筆者(とも)
記事を書いている僕は、作業療法士として6年病院で勤め、その後デイサービスで管理者を4年、そして今はグループホーム・デイサービス・ヘルパーステーションの統括部長を兼務しています。
日々忙しく働かれている皆さんに少しでもお役立てできるよう、介護職に役立つ情報をシェアしていきたいと思います。
読者さんへの前おきメッセージ
「ヒヤリハットって本当に必要?」
「報告書には、なにを書けば良いの?」
「ヒヤリハットを職場に定着させたいけど、どうすれば良いかわからない…」
こんな方に向けて、ヒヤリハットの基本や報告書の書き方、さらにはヒヤリハット報告を施設に定着させるためのポイントまで全て徹底的に解説いたします。
早速、みていきましょう。
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「利用者さんが急に立って歩こうとされ、転けそうになった」
「うっかり違う利用者さんに、薬をお出ししそうになった」
「机の上にあるティッシュペーパーを異食しそうになった」
これらは全てヒヤリハットになります。
ヒヤリハットとは、事故に繋がるような、「ひやっ!」「はっ!」というような状況を指す言葉です。
冷や汗をかくときの「ヒヤリ」と、声も出ないほど驚く「ハット」を掛け合わせた造語です。
ヒヤリハットは、医療や看護・介護だけではなく、リスクマネジメントの観点から多くの業種で取り入れられています。
ハインリッヒの法則
ヒヤリハットは【ハインリッヒの法則】に基づいて考えます。
ハインリッヒの法則とは、「1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、さらにその背後には300件の異常が存在する」というもので、この300件の異常が「ヒヤリハット」にあたります。
つまり、ヒヤリハットを単なる「小さな異常」として終わらせるのではなく、その数が多くなれば重大事故につながるリスクが高くなることを示唆しています。
よって、ヒヤリハットの再発防止に努めることが、軽微な事故を減らし、ひいては重大事故を未然に防ぐために重要であることが分かります。
ヒヤリハットが起きる原因
ヒヤリハットが起こる原因を考える場合、3つの観点が必要です。
- 環境原因
- 利用者の原因
- 職員の原因
環境原因とは、ブレーキのききがあまい、床にコードが出しっぱなしなどです。
利用者の原因とは、病識の欠如、認知症による失認、本人の不注意などです。
職員の原因とは、作業手順を間違えた、介助時の立ち位置が悪い、服薬管理が乱雑などです。
直接的な原因には「車椅子のブレーキの閉め忘れ」ですが、間接的な原因には「介助者へのの指導不足」、「本人の気のゆるみ」、「忙しさ」などがあげられます。
では原因について、もう少し詳しく解説していきます。
環境原因
「浴室の床が滑りやすく転倒事故を起こしかけた」
「利用者に合わない福祉用具を使用して怪我をさせそうになった」
「車椅子のフットペダルの固定が緩いので足が落ちてしまい、足が車体に引っかかってしまった」
「介護ベッドが高すぎて、起き上がった時に転落してしまった」
などがあります。
環境原因は、福祉装置が不適切、設備が故障している、介助する環境が不十分、といったものです。
環境原因で起こるヒヤリハットを防ぐためには、事故・災害の発生しやすい場所や状況をスタッフ同士で共有することや、可能な限り改善していく努力が必要です。
また設備については、日ごろのメンテナンスをしっかりおこなうことが、ヒヤリハットの防止につながります。
利用者の原因
「利用者の原因」で特に注意が必要なのが、認知症を罹患している利用者さんです。
認知症は、自分自身の病気がどの程度であるか、自身の足がどれだけ弱っているかを理解できていないことが多いです。
また平衡感覚に異常がある場合もおおく、バランスを崩す場面も増えてきます。
ちょっとしたマットの高さで躓いたり、振り向きざまにバランスを崩したりします。
こうしたヒヤリハットを防ぐためには、まずは介護職員が利用者さんの性質をしっかりと把握しておく必要があります。
その上で、適切な福祉用具の設置や見守り態勢をつくりましょう。
職員の原因
もっとも多いのが職員によるケアレスミス(注意不足や集中力の欠如によって生じる小さなミス)です。
ケアレスミスの原因としては、人手不足による休日出勤や長時間残業による疲労や集中力の低下があげられます。
そのようなケースがみられるときは、会社として、職員が適度な休息ができているかも重要です。
また「プライベートが多忙で、体調が優れない」、「職場や家庭の問題で、イライラしている」などもケアレスミス原因になります。
「そのような状態ではミスが生じてしまう」ということを、職員一人一人が常に意識する事が重要です。
次に「職員の原因」でよくみられるのが「指導不足」です。
例えば入浴介助の場面なら、どの部分で介助が必要か、どのような声かけが必要か、福祉用具は必要か、などです。
また事故を起こすことで、利用者さんにどのような被害があるのか、会社にとってはどのような被害があるのか等の教育も必要です。
事故防止のための指導や教育の徹底は不可欠です。
ヒヤリハット報告書
ヒヤリハットが起こった際は、ヒヤリハット報告書に記入しましょう。
ヒヤリハット報告書を通して他の職員と共に分析や共有することで、同じようなヒヤリハットが起こらないよう適切な対策を取ることができます。
よく間違われがちなんですが、ヒヤリハット報告書を記載するのは、遭遇した人(気づいた人・見た人)になります。
例えば、スタッフAさんがベッドから車椅子へ利用者さんを移乗しようとしていた際、車椅子のブレーキを忘れていたとします。
それに気づいたスタッフBさんが、慌てて駆け寄りブレーキをしました。
この場合、ヒヤリハット報告書を記載するのはBさんになります。
なぜならAさんよりBさんの方が客観的に状況が把握できているためです。
よくヒヤリハット報告書への記載を反省文のようにとらわれがちですが、このように遭遇した人が記載するべきことを周知することで、それが事故防止につながる大切なツールであることを理解することができます。
ヒヤリハット報告書の基本項目
ヒヤリハット報告書のフォーマットは施設によってさまざまです。
ヒヤリハット報告書への記載が職員の負担にならないよう、できる限りシンプルなフォーマットが理想です。
ヒヤリハット報告書の基本的な項目をご紹介します。
【ヒヤリハット報告書の基本項目】
基本情報:記入者の名前、記入日
ヒヤリハットの状況:発生日時、場所、状況
想定される事故:どのような事故につながっていた可能性があるのか
発生要因:
- 環境原因
- 利用者の原因
- 職員の原因
再発防止策・・・再発防止に向けた対策や計画など
ヒヤリハット報告書の書き方
次に、ヒヤリハット報告書の書き方です。
主観を避ける
自分の感想など、主観は出来るだけ避けます。
よって、「~だと思う」「~のせいで」などのは避けましょう。
「ブレーキが外れていた」「ティッシュペーパーを異食しそうになった」というように、自身が見たままの事実を書いていきます。
端的に記入する
ヒヤリハット報告書は5W1Hで情報を整理しましょう。
【5W1H】
- When:いつ(時間)
- Where:どこで(場所)
- Who::誰が(当事者)
- What::何をしたか(行動)
- Why::なぜ起きたのか(原因)
- How::どのように対応するか(対策)
5W1Hを使うことで、客観的な事実を具体的に他者へ伝えることができます。
ヒヤリハット報告を定着させるには
「皆さん、ヒヤリハット報告書を書いてください」と言っても、なかなか定着しない施設が多いです。
ヒヤリハット報告が定着しないのは、次のような理由があげられます。
【ヒヤリハット報告が定着しない理由】
- 遭遇した当事者が「報告するほどではないかな」と自分勝手に判断してしまう
- 報告によって、自分のミスがばれてしまい叱られてしまうのではないかと不安を抱く
- 「その経験年数でそんなミスをしたのか?」と思われるのが恥ずかしい
- 報告書への記載が面倒
こういった問題を解消するには、まずは上司が率先してヒヤリハット報告をする必要があります。
上司が積極的にヒヤリハット報告を行うことで、職員は「自分より上の立場の人でもヒヤリハットに遭遇し報告をしている」ということを認識し、報告しやすい雰囲気を作ることが重要です。
事故防止委員会を設置する
ヒヤリハットや介護事故を全職員に周知徹底するための委員会を設置しましょう。
委員会はひと月に1度開催するのがベストです。
委員会には主に、起こった事故報告書、ヒヤリ・ハット報告書を分析し、それを元に対策を話し合い、全職員へ通達するという役割があります。
事故防止委員会で必ず出てくるのが、「これはヒヤリハット?インシデント?」「インシデントとアクシデントの違いは何?」といった疑問です。
次に、ヒヤリハット・インシデント・アクシデントの違いをお伝えします。
ヒヤリハット・インシデント・アクシデントの違い
ヒヤリハット・インシデント・アクシデントの違いは、次のようにまとめることができます。
ヒヤリハット
事故には至らなかったが、事故になってもおかしくない一歩手前の事例を認知すること。
例:転倒はしなかったが、つまずいたり、バランスを崩したり、膝折れしたりして、転倒してもおかしくなかったと思われるような事例です。
インシデント
一般的には予期しない出来事やトラブルを指し、事故や障害の発生を示す用語です。
しかし、重大な被害や損失が生じなかった場合にも使用されることがあります。
アクシデント
通常は予期しない出来事やトラブルを指し、重大な被害や損失が生じた場合に使用されることが多い用語です。
とても分かりやすいフローチャートがありましたので、貼らせていただきます。
引用:ナーステート
インシデント・アクシデントの分類基準
さらに細かくした分類基準を載せます。
多くの病院や介護施設で活用されていますので、是非参考にしてください。
分類 | 患者のへ影響度 | 内 容 | |
インシデント | レベル0 | 間違ったことが患者に実施されるまえに気づいた場合 | |
レベル1 | 間違ったことが実施されたが、患者には変化がなかった場合 | ||
レベル2 | 事故により患者に変化が生じ、一時的な観察が必要となったり、安全確認のために検査が必要となったが、治療の必要がなかった場合 | ||
アクシデント | レベル3 | a | 事故のため一時的な治療が必要となった場合 |
b | 事故のため継続的な治療が必要となった場合 | ||
レベル4 | a | 事故により長期にわたり治療が続く場合(機能障害の可能性はない) | |
b | 事故による障害が永続的に残った場合 | ||
レベル5 | 事故が死因となった場合 | ||
その他 | 自殺企図や暴力、クレームなど |
インシデント・アクシデント報告先・報告期限・報告方法
インシデント・またはアクシデントを起こした職員または発見した職員は、速やかに所属部署の上司またはリスクマネジャーに報告し、インシデント・アクシデントレポートをシステム画面から入力(以下、インシデント入力と略)します。
インシデント入力システムがない場合は、社内共有の報告書でもよいかと思います。
影響レベル | 報告先 | 報告期限 | 報告方法 |
レベル0~1 | 所属長(リスクマネジャー) | 48時間以内 | インシデント入力 |
レベル2~3a | 主治医・所属長 | 24時間以内 | インシデント入力 |
レベル3b~5 | 主治医・所属長医療安全管理室
診療部長・看護部長 |
直ちに一報
救命措置後報告書 |
インシデント入力+有害事象報告書 |
その他 | 所属長
医療安全管理室防犯対策部長 |
48時間以内 | インシデント入力 |
影響レベル3b以上の事例、または医療安全管理室より指示された事例は、御社の有害事象報告書に記入し提出しましょう。
また自治体にも報告する必要があります。
おわりに
いかがだったでしょうか。
「ヒヤリハットは大事だ」ということはわかっていても、会社としてなにもしなければ浸透しません。
まずは事故防止委員会の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
委員会を作ることで、会社自体に「事故防止は大事である、ヒヤリハット報告が重要な業務である」という雰囲気を作ることができます。
それではこれで終わります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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