニケーションも活用しましょう。
身振り手振り、表情などを使うことで、相手に感情や意図を伝えやすくなります。
こうした工夫を取り入れることで、よりスムーズで効果的なコミュニケーションが可能となり、認知症の方との関係性が深まります。
参考資料:月刊デイVol.252